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「宝くじとお賽銭、お金を使うならどちらがいいか」数学のプロが"期待値"を出した結果

プレジデントオンライン / 2021年10月12日 15時15分

提供=MdN

宝くじとお賽銭、お金を使うならどちらがいいか。塾講師の鍵本聡さんは「数学的に『期待値』を考えると、300円の宝くじ1本を購入すると、158円の損をすることになる。この158円をどう考えるかが重要だろう」という――。

※本稿は、鍵本聡『世の中は期待値でできている』(MdN)の一部を再編集したものです。

■300円の宝くじ1本を購入すると、142円が戻ってくる計算

先日とある飲み屋さんで、お酒を飲んでいた2人が議論していました。

「もし300円を持っているとして、そのお金で宝くじを買うか、神社にお賽銭を入れるか、選択するならどっち?」という内容です。以下「宝」が宝くじ派、「神」がお賽銭派の人です。

「宝くじは下のほうの賞もあり、買うと当たっていくらかお金が戻ってくるでしょう」

「いや、それがなかなかあたるようで当たらないのです」

「宝くじは、買わなかったらなにも当たらないでしょ。買わないとあたらないから買うのです」

「当たるか当たらないか、ドキドキしながら待っているなんて、心の平穏がないじゃないですか。神社のお賽銭は、入れた瞬間に心の平穏が得られるから、私はお賽銭かな」

「神社のお賽銭は、実はなにに使われているか、不明です。なにかいいことに使われていると見せかけて、だまされている可能性もあります。その点、宝くじは、明朗会計のカタマリです。集まったお金のうち、約4割は慈善事業に使われていて、収益金で購入された自動車や車いすはいろいろな施設で活躍しています」

「いやいや、神社だって負けてはいませんよ。神社によって違うのかもしれませんが、例えば神社の森は自然のサンクチュアリになっていることが多いのです。それを維持する費用だと考えたら、神社には感謝しないといけません。それに慈善事業をしている神社だっていっぱいあります。伝統を守る意味でもお賽銭を入れることに私は賛成です」

さて、みなさんなら宝くじと神社のお賽銭、どちらを選びますか?

確かに実際の宝くじや神社のお賽銭がどのように管理・運営されているのか、なかなか実態は見えにくいかもしれません。【図表1】はある宝くじの内訳です。

【図表1】1枚300円の宝くじ販売量1,000,000(1千万)本の内訳
出所=『世の中は期待値でできている』

これらをすべて合計すると、1,419,900,000円です。ざっくりというと14億2千万円が賞金ということになります。

一方、売上はというと、300円の宝くじは平均すると10,000,000本(1千万本)売れるので、3,000,000,000円(30億円)となります。

この数字から賞金の合計金額を1千万本で配分すると、次のような計算が成り立ちます。

1,419,900,000円÷10,000,000本≒142円/本

すなわち1本300円の宝くじのうち142円が賞金ということになります。

まとめると、こういうことです。

300円の宝くじ1本を購入すると142円が戻ってくる。

この142円が「期待値」です。別のいい方をすると、300円の宝くじのうちざっくり半分は戻ってこないということです。

■3億円が当たる確率を、東京ドームで考える

では、戻ってこない158円はどこに行ったのでしょうか。そこから宝くじにかかわる仕事をしている人のお給料や宝くじ売り場設営費用、それにもちろん税金として日本の国の予算にもなり、慈善事業の一環で車いすや自動車になったりするわけです。

ところで、宝くじの当選金の表をもう一度見てみましょう。

【図表1】1枚300円の宝くじ販売量1,000,000(1千万)本の内訳
出所=『世の中は期待値でできている』

宝くじの当選金は8種類。そこには、「1千万本」に1本しかない3億円と、2本しかない1億円2本が含まれます。

要は8種類中2種類が「○億円」というわけです。なんとなく「親近感」がありますよね。さすがに「夢を与えるラインナップ」です。

では、どれぐらいの確率で3億円が当たるのか、少し考えてみましょう。

みなさんは野球場に行かれたことがあるでしょうか? 観客で満員の野球場に行って、「うわー、こんなにたくさんの人がいるのか!」と驚いた経験はありませんか?

仮に東京のど真ん中、水道橋にある東京ドームを考えてみましょう。実は筆者は阪神タイガースのファンなので別に阪神甲子園球場でもいいのですが、本稿の編集の方と初めて顔合わせをした思い出の地が東京ドームのすぐ近くだったこともあり、ここでは東京ドームにしたいと思います。

満杯時で東京ドームの観客数はざっくり5万人です。満員の観客席を見ると「こんなにたくさんの人がいるんだ!」と感動します。そんなすごい人数です。

■よく考えるとロマンがあり、悪く考えると「まず当たらない」

さて、宝くじの3億円は1000万枚につき1枚ですから、東京ドーム200個分、ということになります。仮に東京ドームで野球の試合を1年間に70試合、毎試合が満員だとして、3年間の全試合の入場者が1000万人ぐらいになる計算です。

この1000万人のなかでたった1人が3億円当選するわけです。要するに東京ドームで行われる野球の試合3年間のチケットが仮に宝くじとするならば、そのうちのたった1枚が3億円当選者、というわけです。

……まあ、当たらなさそうですよね(笑)。

宝くじに並ぶ人
写真=iStock.com/the.epic.man
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/the.epic.man

では次に、300円の宝くじが3億円に化けるというのはどれぐらいすごいことなのでしょうか。

3億円÷300円=100万倍

ということです。これがどういう数字なのか、少し考えてみましょう。

仮にチケットの厚さを0.1mmとして、そのチケットがどれぐらいの分厚さになると思いますか?

鍵本聡『世の中は期待値でできている』(MdN)
鍵本聡『世の中は期待値でできている』(MdN)

0.1mm×1000000=100000mm=100m

すなわち0.1mmのチケットが100mの高さになるということです。野球でいうと、ホームベースから両翼(レフトとライトのポール)までの距離がちょうど100mなので、チケットの薄っぺらい紙の厚さが、野球場サイズの分厚さになるということです。

どれほどすごいことでしょうか。

宝くじとは、そういうものです。よく考えるとロマンがあり、悪く考えると「まず当たらない」のが宝くじです。

平均的に300円のうち142円が返ってくるとはいえ、実際には当たった一部が、多くの額を独占するわけですから。

■数学的には損をする158円に、どういう意味を見出すか

ここでは宝くじを例に考えましたが、この1つの例だけでも、そのシステムはそれなりに複雑で、単に期待値だけで考えられるものではないということがわかります。

そこにはちょっとしたカラクリもあり、人の願望などもクロスするのかもしれません。

ただ、数学的には、300円のうち142円しか返ってこないわけですから、「買えば買うほど損するものだ」ということはいえるでしょう。

そしてこの戻ってこない残り158円にどういう意味を見出せるのか、そこが「宝くじ」と「お賽銭」論争に重要な情報を与えることになりそうです。

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鍵本 聡(かぎもと・さとし)
KSP理数学院 代表講師
1966年、兵庫県西宮市生まれ。京都大学理学部、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修了、工学博士。ローランド(電子楽器開発)、高校教員、予備校講師などを経て、現在は関西学院大学、大阪芸術大学、大阪女子学院大学などで非常勤講師として教鞭をとる。同時に学習塾「KSP理学院」を大阪で運営、中学高校生を対象に算数・数学教育および大学進学サポートに最前線で携わる。教育関連の講演も多数。20万部超のベストセラー『計算力を強くする』シリーズをはじめ、『高校数学とっておき勉強法』『理系志望のための高校生活ガイド』(以上、講談社ブルーバックス)など著書多数。

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(KSP理数学院 代表講師 鍵本 聡)

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