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「ビール1本でも1時間以内に無料でお届け」カクヤスがむちゃな配達を続けられる意外な理由

プレジデントオンライン / 2021年10月11日 15時15分

カクヤス王子店外観 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

東京や大阪に展開する酒販売店「なんでも酒やカクヤス」は、個人客でもビール1本から無料で配送してくれる。なぜそんなことが可能なのか。ライターの村上敬さんは「料飲店向けの配送と一般家庭向けの配送を組み合わせている。特に料飲店からは当日配達は重宝され、全体の売り上げを押し上げている」という――。

■異質な「縛りなし」の無料配送

新型コロナウイルスの感染拡大以降、自宅でお酒を楽しむ機会が増えている。家飲み愛好家の心強い味方が、東京や横浜、川崎、大阪を中心に169店舗(2021年3月末時点、倉庫含む)を展開する「なんでも酒やカクヤス」だ。

カクヤスは店頭でお酒を販売するだけでなく、自宅まで無料で配達してくれる。いまや送料無料のECは珍しくないが、通常は「お買い上げ〇〇円以上」「お急ぎは有料」というように何らかの縛りがあることが多い。

一方、カクヤスは縛りなし。配達可能エリアなら、「ビール1本から」「最短1時間で」「無料で」届けてくれる。たとえば晩酌の途中に飲み足りなくなったとき、冷えたビールを1本だけすぐに届けてもらうことも可能。冷蔵庫が自宅の外にもう1台あるようなものだ。

ユーザーにとっては大変助かるサービスだが、気になるのは採算性である。多くのECが無料配送に何らかの条件を設定しているのは、採算割れを防ぐため。1本200円のビールでも無料で配達していたら、赤字になってサービスが続かなくなるのではないかと心配になる。いったいどのようなカラクリで、縛りなしの無料配送を実現しているのか。歴史をひもときながら探ってみよう。

■配達エリア1.2キロは偶然決まった

「なんでも酒やカクヤス」を運営する株式会社カクヤスグループ(本社・東京都北区)は1921年に創業した。昔は町の酒屋さんだったが、2代目の時に料飲店にお酒を卸す業務用にシフトした。現社長の3代目、佐藤順一社長はバブルの絶頂期に入社して、「六本木に新規オープンするキャバクラには、だいたいうちがお酒を卸していた」という。

一般家庭用の小売を再開したきっかけはバブル崩壊だ。顧客である料飲店の倒産が相次ぎ、キャッシュフローが悪化。1992年、売掛金回収の苦労がないBtoC市場に活路を求めて、当時はやっていたディカウントショップを東京都北区にオープンさせた。その立地が同社の戦略を左右することになる。佐藤社長は当時の事情をこう明かす。

カクヤス・佐藤順一社長
カクヤス・佐藤順一社長(撮影=プレジデントオンライン編集部)

「コンビニ跡地だったんです。郊外の大型ディスカウントショップと比べると、狭くて大量陳列できず、駐車場もない。そのままでは勝てないと思って、大型店がやっていない配達サービスを始めました。配達エリアは、店舗から半径1.2キロ。最初は1キロにしようかと思って地図を見たら、近所の豊島五丁目団地は3分の2しか入らなかった。同じ団地の3分の1のお客様をお断りするわけにはいかない。それで団地すべてが入るエリアとして1.2キロに決めました」

成り行きでエリアを決めたが、結果的には理にかなっていた。1.2キロの場合、1時間に配達可能な件数は4.2件だった。距離を延ばすと面積は2乗で大きくなって移動が非効率になり、配達可能件数は大きく下がる。

一般にピザの宅配は商圏が2キロで、1時間2.6件だ。かといって商圏を小さくすると客数が減ってしまう。注文数を最大化できる商圏が1.2キロであり、いまもカクヤスはこの商圏をベースにして出店を続けている。

■1998年に「ビール1本から無料配達」の原型が完成

問題は配達料だ。配達サービス開始前は、1時間3件という注文数を想定。配達員の時給が1000円として、1件300円の配達料を取った。単価が低いと採算割れのリスクもあるので、「配達は1万円以上のご注文から」と縛りもつけた。しかし、これが不評だった。

「私の読み間違いでした。競合は郊外の大型ディスカウントショップだと思っていましたが、1.2キロ圏内にそんなお店は1店もない。ライバルは近所の小さな酒屋。うちはディスカウントショップなので配達料を上乗せしてもまだ安いのですが、『おまえのところは配達料を取るのか』と嫌われてしまった」

仕方なく縛りを緩めることにした。配達でもっともコストが大きいのは人件費だが、売上高に対する人件費率を調べると、店舗の人件費率と同じく7%だった。これは配達の客単価が平均1万6000円と高かったからだ。縛りを緩くすれば単価が下がって人件費率は上昇するが、店舗の人件費率を考えると、多少の上昇は許容範囲である。

そこで「お買い上げ1万円以上」を「5000円以上」に。その後も段階的に緩め、最終的にはロットの縛りなしで、1998年には配送料も無料にした。「ビール1本から無料配達」の原型は、いまから20年以上前にできたのだ。

■コンビニに対抗し23区内に大量出店

1998年に無料配達を実現したものの、当時はいまのように最短1時間で届ける体制になっていなかった。月曜の午前中の注文から当日午後、月曜午後なら翌日。未配達がたまってくる週後半に入ると2日後というスケジュールだった。

スピード化のきっかけは、2003年の酒販免許自由化だ。規制緩和されるとスーパーやコンビニでもお酒の販売が可能になり、ディカウントショップは大打撃を受ける。それを見越していた佐藤社長は、異業種大手が参入してくる前にブランドを確立しようと、「東京23区ならどこでも2時間で無料配達」という目標を掲げた。

「東京23区の面積を商圏半径1.2キロで割ると137店です。1999年時点で28店のチェーンになっていましたが、23区をカバーするなら、さらに100店舗以上を出店する必要があります。1年で100店舗出す体力はないので、規制緩和まで4年かけて出店した。2003年には100店舗を達成して、東京23区内全域での2時間枠無料配達網を完成させました」

■3分の2の店舗が赤字で「このままなら潰れますよ」

その後も出店を増やして無料配達エリアを順次拡大して、2012年には1時間枠での配達を開始している。こうして酒飲みにはありがたい配達サービスをつくりあげたカクヤスだが、実は「一般家庭用の配達だけで採算を取るのは難しい」と佐藤社長はこぼす。

「一般宅配で客単価5500円なら、なんとか黒字になります。いまの価格設定は『値ごろ感は上っ面』。地域最安値をうたっていたディスカウントショップ時代と比べると利益を乗せているので、5500円でも採算が合うのです。ただ、それを下回ると厳しい。配達網を完成させた03年時点で、100店舗中67店が赤字でした。銀行の支店長から、『このままなら潰れますよ』と怒られたくらいです」

■先代の料飲店向けルート配送がウケた

実は現在も一般家庭向け配達1件当たりの平均単価は4500円であり、一般家庭向け配達単体で厳しい。では、どこでカバーしているのか。配達ではなく店舗での売り上げかと思いきや、意外な答えが返ってきた。

「実は料飲店などの業務用にも、『ビール1本から、エリア内ならどこでも1時間以内に無料』で届けるサービスを03年から始めました。ビール1本からといっても料飲店が実際にビール1本だけ注文することはなく、単価は約10万円(1店当たりの1カ月平均金額)と非常に高い。一般向けの採算性の低さを十分にカバーできます」

先代の時代は、料飲店向けにお酒をルート配送していた。BtoC再開後もその事業は続けており、社内にBtoBの営業部隊がいた。その営業部隊が「注文し忘れたら使ってください」と料飲店にアプローチ。料飲店は天候などを確認できるので、もとより前日より当日注文のほうがいい。東京の料飲店のあいだにカクヤスの評判が広がるのはあっという間だった。

カクヤス・佐藤順一社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
カクヤス・佐藤順一社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「業務用宅配を始めて、それまで10年以上かけてつくってきた一般家庭向け宅配の売り上げを2年半で追い抜いてしまいました。06年には店舗全体で黒字化しています」

■家庭用と業務用の組み合わせでコストを平準化

業務用と組み合わせた効果は、単に全体の単価を押し上げただけではない。見逃せないのは物流コストの平準化だ。一般家庭用の注文が殺到するのは主に週末だ。そのピークに合わせて配達員を雇うと、注文の少ない平日はムダが多くなってしまう。しかし、業務用も手掛ければ月~金も人員が稼働して、収益性が増していく。

実は店舗間でも平準化をしている。「業務用のビールは樽や瓶。在庫になるとスペースを取るので、業務用が増えすぎると店が壊れます。増えすぎたところは注文を隣の店舗などに移すなど工夫をしています」。配達能力に余裕のある店舗に注文を付け替えれば、稼働率が高まる。店舗はきれいに保たれるうえにコストが平準化されて一石二鳥だ。

■コロナ禍は「価値を高める絶好の機会」

消費者がビール1本だけ頼んでも採算割れしないのは、同じ配達インフラを使って料飲店にもお酒を届けているからだった。カクヤスはこのビジネスモデルで成長を続け、18年には売上高1100億円(18年3月期)に達して、2019年12月には東証二部に上場を果たしている。

ところがコロナ禍で、業務用が壊滅的な状況になった。業務用の売り上げはコロナ前と比べて約3分の1だ。家飲み需要が高まって一般家庭用の売り上げは逆に約2割増えたものの、業務用の落ち込みはカバーしきれていない。

採算性を高めるため、今後、「ビール1本はダメ、6本パックから」というように条件をつけていく可能性はあるのか。そのように問うと、佐藤社長は力強くこう答えてくれた。

「家庭用の即日宅配モデルは、他社の追随を許さないレベルのものを構築できました。業務用に頼れないいまこそ、このモデルをさらに磨いて価値を高める絶好の機会です。ぜひ期待してもらいたいですね」

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村上 敬(むらかみ・けい)
ジャーナリスト
ビジネス誌を中心に、経営論、自己啓発、法律問題など、幅広い分野で取材・執筆活動を展開。スタートアップから日本を代表する大企業まで、経営者インタビューは年間50本を超える。

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(ジャーナリスト 村上 敬)

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