「14〜22歳の9人に1人が老後資金を貯め始めている」アメリカの若者に起きている大変化
プレジデントオンライン / 2021年10月10日 11時15分
■「両親や祖父母ほどの成功はできない」と考えている
お金全般についてのZ世代の考えはどのようなものなのか。
アメリカのZ世代は、世界的大不況、学費ローン問題、所得の伸び悩みという、国全体の経済を揺るがす事態に強い影響を受けている。
大不況のときには、両親やその友人、地域の人々が苦しむのを見た。大勢の人が仕事と住む家をなくしたという記事を読み、大人たちが自尊心を失う姿を目の当たりにした。どうしても仕事が見つからないという話を耳にし、生活に最低限必要な賃金や最低時給15ドルを求めるデモを目にした。また、ミレニアル世代にのしかかる莫大な学費ローンは常にZ世代の口の端にのぼり、一生逃れられない経済的足かせとのイメージが固まった。
人格が形成される思春期や青年期に起こった、お金にまつわる数々の困難や事件。その結果、Z世代が金銭や借金、仕事、将来に向ける視線は上の世代と異なるものとなった。
これはアメリカに限ったことではない。日本やギリシャといった国々でも、両親や祖父母ほどの成功は得られないのではないかと話す若者は多い。国内外の問題に苦しむラテンアメリカ諸国も同様だ。さらに、アメリカをはじめとした全世界的な景気後退が、Z世代の金銭観や職業観、リタイアについての考えなどを形作った。その影響は、最近のブレグジットをめぐる議論にいたるまで、諸処に表れている。
Z世代の最年長の層については仕事や貯蓄、消費の行動データが追跡できており、分析の結果からいくつかのトレンドが見えはじめている。追跡データ以外にも、私たちの調査チームではZ世代の金銭や借金、消費などに特化した研究をいくつも実施してきた。そこで出てきた意外な結果には、上の世代とは一線を画する志向と思考が表れている。ビジネスリーダー必見の内容だ。
■「借金を背負わずに大学を卒業したい」
Z世代に大学への願望があることは、調査のたびに証明されている。〈Z世代の実態2018〉では、中高生(13〜17歳)の大学進学志望者は86%にのぼった。しかし、学位を得るためであっても学費ローンを借りることには非常に慎重で、その傾向はZ世代の親にも同じく当てはまる。
一方、アメリカの私立大学は総授業料の半分以上を値引きせざるを得なくなっている。2019年には、新入生の約90%を経済的に援助し、総授業料の6割近くを還元した。
この「大学に行くなら借金を背負わず卒業したい」という考え方は、Z世代全体に広がりつつある。それも経済的に豊かでない層だけでなく、富裕層の家庭でも学費の高騰や、教育の費用対効果に不安を感じている。大学進学前(13〜17歳)のZ世代は、半数が学費ローンを1万ドル以下に抑えよう、27%がまったく借りずにすませようと考えている。
Z世代も親世代も、大学の授業料が大きく値上がりし、若い頃の借金が数十年にわたり重くのしかかるのを見てきた。その経験ゆえに、入学から卒業まで地に足ついた経済状況を保とうと努めている。
■奨学金かバイトで学費を工面する大学生が大多数
これは長期的にはどのような影響をおよぼすだろうか。大学卒業時の借金が少なければ、就職やキャリア形成のために別の町に移り住み、緊急時や退職後に備えて貯蓄し、よりよい経済的選択をして収入と負債のバランスを保ち、信用力を育てるのが容易になる。
借金に対する現実的な考え方が今後も続けば、Z世代は経済的足かせに苦しまずに学位を取得でき、長期的によい結果を生むと考えられる。また、やむなく抱えた負債をできるだけ早く返済したいとZ世代が考えているのなら、企業は学費ローンを肩代わりするプログラムを提供すれば、人材を採用・維持する貴重で有効なツールになる。
〈Z世代の実態2017〉で、大学に支払う授業料をどう工面するつもりかを尋ねたところ、主な回答は次のようになった。(複数回答)
在学中に働く 38%
親や家族が負担する 32%
学費ローンを組む 30%
貯金から支払う 24%
Z世代の大多数は、奨学金か在学中のアルバイトで授業料をまかなうことがわかる。学費ローンと保護者負担がそれに次ぐ結果となっている。
■クレジットカード利用に慎重なZ世代
クレジットカードの広告に惹かれて気軽に申し込み、あれこれ買い物していたら、いつの間にか遅延損害金や金利が膨れ上がっていた――そんなX世代やミレニアル世代の恐怖体験は珍しくない。
借金にまみれたX世代やミレニアル世代を親に持つZ世代は、そうならない見識を持っている。親が苦しむ姿を直接見なくとも、よその家庭の話として聞いており、同じ過ちを繰り返すまいと考えている。私たちの調査では、借金はなんとしても避けるべきだとの回答が23%、少数の高級品にだけ使うべきだとの回答が29%を占めた。最後の手段に取っておくべきだとの回答も18%あった。
ただし、クレジットカードを完全に排除しているわけではない。信用調査機関のトランスユニオンによる2019年の調査によれば、適格年齢に達したZ世代の770万人がクレジットカードを保有している。
これは初期のデータであるため、このトレンドについて結論を出すのはまだ早い。Z世代がクレジットカードを(特に不景気のときに)どう使うのかを理解するには、さらなる調査が必要だ。クレジットカードの作成前に手数料や金利を比較できる状況をどう活用するのか、比較を踏まえて高価な買い物にどういった決済方法を選ぶのかも調査に値する。
今のところ断言できるのは、Z世代の年長層はクレジットカードに慎重な姿勢を取っているということだ。〈Z世代の実態2019〉では、18〜24歳のZ世代の36%が、自分の信用格付けを一月に一度以上確認すると回答した。
■Z世代の価値観に合わせた金融決済サービス
消費関連の借金をめぐる状況に、まちがいなく起きる大きな変化が1つある。高価な買い物による借金には清算方法のバリエーションを、信用情報の算定には透明性を、Z世代が望んでいることだ。それを叶える企業も出はじめている。
たとえば、手数料・金利ゼロで支払いを4分割できるSezzle。手数料のリスクを負わずに、クレジットカードの利便性と自由度を手に入れられる。ほかには、利率を明快にしたうえで決済プランを選択できるAffirmがある。これも、今買って、あとで支払い、リスクを把握したいZ世代の要望に応えるものだ。
銀行をはじめとした金融サービスを提供するフィンテックアプリは、教育の領域でもZ世代を助けている。学費ローンの借り換えを可能にするSoFiは、すでに37万5000人以上の学生に利用され、300億ドル以上の借り換えを実現させた。Vaultは、社員が抱える学費ローンを雇用主が立て替える仕組みを提供する。借金から抜け出したい世代に向けた、強力な採用戦略になる。
借金への忌避感が強いZ世代だが、個人向けローンや借り換えサービスへの門戸は広く開かれている。
■ミレニアル世代のようにゴールドラッシュ思考には陥らない
Z世代とお金に関する議論に、仮想通貨とブロックチェーンは欠かせない。2018年に暴騰と暴落を起こしたことでビットコインは広く認知されたが、より広い概念として、既存の通貨を代替するという思想がZ世代を捉えたのはまちがいない。ただし、ビットコインバブルが弾けたとき、ほとんどのZ世代は年齢が低すぎたか保護者に禁止されていたなどの理由で投資できなかった。
ビットコインに飛びついたのは主にミレニアル世代で、値上がりしつづけるという過信や、リスクに対する過小評価から判断を誤った。それを横目に見ていたZ世代は、マネーや投資、リスクへの新たな向き合い方を見つけるだろう。
上の世代のようなゴールドラッシュ思考に陥らず、伝統的な価値の媒体に代わるものとしてブロックチェーン技術を有効活用することも十分に考えられる。
■7割が老後資金に「最優先で取り組むべき」
驚いたことに、Z世代の12%はすでに老後資金を貯蓄しはじめている。これは〈Z世代の実態2017〉で明らかになった数字で、回答者の14〜22歳という若さを考えればショッキングとさえ言える。Z世代を貯蓄に向かわせているものは、冒頭ですでに述べた要因と同じ。世界的大不況、保護者からの助言、ミレニアル世代の負債、不測の事態に対する経済的な備えの必要性である。
アメリカのZ世代は、社会保障が受けられず、希望どおりの老後を過ごす資金を自前で確保することになる可能性にも気づいている。大多数はまだ貯蓄を始めていないとはいえ、状況が許せば最優先で取り組むべきだとZ世代の69%は考えている。
貯蓄以外にも、Z世代は老後を考えるうえで変化とイノベーションが激しい時代に生きている。資産形成の助言にはロボアドバイザー(Wealthfront、Bettermentなど)が登場し、投資には医療貯蓄口座(HSA)が利用でき、老後資金には過去の遺物である年金以外の自己資金が求められる。
■時間や手間のかからないロボアドバイザー
とりわけZ世代に好影響を与えそうなのは、ロボアドバイザーだ。少額で口座を開設でき、一度に投資するのも少額だが、長く続ければ目に見える成果が出てくる。ロボアドバイザーは通常、ユーザー体験がコンシューマー向けアプリに近いため、使いやすく、親しみやすく、視覚的な魅力を感じやすい。
これらの要素は、お金を画面上の数字やビジュアルとして管理し、バックグラウンドで「あとはよろしく」と自動的に運用したいZ世代の好みに合致している。
アメリカの社会保障制度のような、政府によるセーフティーネットが自分たちの老後にはなくなっている可能性があることをZ世代はよく認識している。
現役生活を引退したければ、自分で勝ち取る必要がある。Z世代の9人に1人がすでに貯蓄を始めているように、リタイア後の生活への関心は高いが、ここでは若さが有利に働く。老後に向けた投資は、20代のような若いうちに始めれば、目標達成の見込みが大きく高まるからだ。
■普通口座預金では十分な貯蓄ができない
20代で貯蓄を始めようと考えているZ世代は35%もいる。続く問題は、資金を銀行口座に預けただけで投資したつもりになるのではなく、実際に老後に向けた投資に踏み出すかどうかだ。
この懸念には根拠がある。ミレニアル世代を対象にした最近の調査で、老後資金を貯めるためにしている行動の第1位が普通口座への預金だったのだ。それでは安心して引退するのに十分なリターンを得ることは難しい。
現実のZ世代には、今から消費を抑えて貯蓄を継続していく心積もりと時間的余裕がある。雇用主が提供する確定拠出年金を利用するなど、預金から投資に移行することができれば、理想のライフスタイルを叶える経済的基盤作りに向けて、良いスタートダッシュを決められる。
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世代研究、講演、コンサルティングを行うリーディングカンパニー、センター・フォー・ジェネレーショナル・キネティクス(CGK)の共同設立者、所長。Z世代やミレニアル世代研究の専門家として、テクノロジー、ヘルスケア、小売、金融サービスなど各業界の大手グローバルブランドで課題解決の手助けを行う。CGKでの活動のほかに上場および非上場の取締役も務め、企業のCEOや取締役会、スタートアップ創業者、ベンチャーキャピタル、プライベートエクイティと協業する。大学在学中、18歳のときに自費出版した著書が話題となり、ニューヨーク・タイムズ紙のカバーストーリーにも登場。メディアからは「リサーチの第一人者」とも評される。
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センター・フォー・ジェネレーショナル・キネティクス(CGK)の共同設立者、CEO。同社の調査研究チームを率いる。エンターテインメント、保険、ヘルスケア、コンシューマー・テクノロジー等のグローバル企業を顧客に持ち、消費者リサーチを担っている。テキサス大学オースティン校で学士号を、テキサス州立大学で修士号と博士号を取得ののち、世代研究の専門家としての道を進む。より良い意思決定を求める企業幹部向けに、ニューヨーク、マイアミ、ダラス、ラスベガスなど全米の都市でプレゼンテーションをする機会も多い。
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(世代研究家 ジェイソン・ドーシー、世代研究家 デニス・ヴィラ)
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