「眞子さまには不幸になる権利がある」皇室のあらゆる権利を無視する国民とメディアの無責任
プレジデントオンライン / 2021年10月6日 17時0分
■週刊誌の編集部はどこも青ざめたのではないか
秋篠宮眞子さんが「複雑性PTSD」だったと聞いて、週刊誌の編集部はどこも青ざめたのではないか。
10月1日に開かれた結婚発表会見では、加地隆治皇嗣職大夫とともに、宮内庁の永井良三皇室医務主官と精神科医の秋山剛医師が同席した。
結婚が眞子さんの誕生日ではなく、26日の大安になった。儀式は一切行わない、一時金も支給しないのは想定内だったが、その後、加地皇嗣職大夫から衝撃的な“事実”が発表されたのである。
眞子さんが「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と診断されていたと明かし、眞子さんが一時金の受け取りを固辞したのも、結婚後にも今のような批判や誹謗中傷が続くならば、精神的な負担を感じてしまうからだと語ったのである。
複雑性PTSDは、「長期的に反復するトラウマを体験し、感情が不安定になるなどの持続的な症状があることが特徴」(産経新聞10月2日付)で、眞子さんは2018年頃から、「自身や小室圭さん、それぞれの家族への誹謗中傷を正すことが『困難であるという無力感』を感じ、『結婚後、平穏で幸福な生活を送りたいという願いが、不可能となってしまう恐怖』を感じるようになられたという」(同)
■公表することで報道各社の「誹謗中傷」に猛省を促した
18年といえば、小室圭の母親と元婚約者の間の金銭トラブル報道が過熱していた頃だ。
加地皇嗣職大夫は、眞子さんが「これ以上この状況が続くことは耐えられないと考えている」とし、「大変心が痛む。お支えが十分であったのかと、申し訳なく思う」と声を詰まらせたという。
婚約延期から4年近くが経つ。ときには物憂い表情を見せることはあったが、気丈に振る舞い、小室圭との結婚の意志を貫いてきた眞子さんが、たった一人で病と闘っていたとは、想像もしていなかった。
加地皇嗣職大夫の口からはっきりと、これまでの週刊誌を中心とする報道は「誹謗中傷」であるという厳しい言葉が出たのである。これは眞子さんの意思であることはもちろん、秋篠宮も了承していたことは間違いない。
これまで耐えに耐え抜いてきた父と娘が、正式な結婚発表という場で、隠しておきたい病を公表することで、報道する人間たちに猛省を促した。私にはそう思えた。
■失語症になってしまった美智子さま
これを聞いて、私は美智子皇后(当時)バッシングのことを思い出していた。
1993年、女性週刊誌を中心に美智子皇后バッシングが巻き起こった。嫁姑問題から美智子さん流の開かれた皇室のやり方に、守旧派などからの批判を中心とした報道合戦が起きたのである。
美智子さんは週刊誌を読むことが好きだったといわれていたから、いくつかの記事に目を通したのであろう。
その後、突然倒れ、失語症になってしまったのだ。この病気はストレスや心的外傷などの心因性によって起こるもので、週刊誌報道がそのトリガーになったのは間違いない。
倒れる前に、美智子皇后はこういう文書を出していた。
「批判の許されない社会であってはなりませんが,事実に基づかない批判が,繰り返し許される社会であって欲しくはありません」
文書公表と美智子皇后が病に倒れたのを機に、世間の批判の矛先は週刊誌に向き、多くの週刊誌が謝罪文を掲載するという事態に発展したのである。
日本人は過去に学ばない民族だが、週刊誌はなおさらである。
■“悪玉イメージ”が結婚反対の空気を生み出した
小室圭の母親と元婚約者との金銭トラブルが“天下の大罪”であるかのような論調を垂れ流し、そこから小室家のプライバシーまで暴き立てていったのである。
小室圭の人格を否定するような報道も相次ぎ、羨ましがられるほど仲のよかった父親との会話も少なくなり、支えてほしい彼はニューヨークにいるのでは、どれほど心細かったことだろう。
頼りになるのは妹の佳子さんだけという“孤立無援の闘い”が、知らず知らずのうちに彼女の心を蝕(むしば)んでいったのであろう。
小室圭の母親と元婚約者との間の私的なトラブルを、あたかも小室圭の人格的な問題であるかのようなイメージづくりをして、皇族と結婚するのにふさわしくない人間ではないかと報じたのは、大新聞も同じである。
メディアによって作り上げられた小室母子の“悪玉イメージ”は、多くの国民を洗脳し、圧倒的な結婚反対の空気を生み出した。
女性自身(10月12日号)がウェブ上で実施したアンケートでは約7割が結婚に反対だった(20代では過半数が賛成だったというが)。
実は、宮内庁は早い段階から週刊誌報道に警告を発していたのだ。
■この四面楚歌によく4年近くも耐えられたものだ
2018年5月25日に「眞子内親王殿下に関する最近の週刊誌報道について」という一文をHPに掲載している。
そこで「一部の週刊誌は,『侍従職関係者』,『宮内庁幹部』,『宮内庁関係者』等のコメントとして,皇后さまが様々な発言をなさっているかのように記していますが,先にも述べたとおり,両陛下は,当初より,細心の注意を払って固く沈黙を守り続けておられ,また,宮内庁職員はもとより,ご親族,ご友人,ご進講者等で,両陛下にこの問題について話題にするような人もこれまで皆無であったと伺っています」と、匿名の人物からの伝聞推定で、美智子皇后(当時)や秋篠宮家のありもしない内情を報じていることに注意を促していたのである。
これは、皇后ご自身も体験した週刊誌を含めたメディアの“暴走”に危うさを感じたからであろう。
だが、週刊誌やテレビのワイドショーはこの警告を一顧だにせず、毎週のように心ない情報を垂れ流してきたのである。
大新聞は、自分たちは眞子さんや小室母子に対する誹謗中傷報道はしていない、悪いのは週刊誌だといいたいのだろうが、では、そうした行き過ぎた報道を批判したことがあったのか。
まさに四面楚歌。眞子さんはよく4年近くも耐えられたものだと思う。
■これ以上悪化しないうちに結婚、旅立ちを急いだか
産経新聞(10月2日付)によれば、「ある幹部は、『眞子さまに精神的負荷がかかる状態が続き、天皇陛下も心配されており、皇室全体に緊張が漂う状態が続いているため、早く決める必要があった』」そうだ。
秋篠宮夫妻も、「眞子さまのお気持ちを尊重し、天皇、皇后両陛下にも理解を得られたという」(朝日新聞10月2日付)。上皇上皇后にも初孫の結婚が伝えられたという。
秋篠宮夫妻も了解して、これ以上眞子さんの症状が悪化しないうちに結婚、ニューヨークへの旅立ちを急いだ様子がうかがえるではないか。
今の眞子さんにとって、皇室から追放される形に見えようとも、「不幸になる権利」(週刊ポスト10月15・22日号の三浦瑠麗の発言)も含めた自由を手に入れることは、何物にも代えがたいことであろう。
10月26日、婚姻届を提出した後で行われる2人揃(そろ)っての記者会見で、眞子さんは話したいことがあるようだ。報道への批判はしないとは思うが、週刊誌やワイドショーは戦々兢々であろう。
常軌を逸したとも思われる2人についての報道は、さまざまな禍根を残し、2人が旅立ったことでめでたしめでたしとはならない。
特にこの間に噴き出してきた秋篠宮家に対する批判は、これからも続くと思われる。
秋篠宮が皇嗣家になったこともあり、教育のあり方、悠仁さんへの帝王教育への疑問、紀子さんの従業員に対する厳しい接し方など、多岐にわたって週刊誌は繰り返し報じてきた。
それに加えて、SNSなどを通して皇室全体の批判へと広がっていったのは、秋篠宮家にはもちろんのこと、宮内庁にとっても想定外のことだったに違いない。
■「次の天皇は秋篠宮家から即位させるべきではない」
多くはネトウヨまがいのものだが、古色蒼然(そうぜん)とした頑迷な保守派の学者からのものも多かった。
週刊新潮はそれらの声を毎週のように伝えていた。10月7日号では、
「秋篠宮家は今回、結果的に小室さんの“野望”を実現させたことで大いに評判を下げてしまった。現にネット上では、一連の騒動を報じる記者のコメント欄に、目を疑う書き込みが散見されるのだ。いわく、
〈次の天皇は秋篠宮家から即位させるべきではないと強く思います〉
〈秋篠宮家の皇族としての自覚のない教育が、ドミノ式に皇室を崩壊させて行くように思えます〉
〈秋篠宮家の皇籍離脱が妥当と思います〉」
さらに、「国民からこれだけ反対の声が上がっても、意に介さず結婚の準備を進められるのは、そのための教育がなされてこなかったからではないでしょうか」(関東学院大学君塚直隆教授)と、秋篠宮家の教育に批判の矛先を向ける。
静岡福祉大学の小田部雄次名誉教授は、
「国民の心のなかには、眞子さまのご結婚を放任するしかなかった皇室への不信感や失望感が沈殿していくでしょう。このご結婚によって、長年にわたって築き上げられた国民の皇室に対する敬愛の情が踏みにじられたように感じます」
こうした論調は保守系週刊誌ばかりではない。
■「自由意思だけで婚姻を決めてよいものではない」と批判
読売新聞(10月2日付)はこう報じている。
「今回の結婚で問われたのは、皇族の『公と私』のあり方だった。眞子さまは好きな人との結婚という『私』を、父の秋篠宮さまは『国民の理解』という『公』を重視された。最終的に秋篠宮さまは、眞子さまの精神状態などを考慮して結婚を認められた」
その中で、宮内庁のある幹部はこう懸念しているという。
「『国民の理解』という曖昧なものが、皇室行事の可否の判断基準とされたことだ。皇室の重要行事には、宗教的な色彩の濃い大嘗祭(だいじょうさい)など反対意見があるものもあり、幹部は、『国民の理解という見えないものに判断を委ね、世論に迎合すれば、皇室の存立基盤が危うくなる』と危惧する。」
「今回の結婚形式は、皇室に重い課題を残す結果となった」
何人であろうとも結婚は極めて私的なものである。それを優先させて悪いわけはないと思う。
政治家がよく使う「国民に寄り添う」という言葉同様、「国民の理解」も不確かなものではある。だがそれと世論に迎合することとは違う。
「皇室女子すら少ない現状では、今後、結婚後も皇室に残って公務の分担を続けていただく案が検討されている。そういう場合、その伴侶には公人としての品位を堅持し任務に奉仕することが望まれる。当人の自由意思だけで婚姻を決めてよいものではない」(京都産業大学所功名誉教授=産経新聞、10月2日付)
こういうのを時代錯誤というのである。
■悠仁さまの即位も自由意思を認めることになる?
再び週刊新潮。9月23日号では麗澤大学の八木秀次教授にこういわせている。
「眞子さまのご結婚は、佳子さまのみならず、将来の皇位継承にも悪影響を及ぼす恐れがあります。眞子さまにご結婚の自由を認めた以上、悠仁さまの即位についても自由意思を認める事態になりかねないからです。上皇陛下が生前退位された際には、そのお考えを尊重して一代限りの特例法が作られました。また、秋篠宮さまは“兄が80歳のとき、私は70代半ば。それからはできないです”と即位に関するご自身の意見を述べられたとされます。となれば、悠仁さまが即位されたくないというご意思を表明された場合、それを認めないわけにはいかなくなります」
確かにそういうことは起こりうるかもしれない。だがこれは秋篠宮だけの問題ではなく、皇室と国民すべてが考えるべき問題である。
■すぐ忘れてしまうのでは国民的議論は進まない
そういうときのために、女系天皇にまで踏み込んだ国民的議論が必要だと思うのだが、元々女性が天皇になる道を閉ざしているこの国では、英国史研究家の君塚直隆が朝日新聞(10月2日付)でいっているように、
「もし日本国民が皇室の存在を本当に大事だと考えているならば、皇位継承などの改革を求める声がもっと上がっているはずです」
小姑のように、結婚問題には口を出し、次の天皇は愛子さんでいいじゃないと、無責任にいい放つだけ。騒ぎが終われば皇室の存在をすぐ忘れてしまう。
元皇室担当記者だった成城大学教授の森暢平はサンデー毎日(10月17日号)でこう書いている。
「私たちは答えのない時代を生きている。そのような時代の天皇制は社会の統合ではなく、その分断を顕在化させる象徴になっている。眞子さま騒動が示したものは、統合しえない日本、分断される日本である」
天皇をはじめとする皇族方は国民のことを日々考えてくれているのだろうが、国民はそうではあるまい。戦後76年、象徴天皇制とはどうあるべきなのかを、今一度立ち止まって考える時期に来ているのではないか。私はそう思っている。
秋篠宮眞子さんをめぐる過剰な報道合戦が、そのきっかけになれば、無駄ではなかったのかもしれない。(文中一部敬称略)
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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