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「世界一の技術が日本にある」太陽光や洋上風力より期待が大きい"あるエネルギー源"

プレジデントオンライン / 2021年10月15日 10時15分

2019年度の日本の電源構成

日本の温室効果ガス削減目標を達成するには再生エネルギーの拡大が不可欠となる。しかし太陽光と洋上風力の国内活用には課題が多い。NewsPicksニューヨーク支局長の森川潤さんは「政府とエネルギー業界が期待する数少ない独自技術として『アンモニア』がある」という――。

※本稿は、森川潤『グリーン・ジャイアント』(文春新書)の一部を再編集したものです。

■日本政府が掲げた脱炭素目標は実現可能か

日本では2050年までのカーボンニュートラル、そして2030年までの排出量46%削減(2013年比)と、ここにきて脱炭素へと一気に舵を切ることがきまった。関係者の大半が「厳しい」と口をそろえるなかで、一体何をすれば実現できるのか。

まず、2030年の再エネは、電源構成のうち36~38%という方向で議論が進む。現状は2019年度の時点で、水力を入れて18.1%なので、約10年で2倍以上を目指すことになる。エネルギー業界からは、「ただでさえ再エネの適地が少ないのに」と不満の声も大きいが、確かに広大な用地はほぼ残されていないため、ここからは地道な積み重ねが必要となる。

「2030年はゴールではなく、2050年のカーボンニュートラルに向けた大きなマイルストーンの一つ目なので、そこに向けた施策をきちんと行っていくことが大事です。この1、2年が勝負だと思います」と、再エネ会社レノバの木南陽介社長は指摘する。

■太陽光発電のカギは規制緩和と送電網改革

カギを握るのが、規制緩和だ。まず、太陽光でいえば、従来の2030年目標では64ギガワット程度(全体の7%程度)を目指していたが、46%削減という新たな目標下では、これを100ギガ以上まで一気に増やしていくことになる。これを実現するための一つの道が、これまで活用できなかった「荒廃農地(現在耕作が行われていない農地)」を太陽光発電に用いるための規制緩和であり、これが実現すれば、「数十ギガのポテンシャルはある」と木南は話す。

もう一つ、送電網の改革のカギを握る「ノンファーム接続」と言われるものがある。電気はいくら発電をしても、送電網の空き容量が十分でないと、需要地まで届けることができない。だが実は、これまではこの送電網のキャパシティが「先着優先」のルールになっていたため、先に建設された原発や火力発電が稼動していない場合でも枠を押さえていた。つまり、再エネは、その原発や火力が押さえた後に残った小さい枠を取り合っていたということだ。

それが、2019年から東電が試験的な取り組みを実施したことで、「混雑時は出力を抑制する」という条件で、送電網のキャパシティが再エネなどにも開放され、2021年1月からはこれが全国に適用されることになった。このように、送電設備の空いている容量を別の電源につなぐことをノンファーム接続と呼ぶ。

20世紀を通じて、電力は原発などの大規模電源から、大容量の送電網を通じて、巨大消費地へと電気を送り込む「集中型」で発展してきた。これを再エネなどを中心とした「分散型」に変えていくには、電気の血流を担う送電網の改革は一つの肝になる。

■高止まりしていた太陽光発電コストの見通し

さらに、発電コストの低減も重要だ。世界ではこの10年で太陽光の発電コストが8割以上下がるなかで、日本は太陽光バブルの影響もあり、価格低減のペースは遅いままだった。

しかしFITによる買い取り価格が下げられていく中で、ようやく日本でもコスト削減のノウハウが蓄積され始めている。さらに価格が一定だったFITに加えて、発電収入がより市場に連動した「FIP(Feed in Premium)」と呼ばれる制度も始まる予定で、さらなるコスト低下が見込まれている。

太陽光発電(2000kW)の各国の買取価格
太陽光発電(2000kW)の各国の買取価格

「日本が日照条件に恵まれた砂漠の国ほどの安さを実現するのは難しいにしろ、(発電単価ではなく)設備投資単価で比較すれば、この8年で半額以下まで下がっています。1キロワット時当たり10円が見えているなか、今が勝負どきで、この安い単価で量を増やすことがエネルギーミックス上、とても大事です。太陽光は今こそ普及の時なので、(バブルの反動で)一度トーンダウンした企業の参入が回復する必要があります」と木南は指摘する。

■洋上風力の拡大には大型化が欠かせない

もう一つの再エネの雄である風力も同様の課題を抱える。陸上風力は適地が限られる中で、やはりカギを握るのは洋上風力となる。政府は、2040年に洋上風力で最大4500万キロワットと野心的な目標を掲げているが、2030年時点の導入目標は、1000万キロワット(認定ベース)にとどまる。

それでも2030年の再エネ目標を達成するには、この数字を前倒しにするしかない。

そのための一つの道筋は、最新の風力設備を導入することだ。洋上の風車は年々大型化が進んでおり、5年前に1基当たりの発電容量が5000キロワット前後だったのが、今は8000や9000、そして今開発中のプロジェクトでは1.2万~1.5万キロワットまで上っている。

「最新の風車を導入すれば、本数を減らすことができるので工事が早くなるし、発電コストも下げられ、さらに1地点当たりの出力を大きくしやすくなる。これから4~5年後に標準となる1.5万キロワットを導入すれば、40本で60万キロワットと、同じ本数で現状の倍ほどの出力が実現できる。1地点をサイズアップし、数も増やせば、年間に導入できる風力発電の数を従来よりも増やせます。風車の大型化はコストダウンにも有効です」(木南)

■風力メーカーが一つもない日本に残された手

重要なのは、その過程で国内に洋上風力のサプライチェーンを構築し、建設から発電までのノウハウを蓄積することだ。そうすれば、第2弾、第3弾でのコストダウンにもつながり、一つの産業として根付かせることもできる。それが、さらなる導入の加速につながれば、正のスパイラルを生み出すことも不可能ではない。

風力発電機
写真=iStock.com/zentilia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zentilia

しかし、再エネの「本丸」である風力のメーカーが日本には一つもないのが悲しき現状だ。ここから欧州や中国へ追いつくことは不可能な中で、日本が洋上風力を産業として育成するためにはサプライチェーンを構築するしかない。

洋上風車は高さ300メートルにもなる巨大な構造物であり、主力パーツであるナセル(ギア、発電機などを収納する筐体)、ブレード(羽根)、タワー(塔体)などを始め、部品点数は2万点に上るといわれる。こうした部品の供給網を作り上げることで、欧米メーカーの製造拠点を日本に持ってくることが産業化のためには不可欠となる。

■脱炭素でエネルギー業界が注目するアンモニア

「現在建設中の火力発電所も、最初は石炭を使いますが、順次アンモニアに変えていく」

日本に再エネの先端産業がない今、政府とエネルギー業界が期待をかける残された数少ない独自技術が「アンモニア」である。突然、アンモニアと言われても「尿」や「臭い」ぐらいのイメージしかないかもしれないが、今、少なくとも日本のエネルギー界においては一つの大きなトピックになっている。アンモニアの化学式はNH3であり、これを燃焼しても、CO2が出ないという点が注目を集めているのだ。

そして、これを火力発電に活用することで、2050年までに「ゼロエミッション火力」を実現するという壮大なプランをぶちあげたのがJERAだ。

JERAは福島事故後の電力再編で、東京電力と中部電力の火力・燃料部門を統合する形で設立された会社である。洋上風力事業にも注力しているものの、その根幹にあるのは、やはり火力発電だ。日本のCO2排出の4割を占める火力発電のうち約半分を担うJERAが、2050年までのカーボンニュートラルを宣言する中で導き出した一つの答えが「アンモニア」だった。

■CO₂を出さないアンモニアと水素で火力発電

「現在の火力発電は、燃料に石炭を使うものとLNGを使う2種類があります。石炭を使う発電所は『ボイラー型』、LNGを使う発電所は『タービン型』と呼ばれていますが、我々が目指すのはボイラー型発電所の燃料を、石炭からアンモニアに変えていくことですさらに、タービン型の燃料を水素に変えていく。アンモニアや水素はCO2を出しません。

アンモニア
写真=iStock.com/DarcyMaulsby
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DarcyMaulsby

これらを石炭とLNGに混ぜて燃やすことで、発電量はそのままでCO2を削減することができます。この組み合わせこそ、最も早くてコストも小さい火力の脱炭素化だと思っています」と、JERAの奥田久栄副社長はその狙いを打ち明ける。

実際、JERAはすでに2021年6月から、愛知県の碧南火力発電所の燃料にアンモニアを混焼させる実証実験を始めており、2024年度中に20%へ混焼割合を引き上げることを目指している。そして最終的には、2050年までにアンモニアだけを燃やす「専焼」につなげて、CO2排出をゼロにしたい考えだ。その過程で2030年までに、非効率な石炭火力をすべて停廃止するという。

■水素だけでは輸入依存から抜け出せない

先述の通り、アンモニアの化学式はNH3であり、水素(H)を含むことが特徴だ。このため、政府の戦略では「水素・アンモニア」と一つの括りで紹介されることも多い。欧州や中国が力を入れる水素ではなく、あえてアンモニアを本命視する背景には、水素という新しいエネルギー資源においても日本は「輸入国」にならざるを得ないという事情があるからだ。

水素は、現在ブルー水素やグリーン水素といった区別がされており、今後は100%再エネから作られる「グリーン水素」が主流になってくる。

しかし、前提条件として、再エネによる発電量が大きく余っていないと、通常の電力需要を賄った上で水素の製造に振り向けることができない。このため、水素生産地として有力視されるのはノルウェーやオーストラリアなど、広大な敷地を背景に再エネが余る国々だ。

一方で日本は適地も少なく、再エネの導入率を上げるので精一杯のため、結局は水素も輸入に頼ることになる。しかし、実は水素を輸送する手段はまだ確立されていない。そのため、水素を窒素と化合させてアンモニアに変えた上で輸送するというのが、現実的な選択肢なのだという。

■アンモニアを「ガラパゴスな技術」に終わらせない

「(オーストラリアのように)水素が地産地消で使えるところは、わざわざアンモニアを使う必要はありません。諸外国でアンモニアが注目されない理由はここにあります。そして一度水素から作ったアンモニアを、輸入後にもう一度水素に分解するよりは、直接燃やしたほうがロスは少なく、低コストで環境に良い。ボイラー式の発電所であればアンモニアを上手に燃やせると踏んだので、まず直接燃やすことにしました」と奥田は話す。

しかし、奥田も認めているように、現状ではクリーンエネルギーの文脈で、アンモニアに着目している国は少ない。このため、「石炭を延命させるための方策」「ガラパゴスな技術」という指摘も出ている。カギを握るのは、既存の発電設備を生かしたまま、いかに世界のCO2削減に貢献していけるかということになりそうだ。

特に、日本と同じく再エネの適地が限られ、まだ石炭火力への依存度が高い東南アジア諸国へ展開することで、「アジア諸国でタッグを組んで、アジアのやり方として発信していきたい」と奥田は説く。

■火力大手のJERAが脱炭素の先頭に立つ狙い

もう一つ、アンモニアの導入が選択肢に入った理由には、大気汚染物質である窒素酸化物の除去技術において、日本がトップクラスを誇るという背景もある。NH3であるアンモニアを燃やす(O2を加える)とNOx(窒素酸化物)が出ることが、アンモニアを燃料として使う場合のネックになっていたのだが、その排出量を「欧米の10分の1以下に抑えられる世界一の技術が日本にはある」(奥田)のだという。

森川潤『グリーン・ジャイアント』(文春新書)
森川潤『グリーン・ジャイアント』(文春新書)

アンモニアの挑戦はまだ始まったばかりで、これから2050年にかけて、どこまで実用化が進むのかは不透明な部分も大きい。ただ、火力発電の一大企業であるJERAが、日本のエネルギー業界では真っ先にカーボンニュートラルへと舵を切り、自ら新たなモデルを作りに行っていることは、日本では稀有ともいえる大きな一歩だ。

「我々は自らゲームのルールを作っていく存在になっていきたい。人がやってから後追すると、結局は、他の人が作ったモデルの上で仕事をすることになり、ビジネスチャンスを大きく損ねることになる。自分たちで新しいビジネスモデルを作って提示をして行くことが非常に大事です。だからこそ、リーダー的な存在になるために、いち早く手を打っていきたい」と奥田は力を込めている。

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森川 潤(もりかわ・じゅん)
NewsPicksニューヨーク支局長
米国生まれ。トロント大学留学、京都大学文学部卒業後、産経新聞を経て、2011年週刊ダイヤモンド、2016年にNewsPicksに参画。テクノロジー、サイエンスと音楽などをカバー。2019年から副編集長、ニューヨーク支局長。Quartz Japanの創刊編集長。主な著書に、『アップル帝国の正体』(共著、文藝春秋)、『誰が音楽を殺したか』(共著、ダイヤモンド社)。

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(NewsPicksニューヨーク支局長 森川 潤)

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