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「ラーメン評論家のおじさん構文がヤバい」そんな嘲笑がバズる日本のネットの虚しさ

プレジデントオンライン / 2021年10月8日 15時15分

ラーメン店を経営する梅澤愛優香さん - 梅澤愛優香さんのTwitterアカウントより

■ツッコミどころ満載のブログ

元「バイトAKB」のメンバーでラーメン店「麺匠八雲」などを経営する梅澤愛優香さん(24)が、セクハラ被害などを理由に、ツイッターで「ラーメン評論家の入店お断りします」と書いたのは9月24日のことだった。

梅澤さんはその際、セクハラ被害として「ラーメン評論家のHさん」の例を、以下のように書いていた。

会食をした際、Hさんは酔っていて、どんどんなれなれしい態度になっていき、「まゆかちゃん」と呼ぶようになった。

Hさんから「写真を撮らせてください」と言われ断ったが、「顔は写さないから身体だけ撮らせて」というと、返事をする間もなく撮影された。

さらにその後、連絡を絶っていたら誹謗中傷をされた。

一連のツイートに対し、ネット上では少しの間「#ラーメン評論家あるある」のハッシュタグが盛り上がり、「ラーメン評論家大喜利」のような状態になっていた。

そして9月28日、フードジャーナリストのはんつ遠藤氏が、Hさんとは自分の事であるとしてブログで反論した。この内容はあまりにひどく、大炎上を招いた。

■問題は「個人的な目的のためにおかしな写真を撮影した」ということ

まず最初に名乗りを上げるまで反応しなかった理由について「『女、子どもには、手を上げない』が、僕の主義」と主張している。

しかし、別に梅澤氏の主張に真っ当に反論することは「手を上げる」事ではないし、「女性だから大目に見てやってる」という上から目線が不快である。

さらに、お酒を飲むと泥酔して豹変してしまうダメ人間であると言い訳。お酒を飲んで豹変するなら、ごくごく親しい間柄の人以外の前で、お酒を飲まなければいいのでは?

また現在のブログからは削除されているようだが、ブログ記事の公開当初には以下の文章があった。

梅澤さんの件は、まだまだ良いほうですよ。他の女性とか、もっとひどい。
これをきっかけにMe Too!! でしたっけ? どんどん出てくるかも。。。

梅澤さんのセクハラという指摘を「まだまだ良いほう」と矮小化しているのである。

そして、顔は写さず体だけの写真撮影については「Facebookで『人妻シリーズ』というのを友達限定で書いていたので、その素材にするため」と説明している。

なんのこっちゃと思うが、要は個人的な目的のためにわざわざ、そんなおかしな写真を撮影したのである。

■真偽不明なトラブルの内容をFacebookに公開

どのような説明をされても、梅澤氏が勝手に身体を撮影する行為を怖いと思うのは当然のことである。

さらに写真の項目の最後の方で「宣伝の写真として店主の写真を撮るのは当たり前である」と主張しているが、店主の写真はなくともお店や料理の宣伝はできるし、そもそも問題になっているのは、顔を写さない体だけの写真を個人的な目的のために撮影したことなので、認識がズレている。

最後に中傷の件について、はんつ遠藤氏は「内装業者に梅澤さん側が工事代金を支払っていない」という情報があったと主張している。

事の真偽は不明だが、問題はこれをはんつ遠藤氏がFacebookで公開したことである。

はんつ遠藤氏は「Facebookの友達限定で公開した」と、あくまでも身内だけで公開したかのように主張するが、はんつ遠藤氏にはFacebookの友達が3000人いるそうなので、ほとんど公開のようなものである。

SNSを操作
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

しかもはんつ遠藤氏の仕事がフードジャーナリストであることを考えれば、その友達3000人は梅澤氏にとっても現在、または将来的に取引相手となる人物が多く含まれていることは確実である。

そう考えれば、Facebookの友達限定とはいえ、はんつ遠藤氏による真偽不明なトラブルの公開を中傷であると梅澤氏が認識するのも当然であると言える。

このように、僕から見れば、はんつ遠藤氏の反論は、梅澤氏の主張を補強するものでしかなかったのである。

■「おじさん構文」と揶揄し、ネタとして消費

さて、ここからが重要である。

ネットユーザーはこの問題をどう捉えたのだろうか。

まず、はんつ遠藤氏の名前が出る前、まだセクハラをしたのが「ラーメン評論家」としか分かっていなかった頃。ネット上は「ラーメン評論家大喜利」状態になっていた。

梅澤氏がラーメン評論家を批判した尻馬に乗り「ラーメン評論家というのはこんなに気持ち悪い連中だ」と喜んでネタにしていた。

では、はんつ遠藤氏が名乗り出て、ブログが公開されてからはどうだったのか。

多くのネットユーザーはこれもネタにした。はんつ遠藤氏の文章は「おじさん構文」と揶揄され、おじさんの書く文章はこんなにも気持ち悪いと、ネタとして消費されたのである。

この流れは一見、はんつ遠藤氏はネットユーザーからも一方的に批判され続けており、梅澤氏の主張は受け入れられているように思える。

しかし本当にそうだろうか?

■「おじさん構文が気持ち悪い」ことは問題の本質ではない

ネット上で、はんつ遠藤氏の文章がおじさん構文で気持ち悪いという着地点に落ち着いているが、なにか重要な事を見過ごしていないだろうか。

そう、梅澤氏が訴えていた「ハラスメント」の問題が、一連の流れの中でネタとして消費されるうちに、いつの間にかセンターポジションから外されて有耶無耶になってしまっているのである。

今回の問題の本質は、フードジャーナリストがこれまで培ってきた地位や権力を利用して、私的な写真を撮影するというセクハラを行ったこと。そして真偽不明な情報を他のフード系の職業の人たちに流すことで、梅澤氏に対して不利益を与えようとしたことである。

これは決して「はんつ遠藤氏の行為や文章が気持ち悪い」などという話で済む問題ではない。

さまざまな媒体で仕事をしている、ラーメン評論家やフードジャーナリストを含むライターと、数店の飲食店を経営する経営者という、力関係の差から生じている、まさにハラスメントの問題なのである。

ラーメン専門店という激しい競争の中で、雑誌などの媒体を持つライターに嫌われ、仲間内で怪しい情報を流されることは、店の存続に関わると言ってもいい。

今回の件とは関係ないが、ネタツイートやネタ動画をツイッター上に上げているラーメン珍道中がツイートした、ラーメンYouTuber・SUSURU氏のモノマネ動画の「俺の動画次第でこの店潰す事だってできるんだぞって事で……」という本物のSUSURU氏が決して言わないようなセリフも、現実として単なる冗談とは言えないのである。

■問題の本質は「セクハラ」であるにもかかわらず…

はんつ遠藤氏はブログの中で、取材を受けたテレビや雑誌に対し、こう主張している。

朝のテレビ朝日「グッドモーニング」を見て(実際にはリアルで見れなかったので、ネットで見つけた)、自分が話した内容と、実際にまとめられた文章が、やっぱりなんか違う。そこじゃないんだよなー、みたいな。。

その時、気づいたのが、結局、週刊誌に載せるにしても、編集者さんのバイアスがかかり、僕は単に不思議だな? という話を言いたいだけなのに、

たぶん週刊誌は売上UPのために「フードジャーナリスト徹底反論!!」とかなんとか、ぜんぜんそんな事を思ってないのに、あおる見出しをつけちゃったりなんかしちゃったりするので、やっぱ、信用できない 笑

僕は「やっぱりなんか違う。そこじゃないんだよなー」という部分こそが、この問題の本質であると考える。

はんつ遠藤氏は「セクハラとか、そんなに重い話じゃないんだよ、写真もあくまでもネタだし」と言いたいのだろう。しかし問題は「そこ=セクハラ」なので、メディアが「セクハラ」の話を中心に伝えるのは当然のことである。

だからこそ、はんつ遠藤氏は梅澤氏の主張に真っ向から答える(はんつ遠藤氏が言う「手を上げる」)のではなく、ネット上で「おじさん構文」と呼ばれた、茶化したような文体で返し、メディアにこれを参照してほしいと主張した。

つまり、あのような砕けた文章を書くことで、今回の一件を「セクハラという深刻な問題」から「酒でやらかし、人妻シリーズとかいうしょうもないネタをFacebookに投稿するような男の面白話」に変化させようとしているのである。

■ネタ化によって、セクハラ問題の追及から逃れる結果に

なるほど「業界内での地位を利用して女性店主にセクハラを行ったフードジャーナリスト」というレッテルを貼られるよりは「文章が気持ち悪いおじさん」というレッテルの方が、今後の仕事に支障はきたさないだろう。

そしてその試みは成功してしまっているのである。

ネットというのは、多くの人が被害に遭った事件であっても、必ずと言っていいほど誰かしらがそれを「ネタ化」する。

例えば2019年の4月に発生した、母子が死亡した池袋の自動車事故。飯塚幸三被告が「アクセルは踏んでいない」と容疑を否認し続けたことから、ネットでは怒りの声が噴出した。

しかしその怒りは決して「高齢者の運転」や「アクセルもブレーキも同じ足で踏む、自動車の構造上の問題」という方向には向かず、早い内から「上級国民」や「プリウスロケット」というネタに変換されてしまった。真っ当な怒りを表明するつもりで「上級国民が!」というネタの言葉を使っている例は珍しくない。

こうした「問題のネタ化」は、ネットを通して事件などを知った人たちの多くに、事件を認識する上での「自然な流れ」として受容され、ともすればネタ化することが事件の正しい理解の一環であるかのように認識されてしまっているのである。

今回の件では、はんつ遠藤氏が文章で自らを「ネタ化」したことで、ネットを通じて事件を知った人に対し「事件の理解に繋がるように見える、ちょうど良いネタ」を提供した。

これをはんつ遠藤氏が意図していたかどうかは分からないが、結果としてはんつ遠藤氏からネタが提供されたことで、ネタ化の方向性がうまくコントロールされることになり、話題の中心が「おじさん構文」に逸れた。それによって、はんつ遠藤氏はセクハラ問題の追及から逃れる結果となっているのである。

■このままでは「おじさん構文」という認識だけが残る

ネットユーザーは今でも「おじさん構文」とはんつ遠藤氏を嘲笑っているつもりなのだろうが、その実おじさん構文にコントロールされているのが現状である。

ネットユーザーが「おじさん構文」とバカにした内容と、実際のネットユーザーの動きというのは「ネタ化を必要とする」という意味で、極めて親和性が高かったのである。

このまま、問題の話題性が薄れていけば「はんつ遠藤という、おじさん構文を書くフードジャーナリストがいたな」という認識だけが残り、発端の問題などは忘れ去られて行くのだろう。

だからこそ最後に今一度、明確にしておきたい。

今回の問題は、媒体を持つライターと取材対象としてのラーメン店主という力関係から発した、ハラスメントの問題なのである。

僕は1人のライターとして、取材側と被取材側に力関係が発生し、時には意に沿わないことを強いてしまう可能性に、自覚的でありたいと思う。

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赤木 智弘(あかぎ・ともひろ)
フリーライター
1975年栃木県生まれ。2007年にフリーターとして働きながら『論座』に「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」を執筆し、話題を呼ぶ。以後、貧困問題などをテーマに執筆。主な著書に『若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』などがある。

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(フリーライター 赤木 智弘)

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