「中国不動産の連鎖倒産が止まらない」これから習近平政権を待ち受ける最悪のシナリオ
プレジデントオンライン / 2021年10月11日 9時15分
■“デフォルトの連鎖”の懸念が高まっている
足許で、中国の不動産大手の恒大集団(エバーグランデ)が、本格的な破綻に向かうとの懸念が高まっている。同社の米ドル建て社債の価格の推移を確認すると、2022年3月に償還を迎える債券も、2025年6月に償還を迎える債券も7~8割の債務減免を織り込んでいる。9月23日と29日に期限を迎えた2本のドル建て社債の利払いは実施されず、30日間の猶予期間に入った。
中国の不動産業界では、エバーグランデ以外にもデフォルト懸念が高まる企業が増えている。中国経済は投資に依存した成長の限界を迎え、共産党政権の経済運営に対する不透明感が増している。返済能力が低下しデフォルト懸念が高まる不動産業者をどう救済、再編するかは共産党政権の意思決定にかかっている。
今後、エバーグランデの経営破綻が、2008年のリーマンショックのような世界的な金融危機につながる可能性は低い。ただ、同社のデフォルトを発端に中国の不動産市況が悪化すれば中国国内の理財商品の価値は棄損され、経済の減速はより鮮明化するだろう。それは、世界経済にとって無視できないリスク要因だ。
■切羽詰まった中国の不動産市場
中国経済の成長を支えた不動産市場は、かつての輝きを失い窮地に陥りつつある。その象徴の一つが、約33兆円の負債を抱えるエバーグランデのデフォルト懸念だ。重要なポイントは、エバーグランデ以外にも、資金繰りが逼迫して債務の返済能力への不安が高まる大手、準大手の不動産デベロッパーが急速に増えていることだ。状況は切羽詰まっている。
9月には、物件販売面積で第4位の融創中国(サナック)の資金繰りが悪化し、同社が浙江省紹興市に支援を要請したとの観測が浮上した場面もあった。また、広州富力地産(ガンジョウR&Fプロパティーズ)や花様年控股集団(ファンタジア・ホールディングス・グループ)などのデフォルト懸念も高まっている。報道によると、2021年の年初から9月5日までに中国では274社の不動産関連企業が経営破綻した。今後、デフォルト、あるいは経営破綻に陥る不動産業者、その取引先企業などは増加するだろう。
■資産バブルに沸いた80年代日本と似ている
それは不動産や道路などのインフラへの投資によって経済成長を実現し、求心力を維持してきた中国共産党政権にとって重大な意味を持つ。エバーグランデなどの債務問題の深刻化は、借り入れを増やして投資を行い、それによって経済成長を目指す共産党政権の経済運営が限界を迎えつつあることを示唆する。不動産業界での債務問題の深刻化は、共産党政権の権力基盤を不安定化させる要因になりかねない。
政治体制や金融システムの違いなどはあるが、足許の中国経済は、1980年代末、資産バブルの絶頂期を迎えたわが国経済の状況に似ている。わが国の教訓にもとづくと、共産党政権は不良債権処理を進め、必要に応じて金融機関などに資金を注入し、その上で新産業の育成に取り組まなければならない局面に差し掛かっている。不動産バブルの後始末に対応し、新産業の育成を進めることができるか否か、共産党政権は正念場を迎えていると言ってよい。
■「共同富裕」を掲げる習政権は救済するのか
共産党政権の債務問題への対応は、共同富裕(国全体で平等に豊かになろうという考え)が大きく影響する。習近平政権はアリババや滴滴出行(ディディ・チューシン)など民間のIT先端企業の創業経営者への締め付けを強めている。それによって共産党政権は貧富の格差の拡大を食い止める姿勢を世論に示したい。特に、ディディに関しては一時、北京市人民政府が同社に出資し政府の管理下に置くことが検討されているとの見方が浮上した。
共産党政権がエバーグランデを救済すれば、それは富裕層である同社創業者の許家印氏を助けることになり、世論の不満や批判を買うだろう。その展開を避けるために、共産党政権がエバーグランデ全体を救済することは考えられない。
それよりもエバーグランデは共産党政権の指揮の下で事業を切り売りし、維持できる部分に関しては存続させるだろう。その場合、国有・国営企業、あるいは政府系の金融機関などが資産取得に参画することによって、エバーグランデの存続事業は政府の管理下に置かれる可能性がある。
■民間の金融機関に打撃を与えるおそれも
その一方で債務返済のめどが立たない事業に関しては整理(清算)されるだろう。その際に共産党政権は債権者に対してかなり強硬に、大幅な債務の元本削減をのませる可能性がある。それは、民間の金融機関などに相応の打撃を与えるおそれがある。
そのショックを抑えるための方策の一つとして、中国は国有の金融資産管理会社(AMC)を活用して不良債権を処理する可能性がある。1999年に中国は4つのAMCを設立してアジア通貨危機の発生によって増加した銀行の不良債権を買い取った。2020年には21年ぶりに5社目のAMCである“銀河資産管理”の開業が認可された。それは、エバーグランデをはじめとする債務問題への対応を念頭に置いた共産党政権の行動といえる。
ただし、10月上旬の時点で共産党政権は猶予期間に入ったドル建て社債の利払いをはじめエバーグランデなどへの対応指針を明確にしていない。今後の展開は決め打ちできない。
■国外よりも心配な中国国内への影響
中国経済をめぐる不透明な要素は増えている。
ポイントは、エバーグランデのデフォルトが世界経済にどの程度の影響を与えるかだ。基本的には、同社のデフォルトなどがリーマンショックに匹敵する世界的な金融危機に直結する展開は考えづらい。その点に関しては、中国の国外と国内の投資家への影響の2つの視点から考えるとよいだろう。
まず、中国国外の投資家は、主にドル建ての社債を保有している。エバーグランデのドル建て社債の発行残高は約2兆円だ。保有主体も分散されており主要先進国の金融システムが損失を吸収することは可能だろう。エバーグランデのデフォルトの発生自体は、中国経済内部の問題にとどまる可能性がある。
ただし、中国国内の投資家への影響を考えると、楽観はできない。最大の注目点は、中国国内の理財商品市場への影響だ。エバーグランデのデフォルトは、債務不履行や企業倒産が増加するトリガーとなり、中国の個人投資家の資産を棄損する恐れがある。そのインパクトは軽視できない。
■予想される最悪のシナリオは
そのリスクに関して、共産党政権は信用不安の拡大を回避しつつ不動産業者などの債務問題に対応し、国内の理財商品市場を守ることは可能と考えているようだ。しかし、9月には、複数の投資家がエバーグランデの本社ビルに詰めかけ、返金を求めた。理財商品の価値下落におびえる個人投資家は増えている。理財商品の価値が守られるか否かは、今後の習近平政権の意思決定次第だ。
もし、共産党政権の債務問題への対応が十分ではない場合、一つのシナリオとしてエバーグランデはクロスデフォルトに陥り、中国経済内部では信用不安が急速に伝播する恐れがある。その場合、中国の不動産市況は悪化し、理財商品の価値は一段と下落するだろう。
その結果、消費や投資は減少する。不動産業者の取引相手などの企業の債務不履行も増えて中国の銀行システムにストレスがかかる恐れもある。それは中国経済の減速を一段と鮮明化させる要因だ。そうした展開が現実のものとなれば、中国経済とのつながりの強いわが国やアジア新興国をはじめ世界経済にもマイナスの影響が波及するだろう。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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