「なぜそこまで怒り続けるのか」"眞子さま結婚肯定派"の私がネットに抱いた深い失望
プレジデントオンライン / 2021年10月14日 11時15分
■小室圭さんをめぐる「大騒動」
それは、9月24日にフジテレビ系FNNがニューヨークで撮影に成功した、直撃取材の独自映像から再び始まった。
フォーダム大学ロースクールを修了し、懸案のニューヨーク州司法試験にも合格が見込まれ、何年ぶりかに捉えられた小室圭さんの姿が映し出されると、日本中で驚きの声が上がった。後ろでまとめた長髪、厳しい表情で前だけを見つめて記者の問いかけに一切答えず歩き去る姿に、「生意気」「皇族の結婚相手としてやはり不適格」と激しい反感を覚える人もいれば、「カッコ良くなった」「試練に鍛えられて成長した」と感じる人もいた。課題を乗り越え、やるべきことを整え、いよいよ眞子さまとのご結婚話を再始動させ、一時帰国秒読み段階での彼の変貌ぶりは、「眞子さまご結婚」の話題が新しい章へと突入したことを告げるものだった。
9月27日午後3時20分、米ニューヨークから小室圭さんの帰国便である日航機が成田空港に到着したとき、既にゲートには約100人と数えられる報道陣が待ち構えていた。エコノミークラスと伝えられていた席は、おそらく警備上の理由でビジネスクラスにアップグレード。他の乗客に迷惑をかけずに機内で過ごし、安全に乗降するための、至って合理的な判断である。乗客の中で最後に降機した小室さんは、空港関係者やSPに護衛されながら歩き、報道陣に向かって深々と一礼すると、その後は無言を貫き通した。
■始まった「ネットリンチ」
新型コロナウイルスの検査と入国審査を終えた小室さんは、黒いバンに乗せられて実家マンションへ。2週間の自主的な隔離期間を安全に過ごすためだが、そこも既にカメラとマイクを構えたマスコミであふれかえっていた。上空には4機のヘリが旋回、バラバラと轟音を撒き散らす。一斉にフラッシュがたかれ、約20人の警察官が自宅前を警護するというものものしさの中で、小室さんはまた報道陣と、その向こう側の「国民」に対してしっかりと一礼し、建物内へと去っていった。
案の定、ネットは彼の帰国の情報と、ネット民の「ご感想」「ご意見」「ご忠告」、髪型などの容姿や態度、一挙手一投足への誹謗中傷であふれ返った。愉快に思うのだろうか、「暗殺」という言葉までが躍った。精神的にも肉体的にも傷つけてやろうという明白な悪意があふれたそのさまは、小室圭という(当時)まだ29歳の一人の男性に向けられた、日本国民からのネットリンチ以外のなにものでもなかった。
■Yahoo!ニュースに2万件のコメント
もちろんその矛先は、小室さん本人だけではなく、日本でその帰国を待ち受ける眞子さまにも向けられた。
10月1日、眞子さまのご結婚の日取りが宮内庁から正式に示され、眞子さまが結婚を巡るSNSやネット記事コメントの誹謗中傷に「人間としての尊厳が踏みにじられている」と感じて複雑性心的外傷ストレス障害(PTSD)に苦しんできたと公表されると、それを報じるネット記事にはまさに、眞子さまの複雑性PTSDの原因であるネット民から「当然の報いだ」「自分の行いが悪いからだ」「国民を脅す気か」と、Yahoo!ニュースでは2万件を超える反論コメントがまた噴き出した。
ご結婚の正式な日取りが決まったことへの、わずかな祝福のコメントなどは一瞬でかき消された。不適切なコメントの急増に危機感を持ったYahoo! JAPANが「法令に違反するコメントや、誰かを著しく傷つけたり、攻撃したりするコメントの投稿は禁止している 」とあらためて呼びかけると、Yahoo! JAPANに対する攻撃も沸き起こった。
■なぜ怒り続けているのか
なぜ、彼らはそれほどに眞子さまのご結婚に固執し、しつこく怒り続けているのか。体のどこにそんな怒りを執拗(しつよう)に沸騰させ続けていられるのか。あくまでも正義感から、自分たちは実に論理的で正当な意見を「相手のために」「皇室の品位のために」「国家の品格のために」「我ら日本国民のために」と書き記しているのだ、と思っている人たち。
でもそれは、彼らのように「皇室の品位」という99.999%のネット民に何ら関係のない大義を振りかざし、SNSやネット記事のコメント欄に残酷な言葉を尽くして怒りを書きつけたりはしない人たちから見れば、狂気の沙汰でしかない。「異常」なのは小室圭さんの家庭環境でも眞子さまの男性観でもなく、ネット民の執拗で嗜虐的な反応、そこに表れる病的な精神性こそが「異常」なのだ。そういった俯瞰は、おそらく彼らにはできていない。自覚もない。病識がないことこそが、その病が重いことを示す。
![指を指してこちらを叱責する男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/7/670/img_f7f4bcbe41f27589c434240f0280a548258343.jpg)
■テレビ発言がネットニュースに
小室さんと眞子さまへのバッシング再燃で、帰国を前にして捉えられた小室さんの面構えを褒めた、のんきな私の情報番組での発言までがネットニュースになった。
『めざまし8』の「小室圭さんは…いっぱしのロイヤルファミリー」発言が物議 「意味わからない」ネットに戸惑いと指摘相次ぐ
こういう、自分の記事や発言がネット炎上すると、これまでも必ず自分の名前の検索サジェスチョン欄に面白いことが起きた。ネット民に「リベラル論者」とラベリングされる者が必ず受ける洗礼だ。名前に続いて「韓国」が入り、隣国との関係性や政治的距離感を調べられるのだ。そしてあまりめぼしいものがないとなると、今度は「東日本大震災」が調べられる。震災の時に何を発言していたかで、当人の左右が測れると彼らは思っているからである。
私は東日本大震災が起こった当時、家族とともにスイス在住で、直後にロンドンへの引っ越しを控えている状態だった。日本への一時帰国もかなわず、欧州のニュース番組やCNNで何度も繰り返される、崩壊する建築物や割れる大地、津波の映像や原発の事故映像を見て傷つき悲しみ、日本への郷愁と愛情を深め、再び立ち上がる日本の力を海の向こうから見て感嘆し、日本人としての確固としたアイデンティティをむしろ日々強めていたということを、ここに記しておく。
ネット上で活動や発言を検索した程度で、人を安易にカテゴライズし理解し片付けた気になるのは、知的態度とは言えない。でも、それが私が物書きとしてデビューし、その自由と多様性のために設計された成り立ちを愛し、20年以上執筆の主戦場としてきたネットが結局たどり着いた姿なのだ。私は20年のキャリアの末に、ネットに失望している。
■「ネット民を説得してほしい」
「眞子さまご結婚肯定派」となってしまった私は、極端ではないが「右寄り」を自認するウェブメディアから取材を受けた。「眞子さまのご結婚に不安を感じているネット民を説得してほしい」という主旨だった。取材者は実のところとてもフェアな感覚で、記事の書き方も穏当だ。
「反対派は、皇室の品位が損なわれることが許せないのです」「だから不適格な相手との結婚を推し進めようとする眞子さまに不信感があるのですよね」という。皇室に対して思い入れのない私には理解のできない感覚だが、そんなに皇室を大事にし、皇族の幸せを本当に望むのなら、むしろ眞子さまのご結婚の意思を尊重し、その選択をより安全で安定して良いものにするべくみんなで考えることから始める方が良くないですか、と尋ねる。
「そうなんですけど、自分たちの国の皇室に対して、品格を保ち続けてほしいと思うからこそ、受け入れ難いようなのですよね」
■なんて残酷な民なのだろうか
皇室が「自分の国の皇室」であることには何の疑問もないが、「品格を保ち続けてほしい」という思いはない私は、どうして皇室に思い入れがないか、むしろどう思っているかを説明した。「その家を選んで生まれてきたわけでもないのに、生を受けた瞬間から全国民に監視され、『血税』を人質にして発言や行動を批判され、謝罪を求められ、気の毒としか思えないですよ」
なぜ、皇室の品格が「自分の品格」と近距離にひも付けられてしまうのか。自分のアイデンティティを皇族という「遠い他人」に預けられるのか。そこに疑問を持ったことがないのではないか、掘り下げたことがないのではないか? 私にとっては不思議で、不健康な精神のあり方だと思う、とも伝えた。
「小室圭さんが嫌だというのなら、じゃあ誰だったらネット民は納得するんでしょうね。仮にいまこの状況まで来て破談させて、眞子さま本人の感情も精神も踏みにじって、毒にも薬にもならないけれど『血統』だけはいいようなお相手を連れてきて、鳴り物入りでただの手続きとしての祝祭を国民的行事として挙げる。潔癖な日本国民はみんなで納得するのかもしれない。ただ眞子さまという一人の女性の人生と人格をみんなで寄ってたかって追い詰めて踏みにじったという歴史と、その後生きていく眞子さまの女性としての空虚な人生だけが残るんですよね? そういう歴史を『品格を大切にする日本の国民』は良しとするのだとすれば、なんて残酷な民なのだろうと、私は思いますよ」
■最後まで埋まらない溝
多分、こう書いても「その何が悪いのか、むしろ歓迎すべきじゃないか」と思う人々が、日本には確実にいる。一方で、こう書けばいま日本のネットやマスコミで起こっていることがどれほど醜く残酷なことであるか、伝わる人々もいると信じたい。
先述の記事では、「結局この問題は“天皇、そして皇室に対してどう思うか?”という価値観の問題に収斂(しゅうれん)されていくのではないか。皇室に対する思い入れが薄ければ薄いほど、皇族を赤の他人と見なすため、『自由にさせてあげれば良い』という結論に近づく。一方、皇室に対する誇りや愛着が強ければ、その一員である皇族が“ダメな男”と結婚することがどうしても許せなくなる」、「極論すれば、好き嫌いの問題ということになるのかもしれない」と結論されている。そう、これは是非ではなく価値観の問題である、という点に、私も大賛成だ。
埋まらない溝、「分断」の理由は、終戦後センシティブな存在になった皇室への本当の感情や本当の定義があえて真正面からは語られず、ふわっとサスペンド(保留)されてきたツケが可視化されているからでもあると感じている。
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コラムニスト
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。
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(コラムニスト 河崎 環)
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