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「スカートをはいた人は盗撮されたい人だ」盗撮の常習犯があきれた言い訳をする本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年10月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gaiamoments

盗撮を繰り返す人たちには根底に「認知の歪み」がある。加害者臨床を専門とする精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏は「盗撮加害者の中には『スカートをはいているということは、盗撮されてもOKということだ』という人すらいる。罪悪感から目をそらすために自己正当化を繰り返した結果、現実の捉え方が無自覚の内に大きく歪んでいく」という――。

※本稿は、斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■「やめたくない」からこそ都合のいい認知の枠組みを作る

盗撮行為がエスカレートしていく理由のひとつに、「認知の歪み」が挙げられます。私は「認知の歪み」を「問題行動を継続するための、本人にとって都合のいい認知の枠組み」と定義しています。

彼らは、口では「もうこういうことはやめたい」と言います。問題行動をやめたいし、罪の意識を心の中では感じているのです。しかし一方で、「問題行動を続けたい」とも考えています。人は、やってはいけないとわかっていながらも行動化するときに、心理的苦痛や葛藤を感じます。背徳感が快感に変わるという人もいるでしょうが、それは盗撮加害者には少ないです。

そこで、こういった問題行動をやめられない罪悪感から一時的に目をそらせるために、自己正当化する理論を洗練させていった結果、本人にとって都合のいい「認知の枠組み」を作りだしていくのです。自分がしていることを正当化し、「自分は間違っていない」「自分は悪くない」と責任転嫁し、そうすることで加害行為によって生じる責任から目をそらし、自分が見ている現実をも歪ませていきます。

■社会全体の価値観が偏った思考の根底にある

一方で、この「認知の歪み」は日本の社会状況のもとで学習したものです。偏った思考の根底には、女性蔑視や男尊女卑の価値観があり、この価値観自体をアップデートしない限り保存されたままで、女性をモノとして見る認知は変わらないでしょう。

このように、加害者と社会は互いに補い合う関係にあります。当事者が語る認知の歪みには一定のパターンがあり、不思議なことにどれも似通っています。根底には、前述した女性をモノ化する価値観や、「NO MEANS YES(嫌よ嫌よも好きのうち)」といった価値観が存在します。加害者は、その行為を正当化するために「暗黙理論」というものを持っています。これは、社会にある情報から自分に都合のいいものだけを取捨選択し、その考えをさらに強化していくことです。

■性犯罪加害者は自分で作り上げた物語の中を生きている

例えば、インターネットである商品をネット通販で購入すると、AIがユーザーに興味・関心のありそうな広告を自動的に画面上に表示します。SNSにしても、友人やフォロワーには必然的にそのユーザーの意見に賛同する人、拍手をする人が集まりやすくなります。

実は、性犯罪加害者もそうやって作り上げた物語の中を生きています。痴漢は、「電車内には、痴漢をOKしてくれる“痴漢OK子ちゃん”がいる」といった類いの情報ばかりに無意識にアクセスしているのです。同様に、盗撮加害者は「盗撮されたい女性もいる」というフィクションに執着します。ネット上で目にするこうした男性たちのコメントは、「性被害に遭うことを望んでいる被害者がいる」と本気で信じ込んでいるようです。

これが「暗黙理論」ですが、彼らは自分の中にそれがあることに気づいていません。男尊女卑的な発言をした人が批判されたとき、「これは女性差別ではない」と苦しい弁解をするのと同じように、性犯罪加害者にとっては、自分の物語が「認知の歪み」に根差したものとはまったく気づいていないのです。

加害者臨床の役割は、さまざまな技法を駆使してこの「暗黙理論」に気づかせることにあります。そして、なぜそのような偏った思考を持つに至ったのかを本人に語らせることが、「認知の歪み」を変えていく最初のステップなのです。

■「認知の歪み」のあぜんとする中身

以下は、盗撮加害者521人からヒアリングしたものになります。

(1)相手に気づかれていなければ、相手を傷つけないしOKだ。
(2)あれだけネットで盗撮画像が出回っているということは、それだけ簡単に盗撮できるということだ。
(3)痴漢行為と比べて、相手に触れないからそれほど大したことではない。

盗撮は相手に触れない「非接触型」の性犯罪です。そのため直接相手に触れる痴漢と比べることによって、自分の問題行動を矮小化します。このパターンの認知の歪みに陥る盗撮加害者はもっとも多いといえます。加害者は盗撮によって被害者が何を奪われるかをまったく想像できず、自分のやっていることはそれほどひどいことではないと本気で思い込みながら、盗撮行為を繰り返すのです。

(4)スカートをはいているということは、盗撮されてもOKということだ。
(5)下着が見えそうな服装の人は、心の中では盗撮されたいと思っている。

「スカートをはいていたから」「露出の多い格好をしていたから」など、相手の服装に落ち度があるという理由を挙げるのも認知の歪みの特徴です。被害者はたまたまその服やスカートをはいていただけ、駅構内を歩いていただけ、エスカレーターや階段を使っていただけです。まったく何の落ち度もありません。

しかし、彼らの歪んだ認知の世界では、このたまたま居合わせた偶然が「盗撮をしていい理由」になります。盗撮加害者が見ている世界と被害者が生きる現実は、まったく別ものなのです。

■「相手に受け入れてもらっている」と行為責任を免責する

(6)こちらをチラチラ見ている女性は、もしかしたら私に盗撮されたいと思っているのではないか。
(7)和式のトイレを選んでいるということは盗撮されたい人に違いない。
(8)相手からわざわざ近づいてきたのだから盗撮してもいいだろう。

また、(6)のように「相手がきっかけを作った」「相手から誘ってきた」などと自分の都合のいい解釈をする認知の歪みは、盗撮加害者だけでなく痴漢やレイプ犯、小児性犯罪者にも見られます。こういった認知の歪みによって、「自分は悪くない」(誘ったのは相手だから)とばかりに自分の加害行為を免責しています。

彼らは、明らかにバレるだろうという場所や手口でも、盗撮するのに何の迷いもありません。逮捕を恐れながらも、相手に受け入れてもらっているという矛盾した認識を抱えた彼らは、周囲をまったく客観的に見ることができていないのです。これは、痴漢行為でもしばしば見られる傾向です。

■「小型カメラを使ってないから犯罪ではない」

(9)有意義なマスターベーションをするために盗撮することは仕方ない。

この認知の歪みは、特に盗撮を始めた初期にとらわれやすい思考パターンです。自己使用目的(マスターベーション目的)で始めた人も、次第に「盗撮のための盗撮」に移行していくのが、常習化する盗撮加害者の典型的なパターンです。

(10)(「盗撮は犯罪」というポスターを見て)俺のやっているのはスマホで撮るだけで、デジカメや小型カメラを使うわけではないから犯罪ではない。

この認知の歪みは、痴漢加害者にも見られるものでした。駅構内に貼ってある「痴漢は犯罪です!」というポスターを見て、「俺がやっている行為は、すれ違いざまにわからないように触るだけだから犯罪ではない」と考えるのです。本当に都合のいい捉え方ですが、悲しいかな、これが彼らの目に映る現実なのです。

ほかにも、「のぞかれやすい建物にした建築士のほうが悪い」というのもありました。

加害者臨床の現場に長年関わっている専門家の私ですら、このような認知の歪みにあぜんとすることがあります。これを読んでいるみなさんが嫌悪感を抱くのも当然のことです。

いずれも彼らの思考には、被害者の存在が完全に抜け落ちていますし、この歪んだ認知は、問題行動を繰り返し成功するほど強化されていきます。まるで鍋の底にこびりついた焦げのように、ちょっとやそっとでは落ちないほど強固なものになっていきます。

■性欲がコントロールできないから盗撮するわけではない

ほかの性犯罪と同様、盗撮も「性欲が強いから」「性欲解消のため」「性欲のコントロールができないから」といった「性欲原因論」に矮小化して捉えると、その本質を見誤ります。彼らは行動化するとき、被害者や場所、時間帯、状況を慎重に選択しています。交番の前でも見境なく盗撮する加害者はいません。そういう意味で、彼らは性欲をしっかりとコントロールしているのです。

■依存症の本質は「苦痛の緩和」

「依存症の本質とは快楽ではなくて苦痛である」

これは、依存症の専門医である松本俊彦氏の『薬物依存症』(ちくま新書)に出てくる言葉です。

世間では、依存症とは快楽を求めてハマっていくものだとイメージされています。薬物なら摂取したときのハイになる高揚感や多幸感を求めて、アルコールなら酔った酩酊感や快感を求めてハマっていくということです。この快感に耽溺していくことを「正の強化」といいます。これまで依存症は、脳の報酬系に作用する「正の強化」が主な要因とされていました。

これに対して、心理的苦痛や否定的感情を一時的に和らげてくれることを「負の強化」といいます。そして実は、この一時的にストレスが緩和されるからハマっていく、という「負の強化」のほうが、人を依存の沼に引きずり込む力が強いのです。

ここでいうストレスとは、大きく言えば「生きづらさ」です。過去から抱えているトラウマや、逆境体験、仕事のストレス、友人や夫婦間など人間関係のストレス……その種類はさまざまです。

悲しい男
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

人は誰でも何かしら生きづらさを抱えています。そんなとき、薬物やアルコールで、まるで頭痛のときに鎮痛剤を使うように、簡単に苦痛を和らげてくれるものを使い続けることは、依存症当事者でない人にもイメージしやすいと思います。

盗撮行為に依存する人は、性欲を満たすことにハマる以上に、一連の行為における「緊張と緊張の緩和」により、ストレスが軽減されることに耽溺していくのです。この「一時的にストレスが緩和・軽減されるからハマっていく」ことこそ、行為依存の本質であると考えています。

■「意志が弱いから」依存症へのスティグマはいつまで続くのか

もちろん、それはあくまでも一時的に生きづらさを棚上げするだけで、根本的な解決にはなっていません。盗撮加害者にも「負の強化」の側面があるとはいえ、被害者感情を鑑みると加害者臨床の場では、慎重に対応することが求められます。

しかし、盗撮や痴漢など性的な問題行動においては、「性欲を抑えきれなくて犯行に及んだ」といまだに言われ続けています。「依存症になる人は意志が弱い」「だらしがない」というイメージもあります。

先ほど挙げた「依存症の本質とは快楽ではなくて苦痛である」という言葉が表すように、依存症の「負の強化」のメカニズムも伝えていくことで、世間にあふれる依存症への先入観や誤解を払拭し、治療の必要性を啓蒙できればと願ってやみません。

■盗撮の優越感は「日記を盗み見る感覚」

先述の「認知の歪み」に加え、支配欲や優越感も盗撮加害者がよく口にする心理です。以下の発言は、ある盗撮加害者の言葉です。

「盗撮とは、相手に気づかれないように、日記を盗み見る行為なんです。その優越感は、日常生活では絶対に味わえないですから。そして画像や動画を保存することで、支配欲や所有欲が満たされるのです」

日記を盗み見るような感覚――ここでいう「日記」とは、もちろんメタファーです。相手しか知らないプライベートなこと、しかも相手は他人には見られたくないと思っていることを指します。そんなプライベートかつデリケートなものを、相手に気づかれずに自分だけが知り、それを一方的に手にしているという優越感です。

相手が人に見せたくないほど大切にしているものを、自分はいとも簡単に手に入れて(しかも当人に気づかれずに)自在にコントロールできるのだ、という歪んだ支配欲・所有欲もうかがえます。

痴漢やレイプなどほかの性犯罪と盗撮が異なる点は、相手の反応を間近で見て楽しむような「直接的な支配欲求」ではないということです。相手は、よもや自分が被害に遭っていることには気づいていない。しかし自分は安全圏(もちろん安全ではありませんが)にいて、「俺はお前のことをすべて知ってるけど、お前は俺のこと知らないよな」と思っているような、非対称性における優越感を感じ取ることができます。

■支配欲は劣等感にとらわれていることの裏返し

この優越感や支配欲は、裏返せばそれだけ彼らが劣等感にとらわれている証しです。

斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)
斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)

私が出会った盗撮加害者には、女性経験が乏しく、異性とコミュニケーションを取るのが苦手な人が多くいました。また、その場や集団の中でふさわしい振る舞いができなかったり、相手の気持ちを非言語的コミュニケーションから読み取るのが困難な人など、自閉スペクトラム症(ASD)の傾向があるケースも少なくありません。

本人たちは「女性と付き合いたい」「コミュニケーションを取りたい」「女性の体に触れたい」という強い願望を抱きながらも、それができないために、代償行為として実現可能な性的逸脱行動によって「自分は満足している」と思い込みます。これを「すり替え充足」といいますが、行為依存のひとつの特徴です。

ここまで見てきたように、盗撮をする背景には劣等感、人間関係でのコンプレックス、歪んだ承認欲求と自尊感情の欠如、そして優越感や支配欲など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることがわかります。しかし、彼らはなぜそれらを、ほかでもない盗撮によって充足させるに至ったのでしょうか。そこには、日本の男性が抱える問題があるのです。

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斉藤 章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士
大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模と言われる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、長年にわたってアルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で、現在までに2000人以上の性犯罪者の治療に関わる。主な著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)がある。

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(精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤 章佳)

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