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「練習はたった週2回」勉強で合格した東京理科大1年の陸上部員が学生日本一になれた"頭のいい方法"

プレジデントオンライン / 2021年10月17日 11時15分

埼玉・川越東高校3年時、全国高校陸上で男子400メートル優勝した友田真隆さん=2020年10月23日、エディオンスタジアム広島 - 写真=時事通信フォト

1位に輝いたのは東京理科大1年生――。9月に行われた大学生の陸上競技大会(日本インカレ)で“珍事”が起きた。スポーツライターの酒井政人さんは「メジャー種目の400mで陸上強豪の大学の選手を差し置いて勝ったのは、全体練習は週2で自前のトラックもない東京理科大の選手。その背景には、根性・努力至上主義のチームにはない頭を使った練習のしかたにある」と指摘する――。

■全体練習は週2回の東京理科大1年生が日本インカレ優勝の“珍事”

今年9月に行われた日本学生陸上競技対抗選手権大会(日本インカレ)。1928年に第1回が開催された歴史ある大会の各種目で今回チャンピオンとなった選手の大学は、東洋大、城西大、東海大、順天堂大、早稲田大、明治大、筑波大、日本大、福岡大といった強豪大学が大半だ。

そんな中、異彩を放つ大学が1校あった。東京理科大だ。同大は、講義内で学生に大量のレポートや実験など学業が大変なことで知られている。

この日本インカレで見事1位に輝き東京理科大史上初の快挙を果たしたのは、実力者がひしめくメジャー種目「男子400m」に出た友田真隆だ。なんと1年生である。しかも、自己ベストとなる46秒35で制した。

同大会は例年、私立大選手の活躍が目立つ中、東京大、京都大、名古屋大など旧帝国大の選手が表彰台に立つこともある。だが、東京理科大の選手が1位になることはそれ以上の“ニュース”だ。

東大、京大、名古屋大は卒業生を含めれば、いずれも陸上競技のオリンピアンを輩出したことがある。陸上部は伝統があり、キャンパス内にトラックもある。勉強が大変とはいえ、強豪大学に近い練習環境でトレーニングを行っており、大学で急成長する選手もいる。

一方の東京理科大はキャンパス内にトラックはない。そのなかで、1年生がどのようにして学生一まで上り詰めることができたのか。他大には自分よりキャリアも実績も上の先輩たちをいるのに、なぜそれを上回る結果を出せたのか。

■なぜザ・体育会系の選手に学業第一の大学の選手が競り勝てたのか

友田は埼玉県の私立男子校の川越東出身。文武両道を掲げる進学校である。高校時代は薬学部を目指しながら陸上部に所属して練習に励んだ。昨年10月に行われた全国高校大会の男子400mで優勝している。当時のベスト(46秒51)は、昨年の高校ランキングトップだった。

埼玉・川越東高校3年時、全国高校陸上で男子400メートル優勝した友田真隆さん
埼玉・川越東高校3年時、全国高校陸上で男子400メートル優勝した友田真隆さん=2020年10月23日、エディオンスタジアム広島(写真=時事通信フォト)

友田は成績評定も高く、指定校推薦で東京理科大への進学を決めたものの、大学で競技を続ける気持ちは一切なかったという。そのため、昨年10月から半年間全く練習をしていなかった。

「固定観念で、理科大で競技を続けるのは無理だと思っていたんですけど、大学に入ってもやることがないなと思って、陸上部に顔を出したんです。すごくいい雰囲気で練習をされていたので、結果はどうであれ、イチから頑張ろうと思いました」

東京理科大は都内の神楽坂キャンパス、葛飾キャンパス、千葉の野田キャンパスなどがあり、陸上部員は意外にも100人以上の大所帯だ。しかし、チームの全体練習は水曜日と土曜日の週2回しかない。使用できる競技場を探して、授業を終えた選手が集まり、一緒に汗を流しているという。

「1回の練習時間は水曜日が2時間半、土曜は3時間くらい。走る練習は1週間で、この2回だけです。あとは個人で週に1、2回ウエイトトレーニングなどをしています。その時間も1時間くらいですね」

強豪大学の場合、週6で全体練習があり、長距離種目では朝練習もある。しかし、前述したように東京理科大の場合は練習環境が大きく異なる。トレーニングに費やせる時間は1週間で7時間ほどしかないのだ。

「最初は趣味程度で続けられればと思っていたので、正直、ここまで伸びることは予想していませんでした」

本人が驚くのも無理もないだろう。半年間のブランクがあり、練習量は高校時代の半分以下にもかかわらず“学生日本一”になったのだから。そこにはどんなマジックがあったのか。友田はこう分析している。

「高校だと顧問の先生がメニューを決めます。気分が乗らない日もあったんですけど、大学では走るのは週2回だけです。弱点を克服するための練習をして、かつ、練習時間を大切にしようとする意識が強くなりました。1回1回の練習では質を高めています。東京理科大には指導者がいないので、自分で考えてできているのが好結果につながっているんじゃないでしょうか」

■週6練習は古い? 努力の“仕方”を考える

友田は週3~4回のトレーニングで強くなったが、ほぼ毎日のように練習がある強豪校は多い。長年、高校・大学の陸上部を中心に取材をしていると、正直に言えば、たいして強くない学校の部活動でも週5~6日練習をしているというケースはたくさんある。

陸上部に限らず、日本人は結果と同じくらい努力を評価する風潮があり、「努力=時間や数」という考えが強い。たとえば、「毎日20km走っています」「毎日、素振りを1000回やっています」「毎日、腹筋を500回やっています」とか、「1年間、1日も休まずに練習をしてきました」というものは努力の象徴として称賛されることが多い。

そうした努力は“正解”なのだろうか。練習のための練習になっては時間の無駄だ。それどころか練習のやりすぎは故障のリスクが高くなる。男子マラソンで日本記録を2度塗り替えて、東京五輪で6位入賞を果たした大迫傑もこんなことを言っていた。

陸上競技
写真=iStock.com/Chris Ryan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chris Ryan

「できる限りの無理はしてきましたが、自分自身のキャパを超える無理はしませんでした。それがすごく大事だと思っています。この感覚は、自分を深く掘り下げていかないとなかなかつかむことができません。やらされている練習は故障が多くなると思うんですけど、自分主体で考えてやっていくと、故障は減るのかなと思います」

何のためのトレーニングをしているのか。それをきちんと理解したうえで取り組むことがポイントになってくる。

またスランプになると、「原因は練習が足りないから」だと周囲も自分も考えがちだが、実際はその逆というパターンが多い。疲労が溜まる→筋肉が硬直→可動域が狭くなる→従来の動きができなくなる、という流れだ。

調子が悪いときほど、練習量を増やすのではなく、しっかりと休養したほうがいい。そうした考えを持ち始めた指導者や選手も増えている。彼らは練習を増量すること以上に、ふだんから調子が悪くならないように、常に身体をメンテナンスすることに気を配る。

以前、高校・大学・実業団で活躍して、世界陸上の男子マラソンにも出場した元選手から面白い話を聞いた。彼は現役引退後、走ることはなかったという。慣れないデスクワークが続くなかで下半身がむくむようになりストレスも増加。そこで半年ぶりにランニングを再開すると、身体に驚くべきことが起こったという。

「一度しっかり休んだことで、はじめはすぐに筋肉痛になりました。でも、徐々に走れるようになってくると、自分の身体がこんなにも動くんだということを知ったんです。身体からエネルギーがみなぎってくる感じ。これは現役中にはなかった感覚です。現役中は、休んだつもりでも慢性疲労が常に残っているような状態だったと思いますね。なので、今は週に2回は完全休養するようにしています」

元選手は市民ランナーとなったが、トレイルレースに参加するかたわら、1500mを3分台で走破してしまうほどの走力を誇っている(日本記録は3分35秒42)。

マラソン選手として活躍するプロランナーの川内優輝も市民ランナー時代、月間走行距離は600kmほどだった。実業団選手の6割くらいだ。

今回の東京理科大1年生・友田真隆の快挙は、日本のスポーツ界にいまだ根付いている根性論のトレーニング至上主義を蹴散らすのに充分なインパクトがあったと思うのだ。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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