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「治療が難しく死に至る場合もある」女性の100人に1人が発症する"ある精神疾患"

プレジデントオンライン / 2021年10月20日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

女性の100人に1人が発症する深刻な精神疾患がある。京都大学大学院医学研究科の村井俊哉教授は「神経性やせ症と神経性過食症を合わせた『摂食障害』は、症状が直接的な死因につながる難しい病気。入院しても適切な治療を受けられないことが多く、行きつ戻りつの長い治療になる」という——。

※本稿は、村井俊哉『はじめての精神医学』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

■過度なダイエットをあおる社会の風潮が影響か

神経性やせ症、神経性過食症は、両者を合わせて摂食障害としても知られている病気です。特に女性についてそうなのですが、過度なダイエットをあおる社会の風潮が、過度な「やせ願望」をもたらします。

こうしたことが大きな原因となっていることから、統合失調症や自閉スペクトラム症と比べると、「社会がどうあるか」ということの影響が特に強い病気です。

やせすぎの女性モデルの死亡が各国で相次いだことから、欧米では具体的な規制が始まっています。

いくつかの国がファッションショーへの出演を禁止している「やせすぎ」の基準は、BMI18.0〜18.5以下です。BMI(Body Mass Index、ボディ・マス・インデックス)とは、「体重kg/(身長m)2」で計算されますが、ファッションショーの出演禁止の基準とされているBMI18.0とは、身長165センチメートルの場合49キログラム、160センチメートルの場合46キログラム、155センチメートルで43キログラムということになります。

■ダイエットに関心のない人が発症することもある

これらの数値は、その体重が理想的という意味ではなく、それを下回ると「危険」という赤信号です。ちなみに、健康とされる普通体重の範囲はBMI18.5〜25.0範囲です。普通体重上限のBMI25.0は身長160センチメートルの人で64キログラムです。

各国が設け始めているこのような基準は、モデルを職業とする人、モデル志望の人の健康を守ることだけでなく、モデルの容姿は一般の人たちの憧れの対象となることを考えると、一般の人たちの健康を守るためにも重要です。残念ながら、日本はこのような流れに対して後れを取っています。

ただし、摂食障害は「社会があおる、やせ体型の過剰な礼賛」ということだけでは説明ができず、美容という意味でのダイエットに関心のない人で起きることも多いのです。

女性に圧倒的に多い病気で、男性は女性の10パーセント未満、また、生涯有病率(一生の間に病気を持つ割合)は、神経性やせ症、神経性過食症のそれぞれで、1パーセント前後という報告があります。

■やせすぎているのに太るのが怖い

神経性やせ症、神経性過食症に共通していえることは、体重が増えることへの恐怖です。

前回の健康診断でやせすぎと言われていた人は、体重計に乗るときには、体重が増えていなかったらどうしようと思って、少しどきどきするでしょう。実際に測定してみて、体重が多少増えていたら「体重が増えてよかった」と思うはずですが、摂食障害を持つ人は、極端なやせがある状態でも、「体重が増えていたらどうしよう」と思ってどきどきするのです。

たとえば身長160センチメートル、体重38キログラム前後がずっと続いている人を考えてみましょう。この人が今回の測定で体重40キログラムになったとすると、それでもまだまだ低体重ですが、本人は、越えてはいけない一線を越えてしまった、といった恐怖を感じるのです。

体重が増えることへの恐怖、摂取カロリーを過剰に気にする傾向は、これらの病気を持つ人に共通してみられます。これだけだと、これらの病気を持つ人は皆、病的なやせに至るのでは、と想像してしまいますが、神経性やせ症の人の一部と、神経性過食症を持つ人のすべてでは、それに加えて、自分でコントロールすることのできない、極端な「過食」が起きます。

「過食」のときは、患者はいつもと別人のような様子になります。過食をすれば当然、体重は増えますので、患者はますます通常の食事を制限しようとしたり、さらには自分で嘔吐を誘発したり、緩下剤を使ったりすることで、体重を減らそうとします。

■精神科の病気が直接の死因になりうる難しい病気

ところで、病名としての定義上は、結果として著しい低体重がある場合を神経性やせ症、低体重がない場合を神経性過食症として区別しています。

精神科の病気は、病気そのものによって直接に死に至ることはなくても、「生活習慣病が合併する」、「健康診断の機会を逸する」などなどの理由で、平均寿命が短くなることがあります。このような意味での寿命損失が起きる病気の代表が、統合失調症です。

それはもちろん大きな問題なのですが、摂食障害、特に神経性やせ症については、低栄養から急死に至ることがあるため、「精神科の病気が直接の死因となりうる」、とても難しい病気です。

現在、精神科の入院患者の大半は、精神科病院という、精神科のみがある病院に入院します。しかし、身体の治療も重要な要素となる摂食障害の場合には、内科が併設されていない精神科病院ではその治療が難しいことが多く、総合病院の精神科への入院が、より適しているということになります。

ところが、総合病院の精神科であっても、ほとんどの場合、入院中に内科や外科ほどの手厚い診療や看護を受けることができないのです。

なぜなら、「精神科に入院する人は、身体は元気だろうから、他の科ほどの複雑な検査や治療、手厚い診療は必要ないだろう」という古い考え方のもとに医療制度がつくられており、そのため、精神科への入院は入院患者一人当たりにかけることのできる人員や医療費が低く抑えられているからなのです。

ベッドで横になっている人の手元
写真=iStock.com/LightFieldStudios
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LightFieldStudios

■手足を縛って強制的に栄養補給する場合も

現実には、神経性やせ症により、入院が必要なほどの低体重になると、身体の病気としても重症、さらに、心理支援など精神科の治療も最も手厚いものが必要となります。こうした病気を持つ人が必要な治療を安心して受けられるよう、将来、医療制度面で、一般医療と精神科医療の垣根を流動化するような抜本的な改革がなされることを願っています。

村井俊哉『はじめての精神医学』(ちくまプリマー新書)
村井俊哉『はじめての精神医学』(ちくまプリマー新書)

低体重が進むと様々な身体の症状がみられます。立ちくらみ、月経停止、脱毛、低血糖などです。

これらの症状が出ると要注意で、医療機関への相談が必要です。低体重が著しくて入院となる場合、治療として何をするかというと、(言わずもがなかもしれませんが)低栄養による急死を防ぐために栄養の補給を行います。

ただ、この栄養補給は簡単なことではありません。当の本人が体重増加をひどく怖れているわけですから。であれば手足を縛って強制的に栄養補給を行うのか、といえば、本当に生命に危機が迫っていたらそうすることもあります。

けれども、結局、そうした治療にしてもいつまでも続けるわけにはいきませんし、その治療が終了したら、苦労して増やした体重など、本人が減らそうと思えば、わずかの期間でまた失ってしまうことになります。結局のところ、わずかにでも、本人自身の治りたいという意志、動機がないと治療は難しい、ということになります。

■「元気になったときに何がしたいか」をイメージできることが大切

病気の定義上、本人がやせることを願っている病気なので、本人の側に体重を戻そうという意志や動機などないのではないか、と思われるかもしれません。

しかし、現実には、心の中の9割以上は体重を減らしたい、と思っていたとしても、低体重が進む中でからだの苦痛も感じるようになることもあって、心のどこかには「このままではいけない、体重を戻して元気になりたい」という気持ちが隠れています。

矛盾する二つの気持ちの中で本人が立ち往生しているときに、その支えとなり、元気になりたいという気持ちを応援するのが、この病気の心理療法の役割になります。

「元気になった」暁に、体重や体型のこととは全く別の、その人がやってみたいこと、大切に思っていること、をイメージできるかどうか、が治療の鍵となってきます。行きつ戻りつの長い治療になります。

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村井 俊哉(むらい・としや)
京都大学大学院医学研究科教授
1966年生まれ。大阪府出身。京都大学大学院医学研究科修了。医学博士。専門は臨床精神医学一般、行動神経学、高次脳機能障害の臨床。マックスプランク認知神経科学研究所、京都大学医学部附属病院助手などを経て、現職。著書に『人の気持ちがわかる脳』(ちくま新書)、『精神医学の概念デバイス』(創元社)、『統合失調症』(岩波新書)など多数がある。

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(京都大学大学院医学研究科教授 村井 俊哉)

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