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「"所得倍増"は所得2倍という意味ではない」次々と公約を引っ込める岸田内閣は本当に選挙で勝てるのか

プレジデントオンライン / 2021年10月15日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■今回の選挙を「未来選択選挙」と位置づけているが…

10月14日、衆議院が解散した。衆院選の日程は「19日公示、31日投開票」となる。与野党は新型コロナ対策や経済政策などを争点に事実上の選挙戦に入った。

与党の自民、公明両党は新政権発足への国民の期待感をバネに衆院での勢力を伸ばしたい考えだ。岸田文雄首相は14日夜、今回の選挙を「未来選択選挙」と位置づけ、「コロナ後の新しい未来を切りひらいていけるのはだれなのか選択してもらいたい」と訴えた。

新政権の岸田内閣に国民はどれだけ期待しているのか。

報道各社の世論調査を見ると、60%を超えるものはなかった。これは内閣発足時の数字としてはかなり低い。たとえばNHKの世論調査では、内閣支持率は49%にとどまっている。一方、菅義偉内閣の発足時は62%だった。内閣支持率は最初は高く、後は下がる傾向がある。岸田内閣は厳しい船出となっている。

■格差是正の目玉公約「課税強化」はいとも簡単に取り下げ

振り返ると、岸田首相は8月26日の総裁選出馬時にこう語っていた。

「国民の声に耳を澄まし、政治生命をかけ、新しい政治の選択を示していく」
「自民党の役員に若手を大胆に登用し、自民党を若返らせる」

独断専行に走る菅政権と古い体質から抜け出そうとしない自民党幹部への挑戦状だった。党内の改革を求める若手・中堅の議員の声に押され、自民党内で干されることも覚悟して立ち上がったようにみえた。しかし、いまの岸田首相にあのときの熱さは感じられない。

10月1日の党の役員人事では、政権運営の要となる幹事長に党税制調査会長を務めていた甘利明氏を起用した。甘利氏は元首相の安倍晋三氏や前財務相の麻生太郎氏に近い。安倍、麻生、甘利各氏の頭文字を取った「3A」は、自民党の旧態依然とした体質の象徴だ。これだけでも党の改革をやるつもりがないことがわかる。しかも甘利氏には現金授受の疑惑があり、その説明責任も十分果たしていない。

10月11日の国会の代表質問では、岸田首相は、自民党総裁選で掲げた「株式配当などの金融所得への課税強化」を先送りする発言を繰り返した。格差是正の目玉公約だったはずだが、いとも簡単に取り下げてしまったのだ。

■「令和版所得倍増」は所得が2倍になるという意味ではない

もうひとつ、総裁選での経済政策の目玉だった「令和版所得倍増」も取り下げてしまったようだ。この言葉は、国会での所信表明演説では触れられず、自民党の衆院選公約の政策パンフレットにも出てこない。一体どこに消えてしまったのか。

この件について、14日、山際大志郎・経済再生担当相は報道各社のインタビューで、「文字通りの『所得倍増』を指し示しているものではなく、多くの方が所得を上げられるような環境を作って、そういう社会にしていきたいということを示す言葉」と述べ、「令和版所得倍増」は所得が2倍になるという意味ではないとの認識を示している。

インタビューに応じる山際大志郎経済再生担当相=2021年10月14日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
インタビューに応じる山際大志郎経済再生担当相=2021年10月14日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

「令和版所得倍増」の詳細は、近く設置される「新しい資本主義実現会議」で議論するそうだが、そういう説明を受けて有権者はどう思うだろうか。バカにされていると思うのは、沙鴎一歩だけだろうか。

■野党は200以上の選挙区で候補者を一本化した

衆院選は政権選択の選挙である。野党各党は政権交代を強く訴える。第1党の立憲民主党の枝野幸男代表は街頭演説などで「安倍・菅政権は国民の声を聞かず、不誠実な政治を一貫して進めてきた。10年近く続いてきた傍若無人な政治を終わらせる」と訴える。

立民は共産、国民民主、れいわ新選組、社民の4党と選挙協力の野党連合を推し進め、すでに小選挙区289のうち、200以上の選挙区で候補者を一本化した。

衆院の定数は465議席(小選挙区289、比例選176)である。自民、公明両党の解散時の勢力は305議席(自民党276、公明党29)で、立民の解散時の勢力は110議席だった。

岸田首相は衆院選の勝敗ラインを「与党で過半数確保」とする。つまり自民党と公明党の獲得議席が合わせて「233議席」を取れないと負けになる。

岸田政権の不人気に対し、野党は勢いがある。自民党内からは楽勝ムードが消え、過半数割れを心配する声も出ている。

ところで内閣発足から10日後の衆院解散は戦後最も短い。解散から投開票までは戦後最短の初の17日間となる。異例の短期決戦だ。衆院選挙は安倍政権での2017年10月以来、4年ぶりだ。衆院議員の任期満了日(10月21日)以降に実施される衆院選は、現行の憲法下で初めて。今回の衆院選は異例ずくめなのである。

■「時の権力者に近い者が特別扱いされる」という疑念

10月15日の朝日新聞の社説は「4年ぶり衆院選へ 民意に託された政治の再生」との見出しを掲げ、冒頭でこう主張する。

「日本の民主主義を深く傷つけた安倍・菅両政権の総括のうえに、政治への信頼をどう取り戻すか。少子高齢化など直面する課題への処方箋や、『コロナ後』も見据えた将来のビジョンをどう描くか。与野党は明確な選択肢を示して、有権者の審判を仰がねばならない」

「民主主義を深く傷つけた」はずいぶんな酷評だが、政権選択の選挙において「政治への信頼」は重要なテーマである。国民の信頼を失った政治家が、勝ち続けることは難しい。

朝日社説は「その後の党や内閣の人事、臨時国会での所信表明演説と各党の代表質問に対する答弁をみる限り、(これまでの路線の)転換よりも『継承』に近いと言うほかない。『安倍1強』体制が長く続き、党内から多様性が失われた自民党の限界が示されたといえる」と岸田首相を批判し、「首相には、森友・加計・桜を見る会といった、安倍政権下の疑惑を清算しようという意思はみられない。時の権力者に近い者が特別扱いされたのではないかという一連の問題は、政治や行政の公平・公正に対する疑念を招き、統治機構に対する信頼を著しく損なうものだった。これこそ、首相がいう『民主主義の危機』ではなかったのか」と皮肉る。

国会議事堂
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

岸田首相には総裁選に出馬表明したときの気持ちを取り戻し、党改革を進めてほしい。そうすれば、朝日社説の指摘する「時の権力者に近い者が特別扱いされる」という疑念も払拭(ふっしょく)されるはずだ。

■「楽観姿勢」を捨て去り、「科学的知見」を重視するべき

10月15日付の毎日新聞の社説は「日本の選択 新型コロナ対策 危機に強い社会へ論戦を」との見出しを付け、「衆院が解散され、事実上の選挙戦が始まった。政府の新型コロナウイルス感染症対策への初の審判となる」と書き出している。この1本社説は、内容がすべて衆院選で議論すべき「新型コロナ対策」となっている。今後、連載の形で各テーマごとに分けて衆院選を社説で扱っていくのだろう。

毎日社説は主張する。

「岸田文雄首相は『危機対応の要諦は、常に〈最悪の事態〉を想定することだ』と繰り返している。かけ声倒れになってはならない。どのような『最悪』を想定し、どう備えるのか明らかにすべきだ」

いまの岸田首相を見ていると、どうしてもかけ声倒れになってしまうのではないかと不安になる。

毎日社説は「安倍晋三政権と、後を継いだ菅義偉政権に共通したのは、根拠なき楽観姿勢と、科学的知見の軽視である」と指摘するが、岸田首相はこの「楽観姿勢」を捨て去り、「科学的知見」を重視してもらいたい。

毎日社説は最後にこう訴える。

「新型コロナの危機が過ぎても、いずれ新たな病原体によるパンデミック(世界的大流行)が起きる。衆院選の論戦を、感染症対策の長期戦略構築への一歩としなければならない」

未知の感染症によるパンデミックは必ず再び起きる。新型インフルエンザウイルスによるスペイン風邪(1918年)やブタ由来のインフルエンザウイルスの大流行(2009年)を考えれば、よく分かるはずだ。感染症対策には長期戦略が欠かせない。

■「すべての国民が成長の果実を享受できる新しい資本主義」

読売新聞の社説(10月15日付)は書き出しで「発足間もない岸田政権に信任を与えるか、共闘を強める野党に政権を担わせるか。重要な選択の機会である」と分かりやすく解説する。見出しも「政権の安定選ぶか転換図るか」である。

「安定」か「転換」か。岸田政権は発足まもないのにその勢いが弱い。野党は連合しつつあるとは言え、それぞれの政治思想は異なる。福島の原発事故の対応など旧民主党政権の体たらくを思うと、政権能力を疑ってしまう。今回の衆院選は有権者にとって難しい選択である。

読売社説は「岸田首相は記者会見で『すべての国民が成長の果実を享受できる新しい資本主義をつくる』と語った。与党で衆院過半数の233議席獲得を勝敗ラインに挙げた」と書き、こう指摘する。

「自民党は、安倍元首相の下で国政選挙に6連勝し、長期政権を築いた。だが、後継の菅前首相は1年あまりで退陣した。岸田首相が国民の審判を経て、安定政権を構築できるかどうかが問われる」

すべては選挙期間中の岸田首相の言動にかかっている。有権者は演説の言葉だけではなく、一挙一動すべてを観察している。国民のことを真に思う信念があれば、それは熱意として必ず有権者に伝わる。岸田首相は総裁選の出馬表明のときの気持ちに戻るべきである。そうすれば、衆院選勝利の兆しが見えてくる。

■投開票日まで態度を決めない有権者も多くなりそう

保守を代表する読売社説だけに野党批判を忘れない。

「野党第1党の立民が共産党と選挙協力することで、支持が広がるかどうかも注目される」
「立民は日米同盟基軸を掲げるが、日米安保条約廃棄を主張する共産党との協力に矛盾はないか。丁寧な説明が不可欠となろう」

立憲民主党と共産党は根底の政治思想が異なる。共産党は立民が政権を取った場合、閣外協力を目指すというが、どう内閣の外から協力していくのか。そこがよく見えてこない。

10月15日付の産経新聞の社説(主張)は「今回の衆院選の最大の特徴は、日本が文字通り危機にある中での国政選挙という点だ」と指摘し、「危機を乗り越えるために、選挙後の政権には具体的政策を断行してもらう必要がある。衆院選が政権選択選挙であるという性格が今ほど痛感されるときはない」と訴える。

それゆえ、有権者にとって難しい選挙なのである。投開票日まで態度を決めない有権者も多いだろう。最後まで目を離せない選挙戦となりそうだ。

■産経社説「野党第一党が共産党と政権奪取を目指す初の選挙」

産経社説は安全保障の重要性に触れ、「中国軍機が最近、わずか5日間で延べ150機も台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入した。北朝鮮は新型ミサイルを相次いで発射した。地域の平和と安定を乱すものだ」と指摘したうえでこう訴える。

「外交努力は当然だが、『力(軍事力)の信奉者』である中国、北朝鮮を抑止するには、防衛努力も欠かせない。そのための具体的な方策を論じないようでは国民の命と財産を託せない」

与党も野党も産経社説が主張するこの「防衛努力」を具体的に語ってもらいたい。

最後に産経社説は「共産は、天皇や自衛隊、日米安保体制の最終的な解消を目指している。野党第一党が、共産主義を奉ずる党が関わる政権を目指す衆院選は、日本史上初めてだ。政権の性格も、有権者の判断材料になるのではないか」と野党連合に釘を刺す。

「新聞社説の最右翼」と言われる産経社説らしい指摘だ。だが、野党の批判があってこそ与党が襟を正し、真っ当な政治から外れないという側面があることも産経社説には考えてほしい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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