一人だけお土産が配られない…「職場のいじわるな人」から身を守るたった一つの方法
プレジデントオンライン / 2021年10月27日 8時15分
※本稿は、見波利幸『平気で他人をいじめる大人たち』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■「言った言わない」問題が、大きな責任問題に発展
自分の感情をコントロールできない人のいじめの例をあげましょう。感情がコントロールできない人は、自分がその人を好きか嫌いかで物事を判断してしまうところがあります。
A子さんは、同僚のCさんから「嫌い」と思われたことから、いじめにあった人でした。A子さんの話によれば、Cさんに嫌われるようなことをした覚えは特にない、と言います。A子さんが噓をついているのでしょうか。私の前に座って神妙な顔つきで話すA子さんは、少なくとも噓をついているようには見えません。
ではなぜ、CさんはA子さんが嫌いなのでしょうか。こればかりはCさんに聞いてみるほかありませんが、ここで問題になっているのは、CさんがA子さんを嫌っていることではありません。というのは、たとえ相手のことが嫌いであっても、仕事上必要なことは、好き嫌いに関係なく伝えなければならないのは、社会人として当然のことだからです。
すなわち、Cさんのいじわるというのは、「必要なことをしない」という類のものでした。
この手のいじわるは、「言った、言わない」と双方で意見が食い違って、結局は水かけ論になってしまいがちです。
■「故意に重要な情報を伝えない」といういじめが横行
いじめの程度としては軽いとみなされがちですが、横行するのはいじめの手段としては簡単に誰でもできてしまうからでしょう。一見、軽いいじめのように見えますが、たった一つのことを伝えなかったことが、重大なミスに発展する恐れもあるため、軽視してはいけません。
また、罪悪感が薄いというのもこの手のいじめの特徴です。いじわるをする側は、ただ伝えなかっただけで、直接手を下したわけではないと思っているのです。よくあるいじめなのですが、罪悪感を持っていないということは、反省する気もないわけですから、かなり悪質といえるでしょう。
■「必要なことをしない」Cさんのいじわる
A子さんのケースに戻りましょう。二人の間にどんなことがあったのでしょうか。
A子さんは外回りの営業の仕事をしています。普段は得意先を回ることも多いのですが、新商品の販路を広げたい会社側は、得意先にこだわらずこれまで取引のなかった会社にも積極的に売り込むようにと指示を出していました。
そんなある日、飛び込みで営業をかけた会社から、商品を買ってもらえることになりました。ここのところ思うように仕事が取れていなかったA子さんは、ホッと胸を撫でおろすと同時に少し得意な気持ちにもなったそうです。
社に戻ると早速、発注係のCさんに商品の発注を依頼しました。
数日後、商品がA子さんの手元に届いてもいいはずの時期なのに商品が入ってきません。
取引先からも催促の電話がかかってきます。焦ったA子さんは、発注係のCさんに商品はいつ入ってくるのかを聞きました。するとびっくりしたことに、Cさんはそんな発注は受けていない、というのです。
そんなはずはありません。A子さんは「確かに、あの日Cさんに発注したはずなのに……」と心の中で思ったそうです。でも口頭での発注だったため、証拠はどこにもありません。Cさんに聞いていないと言われれば、それまでです。A子さんは自分の伝え忘れだったのかもしれない、と思うことにしてその場は引き下がりました。
Cさんが発注を受けていないというからには、ミスの代償はA子さんが払うしかありません。案の定、取引先はA子さんへのクレームと同時にA子さんの上司へも報告してきました。結果、A子さんは自分が新規開拓した取引先の担当から外され、別の社員によって引き継がれることになってしまいました。
■ミスの原因もすべて自分に
ようやく新規の顧客を開拓したA子さんは、非常に悔しい思いをしました。
でも、自分がCさんに書面で指示していなかったせいですから、誰を責めることもできません。すべて自分の責任です。そのミスからA子さんのモチベーションはすっかり落ちてしまい、仕事にも身が入らなくなりました。
そんなA子さんを見かねたのでしょうか。A子さんの先輩で同じく営業職の女性から、こんな話を聞かされました。
実はその先輩も、以前にA子さんと同じような目にあったというのです。先輩が営業で取ってきた注文をCさんに発注したところ、何日たっても商品が入らなかった。先輩がCさんに確認すると、彼女は「知らない。聞いていない」の一点張りだったそうです。
先輩は口頭ではなく書面でCさんに発注していたのですが、その書面は紛失していました。ですから発注の証拠はどこにもない。一旦はあきらめかけた先輩でしたが、数カ月後に古いファイルの中から発注書が見つかります。ですがこのときには、ミスの原因はその先輩の伝達ミスだったという結論が下され、すべてが終わったあとでした。
しかし先輩は、Cさんが自分を陥れようとしてわざと紛失したのではないかと疑い始めます。そしてCさんの言動に注意を払っていると、どうやら自分はCさんに嫌われていることに気づいたといいます。
■お土産が1人だけ配られないことも
そのことに気づくきっかけになったのは、ほんの些細なことでした。たとえば、朝挨拶をしても、数回に一回は無視される。ある日、自分が気に入って買った服で出社すると、数日後にCさんもまったく同じ服を着てきたこともありました。
社内の誰かが旅行のお土産を買ってきたとき、事務職のCさんなどが、それを受け取ってみんなに配るという決まりになっていましたが、営業で外に出ていた先輩には配られませんでした。
![お土産](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/d/670/img_0de15f54e8d6ba81060d53c75e8a0c091245241.jpg)
通常は、外に出ている人の分もメモと一緒に机に置いてあるはずなのですが、先輩の分はいつもないのです。営業の男性社員の机には「○○さんからのお土産です」というメモとともに置かれているのですが……。
「これはおかしい」と感じた先輩は、それとなく周囲の人にCさんの評判を聞いてみることにしました。すると、Cさんは本当は営業の仕事がしたくて入社したのに、事務職に配置されてしまい、それからは営業職の女性社員を嫌うようになったのだ、というのです。
■相手に「嫌われてしまった」ときの対処法
Cさんのように、自分の好き嫌いでいじめをするタイプの人の背景に隠れている感情は、嫉妬です。嫉妬に駆られて、自分が手にできなかったものを手にしているA子さんや、その先輩にいじわるをしたのです。
この種のいじめによって、会社の業績が落ちてしまうという話はたびたび聞きます。ですから、本来ならば会社全体で「言った言わない」問題に対処すべきですが、いじめ自体が発覚しにくいため、個人の裁量に任されてしまっているようです。
このように、一見気づきにくいいじめにはどう対処すべきでしょうか。
この手のいじめの多くの被害者が、「何か、おかしいな」とは感じるようなのですが、まさか自分が嫉妬されていて、そのためにいじわるされているとは夢にも思わないようなのです。ですが「おかしいな」と思った時点で、相手を注意深く観察したり、周りの人にそれとなくその人の評判などを聞いてみるなどしてみましょう。そうしないと、思わぬ落とし穴にはまってしまいます。
■「やられたらやり返す」は絶対NG
大切なのは、相手に恨みの感情を持たないことです。相手が自分を嫌っていることがわかったら、「ならば私だって相手のことを嫌ってやる」という感情を持ってしまいがちですが、そうした気持ちはすぐ捨て去った方がよいでしょう。
![見波利幸『平気で他人をいじめる大人たち』(PHP新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/3/200/img_33becc948aa171134e0ca17ccc4176d4365527.jpg)
たとえば先ほどのA子さんは、先輩から聞かされたCさんの人を好き嫌いで判断する話を聞いて、とても嫌な気持ちになりました。
そこで「Cさんは嫌な奴だから、仕事で困ってても助けてあげない」「朝、挨拶されても無視してやる」というように、「目には目を、歯には歯を」という具合に報復してしまうと、A子さんの中のネガティブな感情が、増幅されてしまいます。
好き嫌いで人を判断する人は、相手が自分のことを好きか嫌いかに対しても敏感です。したがって自分に向けられたネガティブな感情を敏感に感じ取り、それに触発されて、もっとひどいいじわるをしてくる可能性は大いに考えられますから、相手の感情に乗せられてはいけません。
また「誰からも嫌われたくない」という考えは現実的には不可能ですから、たとえネガティブな感情を持たれたとしても、大きな問題に発展しないうちに自己防衛をしていくしかありません。
自己防衛の方法を具体的に説明しましょう。
■「いじわるな人」から自分を守る方法
まずは「世の中には、つまらないことでいじわるをする人がいるのだ」ということを知っておきましょう。その上で、自分はそういう人間にならないように、反面教師にします。
相手とは距離を保ちつつ(プライベートな話はしないなど)、相手を立てていきます。
なぜ、相手を立てるのかというと、相手はあなたに嫉妬しているからです。嫉妬の感情は、自分が下手(したて)に出ることで相手の感情をある程度抑える効果があります。
「○○さんのおかげで業務が滞らず、いつも助かっています。ところでこの間発注した件はどうなりましたでしょうか?」「○○さんは、この件に関しては詳しいと思うんですけど、ここのところはこの方法でやってしまって大丈夫でしょうか?」などのように、相手に配慮し、丁寧に確認作業をしながら付き合っていく、というやり方がいいでしょう。
このように相手への配慮を重ねていくうちに、相手のネガティブな感情も少しずつ薄らいでいくことが期待できます。
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日本メンタルヘルス講師認定協会 代表理事
1961年生まれ。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーなどを経て、98年に野村総合研究所に入社。主席研究員としてメンタルヘルスの研究調査、研修開発に携わり、日本のメンタルヘルス研修の草分けとして活躍。2015年より日本メンタルヘルス講師認定協会の代表理事に就任。20年かけて開発した2日間の「ヒューマンスキルを強化するマネジメント研修」は大企業を中心に絶大な支持を得ている。著書に『心が折れる職場』『上司が壊す職場』(以上、日経プレミアシリーズ)など多数。
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(日本メンタルヘルス講師認定協会 代表理事 見波 利幸)
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