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超一流のビジネスパーソンが「痩せるためのジョギング」をしないワケ

プレジデントオンライン / 2021年10月27日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rowan Jordan

仕事と人生を充実させるためには、どうすればいいのか。『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などの人気作を生み出した編集者の佐渡島庸平さんと、予防医学者の石川善樹さんは「する」と「いる」の違いに注目しているという。2人の対談をお届けしよう――。

■他人に「見てもらうこと」と「評価してもらうこと」は違う

【石川善樹(以下、石川)】『観察力の鍛え方』を読んで、最初に浮かんできた問いは、「僕たちは自分のことをよく見ているようで、実は全く見ていなかったのではないか」ということです。

佐渡島庸平『観察力の鍛え方』(SBクリエイティブ)
佐渡島庸平『観察力の鍛え方』(SBクリエイティブ)

自分のことを他人の方がよく知っているってことがあるように、「自分を見る」には「他人に見てもらう」ということも含まれているのでは、と思ったんです。

【佐渡島庸平(以下、佐渡島)】そう。他人に見てもらうことで気づくこともある。ただ、ここで気をつけなければならないのは「他人に見てもらう」ことと、「他人に評価してもらう」ことは全く違う話だ、ということです。

他人が「こう見えているよ」と言っている時は、見えていることをそのまま言っているだけかもしれない。でも、他人の「こう見えているよ」という言葉を、「そんな表現をするってことは、こう評価しているはずだ」と受け手側が勝手に判断して傷ついてしまう場合だってあります。

他人が、悪意を持ってひどいことを言ってきたらつらいと感じるのはわかるけれど、ひどいことを言っていなくても、その言葉を「勝手に解釈して」つらくなっているケースというのはすごく多い。

【石川】会社の打ち合わせでも起きうることですね。

■馬が教えてくれた「すべては心持ち次第」

【佐渡島】例えば、会社の1on1の時間を「耐えないといけない時間」と思っている人もいます。

佐渡島庸平
佐渡島庸平さん(画像=本人提供)

僕は、今日の対談を「善樹が僕の本について感想をくれる時間」と捉えているから、この時間がとても楽しい。でも、「善樹は僕の本をどう評価するんだろう」と緊張感満載で臨んでいたら、この時間が怖いものになってしまう。

1on1にしろ、打ち合わせにしろ、他人の意見をどう受け取るかは、こちらの心持ちによるのだと思います。

すべてはこの心持ち次第だ、という発見は、「ホースコーチング」という、馬を相手にリーダーシップやチームビルドを学ぶ研修に参加してきた時にもありました。前回、善樹とも参加した時に、僕たちは馬に乗ることはおろか、馬を柵の中に連れていくことさえできなかったよね。

【石川】エサをあげてみたり、鞭を使ってみたりしたけど全然動いてくれなかった。

【佐渡島】そうそう。でも今回は、馬に乗って歩けたし、柵に戻すこともすごく簡単にできた。では、去年と何が違ったのか。それは、馬に接するときに、僕の恐怖心を消したことでした。去年は「あの馬の性格がこうだからこんなふうに接したらいいんだ」と話していたけれど、実は馬の性格なんて関係なかったんです。

僕が「全く怖がっていないよ」と馬に伝わるように接していたら、馬もそれに応えるように一緒に歩いてくれたし、背中にも乗せてくれた。ただ、恐怖心を持たずに接するというのはとても難しいことだとも実感しました。

■「誰といてもリラックスする」ことの重要さ

【石川】1on1のときに自分がどんな感情を持って相手と接しているかということにも通じますね。「評価されてしまう」という不安や恐怖を持って臨んでいる人も多いと思うので。

【佐渡島】評価を受ける側だけでなく、評価する側も「このフィードバックで相手が怒りだすのではないか」と恐怖しながら話していると、相手がおびえてしまうこともある。だから、「誰といてもリラックスする」ことを徹底することが重要です。

馬との研修でも、自分の超リラックス状態がどうやったら作れるんだろうという問いに収斂(しゅうれん)していました。馬をどう観察するかではなく、どうやったら自分が超リラックスするか、観察していたんです。1on1の場においてのリラックス状態というのは、「このフィードバックを受けてどう変化するかを決めずにおく」といったことです。

石川善樹氏
石川善樹さん(画像=本人提供)

【石川】リラックス状態でいるためには、準備しないということがポイントになるかもしれませんね。プレゼンもインタビューも、準備すればするほど緊張してくるものなので。

【佐渡島】でも、善樹も会社のコンサルをする時は、その会社の社史を調べたり、なんらかの準備をしない?

【石川】ええ。でもホームページを見て、その会社のビジョンやミッションを見るくらい。それ以上は特にしないんですよ。何か一緒にやるときに、「みんなで集まればなんとかなる」と思うようになってからは準備をしなくなりました。

■妄想をやめて、相手の話を聴くことに集中する

【佐渡島】それは自分に対しても相手に対しても圧倒的な信頼がある。

【石川】そうかもしれない。一緒に始めれば絶対なにかできるっていう自信があるのだと思います。

【佐渡島】僕はよく「自分なりの仮説を持って話を聴いてみて」と言っているけれど、準備と仮説の差ってなんだろう。

【石川】ネットで拾える情報や知識など枝葉の部分を集めるのが「準備」で、「仮説」はもっと幹の部分について考えることだと思いますね。

【佐渡島】枝葉を集めながら、一生懸命、準備したと思っていることが多いのかもしれない。そして、「時間を費やしてきたのに反論されたらどうしよう」という、恐怖心を持ってプレゼンに臨んでいるのかもしれない。

相手の本質を知らずにする準備は、北海道に行くのか、沖縄に行くのかわからずにする荷造りのようなもの。それに、準備をしているときは「相手にとってこれがいいはず」という妄想が起きている場合もあります。そして、その妄想と相手の反応がズレたときにも、人は傷つく。まずは妄想をやめて、とにかくしっかりと状況を見る、相手の話を聴くことに集中するに尽きる気がします。

■「haveの人」になるか「beの人」になるか

【石川】『観察力の鍛え方』では、観察は「する」でも「される」でもなく「いる状態を見ること」だと書かれていますね。

僕が「する」と「いる」について明確に教えてもらったのは、心理学者のエーリッヒ・フロムが書いた名著『To Have or To Be?(邦題:生きるということ)』でした。その中では、To Have「持つこと」(=する)、To Be「あること」(=いる)と書かれている。

例えば、haveの人が初対面の人と会うときは、事前にその人にまつわる情報をたくさん調べていきます。一方、beの人は、準備せずに会いに行く。それは、出会ってしまえば、何かを共につくりあげることができるという自信がある人たちだからです。

自分が「haveの人」でいるかぎり、「過去」のものしか提供できなくなってしまうと気づいてから、事前準備をしないようになりましたね。

ビジネスマンの握手
写真=iStock.com/Pinkypills
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pinkypills

【佐渡島】なるほど。もう出来上がっているものでなければ、haveすることができないもんね。

【石川】「いる」ということは、一緒にこれからのことに目を向けてみようよ、ということなのかもしれません。

■「ジョギングに目的がなくなった」

【佐渡島】僕ももともとはhaveのタイプだったのが、善樹とたくさん話をするうちに、beの人になってきているなと思います。

例えば、かつてジョギングをしていた時は、決めたらとにかくやり続ける性格もあって、疲労骨折をするまで休まない。それでケガをして、3カ月ほど休んでいたらすっかり走らなくなってしまうといったことを繰り返していました。

【石川】それもすごい(笑)。

【佐渡島】そう。僕がケガをするまで休めなかったのは、ジョギングをしていることや、身体がシャープになった自分を人に見せることを目的にしていたから。でも今は、ジョギングに目的がなくなった。街を味わうための「道具」としてジョギングを使っている感覚なんです。

だから、ジョギングに出ても、その日の身体の状態を確認しながら、歩いたり休んだりすることもあります。

先日、札幌でジョギングをした時は、街が碁盤(ごばん)の目になっているため、信号ですぐに止まってしまい思うように走れなかった。以前だったら、走れないことに腹を立てていたはずなのが、今では、走っては信号に止まる自分を面白がっていましたね。

■現代は「する」に価値を置く社会になりすぎている

【石川】なるほど。それは、まさに「するための食事・運動」と「いるための食事・運動」の違いかもしれません。

僕たちは、「するための運動・食事」には「因果」を求めます。「健康になるため」や「痩せるため」といった目的があって、その目的に最適なものが欲しいと考える。すると、損をしたくないという発想になりやすい。

一方で、「いるための運動・食事」は「因縁」に近くて、その考え方だとご縁ベースで目的も結果もどんどん変わっていくんです。佐渡島くんにとってジョギングは「いるための運動」だったので、スムーズに走れないことに目を向けず、「碁盤の目を楽しむ」という新しいご縁に意識をむけられたのではないでしょうか。

【佐渡島】そうなんですよね。僕は、札幌の碁盤の目と京都の碁盤の目の差はなんだろうと考えて楽しんでました。

札幌テレビ塔からの大通公園
写真=iStock.com/ikuyan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ikuyan

「いる」であろうとすることが、「する」を全て否定するわけではない。でも、現代は「する」に価値をおく社会になりすぎていると感じます。「目標をしっかり持とう」「wantを持とう」と聞くたびに僕は、夢やwantを持つ行為そのものが人間にとって不自然な状態なのではないか、と思ってしまう。

■「短期的な最適解」と「中長期的な最適解」は異なる

【佐渡島】その行為の反対にあるのが、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というリクルートの旧・社訓です。この言葉を「機会は自分が作るが、その機会を使って何を成し遂げるかはわからない」と解釈すると、とても奥深い。すごく中動態(※能動態でも受動態でもない概念。「fall in love」のような、インド・ヨーロッパ語族の態のひとつ)的で素敵だなと感じます。

もっと中動態的な状態を観察する力を、社会全体が手に入れることが、Well-Beingにつながっていくんじゃないかと思うんです。

【石川】短期的な最適解は、理屈にあった「因果」のほうが捉えやすいものです。だから、分かりやすく「する」を明確にした目標を持つことを推奨するのでしょう。

しかし、中長期の最適解は短期的な最適解とは異なります。僕自身は、中長期的な最適解を導くには、理屈では捉えられない「因縁」で考えるしかないと思っています。

【佐渡島】なるほど。因果と因縁について考える際、僕はギリシャ神話を連想します。ギリシャ神話の神々は決して道徳的ではなく、欲望のままに「いる」ことが表現されている。それが、中動態的なものが認められていたということなのではないかと思います。

■古事記に登場する「何もしない神様」のメッセージ

【石川】古事記では「ツクヨミ」という何もしない神様が登場しますね。それは中動態の状態で「いる」ことの価値を暗黙に伝えていたのではないでしょうか。

世界の神話には、いいことをするから良し、悪いことをするから駄目といった話が多い中で、古事記の特徴は何もしない神様が、ただいることなんです。

【佐渡島】面白い。もともと日本文化は、中動態的なあり方が尊重されていた文化だったのかもしれない。

【石川】日本の昔話は「昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました」から始まる物語が多いですよね。ただおじいさんとおばあさんがいて、そこに桃が流れてきたり、光る竹が現れたりして物語が進んでいく。西洋では、はじめから主人公が主体的に行動を起こして幸せを見つけていくといった物語が多いという違いもありますね。

日本は、「ただいること」の価値を潜在的に信じていた民族なのではないかと思います。

竹林
写真=iStock.com/35007
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/35007

【佐渡島】現代では、評価制度をしっかり作ろうとして、どんどん「する」ことにフォーカスするようになっていった。この資本主義交換のあり方が「すること主義」になっているので、そこからどう抜け出すかが重要だと思う。

■まずは「何かをしない」から始めてみればいい

【石川】こうした話を聴くと、「じゃあ具体的に何をしたらいいの?」とスッキリ感を求めてしまいがちですが、そんなときは、まず観察してみることです。

最近、well-beingとは「自分を忘れた状態である」と定義しているのですが、「私は何をするべきか」といった因果思考では、well-doingの状態になっています。

自分というめんどうくさい存在を考え出すとdoの発想になってしまうので、自分の「する」を考えず、まず「いる」だけでいい。一緒にいること、何かをしないということから始めてみる。自分のことを考えず、ただいるだけを観察してみたらいいんですよ。

ただ、観察をしていても何になるのかわからないし、うまくいくかもわからない。因果(well-doing)の網を抜け出して因縁(Well-Being)の世界にいくというのは、実はとても退屈なことなのかもしれない。

【佐渡島】まさにそうだと思う。スケジュールがしっかり決まっていて、予定を一緒にこなす旅をしたいのか。それとも、何も決めずに行ってみて、ただ一緒にいる旅をしたいのか。それを選べばいいのだと思います。

一緒にいるだけの旅を選んでみたら、思っていたより仲良くなれた、なんてことも起こるかもしれません。

【石川】観察という視点で物事を捉えるとすごく面白い。世間には「生き方が正しくなる」ような情報ばかりですが、生き方が面白くなる考え方だなと思いました。

学生時代の友人のように、ただ一緒に過ごす時間と似ていますね。ただいるだけの時間は、退屈もしていたけれどそれを楽しめていたように思います。ジョギングをしていて信号で止まりすぎるとつまらない時間になるけど、街を観察するという生き方としては楽しい、ということと同じです。

【佐渡島】「観察力を鍛える」というのは、正しさを追い求めずに、楽しくなるための考え方なのかもしれないな。

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佐渡島 庸平(さどしま・ようへい)
コルク社長、編集者
1979年生まれ。中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、灘高校に進学。2002年に東京大学文学部を卒業後、講談社に入社し、「モーニング」編集部で井上雄彦『バガボンド』、 安野モヨコ『さくらん』のサブ担当を務める。03年に三田紀房『ドラゴン桜』を立ち上げ。 小山宙哉『宇宙兄弟』もTVアニメ、映画実写化を実現する。伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など小説も担当。12年10月、講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社・コルクを創業。『宇宙兄弟』『インベスターZ』『テンプリズム』『修羅の都』『オチビサン』『マチネの終わりに』『本心』などを担当。インターネット時代のエンターテインメントのあり方を模索し続けている。コルクスタジオで、新人マンガ家たちと縦スクロールで、全世界で読まれるマンガの制作に挑戦中。

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石川 善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者・医学博士
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。Wellbeing for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。近著は、『フルライフ』(NewsPicks Publishing)、『考え続ける力』(ちくま新書)など。 HP:https://yoshikiishikawa.com/

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(コルク社長、編集者 佐渡島 庸平、予防医学研究者・医学博士 石川 善樹)

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