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ビジネスセンスのない人ほど「働きがい」「利益が出る」という言葉を使う根本原因

プレジデントオンライン / 2021年10月25日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Atstock Productions

あなたはビジネスの現場で使っている言葉を端的に説明できるだろうか。経営コラムニストの横山信弘さんは「ビジネスセンスのある人は『製品が売れる』『利益が出る』という言葉は絶対に使わない。その理由はビジネスの本質を考察すればわかるはずだ」という――。

※本稿は、横山信弘『絶対達成する人は「言葉の戦闘力」にこだわる』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■「働きがい」の意味を説明できない経営幹部

「働きがい」という用語は、「モチベーションという用語よりも、得体が知れない」と、以前から思っている。とはいえ、昨今多くの企業で使われるようになった。

横山信弘『絶対達成する人は「言葉の戦闘力」にこだわる』(PHP研究所)
横山信弘『絶対達成する人は「言葉の戦闘力」にこだわる』(PHP研究所)

どちらかというと「モチベーション」よりも新しく、そして意味合いを理解されていない用語であるにもかかわらず、である。

「モチベーション」という用語の意味を、何となく言語化できる人はいても、「働きがい」を言葉としてうまく表現し、小学生でもわかるように説明できる人は、そう多くはいないだろう。

以前、あまりに「働きがい」を口にする経営幹部がいた。そこで、用語の意味をどう捉えているのか、やんわりと質問してみた。すると、「働きがいと言ったら、働きがいだ。それ以上、どう説明しろというのだ」と開き直られてしまった。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである。もしも私が、「目標を絶対達成するにはどうしたらいいかって? そりゃあ絶対達成させることですよ。それ以上、どう説明したらいいんですか」と言ったら、相手はどんな気持ちになるだろうか。

クライアント企業の社長であれば、すぐさま「もう来なくていい」と言うに違いない。

少なくとも「働きがい」も「絶対達成」も、居酒屋でビールを飲みながら交わす会話の中にだけ登場する用語ではない。経営幹部が責任のある場で発する用語だ。その用語の定義を正確に捉えられていない、というのは問題ではないか。

そこで本稿では「働きがい」という、とても風変わりな用語について考えてみる。現場で頻繁に使われている用語であるが、本来はこういう意味合いで使うべきではないかという提起もしたいと思う。

■「甲斐」とは、働く目的にならない

毎年(Great Place to Work ® Institute Japan)が「働きがいのある会社ランキング」を発表している。そこでランキングに入る会社は当然に学生に人気がある。このように「働きがいのある会社」というのが、いい会社のように思われているが、実際のところはどうだろうか。

昨今「心理的安全性」という用語もやたらと使われるようになった。しかし「働きがい」と違って、この用語の意味はわかりやすい。漢字に着目すれば、誰でも意味を推測できる。私は「心理的安全性の高い会社に入社したい」という人の気持ちはわかる。人間関係がギスギスした会社で長い期間働くのは、誰だって嫌だ。

一方「働きがい」という用語には「働く」という言葉が含まれているので「心理的安全性」とはかなり意味が違う。

この用語は「働く」と「かい(甲斐)」の2語で構成されている。「甲斐」というのは当然、「やった甲斐があった」という風に使われる表現であり、過去を振り返って覚える感情のことである。とりわけ、勇気をもって、努力して、覚悟をもってやった後に覚える感情だ。

たとえば、営業成績の上がらない部下がいたとしよう。しかし、その部下は最近、家庭の事情で仕事に身が入らないほど疲れていた。そこで、上司が見るに見かねて、こう声をかけた。

「ずっと落ち込んでいても、しょうがないだろ。別れた奥さんは戻ってこない。気持ちを切り替えて、仕事に打ち込んだらどうだ。俺は君に期待している。君ならやれるよ」

このように話したところ、

「そうですね。私が借金を隠していたことが問題だったわけですから、自業自得。落ち込んでいても、しょうがないですよね。わかりました、課長。そのように言ってくださって、ありがとうございます。頑張ります」

部下がそのように心を開いてくれたら、このとき、この上司は、「言った甲斐があった」という感情を覚えることだろう。

つまり「働きがい」とか「やりがい」というのは、「働いた甲斐があった」「やった甲斐があった」という感情のことである。当然、勇気を出して、覚悟を決めてなんらかの行動をした後に覚える感情だ。したがって、働く前から「働きがい」という感情をもつかどうかを推し量ることは難しい。

もっとわかりやすい例を挙げよう。たとえば税理士や会計士、社会保険労務士などの資格をとるために、専門学校に通おうと考えたとする。その際、「勉強しがい」のある学校を選ぶだろうか?

それよりも、その学校へ通うことで資格試験に合格するかどうかというポイントのほうが大事だ。それこそが学校選びの本質だ。

「甲斐」とは努力した結果の証しではあるが、本質ではない。

「働きがい」は「働く」の本質ではないし、「やりがい」は「やる」の本質ではない。「働きがい」も「やりがい」も結果論である。それを求めて働くわけでもないし、やるわけでもない。

つまり「働きがい」とは、働く目的とはならない要素である。そのことを忘れないでほしい。

■最低限のビジネスセンスはすべての人に必要

それでは「働く」の本質とは何なのか?

国民の三大義務から考えてみる。日本国憲法には「教育の義務」「勤労の義務」「納税の義務」という3つの義務が定められていて、私たち日本国民はそれを守らなければならない。

働くために勉強し、働いて税金を納める。それを課せられているわけだが、では働く本質とは税金を納めることなのか?

いや、そうではない。私たちは納税マシンではないのだから、税金を納めることが働く本質ではない。ただ言えることは、収益を上げない限り納税はできない、ということだ。本質ではないにしても、働いているだけでは義務を果たすことはできないのだ。

それでは「働く」という言葉よりも「ビジネス」という用語について触れてみたい。私は経営コンサルタントとして、すべての働く人に伝えたいことがある。それはVUCAの時代には、最低限のビジネスセンスをもつべきだということだ。雇用される側の立場であったとしても、である。

ビジネスセンスとは、もちろん「ビジネス」の「センス」である。デザインセンスがある人は、デザインが何かをわかっているし、歌のセンスがある人は、歌が何かをわかっている。したがってビジネスセンスがある人は、ビジネスとは何か、ビジネスの本質とは何かを正確に理解している。

安宅和人著『イシューからはじめよ』(英治出版)に書かれているように、質の高い仕事をするためには本質(イシュー)を見抜くところから始めなければならない。そうしなければ、大きく遠回りするか、いつまでたっても成果を手に入れられない。

それではビジネスの本質とは何であろうか。ビジネスモデルという用語から探ってみる。ビジネスモデルとは「収益を生むストーリー」もしくは「収益を生み出す設計図」のことだ。

前述した通り、納税は義務であるから収益を生まなければならない。そしてボランティア活動をしているわけではないのだから、働く人に物心両面の豊かさを味わえるぐらいの経済的報酬をもたらすことが求められる。

だからビジネスをやる以上は収益を出し、税金を納めても手元に残る十分なお金をつくることが必要だ。

■まずは黒字化して正しく納税すること

稀に有名経営者の講演を聴講すると、「お金を追求してはならない」という言葉を耳にする。

もちろん必要以上にお金を追求してはならないし、誰かの犠牲の上に成り立つ経済的成功は醜い。しかし、ボランティアではなくビジネスをやっているのであれば、「最低限生きていけるだけのお金を稼ぐだけでいい」という話にはならない。

もっと豊かになりたいという願望があるからこそ企業は成長するし、経済は発展するのだ。だからビジネスの本質は「お金儲け」なのである。食事の本質が「必要な栄養をとること」と似ていて、とても味気ないが、事実そうなのである。

本質とは、そのものとして欠くことができない、最も大事な要素のことだ。

だから必要な栄養がとれ、そして美味しい食事ならいいが、ただ美味しいだけの食事は、本質から外れているといえる。

同じように「働きがい」は感じられるが、赤字で、従業員の物心両面を満足させる報酬を支払うことができないような会社は「いい会社」とはいえない。

拙著『最強の経営を実現する「予材管理」のすべて』(日本実業出版社)でも解説した。実に70%近い日本企業が赤字企業である(2016~2017年、帝国データバンク調べ)。この割合は20年以上変化していない。

そのため、世の中の7割ぐらいの会社は、まず「働きがい」以前に、ビジネスの本質である「お金儲け」を考えるべきだ。黒字化して正しく納税することである。

赤字企業が減らないと税収が増えないため、日本政府は何らかの形で増税せざるを得なくなるのだから。

■「ビジネスの本質はお金儲けである」という大前提

ビジネスの本質は「社会貢献だ」と言う人がいた。「お金儲けが本質だなんて考えが古すぎる」と主張する。その人は、ある会社の総務に勤めていた。入社5年目の、若手のホープだった。私とディスカッションしたが最後まで話が噛み合わず、結局はお互いの主張を受け入れることがなかった。

金持ち、億万長者
写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat

その彼は30歳を目前にしてその会社を辞めた。父親の会社を継ぐためだったと後で知った。自動車関連の小さな商社を承継したのだが、経営を引き継いですぐに父親が粉飾決算をしていたことを知った。

事業を発展させ、社会に貢献できる会社にしたいとの意欲があった彼だったが、その夢はすぐさま破れた。金融機関との関係を悪化させたために、資金調達に奔走することになってしまったからだ。

私と再会した際、その彼は、「ビジネスはお金儲けが本質です。本当に、本当に、腹に落ちました」と言っていた。心の底から湧き上がる感情を押さえられないように、「まさに、本質です」と言った。

「雇われていた頃は、ビジネスとは何かを正しく理解できていませんでした。立場が変わってようやく気付いたんです」

その通りだと私は思った。本質とは流行に左右されないものだ。食事の本質が「必要な栄養をとる」ことであるのと同様に。しかし、このあたりまえのことを忘れてしまうものだ。

■ビジネスセンスがある人の言葉・ない人の言葉

ここでもう一度ビジネスセンスについて触れておこう。ビジネスセンスがある人は必ず「お金儲け」について理解している。十分に収益を生まないような赤字経営は、絶対に避けたいと願う。

そしてセンスがある人は、日本語を正しく使う。

「いいものを作れば必ず売れる」とか、「利益は必ず後からついてくる」といった、きれいごとを言わない。

これらの言い方は「収益を生み出すストーリー」として日本語がおかしいからだ。お金を生み出すのは誰なのか?

当然「私」である。もしくは「私たち」である。だから主語は必ず「私」あるいは「私たち」でなければならない。少なくとも人間であるはずだ。

「製品が売れる」「利益が出る」といった主体性に欠ける表現はしない。“言葉の戦闘力”で考えた場合でも弱々しく感じる。「私たちは、この製品でお客様のお困り事を解決し、正当な対価をいただく」といった表現が適切だろう。

このように自分自身でその「ストーリー」をつくれるか。「設計図」を描けるか。ここが問われているのだ。だからビジネスセンスがある人は、主体的なお金儲けのことがわかっている。

そしてお金がもつインパクトの大きさもわかっている。「お金がなさすぎる」リスク、「お金がありすぎる」危険性も熟知している。

だからこそ、お金をどのように主体的に生み出せるのか――そのことが正しくわかってもいないのに、「お金のことを考えるのは汚い」と受け取る人は、お金について軽視しているし、ビジネスの本質を理解していない。つまりビジネスセンスがないのだ。

■「働きがい」とは、働く本質を理解した後に感じるもの

ビジネスについての私の考えを述べた。ビジネスの本質は「お金儲け」である。

そして「働く」人は、必ずビジネスを意識してもらいたいと思っている。日々の作業をこなすことが「働く」ことではないのだ。毎日出勤し、普通に働いているだけで、自動的に給与が振り込まれると受け止めている会社員はお金に無頓着かもしれない。

しかし会社を辞め、収入源を失ったとき、1万円を稼ぐのにどれほど大変か、身に染みることだろう。1万円どころか、1000円を稼ぐのも簡単ではない。

すでに家にあるものをヤフオクやメルカリで売れば小銭は稼げるだろう。しかし、そのリソース(資源)が尽きたらどうなるか。

何か売れそうなもの(有形でも無形でも)を仕入れ、付加価値をつけて販売しようとするだろうか。とはいえ、それをどのように売るのか。誰がいくらで買ってくれるのか。そのストーリーは描けるだろうか。

どんなにクオリティの高いものを製作しようが、市場に何も働き掛けないと売れない。意識しないままに儲かることはないのだ。だから自分自身で主体的に売るのである。

実際にやったことがない人にはどのように説明しても理解できないだろう。自分自身でお金儲けをしてはじめて、その難しさを知り、お客様にも仕入れ先にも感謝できるし、手に入ったお金を大事にしようと思うのだ。ビジネスの原点はここにある。

借金に苦しむ経営者を、当社の税理士やコンサルタントはいつも目にしている。資金調達に走り回る経営者を支え、銀行やファンド会社に帯同し、一緒に頭を下げて回る同僚たち。そんな彼ら彼女らを、私は知っている。

そんな姿を目にすると、お金の大切さが身にしみるのだ。

確かに、営業や販売職に就いていない限り、「お金儲け」を意識することは難しいかもしれない。しかし、ビジネスの本質が「お金儲け」であると理解したとき、自分自身の仕事がどのように貢献しているのか。

日々の努力と、その意義を理解したときにはじめて「働きがい」を覚えられるのではないだろうか。

少なくとも何かをした「甲斐」というのは、努力や葛藤の体験があってはじめて抱く感情であるわけだから、働く前から「働きがい」を覚えることはないのである。

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横山 信弘(よこやま・のぶひろ)
アタックス・セールス・アソシエイツ 代表取締役社長
企業の現場に入り、目標を絶対達成させるコンサルタント。支援先は、NTTドコモ、ソフトバンク、サントリー等の大企業から中小企業にいたるまで幅広い。ベストセラー「絶対達成シリーズ」の著者であり、メルマガ「草創花伝」は3.8万人の経営者、管理者が購読する。コラムニストとしても人気で、日経ビジネスオンライン、Yahoo!ニュースのコラムは年間2000万以上のPVを記録する。著書に『絶対達成マインドのつくり方』『「空気」で人を動かす』など。

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(アタックス・セールス・アソシエイツ 代表取締役社長 横山 信弘)

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