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「このままではジリ貧になる」町工場2代目が楽天、アマゾンで売り出した起死回生の"ある商品"

プレジデントオンライン / 2021年10月23日 11時15分

川口徹カワグチマック工業社長。段ボール製整理棚の前で - 筆者撮影

兵庫県尼崎市の段ボール製造会社、カワグチマック工業(川口徹社長)がオフィスや店舗向けの独自商品を次々と生み出している。そのきっかけは、スウェーデン製のエコで頑丈な段ボールとの出会いだった。ジャーナリストの安井孝之さんが取材した――。

■「価格は10分の1」段ボール製のリモートオフィス

コロナ禍で一気に増えたリモート会議。オフィスや自宅で取引先との商談をリモート会議でしようとすると、周囲に声が漏れない会議室や小さなワークブースが必要だ。オフィス内にワークブースを設置する会社も増えているが、大手事務機器メーカーのスチール製のワークブースは50万~100万円と高く、設置費用もかかるという。

カワグチマック工業が昨年12月から楽天とアマゾンで発売し、今夏から大手ディスカウントストアの一部の店舗でも売り始めた段ボール製のワークブースは7万~10万円。大手メーカーの同じような商品の10分の1程度の価格だ。吸音効果がある段ボールでつくっているから音漏れも少なく、手軽なワークブースとして注目されているのだ。

段ボール製のワークブースボックス
筆者撮影
段ボール製のワークブースボックス - 筆者撮影

この段ボール製のワークブースは、13日から15日に東京ビックサイトで開かれた「東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2021第10回LIFE×DESIGN」で「LIFE×DESIGNアワードベストリノベーション賞」を受賞した。

■コロナ禍で段ボール需要は増えたが…

カワグチマック工業は1969年に創業した従業員100人余りの段ボール箱の製造、販売会社。機械メーカーや食品メーカーなどから受注し、それぞれの商品に合わせてオーダーメイドで段ボール箱をつくってきた。同社の強みは発注者の細かい要望に1ミリ単位で対応できるきめ細かなサービスである。

コロナ禍で物流量は増えており、段ボール箱の製造、販売は微増となっている。だが商品の梱包材は常に安さを求められる商材だ。付加価値の高い新商品を創り出さなければ事業はじり貧になっていく。

また発注先の判断次第で取引が途絶えることもある。実際、ある大手メーカーから受託していた段ボールの製造から商品の梱包までの一貫作業が、突然打ち切られたこともあった。そのため他社に負けない独自商品の開発が必要だった。

■スウェーデン生まれの強化段ボールとの出会い

2010年に創業者の父を継いで2代目社長になった川口徹社長が考えたのは段ボールを使った店舗向けの什器やディスプレイ類の製造、販売だった。欧州では丈夫な強化段ボールが店舗の棚やカウンターなどに使われていることを知っていた。川口社長は同社が培った段ボールの加工技術を生かせば新しい事業に育てられると期待したのだ。

カワグチマック工業が採用した強化段ボールはスウェーデンの「リボードテクノロジー」が製造、販売する「Re-board(リボード)」だ。原材料の85%以上は間伐材が使われるエコ商品でもある。強度は木材とほぼ同じで、重さは同じ厚さの木の5分の1程度と軽い。

オンライン会議用のワークブースに興味を持つ来場者たち
写真提供=カワグチマック工業
オンライン会議用のワークブースに興味を持つ来場者たち(中央) - 写真提供=カワグチマック工業

そもそも段ボールはリサイクルでき、環境にも優しい素材として注目されている。この夏に開催された東京オリンピック・パラリンピックの選手村では段ボールベッドが使われた。組み立てが簡単で使用後に廃棄する際もリサイクルできる利点があるからだ。

■試行錯誤の日々に訪れた転機

2010年以降、什器やディスプレイの担当者を採用し、リボードを使ったBtoBの新規事業に乗り出した。

リボードは曲線に曲げたり、直角に折ったりできるよう工夫がされている。リボードの商品化を目指したのは国内ではカワグチマック工業が初めてだったので、欧州で実際に使われているディスプレイの写真を見て、見よう見まねで加工しようとしたが難しかった。

曲線に曲げたり、直角に折り曲げたりできる「リボード」
筆者撮影
曲線に曲げたり、直角に折り曲げたりできる「リボード」 - 筆者撮影

「最初はどのように作ればいいのかさっぱり分からなかった。試行錯誤をしながらようやくノウハウを蓄積した」と川口社長は振り返る。

転機になったのが中小企業基盤整備機構の販路開拓支援事業にカワグチマック工業のリボード事業が選ばれたことだった。そこで大手百貨店の高島屋と接点ができ、2015年に高島屋で開かれた着物や焼き物などの名匠展の仕事を獲得した。すべての展示ディスプレイをリボードでつくり上げた。

展示費用は従来の約1000万円から約400万円に大きく下がった。これまでの展示ディスプレイはベニヤ板などでつくられ、イベントが終われば産業廃棄物となり処理費用などがかさんでいた。段ボールのリボードはリサイクルできるので処理費用は安い。段ボールの加工や印刷もベニヤ板に比べて自由度が高く、安くつく。

高島屋でのイベントでの使用が話題を呼び、引き合いが増えていった。大型のインクジェットプリンターやコンピューター制御で加工できるカッターを2億円かけて増強し、ディスプレイ事業を本格化させていく。食品販売店の陳列棚やパチンコ店の店内ディスプレイ、大手電機メーカーの展示用ディスプレイなどに用途が広がった。

商談用テーブルや飛沫感染防止用の仕切り板も段ボール製
写真提供=カワグチマック工業
商談用テーブルや飛沫感染防止用の仕切り板も段ボール製 - 写真提供=カワグチマック工業

新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前には会社の売上高の2割に相当する2億円をディスプレイ事業ではじき出した。

■コロナ禍で続々と生み出した新商品

コロナ禍でイベントが減り、ディスプレイ事業は苦しいが、新たな商品を生み出しつつある。冒頭で紹介したリボードでつくったリモート会議用のワークブースや机の上に置いて飛沫感染を防ぐ仕切り板、玄関に置く消毒液スタンドなどを次々に発売した。

幼児向けの段ボール製デスク
幼児向けの段ボール製デスク(写真=カワグチマックwebサイトより)

事務機器メーカーがスチールやアルミ、木材などでつくった同じような商品に比べ、いずれも安い。不要になれば元に戻せばコンパクトに保管できる。廃棄しようとすればリサイクルできるのでコストはほとんどかからない。コロナ関連の商品だけではなく、カタログスタンドや展示棚、商談テーブル、椅子など品ぞろえは豊富だ。

今後、力を入れていくのがBtoC商品だ。猫用の「キャットタワー」などのペット商品や幼児向けのテーブルや椅子などが開発された。こうした商品は2、3年も使えば不要になってしまう。プラスチックや木製ならば粗大ごみになるが、段ボールだと崩せば処分しやすいという利点もある。

川口社長は「段ボールの可能性を多くの人はまだ知りません。見学にいらっしゃる会社の方には工場も見ていただいて包み隠さず、ノウハウを教えています」と言う。この市場に他社も参入してくることで段ボールの可能性が認知され、市場が広がっていくことに期待をかけているのだ。

カワグチマック工業の展示はすべて段ボールでつくられている
写真提供=カワグチマック工業
カワグチマック工業の展示はすべて段ボールでつくられている - 写真提供=カワグチマック工業

■町工場、脱炭素に向かって全力疾走

現在、コロナ禍で低迷しているイベントなどのディスプレイ事業も新型コロナが終息すれば再びイベントは増えていくだろう。その時、出展メーカーは従来通り、大量の産業廃棄物を生み出すディスプレイを使い続けるのだろうか。SDGsを掲げる企業にしてみれば、ディスプレイの見直しを進めざるを得ないだろう。

川口社長は「モーターショーなどの大型イベントで段ボールが使われるようになればいいですねえ」と期待を込める。現在、売上高の2割ほどのディスプレイ事業をさらに増やし、既存の段ボール事業を上回ることを目指していくという。

カワグチマックは本業の段ボール事業を変革することで、取引先のコストダウンと廃棄物の削減を実現し、結果的に社会全体としての低炭素の実現に貢献している。従業員100人余りの中小企業であるカワグチマック工業だが、カーボンニュートラル(CO2排出量の実質ゼロ)に向けて全力で走っている。

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安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立。東洋大学非常勤講師。著書に『2035年「ガソリン車」消滅』(青春出版社)、『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

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(Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト 安井 孝之)

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