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「財閥系に落ちたら日本に行くしかない」高齢者が稼ぎ、若者は失業する韓国のいびつな構造

プレジデントオンライン / 2021年10月25日 15時15分

2021年10月12日、ソウルで開催された「アフガニスタンに関する仮想G20臨時首脳会議」で発言する文在寅大統領 - 写真=AFP/時事通信フォト/韓国大統領府

■労働市場は改善しても若者の失業率が目立つ

足許、韓国の経済指標を見ると、とりあえず労働市場は改善基調だ。2020年9月に4.0%だった完全失業率(季節調整値)は、2021年9月には3.0%にまで低下した。業種別に見ると、コロナウイルスの感染再拡大で飲食などのサービス業の雇用環境は依然厳しいものの、建設、公共サービス関連の分野で雇用は増えている。

しかし、雇用の中身を見ると、必ずしも楽観はできない。というのは、世代別の失業率に見逃せない跛行(はこう)性があるからだ。特に、季節調整前の世代別の雇用関連データを見ると、15~29歳の若年層の失業率は5.4%と、他の世代に比べてかなり高い。つまり、若年層の雇用状況が悪いのである。

■韓国の状況は日本も他人事ではない

その一因として、すでに労働市場に参入した世代へのベネフィットを重視した文在寅(ムンジェイン)大統領の経済政策による負の影響は大きいとみられる。既存の労働者は手厚く保護する一方、これから労働市場に入ってくる若年層は厳しい状況にあっている。懸念されるのは、韓国の労働市場において、持続的に雇用が生み出されづらくなる展開だ。若年層の雇用機会が増加しなければ、企業が技術や組織運営のノウハウを次の世代に継承し、長期の存続を目指すことは難しくなるだろう。

少子化、高齢化、人口の減少によって国内経済が縮小均衡に向かうわが国にとって、韓国の若年層を取り巻く雇用・所得環境の厳しさは他人事ではない。人々が将来に希望と夢をもって生活できる環境を整えるために、政府は労働市場の流動性向上やリカレント教育などを強化すべきだ。それが、経済全体でのアニマルスピリットの発揮と成長を支える。

■労働力人口が増えているのは60歳以上だけ

2021年初来、韓国の失業率は低下している。ただし、15~29歳の若年層を取り巻く雇用・所得環境は楽観できない状況にあると考えられる。その背景には大きく2つの要因がある。

まず、長期の傾向として若年層の失業率が他の世代よりも高い。2003年以降の韓国の失業率(季節調整前)の平均値は3.6%だが、15~29歳の世代では8.4%に達する。年齢の区切り方は異なるがわが国の15~24歳の失業率も全体よりは高い傾向にあるが、韓国ほどに世代間の雇用格差は深刻化していない。

次に、韓国では若年層の労働力人口が減少している。労働力人口とは、仕事をしている人と完全失業者(働いてはいないが就職活動をしている人)を合計したものだ。コロナ禍以前の2019年9月に比べて、2021年9月の韓国の労働力人口は全体としては増加している。世代別に見ると、60歳以上の労働力人口が増加し、それ以外の世代で減少している。

■出生率の低下、社会心理の悪化…

これは、かなりいびつだ。若年層に加え、30歳代、40歳代の現役世代の労働力人口の減少も顕著だ。その一因として、出生率低下がある。それに加えて、社会心理の悪化の影響も軽視できない。若年層の労働力人口の減少は、働く意思を失って労働市場から退出する、あるいは新規参入をためらう若者の増加を示唆する。

一つの見方として、韓国において労働市場への新規参入者に位置付けられる若い人にとって、希望する就業機会を見つけることの難しさは増しているようだ。その要因として文大統領の経済政策は大きな影響を与えた。政権が発足して以降、文政権は新しい需要を創出するために産業育成を強化するのではなく、最低賃金の引き上げや労働組合法の改正などによって企業から就業者への分配を強化した。

また、文政権は公共部門での短期雇用を増やすなどして高齢者の雇用も増やした。失業率と労働力人口の推移から、文政権下の労働市場では、若年層と、それ以外の世代での雇用機会と所得の格差が一段と拡大したように見える。

■若者が成長しなければ経済全体も成長しない

若年層における失業率の高さと労働力人口の減少は、韓国経済が持続的に雇用を生み出すことができるか、先行きへの不安を高める要因だ。

当たり前のことだが、若いうちに実務経験を積まなければ、仕事を覚えることはできない。若い人が仕事を覚えられないと、企業が培ってきた技術やノウハウを次の世代に継承することは難しくなり、企業の長期存続力は低下する可能性が高まる。組織全体での活気や新陳代謝も低下するだろう。

若者が希望する就業機会を見いだす環境整備は持続的な経済成長に欠かせない。実務経験を積むと、多くの人が自らのやりたいことに気づく。その気づきが、より専門的な知識を身につけたり、最先端の理論を習熟したりしようとする動機につながる。新しい知識に習熟した人は、その発揮によってさらなる成長を目指す。このようにして経済全体でアニマルスピリットが発揮されて新しい発想が実現し、新しい需要が生み出される。

机で作業をしている人たち
写真=iStock.com/Yue_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yue_

■文政権の政策は将来に禍根を残す恐れ

しかし、文政権は、これから労働市場に入ってくる若者のことよりも、すでに職を得た世代の利得が増えることを重視したといえる。そのために、同氏は企業から労働者への所得の分配(すでにある資金などの配り方を変えること)を重視し、自らの支持を増やそうとした。その結果、労働組合は、賃上げなどの待遇改善をより強く経営陣に求めはじめ、財閥系の大手企業などで労使の対立が先鋭化した。他方で、中小の企業の経営体力は削がれた。

また、韓国ではわが国以上に出生率が低い。若年層の雇用・所得環境の厳しさに加えて、経済の中心地であるソウルのマンション価格高騰、家計の債務問題などを背景に、韓国の出生率は低下基調で推移する可能性が高い。その展開が鮮明となれば、生産年齢人口が追加的に減少して内需は縮小均衡に向かい、韓国経済の潜在成長率は低下する可能性がある。

そう考えると、若年層よりも、労働組合や高齢者を重視した雇用、賃金政策を進めた文政権の経済政策は韓国経済の将来に禍根を残す恐れがある。

■前回大統領選では「財閥改革」に言及したが…

見方を変えて考えると、今後、韓国の若者が希望や夢をもって新しいことにチャレンジすることは、一段と難しくなるかもしれない。そう考える一つの要因として、依然として、韓国経済ではサムスン電子を筆頭とする財閥系の大手企業の存在感が大きい。

アジア通貨危機後、韓国政府はIMFのコンディショナリティ(資金支援の条件として課される条件)に従って財閥の解体を進めた。その結果、造船や自動車事業を中心にかつて韓国の財閥トップの地位にあった現代財閥は解体された。

しかし、いまだに財閥系大手企業は韓国経済に大きな影響を持っている。前回の大統領選挙の中で文大統領は財閥改革に言及した。しかし、その実行は、口で言うほど容易なことではない。むしろ、足許では半導体産業の国際競争力を高めて輸出を増やすために、文政権はサムスン電子の事業運営力を一段と重視している。それだけ、サムスン電子は韓国経済の成長に決定的な影響力を持つ。

■日本での就職を強く望む若者たち

サムスン電子などの財閥系大手企業に就職するために韓国では受験競争が苛烈化した。受験、就職競争を勝ち残ってサムスン電子など財閥系の大手企業に就職できた人は多くの利得を手に入れることができる。その一方で、財閥系大手企業に就職できなかった人は、満足のいく生活環境を手に入れることが難しい。その裏返しとして若者の就業意欲は低下し、長期の傾向として韓国の若年層労働力人口が減少した可能性は否定できない。

韓国では若者が将来に希望や夢を持つことはかなり難しくなっている印象を持つ。韓国からの留学生や若手ビジネスマンと話していると、わが国での就職を強く希望する人が多い。それは、韓国よりもわが国のほうが、より多くの選択肢に恵まれ、自らが目指す生き方を実現しやすいという思いがあるからだろう。

このように考えると、わが国政府は、労働市場の流動性を高めるために雇用関連の規制を改革し、若者や新しい、大胆な発想を持った人が、より積極的にチャンレンジする環境を整備すべきだ。それが、中長期的なわが国経済の成長と所得の増加に必要だ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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