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「日本最強の任意団体」日本郵便の局長たちがなぜか転勤をしないで済む怖すぎる理由

プレジデントオンライン / 2021年10月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

日本郵便の局長による犯罪や不祥事が続発している。背景にはなにがあるのか。朝日新聞の藤田知也記者は「絶大な力を持つ郵便局長会が絡む問題には、コンプライアンスが軽視される傾向がある。日本郵政の増田寛也社長は局長会を特別扱いとする構造そのものにメスを入れるべきだ」という――。

■2億円超の着服、局内での盗撮未遂、会社経費の架空請求…

日本郵便の九州支社管内でこの夏、郵便局長の役職者一覧から2人の名前がひっそりと消されていた。

後任不在の「空席」となっているうえに、4月異動が中心の局長人事としては異例のタイミング。いったい何があったのかと探ってみると、日本郵便とその経営に影響力を持つ任意団体の郵便局長会をめぐる「地殻変動」が浮かび上がってくる。

折しも日本郵便では、局長による犯罪や不祥事が続発している。今年は、顧客らから長年にわたり10億円超をだまし取った長崎市の局長が詐欺容疑で、かんぽ生命の顧客情報を流した見返りに現金を受け取っていた熊本県の局長が収賄容疑でそれぞれ逮捕された。愛媛県でも2億円超の着服があったほか、郵便局内での盗撮未遂、トラブルになった知人の車を傷つける器物損壊、会社経費の架空請求まで発覚し、不祥事のオンパレードだ。

8月に九州支社の役職名簿から消されていたのは、いずれも福岡県内の地区統括局長だった。統括局長とは、100前後の小規模郵便局を束ねるトップで、地区内の異動や人事評価に強い影響力を持つ。全国238あるポストで、2万超の郵便局長の上位1%の役職だといえば、イメージがわきやすいかもしれない。

取材を進めると、福岡市と福岡県筑前西部の各統括局長が8月中旬に解任されていたことがわかった。解任の理由は、それぞれ会社経費の不正利用があったとして、懲戒戒告処分を受けていたため。統括局長2人が処分を受けて解任されること自体、同社では異例の事態だ。

日本郵便などへの取材によると、2019年3月、2人は割り当てられた予算を使い、福岡市内のホテルで数十万円分もの飲食チケットを購入していた。実際には開いていない「会合」を名目にした経費の架空計上で、購入した飲食チケットは翌年度以降の会合に流用していたとされる。

年度をまたげない予算をプールする目的とみられるが、詳細は社内でも明らかにされておらず、数十万円もの飲食チケットがどんな「会合」に使われていたかはわかっていない。

■「もみ消した」のではなく「時間がかかった」

2人の処分と統括局長の解任は9月初め、朝日新聞や西日本新聞で報じられている。だが、この話にはまだ続きがあった。

じつは今回の経費不正は、発生直後の2019年中に内部通報が寄せられていた。複数の関係者によると、日本郵便のコンプライアンス部門が調査に動き、経費の架空計上について把握していたにもかかわらず、統括局長らを処分することはなかったという。

事情を知りうる社内の関係者からは、「コンプライアンス部門がもみ消していたのでは」との見方が出ている。会社が不正を把握しながら、処分せず、その理由も明かさないのだから、「もみ消した」と思われても仕方ないだろう。

日本郵便の親会社、日本郵政の増田寛也社長は10月1日の記者会見でこう認めた。

記者会見する日本郵政の増田寛也社長=2021年10月1日午後、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
記者会見する日本郵政の増田寛也社長=2021年10月1日午後、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

「申告から処分まで時間がかかったのは事実。確認が遅れていたのは否めない。内部からの申告に対する処理が、体制も含めて十分ではなかった」

筆者が「当初、処分に至らなかった理由」を尋ねると、増田氏はこう述べた。

「時間がかかりすぎたことは反省している。当時の処理が十分でなかった。大きな反省点だ」

■日本郵政と日本郵便のせめぎあい

統括局長による不正がなぜ見過ごされたのかは、まだはっきりしない。ただ、かんぽ生命の大規模な不祥事を受けて社長に就いた増田氏の経営体制のもと、不正があっても見過ごすような「非常識」は排除しようという姿勢が強まっているのは間違いない。

今回の処分は、過去の通報情報が改めて日本郵政側に届いたことで、再び調査が動き出した結果だ。ある郵政関係者は「増田さんら日本郵政側が厳正な対処を求めたのに対し、日本郵便内には『決着済み』だとして抵抗もあった」と明かす。

■内部通報をバラされ、休職に追い込まれる局長も

似たことはほかにも起きている。

同じ福岡県では2019年初め、九州支社の副主幹統括局長が配下の局長を呼び出して「絶対に潰す」「辞めるまでいくよ、俺は」などと脅す陰湿な事件が起きていた。副主幹統括局長とは、統括局長のなかでも支社管内でナンバー2の座を指す。

この統括局長は、別の郵便局の局長を務める息子の問題が本社に内部通報され、配下の局長に通報者だと認めさせようとしたうえに、他の通報者もあぶり出そうとした。企業コンプライアンスの要となる通報制度を否定する行為に対し、日本郵便は当時、統括局長を懲戒戒告処分とし、統括局長のポストも解任することで決着させていた。

だが、この問題を深掘りしてみると、統括局長は驚くことに、本社のコンプライアンス担当役員から通報情報の一端をじかに教わり、通報者が地区内の局長数人だと目星をつけていた。その担当役員は、通報者らが「絶対に伝えないで」と念押しした全国郵便局長会の元会長の日本郵便専務(当時)にまで、なんの断りもなく通報者の情報を明かしていた。

地区内の局長を招集し、「通報者なら名乗り出て」と求める局長はほかにもいた。通報者と疑われた局長の一部は、問題の統括局長が会長を兼ねていた地区郵便局長会から除名され、会社での役職も外された。厳しい叱責を受け、休職に追い込まれる局長が相次ぐなど、さまざまな不利益を被った。

■増田体制が社内改革を断行

日本郵便はそうした実態を朝日新聞で指摘されたあとも「通報制度の運用に特段の問題はなく、社員の通報には適切に対処している」と唱えていた。これに業を煮やしたのが増田氏だった。

日本郵便の取締役も兼ねる増田氏は、日本郵政の外部有識者委員会にグループの通報制度の検証を求め、通報情報の共有範囲を明確にするなど社内規則を整備。会社側に情報を丸投げしていた社外通報窓口の体制も改め、本社と情報共有せずに不正などを調査できるしくみに変えた。

元副主幹統括局長への当初の処分も見直した。日本郵便内の抵抗も押し切り、今春には計9人に停職などの処分を下し、数人は局長ポストからも外した。通報情報を漏らした本社のコンプライアンス担当役員、通報者らへのパワハラに対応しなかった支社幹部らも一定の処分を受けるに至った。

さらに長崎市の10億円超の詐欺事件、愛媛県の2億円超の横領事件では、その地区の統括局長が監督責任を問われて懲戒戒告処分を受け、統括局長を解任する人事も断行された。

これは民営化して14年が経過した日本郵政グループにとって、前例のない事態である。

■「何をされるかわからない」幅を利かせる郵便局長会

拙著『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』(光文社新書)では、日本郵政グループの歴代経営陣が民営化後も郵便局長会にどれだけ気を遣い、阿ってきたかを取り上げている。

とくに2012年末の第2次安倍政権発足後は、全国郵便局長会が会長経験者を参議院議員として国会に送り込み、政権と良好な関係を築くなかで、郵政経営陣が局長会の意をくむ傾向も強まっていった。

2019年夏には、全国郵便局長会の元会長が日本郵便副社長に昇格し、全国13の支社長ポストのうち4つを元局長会幹部で占めるようにまでなった。かんぽ生命の一連の不祥事が発覚した同時期はそのピークでもあったのだ。

郵便局長会は約1万9千人いる旧特定郵便局長らでつくる任意団体で、中央組織の全国郵便局長会を頂点に、12の地方郵便局長会、238の地区郵便局長会、約1600の部会が連なるピラミッド組織だ。明治初期に地方の名士の私財提供でできた小規模郵便局がルーツで、全国2万4千の郵便局の約8割を占める。

参院選では比例代表候補を立てて組織を挙げて応援し、2019年夏には60万票の得票を獲得した。他の業界団体を圧倒する「集票力」の強さこそ、グループの要職を固める旧郵政キャリアに「目をつけられたら何をされるかわからない」と思わせる力の源泉であり、多くの社員が「局長会への配慮で不祥事を隠したり、穏便に済ませたりしているのでは」と疑う由縁にもなっている。

■「選考任用」「不転勤」「自営局舎」という三本柱

増田氏自身は10月1日の会見で、こう強調していた。

「大きな不祥事もあり、社会的にもコンプライアンスの要請が高まっている。ルールに反することは厳正に対処する。その点は一層、きちんとやっていきたい」

少なくとも増田体制に変わってから、有力な局長であれ、不正があれば厳しく対応する姿勢に転じてきた。だが、これから増田体制に求められるのは、単純な犯罪や不正の処罰だけではなく、ガバナンスが効かずにコンプライアンスが軽視されがちな「構造」にメスを入れることだ。

全国郵便局長会は、民営化前から続く「選考任用」「不転勤」「自営局舎」の三本柱の実現を重要施策に位置づけている。自ら後継を探して育成し、局長は転勤させず、局舎を自ら所有する。それが地域の発展などにつながるとの理屈のもと、局長の採用や役職の配分などにも強い影響を及ぼす。

また、政治的課題の実現のためには政治力が必要だとして、会員となる局長はほぼ自動的に自民党に加入し、政治活動と選挙運動に取り組むことが半ば義務のように課せられるのが実態だ。

複数の地域で取材したところ、来夏の参院選では、局長一人に30~50票以上の得票がノルマのように求められ、その達成のために100世帯前後の「後援会(支援者)名簿」を出すよう指示される局長が多い。

会社経費で購入したカレンダーが、局長らの政治活動に流用されていた疑惑も浮上してきた。いよいよ全国郵便局長会にも説明が求められる事態だが、これまで日本郵便が「任意団体のことは承知していない」と目をそむけてきたツケが回ってきたとも言えるだろう。

■不正に関与したホテル従業員が局長に採用

冒頭の話にはもう一つ、続きがある。

藤田知也『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』(光文社新書)
藤田知也『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』(光文社新書)

不正を働いた統括局長2人の経費処理に関与したホテルの従業員が、不正があった翌年の春から局長として採用されていたのだ。のちに処分される統括局長が受け持つ地区内の郵便局の局長である。

日本郵政の増田氏は、「処分された局長が採用に関わった事実は確認できず、適切な選考だったと日本郵便から報告を受けている」

と述べているが、額面どおりに受け取れるだろうか。

説明がつかないような「不都合な真実」を抱え込んだままでは、郵便局ブランドの信用を踏みにじるばかりの「腐敗の侵食」は止まらない。

※郵便局長会に関する情報は、筆者(fujitat2017[アットマーク]gmail.com)へお寄せください。

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藤田 知也(ふじた・ともや)
朝日新聞記者
早稲田大学大学院修了後、2000年に朝日新聞社入社。盛岡支局を経て、2002~2012年に「週刊朝日」記者。経済部に移り、2018年から特別報道部、2019年から経済部に所属。著書に『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』(光文社新書)など。

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(朝日新聞記者 藤田 知也)

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