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「刑務所こそが理想の家庭」東海道新幹線で男女3人を無差別に襲った男が語る犯行動機

プレジデントオンライン / 2021年10月28日 15時15分

写真家のインベカヲリ★さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

2018年6月、走行中の東海道新幹線の車内で男女3人が襲われ、女性2人が重軽傷、男性1人が死亡した。殺人犯の小島一朗(犯行当時22歳)は、犯行の動機を「無期懲役を狙った」と話し、一審で無期懲役を言い渡されると、万歳三唱して、刑を受け入れた。約3年にわたってこの事件を取材し、『家族不適応殺』(KADOKAWA)にまとめたインベカヲリ★さんに聞いた――。(前編/全2回)

■無差別殺人犯が何を考えているのかを知りたかった

——なぜ小島一朗に取材したいと思ったのですか。

写真家として活動する前から私がもっとも興味を持っている対象が、人の心だったんです。人は、なにを考え、どんな気持ちを抱えているのだろう。そんな関心がずっとありました。

写真家となってからは300人以上の一般人女性を撮影してきました。どんな人生を送ってきたのか、どんな経験をして、どんな感情を持っているのか……。丁寧に話を聞き、イメージを膨らませて作品に落とし込んでいくんです。

それに、小島が事件を起こす前から、無差別殺人犯とふつうの会話がしてみたいと思っていました。無差別殺人犯って、一般的な人にとっては理解できない犯行動機を語るじゃないですか。小島もそう。裁判が終わっても、なぜ犯罪が起きたのか誰も納得できない。あとで振り返ってもほとんどが、結局あれってなんだったんだろう、という形で終わってしまう。単なる異常者で済ませてしまっていいのか。無差別殺人犯である小島が、何を考えているのか、どんな言葉で話すのか、知りたかったんです。

——小島は犯行の動機を「刑務所に入りたかった」と語り、無期懲役の判決に対して、法廷で万歳三唱をしています。コミュニケーションのとれる相手なのでしょうか。

2019年5月から面会をはじめて、12月末まで全部で13回接見しました。本当の意味でのふつうの会話――小島が心を開いたかなと感じたのは最後の1カ月半くらい。

私のインタビュアーとしての実感なのですが、女性は自分の体験談をもとにした感情を語っていくケースがほとんどです。一方、男性は知識を取り入れ、社会的な文脈で自らの考えや分析を話す人が多い。そのせいか、男性に話を聞き、掘り下げようとしても感情の手応えをなかなか得られない。その意味で、小島のコミュニーションは、極端過ぎるほど男性的でした。相手に対して隙を見せずに、感情を伏せて常に自分なりの論理、理屈でしゃべってくる。

■不意打ちの面会で見た小島の本来の姿

たとえば、最初に面会した日、小島はこう話しました。

「刑務所に入るのは子どもの頃からの夢だったから、私もかなり調べたんですよ。できれば長く入っていたい」

私が「世の中には、累犯で2年置きに刑務所に入るような人もいると思うけど」と聞き返すと彼は「いますね。でも、1回出所すると優遇区分とか、制限区分とかはリセットされてしまうんです。私は模範囚を目指しているので、昇進するためには無期刑になる必要があるんです」とセリフを読み上げるように答えました。

毎回そんな感じでした。あらかじめ用意した言葉しか話さない小島に対して、最初はふざけているとしか思えなかった。

あるとき、私は彼が言葉を過剰に大切にしていると気づきました。私との会話や手紙の内容も一語一句、覚えている。多かれ少なかれ、人は勘違いや記憶違いをしますし、同じ体験をしても人によって受け止め方や印象は変わります。でも、彼は、その矛盾をとても嫌うんです。

そんな彼が、素を見せてくれたのは長いやり取りをして信用を得たという以外に、不意打ちをしたのが大きかった。

それまでは前もって面会の期日を約束していたのですが、ある日、突然面会に行ってみました。言葉を準備していなかったせいか、私の質問に対して、いつもと違って動揺していた。とはいえ、そのときですら本で得た知識を滔々と話す「小島節」に変わりはないのですが、落ち着かずにそわそわしていた。その様子を見て、ふざけているのではなく、それが小島の本心であり、ちゃんとその意味を掘り下げなければいけないのだと気づきました。

金属製のフェンス
写真=iStock.com/SteveLuker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SteveLuker

■「家族の病理」とは

——「ふつうの会話」を交わして、インベさんの小島に対する印象や見方に変化はありましたか。

どうだろう……。小島が言っていることは同じなので、変わっていない気がします。ただ彼から私に対する猜疑心や警戒感が消えたように感じました。そこからですね、わずかな時間でしたが、彼の感情に触れた気がしたのは……。

——『家族不適応殺』というタイトルにもあるように、小島の家族にも焦点を当てていますね。

家族に責任がある、ということではないと先に明言しておきます。私の勝手な分析、印象でしかないのですが、殺人事件に関する資料を読んでいくうち、個人の病理だけではなく、家族間の軋轢、親子関係、兄弟姉妹の関係といった普通の家庭でもあるイザコザが、ボタンの掛け違いで拡大していくことが犯罪の原因になっているのではないかと考えるようになりました。

小島の場合は両親の仕事の関係で、3歳まで母親の実家である「岡崎の家」(愛知県岡崎市)で母方の祖母と過ごしました。その後、両親と父方の祖母が暮らすところに引っ越した。

■刑務所が「理想の家庭」なのだと信じていた

小島の母親は、姑と折り合いが悪く、夫にも助けてもらえなかった。やがて彼女は家の外に居場所を見つける。母親はホームレスや受刑者などの支援を続け、周囲から「マザーテレサ」と呼ばれるほど、活動に没頭する。そんな家で暮らしはじめた小島は、祖母に「岡崎の子」「岡崎に帰れ」と言われるようになる。小島が母親の身代わりになってしまったといえます。

先ほども話しましたが、小島は過剰に言葉に執着する。だから祖母の「岡崎の子」「岡崎に帰れ」もそのまま受け止めた。やがて小島にとって3歳まで過ごした「岡崎の家」が、理想の居場所になった。幼少期は何をやっても周囲の大人が面倒を見てくれるでしょう。泣けば、ご飯が出てきて誰かが食べさせてくれる。端的に言えば、自分が何をしても生かされる場所を、理想の家庭だと考えるようになった。だから、小島は、自分の命を最低限保証してくれる刑務所で生きることを望んだんです。

■目的達成のための殺人

——小島にとっては理想の家庭が刑務所ということですよね。極端すぎて一般的な感覚だとなかなか理解しにくいですね。

インベカヲリ★『家族不適応殺』(KADOKAWA)
インベカヲリ★『家族不適応殺』(KADOKAWA)

そう思います。小島は、自分の欲求に対して一直線なところがあります。彼は、罪を犯した理由や動機をたくさん語るんですよ。ただし、理屈がとてもわかりにくい。当初、私も彼の言葉にリアリティをまったく感じられずに疲れ果ててしまう瞬間もありました。それでも接見を重ねた結果、彼の理屈がやっと腑に落ちた。

小島は「刑務所」、もっと言えば「国家」に安心な居場所、理想の家庭を重ねていたんです。

彼は理想を「岡崎の家」、つまり刑務所に見いだして、その目的に達成するための逆算をした。目的達成には人をひとり殺さなくてはいけない。逆転の発想で、彼なりに突き詰めていった。そのプロセスで無差別殺人が正当化されていった……。私はそう受け止めました。そこで、やっと辻褄が合った気がしました。

彼の言い分を理解し、納得できる人はいないと思います。ただ、裁判でも明らかにならなかった彼がたどり着いた答えに、なんとか到達できた手応えは、確かにあるんです。(後編に続く)

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インベ カヲリ★ 写真家
1980年、東京都生まれ。短大卒業後、独学で写真を始める。編集プロダクション、映像制作会社勤務等を経て2006年よりフリーとして活動。13年に出版の写真集『やっぱ月帰るわ、私。』で第39回木村伊兵衛写真賞最終候補に。18年第43回伊奈信男賞を受賞、19年日本写真協会新人賞受賞。ライターとしても活動しており、新幹線無差別殺傷犯の小島一朗の動機に関心を抱き、被写体に迫る手法をもって取材を開始し、約3年をかけて『家族不適応殺』を上梓した。

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(写真家 インベ カヲリ★ 聞き手・構成=山川徹)

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