好きな人と結婚するだけなのに…日本人が「小室さんバッシング」に熱狂する根本原因
プレジデントオンライン / 2021年10月26日 6時15分
■思いを貫徹する眞子さまと小室さん
秋篠宮家の長女・眞子さまが10月26日、婚約者の小室圭さんと結婚します。皇籍を離れ、晴れて「小室眞子さん」となります。
眞子さまが小室さんと婚約内定発表の記者会見に臨んだのは、2017年9月3日のことでした。小室さんの地元近くの商店街では垂れ幕やのぼりが上げられるなど、日本は祝賀ムードに包まれました。
しかし直後に小室さんの母親の元婚約者を名乗る匿名男性が女性週刊誌に登場し状況は一変しました。「(小室さんの母親である)佳代さんに400万円を貸したが、いまだに400万円を返してもらっていない」と語ったことで、2人の結婚に関する話題が取り沙汰され、現在に至るまでバッシングが続いています。
結婚に親族や関係者の暴露話をするのは万国共通のようです。2016年から交際を始めて、その2年後に結婚したイギリスの元ハリー王子とアメリカ人の女優メーガン・マークルさんの場合も、交際の発覚後にメーガンさんの父親がマスコミに登場し様々な暴露話を披露しました。
ただ筆者が気になったのは、冒頭の「400万円」は「親の昔の恋愛沙汰」がらみの話にすぎないのに、あたかも「子供」である小室圭さんに責任があるかのような報道が相次いだことです。週刊誌だけではなく一般紙もこの「400万円」を繰り返し取り上げました。
小室さんは、眞子さまにふさわしくない――。眞子さまのためだからと、眞子さまの気持ちを無視したそんな「意見」が大勢でした。まさに国民総モラハラの状況です。この状況は、女性皇族の生きづらさに焦点が当てられがちです。しかし、筆者はニッポン人の結婚観に大きなゆがみがあると感じます。男性に課された重すぎる条件と過度な期待です。
■反対意見のほとんどは「言いがかり」
この「400万円」の話が発覚してから、小室さん個人に対しても多くの批判が見られるようになりました。これも「ふさわしくない」という意見が大勢でした。
日本国内の弁護士事務所でパラリーガルとして働いていた小室さんについて、「弁護士ではなくパラリーガルという立場では給料も低く、眞子さまのお相手としてふさわしくない。そもそもなぜ銀行を途中で辞めたのか」といった「意見」をインターネットでよく見かけました。
米国ニューヨーク州の弁護士資格の取得を目指すべく、小室さんがロースクールに留学すると「日本から逃亡したのも同然」といった辛辣(しんらつ)な「意見」も出されました。今年4月に「母親と元交際相手の金銭トラブル」について説明文書を公表すると、今度は「長いばかりで、内容からは誠意が伝わってこない」と言われてしまいます。
週刊誌の報道に煽られ、それに同調する形で、「小室たたき」はエスカレートしていきました。インターネットの一連の批判から見て取れるのは、「小室さんが何をしても、気に入らない」と感じる人たちが一定数いるということです。
その後「小室さんが400万円を返す意図がある」と報じられると、「お金を返せば良いというものではない」という「批判」が起きました。また眞子さまが「一時金を辞退する意向である」ことが報道されると、「一時金を辞退すれば良いというものではない」という「批判」もありました。ああ言えばこう言う。この状況は異様だというほかありません。
■男性に「難題な結婚の条件」が課されるニッポン
なぜ小室さんにこれほどまでに厳しい意見が多いのか――。その点を考えると、結婚相手が皇族という特殊で複雑な要素が絡んでいるため一言で説明できるものではありません。ただ小室さんの職歴や収入、家庭の事情に批判が相次いだことは、「日本の男性の生きづらさ」を象徴しているように思います。
筆者はドイツ出身ですが、ヨーロッパと日本を比べてみると、婚活をしている男性に対して「金銭面の期待」がやたら高いのがニッポンなのです。
日本では「恋愛と結婚は違う」と言う人がいます。「恋愛では自分たちの『気持ち」を中心に楽しめばよいが、結婚は『生活」である」といった文脈で使われることが多いです。男性の収入があまり高くない場合、女性が「そういう人と恋愛をするのはいいけれど、結婚には向かない」という文脈で使うこともあります。
「安定した収入が見込めない男性に結婚する資格などない」との極端な「意見」を聞くことも少なくありません。このように、結婚相手に求める条件を、ハッキリと言い切ってしまうのがニッポンの大きな特徴なのです。
もしドイツで「安定収入のない男性とは結婚できない」という発言をしたら、周囲から「計算高い女だ」と言われてしまうでしょう。もちろんドイツでは「結婚を相手の収入で決める」ことがないわけではありません。でも決して堂々と言っていいことではありません。
その根底には「結婚は恋愛の延長である」「愛はお金では測れない」といった社会の共通認識があります。そういった意味でドイツの人のほうが結婚について「ロマン」を求めている気がします。
■ハッキリ言わない日本人、相手の条件にはウルサイ
日本に住むヨーロッパ出身の友人が驚くのもこの点です。一般的に日本人は「はっきりと物を言わない」と思われています。ですが、こと「結婚」となると、欧州には見られないような直接的な言い方で「相手の条件」をハッキリと語る人が多いのです。
日本では、婚活中の男性が「子供が欲しいので、相手の女性は20代を希望している」と発言することは普通にあり得るでしょう。筆者はこれを正直だと思います。しかし、ドイツを含むヨーロッパでは、この手の発言はバッシングの対象となり、堂々と口にする男性はまずいません。
婚活中の女性が「高収入の男性でないと結婚は無理」「結婚相手には安定した収入を望む」といった発言をすることも日本では「普通」ですが、ドイツであれば繰り返しになりますが「計算高い女性だ」と言われてしまうわけです。
■王女の結婚相手は月給11万円のトレーナー
かつての日本は「お見合い結婚」が全体の7割を占めていましたが、現在は全体の5%程度です。つまり今の日本では「恋愛結婚」がスタンダードとなったのです。
それでも結婚相手に金銭面なども含めた「条件」を突き付けることが多いのは、昔の「お見合い結婚」の文化の名残なのかもしれません。日本では年齢が高い人のほうが「男性の収入」を重要視する傾向がある印象です。
しかし結婚後も「女性が働く」ことが前提となっている欧州では、結婚の際に「男性の収入」にばかりスポットがあたることはありません。それは王室に関しても同様です。
例えばスウェーデン王室・ヴィクトリア王女の事例です。結婚相手のダニエル・ベストリングさんは、王女がかつて通っていたスポーツジムの専属スポーツトレーナーで、月給11万円でした。このことについて当時、欧州の大衆紙は「おいしい話題」として記事で頻繁に取り上げたものの、2人の結婚の障害になるような騒動には発展せず、2010年に2人はめでたく結婚します。
眞子さまと小室さんの結婚にまつわる過去4年間の記事や数々のコメントを読んでみると多くの人が眞子さまと結婚する男性に対して、頼りがいや相当の収入を求めていることが分かります。男性に求められる条件が欧州と日本ではここまで異なるのです。
近年、日本では専業主婦が減って、結婚後に女性も働くことが普通になってきました。それにもかかわらず、眞子さまの結婚となると、多くの人が「結婚後に女性が働く」ことを視野に入れないまま男性に「経済的な頼りがい」を求めています。矛盾していませんか?
男女の性別による役割分担論が当然のように語られ、非常に古風な見解の人が多いことに驚かされます。
■子連れのシングルマザー女性と結婚したノルウェーの王太子
もう一つ、ヨーロッパの事例を紹介します。ノルウェー王室のホーコン王太子と、妃のメッテ=マリット・ヒェッセム・ホイビーさんです。
2人が出会ったのはノルウエーの都市・クリスティアンサンのロックフェスティバルでした。当時メッテさんはオスロ大学の学生で2歳の息子を持つシングルマザーでした。2人は順調に交際を続け、2001年8月にオスロ大聖堂で結婚式を挙げました。メッテさんは息子を連れて王室入りしたわけです。息子に王位継承権はありませんが、王室の一員となりました。
この2人の交際期間中にノルウエーの国民から反対の声が上がらなかったわけではありません。息子マリウスの父親、つまりはメッテ妃の元交際相手の男性がかつて麻薬常習で服役していたこと、またメッテさん自身も過去に麻薬を使用していた疑惑を、当時の現地メディアが連日取り上げていたのです。騒動は過熱し、ノルウエー国民の王室への支持率は当時急降下しました。
転機となったのは、正式な婚約を発表した2000年11月の記者会見でメッテさんが麻薬使用を含む自らの過去を涙ながらに謝罪したことです。率直に自らの言葉で過去を語ったことが、多くの国民から評価され、この会見をきっかけに王室への支持率も回復しました。
ノルウエーではシングルマザーの割合が50%を超えています。だから、シングルマザーに育てられ、自らもシングルマザーであったメッテさんを国民が受け入れることができたのかもしれません。小室さんもシングルマザーである母親に育てられました。バッシングの背景にはシングルマザーへの強い偏見もあるのではと筆者は感じています。
■小室さんバッシングに見る「男性の生きづらさ」
このようにヨーロッパの事例を紹介すると、必ず日本人からこう反論されます。
「日本の皇室は、ヨーロッパの王室とは違う。比べること自体がおかしい」と。
しかし、スウェーデンのダニエルさんも、ノルウエーのメッテさんも、「王族との結婚後に王室の一員となった人」です。小室さんと眞子さまに関しては、小室さんは皇室に入る人ではありません。小室さんとの結婚により、眞子さまは皇室を離脱する立場です。そういったことを考えると、そもそも「結婚により皇室を離れ一般人となる」眞子さまについて「お相手の男性が皇室にふさわしくない」とすること自体が非論理的だと感じます。
過去4年間にわたり小室圭さんに課されていた「安定した収入」「素晴らしい経歴」「家柄」などの条件は、実は「多くの日本人男性に課されている条件」です。その事実が男性の結婚へのハードルを上げており「男性の生きづらさ」につながっていることにスポットを当てるほうが意味のあることのように思います。
ちまたでは「女性の生きづらさ」が語られることが多いですが、筆者はこの4年間の「小室騒動」を見て、この国の「男性の生きづらさ」を垣間見た気がします。小室さんに対して国民が「あれこれ」と条件を高くすればするほど、それは「ニッポンの男性の生きづらさ」につながるのではないでしょうか。
小室さんと眞子さまが過去4年間に我々に訴えかけたメッセージとは「『好きな人と結婚したい』というのでは、ダメなのですか?」ということだと思います。私は、以前コラムにも書いたように、小室さんと眞子さまの幸せを、心から願っています。どうぞ末永くお幸せに。
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著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)など。
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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)
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