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「オジサンオバサンの郷愁がダダ漏れ」今秋の最強ドラマ『おいしい給食』をあなたは見たか

プレジデントオンライン / 2021年10月29日 15時15分

©2021「おいしい給食」制作委員会

各局で秋ドラマの放送が始まっている。ライターの吉田潮さんは「『日本沈没』(TBS系)と『真犯人フラグ』(日本テレビ系)に注目が集まっているが、俳優陣が豪華だから面白いドラマになるとは限らない。私のオススメは『おいしい給食 season2』(テレビ神奈川など)だ」という――。

■「日本沈没」も「真犯人フラグ」も見るには気が重い

各局の秋ドラマが始まった。初回から話題になっている作品もいくつかある。ここ数年、「話題性と注目度の高いドラマだけ観ておけばいい」という空気が蔓延しているのはぞっとする。その空気にはぜひ抵抗していきたいと思う。

早速話題になったのは、TBS日曜劇場「日本沈没 希望のひと」と日テレ「真犯人フラグ」だった。「日本沈没」は小松左京の原作を現代版にアレンジ。地球温暖化、地震、海底開発の影響で、関東沈没の危機という壮大なディザスタードラマだ。

官僚と学者と政治家の話なのでいかにも日曜劇場ではあるが、誰もがひとごととは思えないテーマだ。ディザスターモノに必須の迫力のある映像……というよりは、自然の脅威に翻弄される人間の業に重きを置くと思われる。

『真犯人フラグ』は妻子が忽然と姿を消し、世間から犯人扱いされる夫の苦悩と奮闘を描く推理サスペンス。企画・原案は秋元康。初回だけは見事に人を惹きつける切り口と煽動っぷり。最後までその熱量が続かずに失速することでも有名だ。

両作品とも人気俳優を配し、宣伝にも力を入れ、話題づくりに余念がない。興味深いが、「なすすべのない地震や水没の恐怖」と「被害者なのに犯人扱いされて流布される恐怖」では、心穏やかではない。

■世知辛い世界から束の間でも離れたい人におすすめなドラマ

首都直下型地震の不安、コロナが引き起こした分断と差別、機能不全で政情不安の中、もっと気楽に観ることができるドラマはないか。

忙しい人ほど、世知辛い現実から離れることができるドラマを観たらよいのではないか。そんな観点で選んだ、珠玉の一作を紹介しよう。

「おいしい給食 season2」である。

「知らねーッ!」という声が聞こえてきそうだが、Season2ということは続編であり、しかもうっかり映画化もされた、知る人ぞ知る密かな名作なのだ。

放送しているのは、首都圏ではTOKYO MX、テレビ神奈川、テレ玉、チバテレ、BS12。他にメ~テレやサンテレビなど計17局で放送中。ま、そこが一丸となって宣伝できない弱さでもあるのだが。

過去の物語(Season1)を解説しておこう。舞台は1984年。米飯給食が始まった頃、まだ先割れスプーンを使っていた時代だ。

主人公は中学校教師の甘利田幸男(市原隼人)。寡黙というか無愛想で、規律を重んじる厳格な教師と思われているが、実は生徒にも同僚教師にも教育にもまったく興味がない。

ドラマ「おいしい給食」より
©2021「おいしい給食」制作委員会

彼の頭の中にあるのは「今日の給食」のみ。ただし、教師として、そして大の大人としては「給食偏愛」という稚拙さを悟られぬよう冷徹を装っているのだ。

そんな甘利田には苦手な男子生徒がいた。いつも笑みを絶やさず、時折不可解な行動をとる神野ゴウ(佐藤大志)。実は彼も給食をこよなく愛するひとりで、より美味しく食べるための工夫と努力を怠らない。奇想天外なアイデアで給食を自己流にアレンジし、甘利田を驚愕させて、ある種の敗北感を与えてきたのだった。

映画『おいしい給食Final Battle』では、給食廃止の危機を迎え、甘利田と神野は窮地に追い込まれる。ふたりで小さなレジスタンスを起こすも、結果として甘利田は学校を去ることに。その続編が今秋のSeason2(舞台は1986年)となる。

■青春ものでもグルメものでもない、ただただ懐かしいドラマ

おっと、真面目に書いちゃったけれど、これが教師と生徒の心の交流を描く青春学園モノと思われたら困る。また、給食をテーマにした新感覚のグルメモノと思われても困る。

そんな、意義や目的が崇高なドラマではない。ただただおかしい。そして懐かしい。

喫緊の環境問題を描く「日本沈没」や、社会や世間の無責任さを描く「真犯人フラグ」に、たかが「給食」が勝てるワケない! と思った方のために、このドラマの魅力を2つにまとめよう。キーワードは「懐古」と「滑稽」。

■誰もが対等に語れる給食をテーマに選ぶ戦略性

まず、国民の多くが体験した給食をテーマに据えた新“奇”性は称賛したい。豪華な美食でも隠れ家的グルメでもお手軽コンビニめしでもなく、給食。食生活における経済格差を感じさせず、誰もが「対等」に語れるメシ、それが給食。なによりも重要なのは、舞台が1986年という点だ。

今は給食の問題点が取り沙汰される時代。

ひどすぎる献立が話題となり、ネットでも画像が多数アップされ、「刑務所のメシ」「エサ」と非難されることもある。そういえば、コロナ禍では感染防止のために簡易給食が採用され、コッペパンと牛乳だけでブーイングという話もあった。

感染防止策だけでなく、食育の観点、アレルギー対応食に宗教食の必要性、給食費バックレ問題に「嫌いなモノを無理に食べなくていい」問題など、とにかくいろいろな声が出揃ったのは平成&令和の話。

ところがこのドラマは、給食に関する問題点が浮き彫りになる前の80年代、給食のありがたみを子供も親も教師も感じていた昭和の時代を描く。

ごはんに牛乳を組み合わせる“暴挙”に誰も疑問を覚えなかった時代。商業捕鯨が禁止される前なので、当たり前に鯨肉も登場した時代。子供の口には厳しいトリッキーな組み合わせの謎献立が乱立した時代(おかずにレーズンやパイナップルが頻繁に投入された)。よくかんで食べろと言う割に給食の時間が短い時代。

■80年代の給食を味わったオジサン、オバサンに刺さる

なんというか、一般的に食に関する知識や情報が十分でない頃、給食はとても平和で牧歌的だったのだ。知らない幸せというのもある。80年代に小学生または中学生だった人は、この穏やかな空気に確実に心つかまれるはず。

つまりは、給食というテーマで万人を狙っているかのように見えて、実は懐古趣味が強まる40~50代の中高年にコアターゲットをしぼった、なかなかに巧妙な戦略なのだ。このドラマを勧めている人は確実におじさんかおばさんである。

ドラマ「おいしい給食」より
©2021「おいしい給食」制作委員会

■ソフト麵、ミルメーク、クジラ…どれも懐かしい

ちょっとだけ過去に登場したメニューを紹介しておく。製麺業界が編み出したソフト麺(正式名称はソフトスパゲッティ式麺)、安価な深海魚(メルルーサ)を使ってコスト削減に成功した白身魚のフライ、学校でスイーツを食べる背徳感を味わえる揚げパン、瓶牛乳に混ぜるミルメーク、鯨の竜田揚げに鯨のオーロラソース。

どうだ、懐かしいだろう。そして、懐かしさは給食だけにあらず。

Season2では甘利田が学校の帰りに密かに駄菓子屋に立ち寄り、毎回駄菓子を食べるシーンも追加(抜け目ない駄菓子屋のおばちゃんを演じるのは名優・木野花)。ベビースターにいちごあめ、今後登場するであろう駄菓子も楽しみのひとつに。

ドラマ「おいしい給食」より
©2021「おいしい給食」制作委員会

■俳優・市原隼人の代表作になると確信

もうひとつ、最大の魅力はなんといっても市原隼人のコメディ筋肉である。威厳ある教師を装う場面では常に冷静で真顔。トーンの低い抑えめの声で理路整然と話すも、生徒たちを叱咤するときは無駄に激昂。

80年代設定なので、ネクタイの柄は微妙にトンチキだし、あの時代に教師が愛用していた謎のピタッとしたスラックスを着こなしている。もうその存在だけでもおかしいのだが、毎回給食のシーンは感情の乱高下を全身で表現。

ドラマ「おいしい給食」より
©2021「おいしい給食」制作委員会
ドラマ「おいしい給食」より
©2021「おいしい給食」制作委員会

給食を食べられる喜びは、校歌斉唱とともにこぶしをぶんぶん振り回して、キレのよい動きで体現。献立に関する蘊蓄や味わいの表現(脳内で一人漫談)は、声色を適宜変えてコミカルかつキュートに展開。筋肉質の市原が繰り出す「給食偏愛ひとり芝居」にはただならぬ&並々ならぬおかしさがある。

余談だが、市原といえば、岩井俊二映画であどけない少年を演じ、ベビーフェイスで女性の心をつかみ、「WATER BOYS2」や「ROOKIES」の青春群像劇で活躍してきたキャリアの長い役者だ。ここ最近は上腕の筋肉を無駄に増し、用心棒的な役柄も増えていた。NHK大河ドラマ「おんな城主直虎」でラーメン屋店主のように常に腕を組むマッチョ僧侶・傑山役とか、「おしゃ家ソムリエおしゃ子!」(2020年、テレ東系)でヒロインを陰ながら守る隠戸九雲役とかね。

彼のキャリアのすべてを1本の綱に撚ったら甘利田幸男になった、そんな印象。代表作にしてもいい、と確信している。

そして、宿敵とも同志ともいえる生徒・神野が同じ中学校に転入してきたことから始まったSeason2。給食愛を競うかのように奇策で挑んでくる神野に、己の不甲斐なさを痛感する甘利田。苦悩とストレスの日々が再び始まる。

■懐かしさとおかしさの千本ノックが心地よい

このドラマは、社会問題に斬りこむ鋭さもなければ、明日役にたつ生活のヒントも、職場で言ってみたい名言もほぼない。

得・利・益を求めてはいけない。ただ懐かしさとおかしさの千本ノック状態を味わうのみ。非生産的だが、確実に現実逃避できる30分。忙しい人こそ、この無益で豊かな30分を堪能してほしい。

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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