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クラウン、エスクァイア…相次ぐ生産終了報道の背後にある"トヨタの本当の狙い"

プレジデントオンライン / 2021年10月31日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MoreISO

トヨタの代表的車種の生産終了報道が続いている。世界的なEV化の流れが強まる中で、トヨタは今後どのような戦略を取ろうとしているのか。「カローラとクラウンを見れば、トヨタが目指す新たなブランドイメージ戦略がわかる」と語るのは、自動車業界に詳しいマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明氏だ。その観点から「クラウンブランド」が消えることはない、と指摘するのだが──。

■ついにエスクァイアも生産終了に…

トヨタは2020年に4系列(過去には5系列の時代もあった)あった国内販売チャネルを一本化し、どの販売店でもすべての車種を取り扱うようになった。

こうなると系列ごとに専売車種とするために設けられていた兄弟車(事実上同じ車だが、若干デザインを変えて別の車として売る車種)を作る意味がなくなり、兄弟車ではなくとも販売台数の少ない車種の整理が必要となる。車種数が多すぎると販売スタッフが対応しきれないし、マーケティングコストも無駄にかかるからだ。

2021年9月にエスクァイアの生産終了が発表されたのがその流れの1つで、ヴェルファイアもまだ生産中止にはなっていないものの販売グレードは1つのみとなっている。

■代表車種クラウンの命運

そのような状況の中、トヨタがクラウンの生産を中止するという報道があった。1955年以来という長い歴史を誇る、トヨタを代表する車種であるがゆえ、大きな話題となった。その報道では、セダン型のクラウンの生産を中止し、SUVモデルとしてクラウンブランドを活用するというものだった。

実際、中国限定モデルではあるものの、アメリカで発売されているハイランダーをベースとした「クラウン クルーガー」というSUVが2021年8月に発売された。中国では2020年春にセダン型のクラウンの生産・販売を終了しているため、中国では報道通りの事態が実現している。さらに中国ではクラウンブランドのミニバン、「クラウン・ヴェルファイア」も発売され、クラウンブランドのマルチ展開が始まっている。

一方で日本ではどうだろうか。日本では2018年にクラウンはモデルチェンジしており、2020末には商品改良(マイナーチェンジ)を行っている。販売が低迷しているといわれているクラウンだが、実際の売れ行きはどうだろうか。

■クラウンは本当に「売れていない」のか?

2020年、クラウンの販売台数は2万2173台で前年比は61.4%と確かに大きく減少している。しかしカムリも1万2085台、同62.9%と苦戦しており、日産やホンダの大型セダンはベスト50にすらランクインしていない。

2020年は、コロナ禍の影響で自動車市場全体も縮小しているのでその影響も大きいだろう。

輸入車セダンと比べると、BMW3シリーズが8505台、メルセデスベンツCクラスが6689台(どちらもワゴンも含む数字)であり、クラウンのほうがはるかに多い。クラウンの販売台数はマツダCX-5やスバル・フォレスターに近い数字であり、中大型セダンとしては圧倒的に多い台数なのである。

このようにクラウンはある程度売れ続けている。しかしなぜ中止論が出てくるのか。私はその理由はクラウン自身にあるのではないと睨(にら)んでいる。

2020年1月6日、米国ネバダ州ラスベガスで開催された2020年CESのトヨタプレスカンファレンスで講演するトヨタ自動車の豊田章男社長兼CEO。
写真=AFP/時事通信フォト
2020年1月6日、米国ネバダ州ラスベガスで開催された2020年CESのトヨタプレスカンファレンスで講演するトヨタ自動車の豊田章男社長兼CEO。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■厳しい状況が続く大型FR車

クラウン(セダン)は昨年中国での販売が終わったため、日本国内専用車になっている。2万台強というのは、世界全体の販売台数でもある。現在のクラウンは、トヨタの最新プラットフォームのうち、TNGA-Lという、大型FR車向けのものを使っている。このプラットフォームはクラウンのほかにレクサスのLSとLC、そして燃料電池車のMIRAIに使われている。

レクサスLSは、先代まではアメリカではモデルチェンジ直後は3万台以上、モデル末期でも1万5000~2万台売れていた車種で、日本でもセルシオという名で年間1万台以上売っていた(日本でも2007年の先代からレクサスLSとして販売)。

しかし、このLSが2017年にTNGA-Lを用いた新型になってさっぱり売れなくなり、2020年のアメリカでの販売台数は3617台にとどまっている。日本でも1781台しか売れていない。LCもアメリカで1324台、日本で835台と低調だ。

LS/LCの日米以外の販売台数は非常に少ないと考えられる(欧州全体でLSが98台、LCが260台)ので、LS/LC合計で1万台以下だろう。MIRAIも水素で走る燃料電池車ゆえ販売台数はごく限られる。

つまり、TNGA-Lを使用する車はすべて足しても2020年は3万台強程度しか販売できていない。このまま大幅な改善が望めないと考えれば、大型のFR車の生産から撤退を考えてもまったく不思議ではない。

■「クラウン生産中止論」の背後にあるもの

実際、レクサスのFRモデルはLS/LCのほかにGSとISとRCがラインアップされていたが、GSは2020年に生産中止になり、ISとRCはフルモデルチェンジせず(つまりTNGA-Lを使っていない)、2013年にデビュー(RCは2014年)した旧プラットフォームのモデルをマイナーチェンジして継続生産している。

かつてはトヨタブランドの中核FR車だったマークⅡを引き継ぐマークXも、2019年に生産中止となっている。つまりトヨタはFR乗用車から撤収モードなのである。

レクサスの象徴であるLS/LCまでも生産中止にするかはわからないが、少なくとも採算はとれていないだろうから、TNGA-LのままLS/LCを継続するとすれば、それは商売ではなく、レクサスブランドの面子(メンツ)の問題である。

一方で、中大型FF車用プラットフォームであるTNGA-Kはカムリ、ハリアー、RAV4、ハイランダー、シエナ、レクサスES、レクサスNXなど多くの売れ筋車種に採用され、圧倒的な販売台数を誇っている。レクサスESだけ見ても、アメリカではLSの12倍の販売台数である。カムリに至ってはアメリカだけで年間30万台である。中国で発売されたクラウンSUVもこのプラットフォームを用いている。

こうした流れの中で「クラウン生産中止論」(=TNGA-L採用のクラウン生産中止論)が出てきたのではないかと私は睨んでいる。それではクラウンは中国市場のようにSUVやミニバンとして活路を見いだしていくのだろうか。

汎用SUV
写真=iStock.com/3alexd
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3alexd

■クラウンSUVの日本市場導入は「ない」

ここからは、私の個人的な予想をお披露目したい。

まずSUV化に関してだが、私は日本市場での導入はないと考えている。

クラウンは今までフォーマルなセダンとしてイメージされており、今でも法人需要が多いといわれている。SUVはパーソナルでカジュアルなものであり、セダンとは対極にある。SUVを出したところで今までのクラウンユーザーが買ってくれるとは考えにくいし、SUV指向層からするとちょっと堅苦しい感じのするクラウンブランドでは違和感を覚えてしまうだろう。

1年前の報道にあった「クラウンSUV化説」は中国での展開がリークされたものではないかと思う。

そうなると、今でも年間2万台以上の需要があるセダンのまま新型を作るのが順当である。コストを下げるにはTNGA-Kを使うというのが自然な流れで、レクサスESの車幅を日本の道路事情にあわせてやや狭めたようなモデルになると予想できる。

おそらく大部分のクラウンユーザーはFRであるかFFであるかはさほど気にしないと考えられるし、TNGA-Kのほうがサイズに対して室内を広くすることができるので、十分あり得ると思う。

■マツダ製FRセダン化の可能性

もう1つのセダンの可能性は、マツダが開発しているFRセダンのプラットフォームを活用する方法である。

マツダは直列6気筒エンジンを搭載した大型FRセダンの開発(エンジンもプラットフォームも新開発)を進めているが、マツダブランドだけでその投資に見合う販売台数を確保するのは難しいのではないか。提携先のトヨタにトヨタブランドのモデルを提供して生産量を稼ぐというのは大いにあり得る話である。

トヨタは販売台数が見込めないFRのスポーツカーは他社との提携によって作るという方針をとっており、スープラの中身は事実上BMWで生産はオーストリア、GR86もスバルが開発を主導し、生産もスバルで行っている。この流れから考えれば、マツダ製FRセダンは極めてあり得る話だと思う。

しかし問題はクラウンという「トヨタの魂」ともいうべきブランドを他社製のものにする決断ができるかどうかだ。そう考えるとこの可能性はほぼ無く、実現するとすればクラウン以外の新しいブランドか、次期レクサスISあたりだろう。

■クラウンの高級感を生かすブランド戦略

セダン以外の車型はどうだろうか。最も可能性が高いのは大型ミニバンであると考える。最近、都内を走っていると黒塗りのアルファードをよく見かける。VIP用の社用車や、ハイヤーとしてアルファードを使うケースがかなり目立ってきているためだ。

大型ミニバンはセダンよりも室内が広く快適であり、乗り降りも楽なのでこの流れはさらに加速していくだろう。そのような需要を満たすために、アルファードには超豪華な700万円以上する高級グレードもある。

ただしアルファードはあくまでミニバンであり、主力は400万円台でファミリーユースが基本で、外観上の差別化ポイントも少ない。

ここでアルファードとは一線を画すフォーマル感・高級感のあるクラウンブランドのミニバン(というよりリムジンと言うべきか)として登場すれば、見事にこの需要に嵌(は)まるはずである。そうすれば丸の内や永田町にクラウンバッジの付いた黒塗りの車が再びあふれるはずだ。

■カローラの復活に秘められたヒント

しかしながら、中国で発売されたクラウン・ヴェルファイアをそのまま日本に導入することはないだろう。まずヴェルファイアという車名はすでに存在しており、またヴェルファイアはアルファードよりスポーティなイメージであるためクラウンとの親和性が薄い。

中国のクラウン・ヴェルファイアもアルファードよりスポーティな装いである。それが中国人のニーズに合っているのだろうし、クルーガーと共にまだ中国ではブランドイメージが確立していないクラウンに若々しいイメージを与えたいのかもしれない。

日本でクラウンブランドを冠する場合は、ブランドイメージにふさわしくよりフォーマルで、かつベースは同じとしても既存車種とは明らかに異なるデザインとしなければならないだろう。

トヨタは、かつて圧倒的な販売台数を誇りつつも2017年には12位にまで落ち込んでいたカローラを、前モデルとはまったく異なるイメージのモデル導入でユーザー層も一新させ、2020年には3位に復活させることに成功している。

今までの流れに沿ったモデルとするのではなく、古くささも感じられるようになってしまったブランドを元のポジションに戻すためのモデルチェンジを行ったのだ。さらに2021年には現在の売れ筋であるSUVもカローラブランドに加えている。

■トヨタはカローラとクラウンのブランドは絶対に死守する

トヨタにとって、カローラとクラウンはトヨタを代表し象徴するまさに「魂」というべきブランドなのだ。今まで数多くの歴史ある車種ブランドが消滅し、現在の1チャネル体制ではさらに整理が進むかもしれないが、長年にわたってトヨタを代表するブランドであり続けたカローラとクラウンは絶対に死守するだろう。

山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)
山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)

存続させるだけでなく、カローラのリポジショニングと同様に、日本を代表する高級車としての存在感を維持強化するようにクラウンを変化させていくだろう。

カローラはグローバルブランドだが、現状では事実上国内専用ブランドであるクラウンも、すでに導入している中国市場などトヨタブランドの高級車のチャンスのある市場では、海外展開を推し進めていくのではないだろうか。

海外での主力はSUVとミニバンになるだろう。海外でのクラウンは日本におけるイメージとは違ったイメージのブランドになると思われる。

将来的にはそのイメージが日本に逆流することになるかもしれない。そしてその新しいブランドイメージこそが、トヨタが最終的に目指している新しいクラウン像なのかもしれない。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118d、1966年式MGBの3台を愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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