「長男だけ一族の墓に入れる」という理不尽…義妹と折り合い悪く墓に入れないシングル女性の苦悩
プレジデントオンライン / 2021年10月29日 11時15分
■おひとりさま「死後、私たちの安住の地はどこにあるのですか」
単身女性、いわゆる「おひとりさま」の墓問題が深刻である。
日本には単身女性が代々続く墓を継承しづらい慣習が残っている。近年、個人向けの永代供養や海洋散骨といったサービスが登場した。おひとりさまに便利な葬送のかたちだが、生前にあれこれ準備しておく必要があったり、コスト面での不安が生じたりすることもある。「死後、私たちの安住の地をどこに求めればいいの」。死後の環境が整っていないため、こうした悩みを抱えるおひとりさまは少なくない。
厚生労働省は2021年6月、「2020年の婚姻件数が52万5490組で戦後最少を記録した」と発表した。同省は、新型コロナウイルスの影響で結婚を先延ばしした可能性を指摘している。
生涯未婚率(50歳まで一度も結婚したことのない人の割合)は男性が23.4%、女性が14.1%(2015年国勢調査)と、こちらも右肩上がりに増加している。2035年には生涯未婚率は男性が30%、女性が20%に迫る勢いだ。
生涯未婚率は男性のほうが女性より10ポイントほど多いが、墓問題は女性がより深刻である。なぜなら、単身女性が墓の継承者になるケースがあまり見られないからだ。
私の寺では檀家が100軒(家)ほどある。単身女性の墓所継承を阻むような規定は設けてはいない。だが、おひとりさま女性が墓所の継承者になっているケースは1つもない。親族間での合意ができていれば単身女性が墓所を継承することは可能だが、実際にはそうはなっていないのだ。
それはどうしてか。わが国で多くの人の死後は、「イエ制度」に縛られてきた。長男一家であれば一族の墓に入れる。次男以下はイエを出て、新しい墓(家)をつくる。これは俗に「墓制度」とも呼ぶ。
■1898年に始まった墓制度が令和時代の今も実質続いている
墓制度の始まりは、1898(明治31)年に施行した旧民法で「系譜、祭祀及び墳墓の所有権は家督相続の特権に属す」と規定されたことによる。旧民法下では、家督相続人(一般的には長男)が墓を含む全財産を単独で相続していた。
それが、戦後の民法で、きょうだい・性別を問わず平等に相続できることになったのが、財産および祭祀継承権だ。たとえば、両親が亡くなった時、財産相続は原則、兄弟均等割である。
では、墓や仏壇はどうか。これら祭祀にかかる財産は、きょうだい間で二分割、三分割して相続、管理することは物理的に不可能だ。では、誰が祭祀継承権を相続すればよいのか。
民法では第897条にこう規定されている。
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が継承する」という条文がポイントである。慣習とは、地域における葬送文化や、先祖から受け継がれてきた伝統のことである。つまり、祭祀継承にかんしては、現在にいたるまで、事実上「長男が慣習に従って相続してきている」のである。実態としては戦前の祭祀継承のかたちと、なんら変わらないのである。
祭祀継承権を得た長男やその妻や子供は一族の墓に入ることができる。同時に、墓の管理料や法事にかかる費用などを負担することにもなる。
法律上、墓や仏壇は、きょうだいの誰でも婚姻の有無は関係なく継承できることになっているにもかかわらず。あるいは叔父や叔母、甥や姪、もっといえば、血のつながっていない知人関係でも一族の墓を継承することが、可能であるはずなのに。
しかも、単身女性は祭祀継承者になりにくいのに、単身男性の場合はなぜか一族の墓に入れるパターンが多いのも不思議である。
■「同じ墓に入りたくない」と義妹に言われお墓に入れない独身女性
いくつか具体的な事例を紹介しよう。あくまでも架空のケースであるが、類似のケースはしょっちゅうある。
【ケース1】両親を亡くした姉・山田A子さん(独身)と、弟・山田B夫(結婚して妻C美さんと子供がいる)さん。この場合、A子さんが山田家の墓を継承し、自身もその墓に入ることは可能である。だが、永続的に山田家の墓を護持していくには子供がいるB夫さんのほうが都合がよい。必然的に山田家の墓の継承者はB夫さんになり、B夫さんの死後はその妻や子供、孫へと引き継がれていく。
この時、A子さんとC美さん、あるいはA子さんからみて甥や姪との関係性が良好であれば、独身のA子さんは山田家の墓に入ることも可能だ。しかし、C美さんは、「A子さんは義理の姉で血のつながりがなく、同じ墓に入りたくない」という。結果的に、A子さんのほうが遠慮をし、独自に永代供養を探すことになる。
また、次のような例もよくあるケースだ。
【ケース2】鈴木D蔵さんには、2女1男(長女E子さん=結婚して子供がふたり、次女F子さん=バツイチで息子がひとり、長男G男さん=結婚して子供がひとり)がいる。この場合もやはり、長男であるG男さんが墓を継承することが多い。まず、E子さんは鈴木家の墓は継承しないのがほとんどだ。夫の家の墓に入るからだ。
F子さんには元夫がいる。しかし、元夫に後妻がいない限りは、元夫のほうの一族墓をふたりの子供のどちらかが面倒をみなければならない、などのややこしいことが考えられる。子供にとっては母と別れた父親方と、母親方の両方の墓に関わることになる。2つの両親筋のお墓を管理していくことはコストもかかる。結局、シンプルに墓地継承を考えた場合、G男さんが継承するのが最も現実的、ということになる。
墓問題は、男の目線ではあまり気づくことがないが、多くの女性にとっては心配事だ。これは、日本国中のありふれた問題なのだ。その根底には、江戸時代から継承されてきた檀家制度、血統を守ろうとする潜在的意識、ムラ社会の慣習、女性への差別的な見方などがある。
そうした中で、おひとりさま専用の永代供養個人墓の需要が伸びている。
■直系も傍系も、血縁のない知人・縁者も入れてあげる寛容さが必要
いまはやりの樹木葬などは、おひとりさまで入れるものが多い。こうした永代供養は(墓地管理者の規定にもよるが)生前に予約購入をしておくことで、本人の死後、たとえば23回忌とか33回忌の節目まではそこで供養してくれることが多い。契約期間が過ぎれば、合祀(不特定多数の遺骨を一緒に祀る墓に移動)される。
お墓に入りにくいおひとりさまの受け皿として、海洋散骨も人気である。現在、海洋散骨は全埋葬数のうち1%ほどを占め、将来的には2%ほどまで伸びていくと推定されている。おひとりさまの増加が背景にあると考えられる。
しかし本来は、単身女性は一族の墓に入るのがベストである。そうすることでコストも抑えられ、長い期間、供養を続けることができる。また、男女を問わず単身者は堂々と墓の継承者になるべきである。墓や法事にかかるコストは親族で分担し、親族全体で墓を護持していくのが理想的だ。
現代の墓問題は多くが、「イエの墓」という古い概念の継承意識と、きょうだいや親族仲に起因する。むしろ、後者の関係性が良好であれば、全てが解決する問題でもある。
先祖代々、受け継がれてきた墓ではあるが、直系傍系に関係なく、また、血縁のない知人・縁者も入れてあげるくらいの寛容さが、寺にも墓地継承者にもほしいと思う。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)。浄土宗正覚寺住職、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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