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「実は人類史上最大の感染症」心筋梗塞のリスクが約3倍になる"ある身近な病気"

プレジデントオンライン / 2021年10月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oneblink-cj

よく歯磨きをするだけでは歯周病は防げない。大阪大学大学院歯学研究科の天野敦雄教授は「歯周病は『史上最大の感染症』としてギネスブックに認定されており、全世界で患者は増え続けている。主な感染ルートは唾液感染で、食事のシェアやキスなど生活習慣のなかで感染が広がっている」という――。(第1回)

※本稿は、天野敦雄『長生きしたい人は歯周病を治しなさい』(文春新書)の一部を再編集したものです。

■歯周病は「人類史上最大の感染病」

2017年に厚生労働省が実施した「患者調査」によると、日本国内における歯周病の患者数は398万3000人。歯周病は今や400万人にとどく国民病です。

ただし、これは歯科で治療を受けている患者の数ですから、歯周病が未治療の人が多いことを考えれば、実際の数ははるかに多いことになります。歯周病が国民病なのは、万国共通。これが世界に向けてユニークな形で発信されたのは、21世紀に入ってすぐのことでした。

なんと、ギネスブックに「地球的規模で蔓延している、人類史上最大の感染症」として公式認定されたのです。登録されたのは2001年。そこには、「地球上を見渡しても、この病気に冒されていない人間は数えるほどしかいない」と記されました。それから20年経った現在も、歯周病の患者が減ったという報告はありません。

歯周病が感染症であるということは、歯みがきの仕方が悪い人だけがなる病気ではないということです。感染ルートで一番多いのは、唾液感染なのです。

キスやハグが日常的な挨拶になっている欧米では、「歯周病感染の主な原因はキスである」と歯科の教科書にはっきり書かれています。そう断定できるのは、彼らはそれ以外に他人の唾液が口のなかに入る機会がまずないからです。

ところが、日本はこれに当てはまりません。むしろ、唾液感染のリスクは日本特有の要因でさらに高まるからです。

■感染拡大の原因のひとつは「直箸」

飛沫感染でうつる新型コロナが広がった当初のことを思い出してみてください。注意喚起されたひとつが「直箸(じかばし)」だったのを覚えていらっしゃるでしょうか。

日本や中国などのアジアでは、大皿料理が中心で、鍋を囲む機会も多くあります。大皿料理を自分の箸でみんなに取り分ける。鍋料理に自分の箸を直接入れて、おのおのが具材をつつき合う。これを「直箸」といいますが、欧米にはない文化なのです。

みんなで食べる日本の鍋料理
写真=iStock.com/kazoka30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

つまり、こうした食文化の違いが日本における歯周病の感染リスクを高めているわけです。たとえば、自分が食べている箸やスプーンで子どもに食べさせる。パンやコロッケなど、自分がかじったものを家族や友達とシェアして食べる。

缶ジュースやペットボトルを回し飲みする。グラスの同じ場所から飲む、あるいは同じストローで飲む。これらもすべて唾液感染を起こす行為です。つまり、食生活のなかでごく普通にしてきたことが、じつは見方を変えれば唾液交換という感染リスクのオンパレードだったということなのです。

家族から移ることを家庭内感染といいますが、歯周病の家庭内感染は、こうした食事を介するケースがほとんどであることがわかっています。さらに、歯みがきに使う歯ブラシやコップなどを、家族や恋人同士で共用することも感染の原因になります。

■気づかないうちに家族や恋人に移してしまう

新型コロナは「ウイルス」、歯周病は「細菌」という違いがあるため、ウイルスのほうがわずかな飛沫で感染する可能性が高くなりますが、注意すべきポイントは同じです。

しかし、現状における歯周病の一番の問題は、歯周病菌に感染しても、新型コロナのように発熱などの症状が出るわけではないので誰も気づかないこと。そして、ほとんどの人は歯周病菌がこうした唾液感染で移ることを知らずに生活しているということです。

とくに親子間の唾液感染は、子どもの細菌叢の育成にもかかわってきます。歯周病は、自分が歯を失う可能性がある病気だけで終わらないのです。家族や恋人、友達など、あなたの大事な人に移してしまう可能性がある感染症なのです。その感染は、生活習慣や愛情表現をすることで起こります。だから治療をしないまま放置してはいけないのです。

■ペットとキスをしてはいけない

可愛い犬や猫は、大事な家族の一員。そう思って暮らしている方は多いと思います。

愛犬にペロペロと顔中をなめられて、「もう、くすぐったいんだから」と飼い主が楽しそうにしている姿は微笑ましく、よく目にする光景です。しかしこれは、私たち歯科医からすれば、もう笑っている場合ではない、「ちょっと待った!」と割って入りたくなるような状況なのです。

歯周病が感染症であること、キスでも移ることは、すでにお話ししてきた通りです。そして、もうひとつ、みなさんに知っていただきたいのは、これは、人間同士に限ったことではない、ということです。もうおわかりですね。

猫を抱き上げてキスをしようとしてる女性
写真=iStock.com/Tomwang112
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

もし、飼い主さんの顔をペロペロとなめているワンちゃんの歯周病菌が、その飼い主さんに移っている可能性が高いとしたら、逆に飼い主さんの歯周病菌がワンちゃんに移ってしまっているとしたら、さきほどと同じように微笑ましい光景に見えるでしょうか。

大阪大学歯学部小児歯科の隣の研究室が調査をした結果、ペットのなかでも、犬と猫には人間の歯周病菌と同じくらい、病原性が強い歯周病菌がいることが明らかになっています。つまり、犬や猫にも歯周病があるということです。

そして、それは同じように唾液感染で移ります。人間同士、動物同士だけでなく、人から動物へ、動物から人へ移る感染もあるということです。ただし、犬の歯周病菌は、人間の歯周病菌とは種類が違います。ですから、相互感染していたとしても、どちらから移った菌なのか、感染ルートがわかるのです。

■飼い主とペットが歯周病菌をシェアしている場合も

前述の研究室では、大阪大学の周辺で犬を飼っている家庭の協力を得て、飼い主と犬の歯周病菌の調査を行いました。検査をしたのは、飼い犬・全66匹。そのうち7割の犬から歯周病菌が検出されました。続いて、この66匹の飼い主の口のなかの細菌検査を行いました。

すると、そのうち16%の飼い主から、犬と同じ歯周病菌が検出されたのです。つまり、愛犬から毎日のように顔をペロペロとなめられていることで、愛犬の歯周病菌が飼い主に移されたということです。

しかも、それだけではありません。この飼い主の6割の人たちは、もともと歯周病があり、ジンジバリス菌という最も悪性度の高い歯周病菌をもっていました。このジンジバリス菌が、14%の飼い犬から検出されたのです。

この66匹のなかには飼い主の顔を毎日なめていることで、飼い主から歯周病菌を移されてしまった犬もいたのかもしれません。これで、ペットと飼い主(イヌとヒト)は、歯周病菌をお互いに融通し合っているという悲しい現実が証明されたことになります。

年を取ると、歯周病がふえていくのは、人間も犬も同じです。成犬となり、4歳を過ぎるころから歯周病が見つかりはじめる。やがて7歳の老犬になると、口のなかにはほぼ100%歯周病菌が存在するといわれています。

ですから、いくらペットが家族同然だとしても、愛犬、愛猫には自分の唇を絶対に許してはいけません。それが愛するペットのため、飼い主であるあなたのためでもあるのです。

■歯ぐきからの出血は危険信号

ここまで歯周病が生活習慣病であり、感染症でもあることをお話ししてきました。歯周病は歯ぐきの炎症が進むと完治がむずかしくなり、最後には歯がドミノ倒しのように次々と抜け落ちてしまう。これは、健康寿命にかかわる大きな問題です。しかし、歯周病の本当の怖さは、それで終わらないことなのです。

歯ぐきから出血が起きると、歯周病菌は全身に広がるようになります。それがきっかけとなり、歯とはまったく関係のない重大な病気が起こりやすくなってしまうのです。そこには命にかかわる病気も数多く含まれます。

自分が歯周病であることに気づかないまま今も放置している人は、将来的に自分の歯がなくなる可能性が高いだけでなく、そういった別のさまざまな病気のリスクも上がり続けているということになります。

歯周病と全身の病気との関連性は、現在も世界中で研究が進んでいるところですが、まだすべてが解明されているわけではありません。なぜその病気が起きるのか、すでに科学的に明らかになっている病気と、関連があることはわかっていてもその因果関係までは明らかにされていない病気もあり、それらを合わせると、100種類を超えるとも言われているのです。

■心筋梗塞のリスクは約3倍に

この事実を広く知ってもらおうと、日本歯科医師会では、患者さんに向けたビデオを作成しています。すでに歯科の外来で歯科衛生士さんから定期メンテナンスを受けている方は、ご覧になったことがあるかもしれません。

天野敦雄『長生きしたい人は歯周病を治しなさい』(文春新書)
天野敦雄『長生きしたい人は歯周病を治しなさい』(文春新書)

このビデオのなかでは、歯周病菌に感染したまま放置するとどうなるのか、全身の病気のリスクがどれほど高くなるのかが簡潔にまとめられています。ざっとご紹介すると、「心筋梗塞のリスクは2.8倍に、脳卒中の罹患率は20%ふえ、早産のリスクは7倍に上がる。

また、歯周病は糖尿病の合併症でもあり、膵がんのリスクは1.6倍になる。さらに、歯周病があると脂肪がふえて太りやすくなる、高齢者の死因で多い誤嚥(ごえん)性肺炎との関連性も高い」というショッキングな情報が詰め込まれています。

多くの人があまり気にせずに放置している歯周病は、これほどさまざまな病気を引き起こす可能性が高いのです。

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天野 敦雄(あまの・あつお)
大阪大学大学院歯学研究科教授
1984年大阪大学歯学部卒業。1992年ニューヨーク州立大学バッファロー校歯学部博士研究員、1997年大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部講師を経て、2000年大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座先端機器情報学教授。2011年より現職。2015年〜2019年大阪大学大学院歯学研究科長・歯学部長。2021年日本口腔衛生学会・理事長。著書に『天野ドクターの歯周病絵本 バイオフィルム公国物語』、『歯科衛生士のための21世紀のペリオドントロジー ダイジェスト』(いずれもクインテッセンス出版)、『長生きしたい人は歯周病を治しなさい』(文春新書)などがある。

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(大阪大学大学院歯学研究科教授 天野 敦雄)

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