無謀運転の相次ぐ「電動キックスケーター」をこのまま野放しにしていいのか
プレジデントオンライン / 2021年10月28日 15時15分
■フランスでは2019年より「歩道走行禁止」に規制強化
「電動キックスケーター」の交通違反や事故が増えている。電動キックスケーターとは、前後に車輪の付いた板に立ち、バッテリーによるモーターで動く、ハンドルのある立ち乗り2輪車のことだ。
自転車よりも軽く、簡単に折り畳んで電車に持ち込めるなど利便性が高い。量販店では3万円程度で買うことができ、街中で手軽に乗れることから若者に人気がある。コロナ禍で公共交通機関の利用を避ける乗りものとしても注目を集めている。
だが、交通違反や事故が絶えない。たとえば、東京都内での事故の件数は1月~8月の8カ月間で39件。大阪府内での事故も昨年は1件だったのが、今年は8月までに8件だった。日本より早く普及し、200万人以上の利用者がいるフランスでは、2019年に利用者を12歳以上に限り、歩道での走行を禁止するなど規制を強化している。
なぜ違反や事故が相次いでいるのか。電動キックスケーターは道路交通法上、原付バイクに分類される。このため運転するには免許や自賠責保険への加入が必要だ。公道を走るためのヘッドライトやサイドミラーといった安全装置も欠かせない。ヘルメットの着用も求められる。それにもかかわらず、「免許やヘルメットがいるなんて知らなかった」という利用者が後を絶たないようだ。
■「規制緩和」の方向で議論は進んでいるが…
このため、警察庁は取り締まりを強化する一方、昨年7月からは有識者による検討会をスタートさせ、電動キックスケーターなどの「小型電動モビリティー」(移動・輸送手段)の交通ルールの在り方を議論し、今年4月には中間報告をまとめた。
その中間報告では、小型電動モビリティーを3つに分類している。
②サイズが自転車と同じで時速15キロ以下のものは、運転免許が不要の「小型低速車」として自転車専用レーンでの走行を求める。
③時速15キロ以上は「原付きバイク」と同じ扱い。運転免許やナンバープレート、ヘルメットの着用を求め、車道しか走れない。
この記事で問題にしている電動キックスケーターは②に相当する。ただし、「時速15キロ以下」との条件が付き、現状では運転免許やヘルメット着用などが必要だ。
警察庁は来年3月までには最終報告をまとめるという。事態がややこしいのが、国土交通省、経済産業省、警察庁が、東京や大阪など全国9都府県の一部地域で昨年10月から「規制緩和の実証実験」を始めていることだ。
■「実証実験の開始」は拙速だったのではないか
実証実験では認定事業者のものに限って自転車専用レーンでの走行を認め、ヘルメット着用も任意にしている。東京や大阪などの一部地域では、特定の貸し出し場所を設けて共用の実証実験が行われている。
このため全国各地で電動キックスケーターの規制が緩和されたと思い込んでいる利用者が多いようだ。事実、都内では違反や事故が続いている。
すでに海外で電動キックスケーターはブームになっていたが、事故などが相次いだことから、規制強化に踏み切る国が目立つ。そもそも遅れて導入して、規制緩和を議論するという日本の動きは、こうした流れと逆行するものだった。実証実験の開始は拙速だったのではないだろうか。
認定事業者はすでに設備投資を済ませている。事業継続ができなくなれば、そのまま損失になるだろう。中国で「シェア自転車」が大量に廃棄されたことは記憶に新しい。保守的といわれるかもしれないが、「やってみて、ダメならやめればいい」という姿勢は、日本社会には不向きではないだろうか。
■読売社説は「利用者にルールが周知されていない」と指摘
読売新聞は「運転マナーとルールの周知を」という見出しを付け、10月12日付の社説で電動キックスケーターについて取り上げている。
読売社説は「手軽な移動手段として利用者が急増する電動キックスケーターの事故や違反が相次いでいる。運転マナーやルールを周知し、安全の確保に努めることが不可欠だ」と書き出し、「無免許運転や信号無視などのほか、猛スピードで歩道を走る人らが後を絶たない。警察の警告件数が昨年の10倍以上になっている地域もある」と指摘し、こう分析する。
「トラブル増加の背景には、利用者にルールが周知されていない状況があるのだろう」
その通りだろう。重要なのは周知の徹底である。現状ではそれが不足している。
さらに読売社説は「人にケガを負わせる事故も目立っている。歩道で歩行者と衝突し、重傷を負わせて逃げたとして、運転者が逮捕されたケースもある。警察や自治体は、利用者にルールを周知し、運転マナーを守るよう呼びかけることが重要である」と訴える。
■販売業者のモラルが大きく問われている
読売社説は販売業者に対し、「必要な装備がないと一般の道路を走れない商品なのに、十分な説明をせずに売っている業者もいる。留意事項の記載や説明を必ず行うようにしてほしい」と求める。
儲かればそれでいいではすまない。時速15キロ以下としても、不意に衝突されれば大きな事故になる。まずは販売の際に運転免許がいることなどをきちんと伝えるべきである。販売業者のモラルが大きく問われている。
読売社説は「警察庁は現在、歩道走行は引き続き禁止するものの、年齢制限を設け、時速15キロ以下なら免許やヘルメットがなくても運転できるようにする方向で検討している」と書いたうえで、こう主張する。
「日本で免許を持たない人の運転を認める場合、安全がないがしろにされては本末転倒だ。事故が起きないようなルール整備と安全教育の充実が大切である」
利便性を追及するうえで遵守しなければならないのが安全である。安全教育なしに導入されるのでは危ない。小学校の授業などで交通マナーやルールを教え、その中で電動キックスケーターについても安全な乗り方を教えるべきだ。
■「安全最優先の新たなルールが必要だ」と毎日社説
7月20日付の毎日新聞の社説も「電動キックスケーター 安全最優先のルール必要」との見出しを掲げ、冒頭部分で「これまで想定されていなかったタイプの乗り物だ。利便性とのバランスを取りながら、安全性の確保を最優先にした新たなルールが必要である」と主張する。
毎日社説は「課題も多い。免許がいらないとルールを軽視しがちになる。自転車を巡る現状が示している」と指摘し、こう書く。
「交通事故全体に占める自転車事故の割合は、近年増加している。昨年起きた事故の65%は自転車側に交通違反があった。歩道で歩行者と接触する例も後を絶たない」
自転車は減点対象となる免許証がないからどうしても違反が増える。
毎日社説は自転車の利用に対し、「まずは安全教育が大切だ。年代に応じ、さまざまな機会を捉えて実施する必要がある。違反の取り締まりも重要になる」と指摘するが、自転車も電動キックスケーターも同じだろう。安全教育と違反取り締まりをそれぞれ両輪に据え、少しでも事故を減らしてくことが求められる。
毎日社説は「増える通行車両に対応できるよう、自転車レーンの整備も進めるべきだ。これまで以上に路上駐車対策が不可欠になる」とも指摘するが、電動キックスケーターが自転車専用レーンを走行することになるのであれば、整備と増設はなおさら必要だろう。
さらに毎日社説は「体が不自由な人向けの電動車をはじめ、今後も新たな乗り物は登場してくる。自動配送ロボットなど輸送手段の開発も進んでいる」と書き、最後にこう主張する。
「限られた道路スペースを共有しつつ、それぞれの特性を生かす仕組みが欠かせない。そのためには自動車を優遇してきた道路政策から改めなければならない」
考えてみると、道路ほど私たちの生活に密着したものはない。それにもかかわらず、車社会の中で自動車の優遇が図られてきた。これからは毎日社説が書くように輸送や移動の手段も多岐にわたる。都市計画の整備や道路交通法の改正など道路政策の改善が求められるのは当然だろう。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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