リストラで真っ先に狙われる…年収が市場価値より100万~300万円も高い「過払い社員」の"典型的な行動"
プレジデントオンライン / 2021年10月29日 11時15分
■約7割「直近1年で報酬に見合う成果を出していない社員がいる」
コロナ禍で人々のコミュニケーションの総量が減少している。
特に企業活動においてリモートワークが主流になったことに伴い、対面での会話が激減しているからだ。上司や経営者の中には、部下が本当に仕事をしているかわからないため、目に見える成果をより厳しく問いたくなる人も多い。
実際、コロナ禍で社員が報酬(給料)に見合う仕事をしているかどうかを点検しようという動きも活発化している。
「あしたのチーム」が従業員300人未満の企業の経営者・管理職を対象に実施した調査で「直近1年で報酬に見合う成果を出していないと思う社員がいるか」を聞いている(2021年2月17日)。
それによると「いる」と回答した経営者が62.7%もいた。管理職に対する同じ質問では「いる」が68.0%と高い。日頃から部下と接している管理職はより厳しい目で見ていることがわかる。
また、「報酬(給与)以上の成果を出していると思う社員はいるか」という質問では経営者の76.7%が「いる」と回答。管理職も71.3%が「いる」と答えている。
コロナ禍で期待以上の成果を出している社員もいる一方で、成果を出せないで給料をもらいすぎている“過払い社員”も一定数存在する。会社が大変なときに給料に見合う成果を出さない社員に対し「こいつを辞めさせたい」という思いが頭をよぎっても不思議ではない。
経営者に「コロナ禍で成果を出さない社員を解雇したいと思ったか」も聞いている。それによると「とても思う(思った)」と回答した経営者は9.3%、「まあ思う(思った)」が33.3%。あわせて42.6%と半数近い経営者が給料の過払い社員に辞めてもらいたいと感じている。
実際に辞めさせるかどうかは別にしても希望退職者募集などのリストラの現場では、一般的に仕事の成果以上に給与が高い社員がターゲットにされている。
人事コンサルティング会社フォー・ノーツの西尾太社長もこう指摘する。
「本人は得をしていると思っているかもしれませんが、経営者や人事から見て年収が高いなと思われる人は危険です。市場価値に比べてもらいすぎている人ほどリストラの候補になりやすいからです。もらいすぎている年収額が100万円の人より200万円、300万円と多くもらっているほどリストラの危険度が高まります」
■年収が100万~300万円も高い…もらいすぎの“過払い社員”が54%
では、年収をもらいすぎている過払い社員はどれぐらいいるのか。フォー・ノーツが独自に開発した「年収評価アプリ」を使って調査した約2000人のビジネスパーソンの回答データを分析している(2021年9月16日)。
年収評価アプリとは、同社の過去400社超の人事コンサルティングと1万人超の採用・昇格面接・研修実績から導き出した「ジョブサイズ理論」(影響力の大きさや責任範囲、専門性の高さなど「総合的な仕事の大きさ」を表す指標)に基づいて質問し、回答者の年収を予測したものだ(ジョブサイズ理論については西尾社長の著書『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』=星雲社に詳しい)。
つまり、市場価値(ジョブサイズ年収)と回答者の現在の年収(申告年収)との差額がわかる。
それによると現在年収が市場価値を上回る、もらいすぎの人が54%もいた。一方、現在年収が市場価値を下回る人が40%、現在年収と市場価値が一致する人が6%だった。
ではどのくらいもらいすぎているのか。100万円以下が最も多く300人(調査数約2000人)、100万円以上200万円以下が200人超、200万円以上300万円以下が150人もいる。
過払い社員とはどんな人物像なのかも気になるところだ。
![一万円札](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/250/img_de8077b04bf7163ca2126a8e07029cfd343270.jpg)
人事部社員がしばしば指摘するのは、年功序列賃金の恩恵を受けている、特に50代以上の働かないバブル世代に多いということだ。また、それより若い世代でも働き方がルーズな社員に目立つ。物流会社の若手社員はこう語る。
「倉庫に荷物が届くと、配送の仕分けを全員でやらなければいせませんが、40代の主任は、いつも何もしないで『お前たちでやってね』と言って、作業が終わるまで事務所で座って待っているだけです。自分がやるべき仕事をしないでサボって、若手に負担を背負わせて自分は楽をしている。ウチは年齢給なので給与が高い上に主任手当もある。はっきり言ってもらいすぎだと思います」
自分の仕事を極力減らし、部下に丸投げし、やるべき仕事をしないで結果的に部下に疎まれる。上に知られるのは時間の問題だろう。
こうした根腐れしたような人たちは西尾社長が指摘するようにリストラの危険度が高い人だと言える。200万円以上ももらいすぎている人は、おそらくそれに見合う成果を出していないことを薄々気づいているかもしれない。決して安閑としていられないだろう。
■リストラ危険度の高いもう一つのタイプは「頑張っているつもり」の人
ここまで見てきた過払い社員は、成果がイマイチなのに報酬が高い人であり、人事評価のどこかが間違っているケースだ。
一方、今回の調査では、もうひとつのリストラ危険度の高いタイプも判明した。
それは、本人はそれなりにやっているつもりでも「成果が出せず報酬が少ない」タイプ。こちらは正当に評価された結果だ。では、このもうひとつのタイプは具体的にはどんな人物か。
![談笑しながら歩くビジネスパーソンたち](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/5/670/img_e587e1e9856ad6ed89fabec0f74a5c08384914.jpg)
前出の調査では、「仕事の姿勢」に関する質問の回答には以下の4つの選択肢があった。そして高年収の人と低年収の人とで、回答に明確な違いが見られた。
選択肢は以下4つだ。
1.自ら仕事を作り出し、周囲を巻き込む
2.指示されなくても、自分のすべき仕事を率先して行い、上司にも評価されている
3.指示された仕事をきちんとこなしている
4.該当するものはない
あなたはどのタイプだろうか。1と回答した人は年収850万円以上の人に多く、年収450万円未満で最も少ない。一方、3と回答した人は年収450万円未満が最も多かった。この結果について西尾社長はこう指摘する。
「3の『指示された仕事をきちんとこなしている』とは、言われたことを言われたとおりにやっているだけです。『言われたとおりにやっていて何が悪いんですか?』と言う人に限って年収が低いということです。指示されなくても自分から仕事を作り出し、周囲を巻き込んでいく人でなければ年収が上がることはありません」
■「報告・連絡・相談」を抜かりなくやっている人もアブナイ
次に明確な年収差が表れたのが「自己学習」のあり方だ。あなたは以下の4つのどれに当てはまるだろうか。
2.明確な将来像を持ち、「自身の業務」についての知見を増やすために継続的な学習をしている
3.明確な将来像は持っていないが、自身の能力を伸ばすため学習し他者へのアドバイスを求めている
4.該当するものはない
顕著な年収差を確認できたのは1と3の回答者だ。
年収850万円以上の人が最も多く選択したのは1。逆に年収450万円未満の人が最も多く選択したのは3と4だった。西尾社長は高年収者と低年収者の決定的な違いは「明確な将来像を持っていないこと」にあると言う。
「将来像とはキャリアプランを立てたり、課長や部長になりたいという意欲を持ったりしている人。将来像を持っていない、今日と同じ明日、明日と同じ明後日ぐらいに思っている人は、年収は上がらないということです。逆に明確な将来像を持っている人であれば、それに向けて自ずと勉強や情報収集をするでしょう」
世の中ではキャリアアップのためのリカレント教育やリスキリングが流行しているが、キャリアアップ志向の人は当然、将来像を描いているだろう。
ところが日本生産性本部の「第7回働く人の意識調査」(2021年10月21日)によると、自分自身のキャリアプランを持っているかについて、68.2%の人が「特に考えていない」と答えている。ということは約7割の人たちは年収450万円に甘んじざるを得ないということになる。
そのほかの質問では「情報発信・プレゼンテーションの影響範囲」について「所属部署や重要顧客に影響を与える情報発信・プレゼンテーションをしている」と回答した人が年収850万円以上の人に多く、「上長への報告・連絡・相談をしている」と回答した人は年収450万円未満の人に多いという傾向が出ている。
![オフィスでミーティング中](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/b/670/img_9b9822b467fcc23796a6d2a91c6abe3a433146.jpg)
西尾社長は「会社によっては企画・提案やプレゼンテーションの機会を与えていないところもありますが、30歳前後になったらどんなに小さな改善提案でもいいので企画・提案やプレゼンを自分で率先してやるようにしないと成長しないでしょう。報・連・相を適切にやっているぐらいではダメだということです」と語る。
■年収600万円なら、1800万円の売り上げでトントン
以上の調査結果をまとめるとこうなる。
・年収が低い人は、明確な将来像がなく、指示された仕事はきちんとこなしているが、周りに影響を与える情報発信や企画の提案もせず、報・連・相だけやっている人
こうしてみると能力や努力の有無によって年収が違ってくるのは至極当然という気がする。
もちろん、ビジネスパーソンの中には「年収850万円なんていらないし、管理職にもなりたくない」という人もいるかもしれない。
しかし、それでも生活していくためには相応の収入が必要になる。たとえば夫婦で子ども2人を育てていくには年収600万円程度は必要だろう。
一営業担当者として600万円を稼ぐには、一般的に年収の3倍の粗利を稼げと言われる。600万円なら1800万円の粗利。売る商材の粗利率が3割だとすれば約6000万円の売り上げがないと、年収600万円を稼ぐのは厳しくなる。
また年収600万円は中堅企業の課長職の年収に相当する。
「課長であれば5~6人の部下を率い、目標の個人ごとの設定と計画達成に向けた進捗管理などのマネジメントに加えて、部下の育成もしなければいけない」(西尾社長)
一担当者として成果を出し続けていくか、あるいはがんばって課長にならない限り年収600万円には手が届きそうにない。いずれにしても今までの仕事に対する姿勢や考え方を大きく変える必要がある。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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