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「公約はアテにならない」次の世代に日本を引き継ぐため選挙で判断基準にすべきこと

プレジデントオンライン / 2021年10月29日 15時15分

衆議院解散、衆議院選挙に向けて、事実上の選挙戦に入る=2021年10月14日 - 写真=AFP/時事通信フォト

10月31日投開票の衆議院選挙について、岸田文雄首相は「未来選択選挙」と呼んでいる。国際政治学者の六辻彰二さんは「本当に未来を選択するのであれば、保守的な長老議員による成り行き任せの政治をこれ以上続けるべきではない。無責任な公約よりも、候補者の過去の言動を判断基準にしたほうがいい」という――。

■日本の投票率がなかなか上がらない理由

衆議院選も大詰めを迎えるなか、コロナ対策などをめぐって有権者の関心も高いようだが、日本では慢性的に棄権率が高い。「だれに投票しても同じ」という無力感や無関心は、結局のところ当選する顔ぶれがあまり変わらないことに原因があるのかもしれない。

実際、諸外国と比べて日本では議員や閣僚の高齢化が目立つ。同じ顔ぶれの年長男性が仕切る「長老政治」は、よくいえば一貫性や連続性を保ちやすいが、その反面で「成り行きまかせ」「なし崩し」を生みやすいともいえる。

「なんとなくおじさんが多い」と思われがちな議員には、本当におじさんが多いのか。以下ではまず、日本の議員の年齢構成をみてみよう。

『国会便覧151版』を用いて、解散直前の今年8月段階の衆議院議員に絞って算出すると、その平均年齢は58.4歳だった。ちなみに最年長は自民党の伊吹文明氏(83)で、最年少はやはり自民党の鈴木貴子氏(35)だった。

平均年齢58.4歳というのは、他の主要先進国やアジア諸国と比べても高い水準だ。各国の議会が参加する列国議会同盟(IPU)のデータベースで、主な国の下院議員をみてみると、

・米国 58.4歳
・英国 51歳
・フランス 49歳
・ドイツ 47.3歳
・イタリア 44.25歳
・韓国 54.9歳
・シンガポール 48.3歳

全くの偶然で米国と同じだったが、それを除くと日本の衆議院議員の平均年齢の高さがうかがえる。

■衆議院議員の半分以上が「おじさん」

次に、年代別と性別の分布でみると、衆議院の「おじさん率」がより鮮明になる。衆議院議員に占める50代男性は29.7%、60代男性は23.2%で、その合計は52.9%にのぼった。

この点で他の国と比べると、

・米国 21.3+20.4=41.7(%)
・英国 18.9+11.5=30.4(%)
・フランス 18.9+9.0=27.9(%)
・ドイツ 19.9+8.0=27.9(%)
・イタリア 14.8+5.2=20.0(%)
・韓国 50.8+17.2=68.0(%)
・シンガポール 22.1+7.4=29.5(%)

こうしてみると、ダントツ一位は6割を超える韓国に譲るとしても、衆議院の52.9%も世界屈指といって差し支えない。ちなみに、議員の平均年齢で日本と同じだった米国では、女性の割合が日本より高いため、議会下院の「おじさん率」は4割程度にとどまる。

■岸田内閣は「老害」から抜け出せたのか

大臣クラスの閣僚に絞ると、この傾向はさらに強くなる。自民党総裁選挙では、しばしば「老害」とも批判された二階幹事長(当時)を念頭に「風通しのよい党にする」と主張した岸田氏だったが、総裁選後に発足した岸田内閣の平均年齢は61.8歳で、菅内閣発足時の60.4歳よりわずかだが高くなった。

これに対して、日本と同じく、内閣が基本的に議員で構成される議院内閣制を採用する主な国をみてみると、いずれも50代だ(ドイツの数値は8月段階のメルケル政権のもの)。

・英国 50.1歳
・ドイツ 55.9歳
・シンガポール 57.8歳

大統領制の米国では閣僚は議員でないが、参考までにみておくと、バイデン政権のもとでの平均年齢は52.76歳だった。米国の下院議員は日本の衆議院議員と平均年齢で同じだったが、閣僚に関しては米国のものが日本より10歳近く若いことになる。

米国上院議事堂
写真=iStock.com/drnadig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/drnadig

次に、閣僚に占める50~60代の男性の割合をみてみよう。岸田内閣は71%、菅内閣は66%と、いずれも衆議院平均52.9%を大きく上回った。

これに対して、やはり議院内閣制の国では、

・英国 53%
・ドイツ 26.6%
・シンガポール 75%

シンガポールが日本をわずかに上回るものの、日本が閣僚の「おじさん率」で多くの国を上回ることも確かだ。ダイバーシティ(多様性)が強調される現代にあって、日本の閣僚にそのトレンドはほぼ関係ないようである。

ちなみに米国では、ハリス副大統領などの女性や、39歳のブティジェッジ運輸長官をはじめ30~40代も多いため、閣僚に占める50~60代の男性の割合が36%にとどまった。

また、やはり大統領制の韓国では、閣僚の平均年齢が60.25歳で、そのうち50~60代男性の割合は75%にのぼり、日本とほぼ同じ水準だった。

■党内で力を持つ年長議員に偏る仕組み

なぜ日本の議員には、多くの国に比べても50~60代の男性が目立つのか。そこにはいくつかの原因が考えられる。

まず、文化の問題だ。「年長男性を前面に立てれば格好がつく」という考え方は、PTAやマンションの自治会など我々の日常生活でも珍しくない。そのため、議員の「おじさん率」の高さは有権者の志向の問題でもある。欧米と比べて、韓国やシンガポールでも議員や閣僚に50~60代男性の割合が総じて高いことから、これは日本を含むアジアに根強い文化といえるかもしれない。

ただし、政治にも原因はある。日本では地盤、看板、カバン(資金)のいわゆる「三バン」を背負った二世、三世議員が多く、ここでも血統やイエといった伝統的な価値観が根強い。二世や三世は代替わりのタイミングで30代、40代でも議員になりやすいが、世襲候補が多くなれば、新しい力が出てくることは難しい。

これを後押ししているのが、選挙制度の問題だ。近年では政党助成金を分配する政党の権限が強くなり、知名度や資金力のある一部の議員を除けば、小選挙区制でも比例代表制でも候補を公認する政党の影響力が強くなる。結果的に、すでに地歩を固めている年長者が党内の公認獲得レースで有利になりやすい。

政党内部の力学は、議員の公認だけでなく閣僚の人事にも影響してくる。自民党一強といわれながらも、閣僚の顔ぶれは各派閥の力関係を反映したものになりやすい。そのため、それぞれの派閥からそれなりの経験と実績のある議員をピックアップするとなると、どうしても年長男性に偏りやすくなる。

こうした条件の積み重ねが、世界でも屈指の長老政治を生んできたといえる。

■長老政治が日本から奪ってきたもの

それでは、長老政治は日本にどんな影響をもたらしてきたか。「安定」のもとでさまざまな要求が抑えられやすいことの象徴は、女性の社会進出が大きく改善してこなかったことだ。

ジェンダー差別
写真=iStock.com/taa22
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taa22

世界経済フォーラムが毎年発表している男女平等指数(グローバル・ジェンダー・インデックス)の2021年版で日本は156カ国中120位だった。これは先進国の最低レベルで、女性の社会参加が制限されやすいイスラム圏のアラブ首長国連邦(77位)やインドネシア(101位)より低い水準だ。

日本の場合、「経済的機会」や「政治進出」の項目が全体の足を引っ張っている。実際、今回の解散直前の衆議院議員に占める女性の割合は10.2%に過ぎなかった。

欧米の多くの国では一定程度の議席を女性に配分する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)が導入されているが、日本では主に年長男性議員の反対から実現に至っていない。そこには「枠を設けることは自由な競争を阻害する」「男性議員が多いのは有権者の選択の結果」という言い分があるが、もともと有利な条件で参加する者がレースで勝ちやすいことは当然だ。「自由競争は独占を生む」という古い格言は、ここでも生きている。

世界経済フォーラムの指数は「属性にかかわらず能力を発揮できる環境が競争力につながる」というコンセプトに基づいている。とすると、注意すべきは若ければいいとは限らないことだ。むしろ、若いからいい、年長だからダメと決めつけることは、若いからダメ、年長だからいいと断定するのと同じように、本人の能力や適性を無視したものだろう。

この観点から、長老政治の問題は、意志決定が特定の属性に偏っていることにあるといえる。それは日本の競争力に黄信号を灯しかねないのだ。

■保守的で成り行きまかせの長老たち

実際、一般的に年長男性が安定志向、現状維持に傾きやすいのは日常生活で感じられるだけでなく、学術的にも多くの研究がそれを示している。

リーダーシップに詳しい米コロンビア大学の心理学者シャモロ=プレムジック(Tomas Chamorro-Premuzic)教授は、多くの臨床結果を踏まえて、個人差はあるとしても年齢を経るごとに知的好奇心が衰えやすく、それは新しい出来事や異なる者への寛容度を低くすると指摘する。要するに年長者ほど保守化しやすいというのだ。

心理学だけではない。筆者が専門にする地域の一つであるアフリカでは、開発経済学の観点から農村における年代別の家長の決定について実地調査が数多く行われてきたが、その報告の多くは若い世代の家長ほど新しい農業技術や作物の導入に熱心であることを明らかにしている。

だとすると、年長男性に偏った意志決定は、それまでの経緯を踏まえた一貫性や連続性を高めるとしても、大胆なチャレンジを難しくしやすいといえる。この観点から日本政治をみれば、新しい時代を自分たちで切り拓こうとするより、時代の変化に渋々ついていく「成り行き」や「なし崩し」が基本になることは不思議でない。

■デジタル庁創設は菅政権の「英断」とはいえない

近年の日本を振り返っただけでも、成り行きに左右される決定は数多く見出せる。

例えば、菅政権に関しては、ワクチン接種の遅れなどコロナ対策で批判の集中砲火を浴び、わずか一年で退陣を余儀なくされたが、その後になって「実は公約の多くを実現させた有能な首相だった」「コロナで押し流されたが、大きな決断をいくつもした」といった評価もよく聞く。こうした論者の多くは、とりわけデジタル庁の創設を菅政権の功績としてよく取り上げる。

しかし、デジタル庁の創設を「菅氏のリーダーシップ」といった文脈でのみ語るのは、国外にほとんど目を向けていない、視野の狭い議論といえる。

世界で最も長い歴史を持つビジネススクールであるESCPビジネススクールは、デジタル産業のスタートアップの簡便さや現役世代のデジタルスキルなどに基づき「デジタル勝者ランキング」を毎年発表しているが、その2021年度版で日本は主要先進国(G7)中、最下位の7位と評価された。さらに、G7に中国などの新興国を加えたG20では18位にとどまった。つまり、デジタル化で日本はかなり出遅れている。

G7国旗
写真=iStock.com/Vector
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vector

これを踏まえれば、デジタル庁の創設は、これまでほとんど放置してきた結果、いかんともし難いビハインドを突きつけられ、ようやく手をつけた所産といえる。それは何もしなかったよりはいいだろうが、少なくとも「英断」や「リーダーシップ」といった文言で飾って済ませられるものではない。

■脱炭素でも国際社会に後れを取っている日本

菅政権が打ち出していたもう一つの目玉、脱炭素も基本的には同じだ。

昨年10月、首相としての所信表明演説で菅氏は「2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする」と表明し、その後「2030年までに2013年と比べて温室効果ガス排出量を46%削減する」中期目標も打ち出された。これだけみれば、菅氏のリーダーシップが発揮されたようにも映る。

しかし、これとて国際的な動向を踏まえれば、成り行きまかせの決定だったといえる。

世界的自動車メーカー、メルセデスが2017年に「2022年までに全ラインナップを電動化する」と発表したことに象徴されるように、欧米ではいち早く脱炭素に向けたシフトチェンジが進んできた。これに対して、既存の省エネ技術に優位のある国内自動車メーカーの消極的な反応もあって、日本では電気自動車の普及などが遅れがちだった。

■長老政治のままで日本の未来はあるか

ところが、米国で地球温暖化そのものに懐疑的なトランプ政権が退場し、温暖化対策に熱心なバイデン政権が誕生したことで、欧米と日本の温度差がこれまでになく鮮明になった。だから、少なくとも形式的には欧米のトレンドに合わせた、というのがコトの経緯だ。そこには次の時代への展望も開拓精神も見受けられない。

一部の論者が「有能さ」を高く評価する菅政権ですらそうだったとすれば、他は推して測るべしである。時代の変化に成り行きで付き合う長老政治は、国際的な評価や競争力を押し下げ、日本の行く末すら危うくしかねないのである。

それは究極的には、長老が選挙で当選することを許してきた有権者の問題でもある。岸田首相は今回の選挙を「未来選択選挙」と呼ぶが、長老政治を抜け出し、有権者が本当に未来を選び取るためには、各党が公約に掲げている目先の給付や支援の多さだけなく、自分の選挙区の候補のこれまでの言動を思い出してみるところから始めるしかないだろう。

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六辻 彰二(むつじ・しょうじ)
国際政治学者
1972年生まれ。横浜市立大学文理学部卒業。博士(国際関係)。国際政治、アフリカ研究を中心に、学問領域横断的な研究を展開。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。著書に『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『対立からわかる!最新世界情勢』(成美堂)、共著に『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)。他に論文多数。Yahoo!ニュース「個人」オーサー。

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(国際政治学者 六辻 彰二)

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