1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

ついに日本叩きが始まった…岸田首相はイギリスの身勝手な主張に耳を貸す必要はない

プレジデントオンライン / 2021年10月30日 12時15分

2017年7月21日、東京・飯倉公館で、岸田文雄外相(当時)の歓迎を受けるボリス・ジョンソン英国外務・英連邦大臣(当時) - 写真=AFP/時事通信フォト

■COP26で日本に「石炭火力の早期全廃」を求める英国

スコットランドの首都グラスゴーで、10月31日から11月12日まで第26回気候変動枠組条約締約国会議、通称COP26が開催される。ホスト国である英国のジョンソン首相は、COP26を目前に野心的なグリーン投資プロジェクト構想を公表、自らが袂を分けた欧州連合(EU)をにらみ脱炭素化の議論をリードしようと躍起になっている。

日本からも岸田新総理が出席する。総選挙を10月31日に控える中で異例の対応と言えるが、それだけCOP26が国際政治の重要な場と化していることの証左でもある。その日本に対して、英国のジョンソン首相はある「踏み絵」を用意している。つまり、日本が石炭火力発電の早期全廃を国際公約とするように迫っているわけだ。

ジョンソン首相は今年8月、日本を含めた先進国に対しては2030年までに、また途上国に対しては2040年までに石炭火力発電を全廃するように声明を出した。他方で、10月22日に閣議決定された日本の「第6次エネルギー基本計画」では、2030年度の発電の約19%を石炭火力発電で賄うとされており、引き続き重要な位置を占める。

19年度の実績では電源構成の32%が石炭火力であった。それに、15年度に策定された旧計画では2030年度の目標値は26%とされていた。政治的な理由から原子力発電所の稼働が困難な日本において、相応に目標は上方に修正されたと評価されてもいいはずだが、ジョンソン首相はこれではまるで不十分だという態度を隠そうとしない。

■人気低迷の打破をもくろむジョンソン首相

日本に高圧的な態度をとるジョンソン首相だが、それが英国の有権者に対するアピールであることは明白な事実だ。世論調査会社YouGovによると、最新10月25日付の調査でジョンソン政権の支持率は25%まで低下、一方で不支持率は54%まで上昇しており、共に新型コロナ対応の遅れで支持離れが進んだ2020年夏以来の水準である(図表1)。

人気が低迷するジョンソン政権
出所=YouGov

YouGovの10月25日時点の調査(複数回答)では、有権者の54%が健康(新型コロナ)を最大の関心事に掲げた。死者の増加は限られているが、英国では再び感染が拡大しており、有権者は再び関心を強めている(図表2)。続く二位は、8月23日時点で35%まで低下していた経済であり、10月25日時点で44%に盛り返した。

この間、英国はモノ不足の様相を強めた。行動制限の緩和に伴って需要が急速に回復した反面で、トラック運転手の不足から物流が停滞し、商店で品不足が深刻化した。一時はガソリン不足も深刻化、スタンドに長蛇の列が連日のように作られていた。極端な物流の混乱は解消したようだが、物流の問題は依然として英経済のボトルネックだ。

英有権者の関心上位3つ
出所=YouGov

この問題が欧州連合(EU)からの離脱によって引き起こされたことは明らかだ。北アイルランドとアイルランド間の物流問題も解決の糸口が見えず、EUの出方ひとつで英国はさらなるモノ不足に陥る可能性がある。皮肉なことに英景気の急回復は、ジョンソン政権の対応の不備と相まって、EU離脱の負の側面を一気に露呈させたのである。

一方で、英国でも野党支持者を中心に環境意識が高まっており、先のYouGov調査では有権者の36%が最大の関心事であると回答、経済に次ぐ3番目の位置につけている。経済の問題が簡単に解決しない中で、有権者へのアピールを重視するジョンソン首相のCOP26に対する意気込みは強くなり、その一手段として日本を叩いているわけだ。

■EUを出し抜き米国にどうすり寄るか

法改正などがない限り、英国の次期総選挙は2024年5月2日に行われる予定である。2019年7月に就任したジョンソン首相でなければ、2020年1月のEU離脱はなし得なかっただろう。一方で、それ以外の政治的な功績に乏しく、首相の人気は高くない。コロナ禍を脱したとしても経済が低迷したままなら、次期の総選挙での敗北は免れない。

2019年8月14日撮影のボリス・ジョンソン首相
2019年8月14日撮影のボリス・ジョンソン首相(写真=Ben Shread/© Crown Copyright 2019./OGL v3.0/Wikimedia Commons)

気候変動対策で世界をリードすることは、EUを出し抜き、さらに米国にすり寄る観点からも重要な意味を持つ。EUと距離を持ち米国と共闘することは、ジョンソン首相の岩盤支持者層である保守党の強硬派やその支持者にとって悪い話ではない。ジョンソン首相が唱える外交戦略構想である「グローバルブリテン」にもかなう話だ。

米国のバイデン大統領は、アフガニスタンからの米軍撤退で著しい失態を犯すなど、その世界的な指導力が問われている。今回のCOP26で強いリーダーシップを示そうと躍起になるバイデン大統領に対して適切なアシストができれば、ジョンソン首相に強い追い風が吹くと期待される。米国の信頼獲得はジョンソン首相の悲願そのものだ。

他方で、米国とEUの関係は微妙である。当初、EUのバイデン大統領に対する期待は大きかった。しかし先に述べたアフガン問題や、アジア太平洋戦略での混乱、具体的にはフランスの支援によるオーストラリアの原子力潜水艦の開発計画の破棄などを巡り、EUは対米不信を募らせている。これも英国にとって好都合となる。

ジョンソン首相がCOP26に向けて発する強いメッセージは、その実として自身を取り巻く内外の政治的な情勢を色濃く反映したものだ。そうした傾向は、多かれ少なかれ欧米各国の主張に少なからず反映されている。そうした主張に与(くみ)することが真の意味での気候変動対策にかなうことなのか、日本は少し冷静になって考え直した方が良いだろう。

■欧米の「正義」にのまれない毅然とした対応を

気候変動対策が国際政治そのものとなって久しいが、とりわけ躍起となっているのが英国でありEUだ。気候変動対策が不可欠だとしても、その進め方や目標は各国の実情が反映されてしかるべきであり、欧州から押し付けで進められて良いものではない。極地探検に準(なぞら)えても、探検家は地形や天候を考慮してさまざまなルートを検討するはずだ。

英国は石炭火力を全廃できたとしても、各国ともそれぞれの事情がある。途上国は資金面、人材面の観点から、石炭火力発電に依存せざるを得ない。日本も原発の再稼働を回避し続けるなら、石炭火力発電をある程度は利用し続けなければならない。英国の成功事例だけを引き合いに出すのはただの暴力であるとしか言いようがない。

英国と親密であるオーストラリアでさえ、メタンガスの削減に関する国際合意への参加を拒否する構えを見せている。牛の曖気(あいき)(要するにげっぷ)には、二酸化炭素の25倍もの温室効果があるメタンガスが多く含まれる。基幹産業である牛肉産業を守る観点から、オーストラリアのモリソン首相は国際合意への参加を拒否したわけだ。

石炭の産出国でもあるオーストラリアは2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにするという目標を掲げることを拒否してきたが、COP26を目前に方針を転換、欧米と足並みをそろえた(法制化はせず)。欧米からの批判を交わすためだが、一方で譲れないラインは堅持したわけだ。本来の為政者にはあって然るべきスタンスではないだろうか。

日本からは、総選挙を控える中で岸田首相がCOP26に出席する。岸田首相に求められるスタンスはいたずらな欧米追従ではなく、日本の立場を明確に説明することに他ならない。そして日本の実情に合った削減目標を提示し、理解を得るように努めることだろう。欧米発の「正義」にのまれない毅然(きぜん)とした対応こそ、国際社会の評価につながるはずだ。

----------

土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

----------

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください