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「岸田首相の東京不在を狙ってミサイルを撃つ」日本の気を引こうとする北朝鮮の浅ましさ

プレジデントオンライン / 2021年10月30日 11時15分

国防発展展覧会の開幕式で演説する北朝鮮の金正恩総書記=2021年10月11日、平壌 - 写真=朝鮮通信/時事通信フォト

■金正恩氏はほくそ笑んでいたのではないか

北朝鮮が日本海に向けてミサイルを発射した。防衛省によると、発射は10月19日午前10時15分ごろだった。

この日はちょうど衆院総選挙の公示日。岸田文雄首相は福島市内で第一声の遊説に臨んでいたが、緊急対応の指示を出すとともに仙台市での演説の後、日程を切り上げてすぐに帰京した。午後3時過ぎには首相官邸に入り、国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合に出席した。

首相官邸では、松野博一官房長官も地元の千葉県で選挙運動のさなかだった。代わりに留守番役の磯崎仁彦官房副長官が午前11時40分過ぎから記者会見し、「ただちに首相、官房長官に報告した。指示を受け、対応に遺漏はない」と説明した。

野党は危機管理意識の薄さを指摘した。たとえば、立憲民主党の枝野幸男代表は19日午後の東京都内の演説で「危機管理を担うべき2人が東京にいなかったのは問題だ」と批判した。

野党の批判はいつものことだが、岸田首相をはじめとする政権幹部がドタバタしたことは間違いない。そこがあえて公示日にミサイルを飛ばした北朝鮮の狙いのひとつなのである。岸田首相の慌てぶりを知って北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記はほくそ笑んでいたことだろう。

■「多くの進化した制御・誘導技術が導入された」

防衛省の発表によれば、北朝鮮は2発の弾道ミサイルを北朝鮮東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)新浦(シンポ)付近から東に向けて発射し、日本海に落下させた。1発は「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)」の可能性がある。しかも変則軌道で飛んでいた。

SLBMの可能性が指摘されるミサイルは最高高度が50キロ、飛行距離は600キロだった。日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したとみられる。新浦には北朝鮮の潜水艦基地があり、5年前の2016年に初めてSLBMが発射されている。

北朝鮮ミサイル
写真=iStock.com/narvikk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/narvikk

一方、朝鮮中央通信は20日、北朝鮮が19日に新型の弾道ミサイルを発射したと伝えた。問題のSLBMである。朝鮮中央通信によると、5年前のSLBM発射の際の潜水艦「8・24英雄艦」が使われた。北朝鮮側は新型のSLBMには「側面機動と滑空跳躍機動をはじめ多くの進化した制御・誘導技術が導入された」と自負している。

実際、韓国の軍事専門家は、変則的な軌道で飛行して迎撃が難しいロシアのイスカンデル型の短距離弾道ミサイルを水中発射用に改良したものと分析している。10月11日から 北朝鮮の首都、平壌(ピョンヤン)で開かれた国防発展展覧会にこのイスカンデル型に似た小型のSLBMが展示されていたことが分かっている。

SLBMとそれを搭載する潜水艦は、アメリカの攻撃をかいくぐった後、核による報復攻撃を行うための要の兵器となる。朝鮮半島の南に回り込んで韓国を攻撃すれば、北向きに設定されたレーダーをたやすく破壊することも可能だ。

■内政に行き詰まり、北朝鮮は焦っている

岸田政権は外交ルートを通じ、「弾道ミサイルの発射は国連安全保障理事会の決議に違反する」と北朝鮮側に抗議した。

日本の抗議は当然である。ただ、ここで見方を変えると、日本に北朝鮮との直接交渉の可能性が残されていると判断できる。なぜなら、北朝鮮があえて公示日を狙ったということは日本の存在をかなり意識していると考えられるからだ。

アメリカのトランプ前大統領は米朝首脳会談を実現し、「今度は晋三の番だ」と安倍晋三首相(当時)の背中を押した。安倍首相は「次は私が金正恩氏と交渉する」と前提条件を設けない日朝首脳会談の開催を明言した。だが、金正恩総書記に相手にされなかった。菅義偉前首相も同様に突き放され、日本と北朝鮮のパイプはふさがったままだった。

金日成広場で平壌
写真=iStock.com/narvikk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/narvikk

ここに来て北朝鮮側は焦っている。9月以降、新型の長距離巡航ミサイル、列車から発射できる弾道ミサイル、それに極超音速ミサイルといくつもの攻撃手段を開発した軍事能力を誇示している。金正恩総書記も「無敵の軍事力を保有することは最重要政策」との主張を繰り返す。

■北朝鮮の弾道ミサイル発射は安保理決議に違反する

しかし、北朝鮮は国連安保理による経済制裁や災害と食料不足、国民の貧困化で内政にかなり行き詰まっている。金正恩総書記はこれらの問題を解決するためにもう一度アメリカとの交渉を実現し、交渉を有利に運んで制裁を跳ねのけたいのだ。そのためにアメリカと同盟関係にある日本を利用したいと考えているのだろう。

そこで岸田政権は北朝鮮との直接交渉を実現し、日本にとって最大の懸案となっている拉致問題の解決にこぎつけるべきだ。もちろん核・ミサイルの開発を中止させ、それらの放棄を求めることも強く求める必要がある。

10月23日付の産経新聞の社説(主張)は「北のミサイル発射 安保理の沈黙は大失態だ」との見出しを立て、「日本を含む地域の平和と安全を脅かすもので到底受け入れられない。弾道技術を使ったミサイル発射は国連安全保障理事会の決議違反であり、即刻やめさせなければならない」と訴える。

だれがどこからどう考えても北朝鮮の弾道ミサイル発射は安保理決議に違反することは明らかである。

■なぜ安保理は機能しないのか

産経社説は安保理の不甲斐なさを次々と指摘し、強く批判する。

「心もとないのは、その先頭に立つべき安保理が『平和の番人』として機能していないことだ。20日に緊急会合を開いたが、一致した声明を発表できなかった」
「安保理は北朝鮮に核・弾道ミサイルの廃棄を求め、そのため、禁輸などの制裁を科している。それでも暴挙をやめないなら、さらなる措置を講じるべきだ」
「明らかな決議違反を前に会合を開き、報道声明もなしでは、意見の不一致を世界に示すようなものであり、大きな失態だ」

なぜ安保理は機能しないのか。

産経社説はその答えを「北朝鮮問題での安保理の無力は常任理事国の中国とロシアが、擁護しているのが要因だが、それは今に始まったことではない」と書く。

日本は北朝鮮の核・ミサイル攻撃の標的下にあり、理不尽な拉致事件で大きな被害を受けている。常任理事国ではないが、ここは日本が率先して安保理に強く訴えるべきである。

産経社説は「米中対立が激化する中、北朝鮮の軍事挑発が中国の手ごまになっているのだとすれば、これは大きな問題である」と強調するが、やはり中国はアメリカに対抗するために北朝鮮をうまく使っていると考えるべきだ。

さらに産経社説は「バイデン米政権に米朝交渉に向けた目立った動きが見られないのは懸念材料だ。時間がたつほどに、北朝鮮は核戦力を増強させ、対米交渉で優位に立つ思惑もある」とも指摘する。

バイデン大統領は北朝鮮を脅威だとは思っていないのか。そんなはずはない。いずれ北朝鮮の弾道ミサイルはアメリカ本土をも確実に攻撃できる能力を持つ。世界の情報戦に通じたアメリカだ。何か情報をつかんでひそかに水面下で動いているのかもしれない。

■安保理の常任理事国には、平和を守る義務と責任がある

10月26日の読売新聞の社説は「北朝鮮が国際社会の批判に逆らって、核の運搬手段となるミサイルの多様化を推進する姿勢が改めて明確になった」と書き出し、こう主張する。

「政府は、深刻化する脅威を直視し、対応を強めなければならない」。見出しも「政府は危機管理を再点検せよ」である。

脅威を直視することが重要だ。北朝鮮のミサイル発射に慣れ、脅威を感じないようでは困る。危機管理を再点検することは脅威を新たに感じ取り、万一の有事に備えることに直結する。

読売社説は指摘する。

「ミサイルの小型化や性能の向上が進んだ可能性がある」
「実戦配備されれば、北朝鮮の陸上の戦力が壊滅しても、潜水艦からの報復能力が残ることになる。米国などからの攻撃を牽制する思惑があるのだろう」

北朝鮮の核・ミサイル技術は確実に向上している。国連安保理の常任理事国(アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア)には、世界の平和を守る義務と責任がある。とくに中国とロシアにはその義務と責任の重さを自覚してもらいたい。

読売社説は後半で「発射の際、岸田首相と松野官房長官は共に、衆院選の運動で東京を離れていた。危機管理を率いるトップが2人とも首相官邸に不在という緊張感の薄さは問題だ」と岸田政権を批判する。

保守を代表する新聞の社説だからと言って自民党の政権に遠慮することはない。これからも適切な批判を行い、新聞社説の意義と存在感を高めてほしい。

■「強硬論の浮上を北朝鮮は歓迎している」と朝日社説

朝日新聞(10月23日付)の社説は冒頭部分で「発射は、総選挙の公示日だった。岸田首相は改めて、敵基地攻撃能力の保有を含む検討に言及したが、それがどれほど現実的に有効な手段か、専門家からは多くの疑問が出ている」と指摘し、こう主張する。

「軍事的な対症療法の議論に傾くよりも、北朝鮮の思惑を分析し、本質的な問題改善を導く方策を練るべきだ」

確かに「敵基地攻撃能力の保有」の議論は対症療法かもしれない。だが、対症療法も疾病にはある程度有効である。新型コロナの特効薬がないなか、熱を下げたり、咳を止めたりする対症療法は役に立ったはずだ。敵基地攻撃能力も同じだ。相手国に攻撃を止めさせる抑止力がないとは言えない。

朝日社説は何を「本質的な問題改善を導く方策」とみなすのか。

朝日社説は指摘する。

「北朝鮮は日韓で大型選挙があるたびに挑発を強めてきた。韓国で『北風』と呼ばれる動きである。地域の緊張の高まりは自らの対外戦略や国内統治に有利に働くと考えているからだ」
「その意味で日本での強硬論の浮上を、北朝鮮は歓迎している可能性すらあり、慎重な対応が求められる。何より急を要するのは、北朝鮮との意思疎通のパイプを復活させることだ」

■朝日社説は「植民地支配」を持ち出すが…

北朝鮮は韓国の選挙には敏感に反応するが、日本の選挙にはそれほどではないと思う。ただ「地域の緊張の高まり」を外交に利用するところがあり、「日本での強硬論の浮上」も米朝協議の再開に利用しようと画策するはずだ。日本はその点を十分に理解したうえで「意思疎通のパイプ」を再構築すべきである。

最後に朝日社説は「隣国であり、植民地支配という過去を抱えるがゆえ、日本は南北朝鮮と向き合い、難題を乗り越える以外、道はない」と言い切る。

しかし、戦後結ばれた協定などで植民地という過去は払拭されている。慰安婦問題や徴用工判決にこだわる韓国側に問題があり、国際社会に背いて核・ミサイル開発を止めようとしない北朝鮮が非道なのである。朝日社説はその点を理解する意思があるのか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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