自分の人生は無意味だったのではないか…「40代で人生を諦めてしまう人」が抱く不安の中身
プレジデントオンライン / 2021年11月7日 11時15分
※本稿は、鈴木裕介『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■40代で「幸福な人生を諦める人」が増えるワケ
あなたは、「ミッドライフ・クライシス」という言葉をご存じでしょうか。
これは、30代後半から50代にかけての中年期に訪れる深刻な精神的危機のことで、男女を問わず、約80%の人が経験するといわれています。
たとえば、「競争に勝ち、いい学校、いい会社に入って出世すること」「働いて少しでも多くのお金を稼ぎ、いい暮らしをすること」「会社や社会に求められる人材になり、ときには自分の時間や生活を犠牲にしても、会社の利益に貢献すること」などを「正しい」「幸せ」と信じて生きてきた人が、人生の後半にさしかかったとき、それまでの生き方に疑問を持ったり、価値がないと感じたりすることがあります。
同時に、「自分らしい生き方をしたい」という気持ちが高まり、「今、自分がやっていることは、自分が本当に求めていることなのか」「もっと良い生き方があるのではないか」と、自分の人生のあり方や意味を問い直さずにいられなくなるのです。
■中年期は不安や恐怖に襲われやすい
一方で、中年期にさしかかると、どうしても若い頃に比べて体力や気力、記憶力、容姿などが衰えてきます。これまで頼りにしていた「必勝パターン」が通用しなくなり、能力の限界を感じることも多くなってくるでしょう。
そして「自分は会社や社会にとって要らない人間なのではないか」と考え、不安や恐怖に襲われたり、苦しんだりするようになります。
同時に、「人生は有限であり、元気に動ける時間も限られている」と実感し、「このまま、今までと同じように生き続けていいのだろうか」「自分の人生は無意味なのではないか」という思いがどんどん強くなっていきます。
それが、ミッドライフ・クライシスです。特に、人生の前半(40代くらいまで)に、頑張って会社や社会に適合してきた人、すなわち「自分の中にインストールされた会社や社会のルールを、疑うことなく素直に受け入れてきた人」ほど、ミッドライフ・クライシスに陥りやすいといわれています。
その結果、うつ状態になってしまったり、あるとき突然、仕事や家庭を放り出してしまったりする人も少なくありません。
●素直な良い子になろうとする人。
●会社に求められる人材であろうとする人。
●自分本位の「ゆたかさ」を模索してこなかった人。
「40代で幸福な人生を諦めてしまう人」はこうした特徴を持っています。変化に応じて価値観をシフトすることができず、ミッドライフ・クライシスを契機に、「あの時まではよかったな」と、それ以降の人生を自分で変化させる可能性に背を向けてしまうのです。
■社会のルールの中で生きる落とし穴
私たちは子どもの頃から、親や学校、メディアなどによって「素直な良い子であること」を求められ、「社会で成功すること」「社会の役に立つこと」「競争に勝つこと」を目指すよう教育されます。
会社員として働き始めると、「会社に求められる人材であること、会社が求める価値を作り出すことこそが善である」という価値観、ルールを刷り込まれています。
しかし、当然のことながら、それらは「自分が本当に心から望んでいること」「自分の人生にとっての善」とは異なります。
もちろん、社会全体の経済を回すには会社という形態が必要であり、「会社や社会のルールを、自分の中にある程度インストールしておく」というのは、会社や社会の中で生きのびていくためには、ある程度有用なことです。
ですが、それらをフルインストールして自分の価値観を完全に上書きし、人生のコントロール権を手放してしまうのは考えものといえます。
会社や社会の価値観、ルールは、決してあなたを本当の意味で幸せにはしてくれません。それらは、基本的には競争原理に基づいているからです。
競争に勝てばお金や名誉が手に入り、一時的に自己評価が上がるかもしれませんが、そこには常に「今度は負けるかもしれない」「負けたらどうなるんだろう」という不安がつきまといますし、実際、人は永遠に「勝ち続ける」ことはできません。
競争に勝つことで得られる幸せは、決して長続きはしないのです。
■自分だけのアイデンティを持つことは難しいのか
また、会社や社会、あるいは「会社や社会のルールを脳内にフルインストールした他人」は、あなたに「良き歯車」であることを求め、その単一的な価値観に基づいて、あなたを一方的にジャッジします。
社会からの要求に応えられている間は、それなりにいい評価が下され、承認欲求が満たされるかもしれませんが、競争に負けたりミスをしたり「欠点」がクローズアップされたりすると、たちまちあなたには厳しい評価が下されてしまいます。
「会社に求められる人材になる」「社会の役に立つ」という気持ちも大事ですし、決して否定されるべきものではありませんが、そうした気持ちは不公平なトレードに利用されやすいため、注意が必要なのです。
特に若いうちは、「会社に求められるままに、頑張って応える」という契約関係になりがちですが、会社のルールを鵜呑みにし、会社のシステムに乗っかり、会社の要求に応えられる能力があることをアイデンティティにしてしまうと、人生のどこかのタイミングで後悔することになりかねません。
たとえば、銀行で融資を担当している人が、周りから「優秀だ」と評価されているとしましょう。
でも、その評価のベースとなっているのが、「扱っている融資の額が大きい」「融資のジャッジが的確である」といったことだけであれば、それは単に「銀行員として優秀である」「融資の技能、会社の中で役に立つ技能が優れている」ということでしかないのです。
■40代を乗り越えても、60代で再び危機が……
もちろん、技能が優れているのは誇るべきことですし、技能を伸ばすことで得られる幸福も大事です。しかし、技能はあくまでもその人の一面にすぎず、非常に環境依存的、一時的なものです。
技能だけ切り分けて褒められるのは、「お金をたくさん持っていていいですね」「顔がかわいいですね」と言われるのと同じようなものといえるのではないでしょうか。
なにより、会社員としての評価がどれほど高まっても、定年退職すると同時に、それらははぎとられてしまいます。
ミッドライフ・クライシスに限らず、人生の後半に差しかかってくるにつれて、「人生における、技能や職業以外の喜びや生きがいは何か?」という問いに直面せざるをえなくなるでしょう。
趣味らしい趣味を持つこともなく、定年を迎え、仕事から切り離されたとき、「自分には仕事以外にやりたいこと、喜びや生きがいを見出せるものが何もない」と気づく人も少なくありません。その時点で、あたらしい「ゆたかさ」を一から見つけていくのは非常に難易度が高いでしょう。
こうしたことは、不公平なトレードによって損をさせられがちな人だけでなく、会社や社会のルールを利用して、多少なりとも「おいしい目」を見てきた人にも等しく訪れます。
■幸せとは自分の素直な感情に目を向けること
ミッドライフ・クライシスや定年退職後の虚無感に襲われないためには「会社や社会が『是』とする価値観は、あくまでも他人の都合で考えたものであり、自分を本当に幸せにしてくれるとは限らない」ということに気づくことです。
それらが本当に自分にフィットしているのか、どこかのタイミングでしっかりと検証し、「合わない」「不快だ」「必要がない」と感じたルールや関係性にはNOをつきつけ、自分のルールに基づいて生きる道を探すしかないのです。
これまでさまざまな方たちと接してきて感じるのは、「中年期にさしかかった時点で、自分が幸福な人生を歩むことをあきらめてしまっている人が、決して少なくない」ということです。
彼らもやはり、他人(会社や社会、親、身近な他人など)の価値観、ルールを脳内にフルインストールし、絶対的なものだと信じています。
そのため、その価値観やルールに適応できなくなり、会社や社会や身近な他人からネガティブな判断を下されている自分のことを「ダメ人間」「能力も魅力もない」「幸福になる価値がない」と思い込んでしまっているのです。
当然のことながら、それは大きな間違いです。
彼らが考えている「幸福」は、ある一時代の社会において理想とされ、追うべきモデルの一つとして提唱されたものにすぎず、今、この時代を生きる自らの心にフィットし、安らぎをもたらしてくれるものではない可能性が高いといえます。
■自分が生きやすい環境を作ろう
人生の時間は限られています。
自分を縛っている他人のルールを断ち切り、自分のルールに基づいて生き直すタイミングは、早いに越したことはないのです。
今さら、他者の評価にとらわれず、自分のルールで生きろと言われても難しいという人は、まず一度、今の人間関係を見直すことを推奨します。
現在の人間関係を「快」か「不快」の目線で見てみましょう。
「不快」を感じるならば、それはあなたに我慢を強いる関係であり、あなたが「不公平」を押し付けられている可能性があります。
心理的な不快だけではなく、「動悸がする」「眠れない」「頭がいたい」「気持ちが悪い」などの身体的な症状も、あなたが受け取っている「不快のサイン」として見逃さないことも重要です。
拙著『我慢して生きるほど人生は長くない』では、自分が生きやすい環境をどう作るか、自分の納得感をどう高めるかについて、心療内科医の立場から得た気づきをシェアしています。
拙著があなたの「安心」の土壌を育むことに少しでも役に立ち、本来の可能性を発揮する一助となることを強く願っています。
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内科医・心療内科医・産業医
2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。
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(内科医・心療内科医・産業医 鈴木 裕介)
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