「最近の子は我慢ができない」は真っ赤なウソ…実は昔より子どもの自制心が上がっている理由
プレジデントオンライン / 2021年11月8日 8時15分
■「現代っ子は我慢できず自制心が低い」と考える人が多数派
「最近は我慢ができない子が増えている」。そんなことがまことしやかにいわれますが、本当でしょうか。
昔に比べて格段に便利で豊かになった現代社会では、欲しいものはすぐに手に入り、やりたいことにチャレンジしやすくなっています。そのため、「欲しい」と思ったものはすぐに手に入れなければ気がすまない、「したい」と思ったことは何が何でもしなくては気がすまないと感じる子どもが増えているのではないか、という指摘です。
面白いことに、この考え方は、日本に限ったものではありません。「現代っ子は我慢できなくなっている」と思っているのは、アメリカも同様で、約70%以上が「現代の子どもは、昔の子どもに比べて待てる時間が短く自制心が低い」と考えていたというウェブ調査結果もあります。
■子どもの自制心は現代のほうが高い
子どもの自制心を測るテストとして有名なのが、マシュマロテストです。マシュマロ実験はスタンフォード大学の心理学者・ウォルター・ミシェル氏が実施したものです。目の前のお菓子(マシュマロ実験という名前ですが、使用されるのはマシュマロとは限らずクッキーなどお菓子一般を使っています)を、ある一定時間、食べずに我慢できたら、お菓子の量が増える(2個になる)というものです。
この研究は、食べるのを我慢できたかどうかと将来の社会的成功が関連することを明らかしたのですが、この結果については、近年議論があります。しかし、マシュマロテストで自制心を測ることができること自体は、多くの研究がサポートしています。
そこで、ミネソタ大学の研究グループが、1960年代から2000年代までに行われてきたマシュマロテストの実験結果を集めて、我慢強さについて年代ごとに比較しました。2つのお菓子を手に入れるために15分程度間待たなければいけないテストの結果から、2000年代に実験に参加した子どもは、1960年代の子どもよりも平均して2分間長く我慢することができ、1980年代の子どもよりも1分間長く我慢することができていたことが分かりました。現代の子どものほうが我慢強く(少なくても昔の子どものほうが我慢強い、ということはない)、「現代っ子はほんの少しのことが我慢できない」というグローバルな大人の思いは的外れなことがこの実験からわかります。
■IQの上昇による効果か
2000年代の子どものほうが、なぜ昔の子どもたちよりも長く我慢することができたのか? という原因について、この研究チームではいくつか推測をしています。そのうちの一つが、現代の子どものほうが、昔の子どもに比べてIQが高いから、というものです。
実は、1984年に、ニュージーランドのオタゴ大学のジェームズ・フリン教授が、「1978年のIQは1932年に比べて13.8ポイント高くなっており、IQは、1年あたり0.3ポイント、10年ごとに3ポイント上昇している」という研究論文を発表しました。このようなIQの増加は、ニュージーランドのこの研究だけではなく、世界のさまざまなところでその後報告されています。その為この現象は、発見した教授の名前をとって、「フリン効果」とも呼ばれています。
なぜIQが上昇したのかという理由については、まだ議論がされており結論がないのですが、急速に発達する技術進歩やグローバリゼーションなどの環境変化が原因とも考えられています。
![少女と科学技術の概念](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/5/670/img_7513f85e62a4eaa4c5702f5eaf46245e474797.jpg)
■早期教育の効果
また、もう一つの可能性として、早期教育の充実を挙げています。ただしここでいう早期教育とは、早期の英才教育などということではなく、幼稚園通いのような現代の日本においては、ある程度当たり前になっているような、就学前の教育のことを指します。アメリカでは1968年に15.7%だった3~4歳という就学前に教育を受ける割合が2000年までに50%を超えるようになっていることなどから、小さいうちから自制心を育てることの重要性を学んでいるからとしています。
■子どもの我慢強さが高まるのは、他の子の存在があるとき
上述したマシュマロ実験では、目の前の誘惑に負けないよう我慢し、見事2つのお菓子を手に入れることができた子どもは、おおよそ3分の1でした。その後、マックスプランクの研究チームが、どうしたら子どもの我慢強さが上がるかを調べるための実験を行いました。
この実験では最初に、子どもを2人ずつのペアにしてから一緒に風船で遊ばせて、子ども同士が仲良くなる状況をつくりました。その後、子どものペアを半分ずつに分けて、2つの実験を行いました。一つは、ミシェル氏のマシュマロテストと全く同じことをする「一人での実験」です。次に行われた「2人での実験」では、ペアの子どもたちは、別々のお互い見えない部屋にいるのですが、「クッキーを1つあげる。あなたとお友だちの両方が我慢したら、後で2人ともクッキーをもらえるけど、どちらか1人でもクッキーを食べしまったら、2人とも2つ目はなしだよ」と伝えられました。
この実験の結果、子どもたちがクッキーを我慢できた確率は、「一人の時」より「2人での実験」の方が高かったのです。それぞれ別々の部屋にいるので相手の我慢している状況は見ることができず、お互いにコミュニケーションを取ることもできないまま、「お友達も我慢をしているだろう!」と、わずか5、6歳の子どもが協力関係に強い信頼とモチベーションを得ていることが示されたわけです。
ましてや、自分が我慢しても、相手が我慢していなければ、追加のごほうびがもらえない可能性があるという状態でした。それでも子どもが我慢したということは、共同作業を取り組む(お菓子をもらう)社会的なパートナー(お友達)に対する責任感によって、自分だけのためよりお友達のため! に、我慢強くなれたのです。
■我慢強い親の子は我慢強い
しっかりと親の愛情を受け、親子の愛着形成ができていないと、特に4歳以降で、我慢のできない子どもになってしまうことがわかっています。親としては、ついつい、「小さい頃から我慢できる子になるようにしつける」と考えてしまいがちですが、我慢することを強いるようなしつけをすることよりも何よりも、子どものやっていることを(甘やかしではなく)認めてあげ、子どもが親からの関心と愛情を受けていること、親との安心できる関係を築けていることがまず何より大切です。まずは、子どもにとって最初の社会である親子間での信頼関係などができることで、親とは離れた社会の中でお友達のことも信用し、責任感を持って我慢もできるようになるのでしょう。
また、親は子どもの鏡、というように、私たちの最近の研究結果では、さまざまな物事について自己コントロールが良くでき、我慢強さをもつ親の子どもは、親と同様に、自己コントロールがよくでき、我慢強い傾向があり、反対に意志の弱い親の子どもは、やはり意志が弱く我慢ができない傾向があることを示しています。もちろん遺伝の要因は排除できないものの、環境要因はとても大きく、子どもは、親が思っている以上によく親の言動を見ています。つまり、我慢強い子どもになってほしい、と願うなら、まず、親自身が、子育てに対してだけではなく、自身の生活全般において我慢強い人間であることがもっとも重要なのです。
<参考文献>
・Carlson, S.M., Shoda, Y., Ayduk, O., Aber, L., Schaefer, C., Sethi, A., … Mischel, W. (2018). Cohort effects in children's delay of gratification. Developmental Psychology, 54(8), 1395–1407. doi: 10.1037/dev0000533
・Flynn, J. R. (1984). The mean IQ of Americans: Massive gains 1932 to 1978. Psychological Bulletin, 95(1), 29–51.
・Rebecca Koomen, Sebastian Grueneisen, Esther Herrmann. Children Delay Gratification for Cooperative Ends. Psychological Science, 2020; 095679761989420 DOI: 10.1177/0956797619894205
・Imafuku, M. Saito, A. Hosokawa, K. Okanoya, K. Hosoda, C. (2021) Importance of Maternal Persistence in Young Children's Persistence, Front. Psychol., doi.org/10.3389/fpsyg.2021.726583
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博士(医学)
帝京大学先端総合研究機構内にて細田研究室を主催。東京大学大学院総合文化研究科研究員兼任。細田研究室では、素質個人差や、やり抜く力などの個人特性を脳特徴量から定量化し、BRAIN x IOT インタラクションによる、新しいオーダーメイド生涯目標達成支援法の開発とその元となる基礎研究を実施。企業等との産学連携研究も多数実施。内閣補正予算により決定され2021年度から開始された、日本の破壊的なイノベーションに繋がる研究成果を生み出すための「創発的研究支援事業」において全国から採択された約250名の研究者のうちの一人。
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(博士(医学) 細田 千尋)
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