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「追いかけられる、遅刻する…」なぜ典型的な"悪夢"のパターンは世界共通なのか

プレジデントオンライン / 2021年11月4日 11時15分

出典=松田英子『夢を読み解く心理学』(注3)

夢に出てくるイメージにはどんな意味があるのか。東洋大学社会学部社会心理学科教授の松田英子さんは「国や文化で悪夢のパターンに違いはない。また、ネガティブな夢のほうが記憶に残りやすい」と指摘する――。

※本稿は、松田英子『夢を読み解く心理学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■どこの国の人にも典型的な夢のパターンがある

【先生(東洋大学社会学部社会心理学科教授)】海外にはアダム・シュナイダーとジョージ・ウィリアム・ドムホフらによる「ドリームバンク」(注1、2)という、いろんな国や集団、個々人の夢の報告内容をデータとして収集・統計的に分析できるサイトもあるのよ。

【A(編集者・女性)】すごい! さまざまな夢の報告をデータとして収集するなんて。国や文化によって、典型的な夢のパターンって変わってくるんですか?

【先生】わかりやすいところだと、アジア圏はヘビがよくでてくるし、欧米ではクモが多い印象があるわね。死んだはずの人が夢にでてくるのは、どこの国でも共通して上位。ドイツ人の夢ランキング(図表1参照)では7位くらいにでてくるかな。

【C(大学院生)】地域によって恐怖対象が変わるんですね。でもたとえば、人種としてはアジア人なんだけど、幼少期から西洋で育てば、恐怖の対象はクモになるんですかね?

【先生】わからないけど、なぜか日本ではクモへの恐怖が少ないんだよね。むしろ、ヘビやイヌへの怖れのほうが多い。先のドイツの調査では、クモが25位でヘビは43位。とはいえ、そこまで国や文化ごとの目立った夢の特性の差異はないのよね……。

【C】裏返していうと、国籍に関係なく、人間の夢のパターン自体が普遍性が高い?

■国や文化で悪夢のパターンにちがいはない

【先生】共通する典型的な夢はだいたい一致している。そもそも、ネガティブな夢のほうが記憶に残りやすい。たとえば日本人の大学生の悪夢でよくでてくるものトップ10は、「落ちる」「追いかけられる」「遅刻する」が必ず入ってくる。あとは、家族や恋人とわかれたり、縁が切れるという夢ね(注4)

日本の大学生の悪夢頻出テーマ
出典=松田英子『夢を読み解く心理学』

そして地震、洪水、火事という災害も入ってきますね。ヘビやクモなど、怖い動物がでてくるのは直接的でわかりやすいけど、人間関係がもつれたりする夢も、背景に「共同体で友好的な関係性をたもちたい」という願望があるとすれば、根っこの部分はやはり「生存欲求」にいきつきそうだけど……どうなんだろうね。

時代をとおしてテーマが変わらなければ、進化的価値がありそう。たしかなことはわからないけど、家をもったあとに火事にあう夢をみたりするというしね。悪夢の典型パターンに「遅刻」があるのも深読みすれば、現代社会における社会的生存の背景に他者との良好な関係性の保持があるからかな。原始時代でも「いまから狩り(仕事)にいくぞ」っていってるのに、遅れたら仲間外れにされちゃうだろうしね(笑)。みんなの力をあわせてやっと倒せるマンモスなんかは、ひとりきりじゃ太刀打ちできないもんね。

国や文化でそれほど悪夢のパターンにちがいがないのは、やはりそのあたりに理由がありそうね。「人間だれしもひとりでは生きていけない」という事実だけは、時間と空間を超えた共通事項。この一点を起点に夢は形成されているんじゃないかな。ヒトは集団のなかで生きる動物。程度の差こそあれ、生存はなんらかの要因になっていてもおかしくないよね。

■赤ちゃんは生まれつきクモやヘビを怖がる?

【先生】「遺伝」のことをまた考えてみましょうか。たとえば、ヘビをみたこともきいたこともない人、つまりヘビに対して「怖い」との印象をもっていない人の悪夢に「ヘビ」がでてくるとすれば、遺伝レベルでヘビの恐怖が刷り込まれている可能性はあるか? そんなことはないはずだと思ってるんだけど、赤ちゃんの実験から人間が生まれつきクモやヘビに恐怖心をもっていることをあきらかにする研究結果(注5)が発表されているわ。

研究をおこなったステファニー・ホッヘル教授は、まだクモやヘビが「危険なもの」というイメージをもっていない生後6カ月の赤ちゃんを対象に、クモやヘビをみせた際の反応を調査したのね。具体的には、クモやヘビ以外にも、お花や魚など危険なイメージがないほかの対象との比較ね。それぞれを初めてみせたときの瞳孔の開き具合や、注視する時間の長さを調べていった。

その結果、花や魚よりもヘビやクモのほうに対してあきららかにストレス反応を示す結果が得られたわけね。実験結果を得て、教授はこんなことをいってるね。

松田英子『夢を読み解く心理学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
松田英子『夢を読み解く心理学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

「ヘビやクモへの恐怖は、人間が進化の過程で身につけた防衛反応だと結論づけることができました。数百万年前の霊長類の時代に木の上で暮らしていたとき、ヘビや毒グモは脅威だったにちがいありません。素早くみつけて素早く逃げる反応が必要だったのです。ほかの研究では、たとえばクマやライオンなど、もっと危険な動物の画像を乳児にみせても、ヘビやクモほどの恐怖反応を示しません。これは、ヘビやクモと共存し脅威だった期間が、クマやライオンよりずっと長かったからだと思われます」

「結論づけることができた」ってのは、ちょっとだけ引っかかるけど……。ヘビやクモをみるのが本当に初めてだとしても、花や魚はさすがに目にしたことがあるはずなので、究極のところでほんとうに遺伝かどうかをいいきるのはそうとうむずかしいはずだから。ただ、ほかにも似たような研究がいくつかあるんだよ。日本人の研究者の論文で、サルや3歳児の子がヘビに対して生得的な怖れを示している可能性を指摘しているんだよね(注6)。

注1 ドリームバンク
HVDCの夢分類の量的解析に関するサイト
注2 Schneider, A.,&Domhoff, G. W. (2020). The Quantitative Study of Dreams. Retrieved February 6,2020 from The Quantitative Study of Dreams
注3 Mathes, J., Schredl, M., & Göritz, A.S. (2014). Frequency of Typical Dream Themes in Most Recent Dreams: An Online Study. Dreaming, 24, (1), 57~66.
注4 岡田斉・松田英子(2017). 大学生を対象とした悪夢の内容別頻度と強度についての調査 人間科学研究,40,121~129
注5 Itsy Bitsy Spider... : Infants React with Increased Arousal to Spiders and Snakes.
注6 川合伸幸(2011).ヘビが怖いのは生まれつきか?:サルやヒトはヘビをすばやく見つける。認知神経科学,13,1,103~109.

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松田 英子(まつだ・えいこ)
東洋大学社会学部社会心理学科教授
お茶の水女子大学大学院修了(博士・人文科学)。臨床心理士として活躍し、江戸川大学教授、放送大学大学院客員教授などを歴任。2015年から、東洋大学社会学部社会心理学科教授。著書に『夢と睡眠の心理学』『図解 心理学が見る見るわかる』など。

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(東洋大学社会学部社会心理学科教授 松田 英子)

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