「インスタ映えはもう古い」アルコール離れする若者にお酒を売るたった一つの方法
プレジデントオンライン / 2021年11月5日 8時15分
■ここ1年で顕著になった「友情確認」ニーズ
コロナ禍は、Z世代の心理や行動にも大きな影響を与えました。ここ1年ほどの若者のトレンドには、コロナ禍だからこそ生まれたニーズが基になっているものが多く見られます。今回は、そのうち特に若者をターゲットに商品を開発する場合に知っておきたいニーズを3つ、背景とともに解説していきたいと思います。
まず1つめは、人に会えない生活を背景として生まれた「友情確認ニーズ」です。コロナ禍で非接触・非対面が進んだことによって、若者の間には友達と直接会う機会をやや非日常的なもの、少し特別なものと捉える傾向が出てきました。
これにより、友達と直接会える際には「せっかくの機会だから一緒に特別なことをしたい」というニーズが生まれています。コロナ前は、一緒におしゃれなカフェへ行ってパンケーキを食べる、それを撮影してSNSに上げるといったことが日常でした。
しかし最近では、より特別感のある行為、例えば宅飲みの際に非日常的な料理やドリンクをつくり、その様子を動画撮影してTikTokに上げる若者が増加。根底には、思い出づくりをしたい気持ちや、周囲に自分たちの仲の良さをアピールしたいという思いがあるようです。
■「映えを気にせず楽しむ仲」であることをアピール
そして、インスタ映えする投稿がありふれたものになった今、それでは本当の仲の良さが伝わらないと感じる若者も出てきました。そこではやったのが、従来のおしゃれな投稿とは真逆を行く「豪快シェア」です。
自宅でテーブルの上にナチョスを広げて豪快に食べる「ナチョステーブル」、お酒や冷凍フルーツなどをバケツに入れて飲む「パリピ酒」、ステーキチェーンのペッパーランチのメニューを再現する「お家でペッパーランチ」──。
いずれも写真ではなく動画で広まり、TikTok上ではまねをするZ世代が続出しました。インスタ映えしない“豪快すぎる行為”を友達と一緒に行うことで絆を確認し合い、周囲にも映えを気にせず楽しむ仲なのだとアピールしたい。今、Z世代の間には、そうした絆確認を含む「友情確認ニーズ」が生まれているのです。
■時代はインスタ映えから動画映えへ
さらにコロナ禍では、5Gの開始とも相まって若者の注目対象が写真から動画へと大きく変わりました。時代はインスタ映えから動画映えへ。今後は、動画映えする行動につながる商品やサービスが、Z世代の人気を集めていくのではないかと思います。
![(写真左)Artbar Tokyoの店内。(写真右)筆者も挑戦。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/9/670/img_9968e234c30a79935be618dd725fd3b9437491.jpg)
友情確認ニーズを基にしたトレンドではもうひとつ、友達と一緒に何かを「創る」体験もブームになりつつあります。渋谷や代官山にある、ワインを楽しみながら絵画レッスンを受けられる店「Artbar Tokyo」はその代表格。
観光地で、友達との思い出づくりとして陶芸体験などをする人は多いと思いますが、遠方への旅行ができないコロナ禍では、身近でそうした非日常体験ができる場所が若者の注目を集めました。
![梅体験専門店「蝶矢」で梅酒づくりを体験できる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/2/670/img_525a5524d3f4643241593acb36fe275b249371.jpg)
「Artbar Tokyo」へは僕も実際に行ってみましたが、たくさんの若者が楽しそうに、友達と写真や動画を撮り合ったりしながらレッスンを受けていました。SNSでは、ここで描き上げた絵も撮影した写真や動画もよく見かけます。
同じく「創る」体験では、チョーヤ梅酒が展開する梅体験専門店「蝶矢」も若者に人気です。梅を使って自分でシロップや梅酒などをつくれるもので、これもサービス内容が若者の友情確認ニーズと合致した結果であると読み取れます。
■「パリピごっこ」に必須の商品
2つめのトレンドは、外出自粛で退屈な時間が増えたことを背景に生まれた「憧れチャレンジ」です。お酒を飲んでハメを外すことの少ないZ世代ですが、パリピ(パーティー・ピープル=パーティー好きな人々)の「人生を楽しんでいる感」に憧れを感じている若者は少なくありません。
ただし、周囲の目に敏感なのもZ世代の特徴。本当にパーティー騒ぎをして無茶飲みしては下品だと思われてしまうという考え方から、自分たちがしているのはあくまでもパリピへの「チャレンジ」であり、「ごっこ」なのだとアピールしたがる傾向があります。
![ウェイウェイらんど!で駒として使用するお酒クライナーファイグリング。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/0/300/img_c0a49375cdc0bba24eae8985a531e626205859.jpg)
ここから流行ったのが、飲みながら皆でゲームをして盛り上がる様子を投稿する「パリピごっこ」。このニーズにぴったりハマってヒットした商品が、すごろくとドイツのお酒クライナーファイグリングを組み合わせたパーティーゲームセット「ウェイウェイらんど!」です。
![ウェイウェイらんど!のすごろくシート。(写真提供=シトラム)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/a/300/img_ea671bd46aa9af24742801c09f6632ea357115.jpg)
このセットは、宅飲みや民泊先でも盛り上がりたい、パリピごっこを楽しみたいという若者の心をつかみ、大学生を中心に爆発的に売れました。これを基にしたアプリも、飲み会ゲームとして大ブレークしています。
また、若者の間では依然として圧倒的な韓国ブームが続いており、TikTokでは、韓国のお酒チャミスルをグラスタワーに注ぐ動画が「チャミスルチャレンジ」としてバズりました。
■日本酒のハードルを下げた"ある手法"
こうした「チャレンジ」や「ごっこ」を盛り上げる商品・サービスへのニーズは、今後もしばらく続くでしょう。TikTokで人気の動画を見て「私たちも撮ってみようよ」とまねする若者はたくさんいますから、商品企画に関わる方には、今どんな動画が人気なのかアンテナを張っておいてほしいと思います。
3つめのトレンドは、同じく退屈な時間が増えたことから生まれた「下げチャレンジ」です。このトレンドの特徴は、強いお酒に憧れながらも「酔い潰れて失敗したくない」と二の足を踏んでいる若者に向けて、サービス側があえてハードルを下げた提案をしていること。
例えば、日本酒の獺祭を使った獺祭パフェ(小笠原伯爵邸にて提供)や、モスバーガーとコラボしたモスシェイク×獺祭は、日本酒はハードルが高いと考えているZ世代に、気軽にチャレンジできるとして話題になりました。
![「獺祭のエスプーマが薫る、シャインマスカットと和梨のパフェ」と「蟠桃のパフェ 獺祭の香りを添えて」。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/e/540/img_4e3e22dca4d2a5920261bfbe72b875c1365012.jpg)
■ノンアルコールドリンクのみのバーが話題
昔の若者は失敗を重ねながら大人の階段を登っていったものですが、今の若者はそうしたステップを自ら登りたいとは考えていません。大人気分は味わいたいけれど、ハードルが高いものにはチャレンジしたくない──。そこへハードルを下げた商品が登場したため、「じゃあ手を出してみようかな」と考える若者が増え、ヒットにつながったのだと思います。
同じ「下げチャレンジ」では、バーに憧れはあるがハードルが高いと考える若者心理をうまく捉えた店も注目されています。代表的なのは、ノンアルコールドリンクのみのバー「0%」や、表向きはコーヒースタンドに見える謎解きバー「JANAI COFFEE」など。いずれもSNSで若者を中心に大きな話題を集めました。これらは、自分たち若者を対象にしていることが明確であり、背伸びすることなく安心して足を運べる場所なのです。
■何がはやったかより、なぜはやったかが重要
こうしたトレンドを知っておくことは、お酒離れしている若者を振り向かせる上で有効ではないでしょうか。最近の若者はお酒を飲まないと言われますが、パリピごっこやチャミスルチャレンジが流行した際には、それをまねしたいがためにお酒を購入した若者も多くいました。
しかし、じゃあクライナーファイグリングやチャミスルに似た味の商品をつくれば若者に売れるのかと言えば、それは違います。重要なのは、若者にどんなお酒が売れたかよりも、彼らがなぜそれを買いたがったのかということです。何がはやったかより、なぜはやったのかが重要なのです。
若者に売れる商品やサービスを開発するためには、何よりもまず「彼らは今どんな行為やシーンを望んでいるのか」を把握することが大事です。特に若者に売れ行きが低調なジャンルでは、これが好調の波に乗せるためのたった一つの方法と言ってもいいでしょう。
ヒット商品を生み出すには、常に背景やインサイト(購買意欲の核心となるもの)に戻って考える作業が不可欠です。その際は、今回紹介した友情確認や動画映え、韓国ブーム、憧れチャレンジ、下げチャレンジなどのキーワードがヒントになると思います。
そして、若者が求めているシーンに入り込んでいけるものを開発し、Z世代が「自分たちに向けた商品・サービスだ」と認識できるようPRしていくことが大事です。
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マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。信州大学特任教授。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」「Live News it!」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。「原田曜平マーケティング研究所」のYouTubeチャンネルでは、コロナ禍において若者の間で流行っていることを紹介中。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=辻村洋子)
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