せっかちな中高年世代とは真逆…イマドキの若者が買い物に求める"意外な要素"
プレジデントオンライン / 2021年11月9日 8時15分
■退屈時間の増加でチャレンジ欲求がアップ
コロナ禍による外出自粛で、Z世代にとっては退屈な時間が増えました。この期間中、新たに若者の間に生まれたのが「チャレンジ欲求」です。以前なら手を出そうとしなかった物事に対して、「時間もあるしやってみようかな」と気軽に挑戦する、そしてその様子を投稿して楽しむ若者が増加しました。
人気の動画をまねて同じような動画を撮る、何となく憧れのあるYouTuberやセレブ、パリピ(パーティー・ピープル=パーティー好きな人々)の「ごっこ」を楽しむ、強いお酒は苦手でも少し背伸びして日本酒やバーで大人気分を味わう──。
2020年下半期から2021年上半期にかけてはこうした行動がトレンドとなり、「ごっこ」を盛り上げるお酒やパーティーゲーム、通常の仕様から若者向けにあえてハードルを低くした日本酒やバーなどがヒットしました。詳しくは以前の前回の記事「『インスタ映えはもう古い』アルコール離れする若者にお酒を売るたった一つの方法」をご参照ください。
加えて、友達と一緒にではなく一人でチャレンジできる行動、すなわち「ひっそりチャレンジ」のニーズも高まりました。例としては、人に気づかれずに自分の見栄えをよくしたい男子が家でメイクに挑戦する「隠れメイク男子」、健康対策として食事を植物性食品だけにしてみる「結果ヴィーガン」などが挙げられます。
■あえて“不便”を求める「お預けニーズ」
中でも新たなニーズとして台頭したのが「お預けニーズ」です。Z世代にとっては、欲しいものや買いたいものはワンクリックで手に入るのが普通。しかし、コロナ禍で退屈時間が増えたのを機に、そんな普通の方法では手に入れられないものを求める若者が増えてきました。
特に顕著だったのが、スマホではなくあえて不便なカメラで撮影にチャレンジしたいというニーズです。使い捨てカメラはコロナ前から流行していましたが、2019年末にキヤノンが手のひらサイズの新コンセプトカメラ「iNSPiC REC」を発売すると、これが若者を中心に大ヒット。
デザイン性が高く、カラビナ付きという点も特徴的で、これをキーホルダーのようにバッグにぶら下げて公園などを散歩する若者も多かったようです。
スマホの普及で、写真や動画は気軽に撮れてその場ですぐ確認できるものになりました。しかし、「iNSPiC REC」はフィルムカメラと同じく、撮った写真や動画をその場で確認することはできず、スマホやPCに転送して初めて見ることができる仕様になっています。
■なぜわざわざ不便なものを使うのか
せっかくスマホがあるのに、なぜわざわざ不便なものを使うのかと疑問に思う人も多いでしょう。意外なことに、Z世代にとってはその不便さこそが特別感につながっているようなのです。
背景には、人とは違うことをしたいという差別化ニーズや、「どんな写真が撮れているんだろう」というワクワク感へのニーズがあると考えられます。これは、目的のものを手に入れるまでにかかる「手間」そのものへのニーズとも言えるでしょう。
同じ特徴を持った商品に、アメリカの人気YouTuberが開発した写真SNSアプリ「Dispo(ディスポ)」があります。これは、撮影した日の翌朝9時にならないと写真が"現像"されない仕組み。「iNSPiC REC」と同じように、どう撮れたかがその場ではわからず、ワクワク感があるということで若者の人気を集めました。
撮影する楽しみは外で味わい、とった写真を見る楽しみは家で味わうというように、2度楽しめる点も若者を惹きつけているようです。あえてつくられた「待ち時間」に魅力を感じるのは、Z世代ならではの特徴と言えるでしょう。
似たような傾向はコロナ前から見られましたが、退屈な時間が増えたことでより強まったように思います。
■週2回しか買えない「限定感」
こうしたニーズを背景にして、外出自粛期間中にいちばんはやったのが「Mr. CHEESECAKE」です。Z世代にとっては少し高価な、3000円以上もするチーズケーキですが、高校生から大学生までたくさんの若者が購入に走りました。
このケーキは週2回しか買えないという限定販売品。はやった要因としてはもちろんおいしさもあると思いますが、すぐには手に入らない「限定感=プレミアム感」が若者の購買意欲を刺激したのはではないでしょうか。
似た例に、モスバーガーが3月に発売した「モス食パン」があります。予約限定で、しかも毎月第2・第4金曜日にしか買うことができません。こちらも、欲しいと思ってもすぐには手に入らないというプレミアム感があり、若者の間で大きな話題になりました(現在は販売休止)。
■待たされることを楽しむZ世代
僕たちの世代では、商品やサービスにおいて待たされることはマイナスだと捉える人が多いと思います。でもZ世代は、待たされること、お預けされることにワクワク感や特別感を覚えている様子。
彼らは「待てる子たち」であり「待たされることを楽しむ子たち」なのです。ここには大きなジェネレーションギャップがあります。
従来のビジネスでは、顧客を待たせることなくできる限り早く提供するのがよいと考えられてきました。それがよい商品であり、よいサービスだとされてきたのです。もちろん、そうした点は今も重要ではありますが、若者向けの商品に限っては通用しない場合もあります。
インスタ映えや動画映えを前提に、商品に対して人との差別化や他とは違う特別感を求めるZ世代。ここにコロナ禍による退屈時間の増加が加わり、新たなチャレンジ欲求やお預けニーズを生み出しました。
大人は「早く手に入るほうがいいに違いない」と思い込みがちですが、実は若者たちの間には真逆のニーズもあるのです。企業のマーケティング担当者や開発担当者には、こうした新たなトレンドが生まれていることを、ぜひ知っておいていただきたいと思います。
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マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。信州大学特任教授。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」「Live News it!」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。「原田曜平マーケティング研究所」のYouTubeチャンネルでは、コロナ禍において若者の間で流行っていることを紹介中。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=辻村洋子)
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