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ピンク髪も金髪もまったく問題なし…スタバが装い規定を大幅緩和した本当の狙い

プレジデントオンライン / 2021年11月4日 15時15分

パルコヤ上野店ストアマネージャーの座間味佑奈さん(提供=スターバックス コーヒー ジャパン)

コーヒーチェーン最大手のスターバックスは、8月から装いのルールを改定した。大きな変更点は、金髪などの奇抜な髪色がOKになったことだ。これまでは「黒かダークブラウン」と指定していたのをなぜ変えたのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんが聞いた――。

■髪色は「自然な発色」から「金髪もOK」に

1996年8月2日に日本1号店が開業した「スターバックス」(運営会社はスターバックス コーヒー ジャパン)は今年で25周年を迎えた。

新型コロナウイルスの影響で周年イベントなど中止・縮小となったものも多いが、25周年を機に社内向けにも改革を行っている。そのひとつがドレスコードの緩和だ。

具体的な内容例は図表1にまとめたが、中でも興味深いのは髪色の自由化だ。全従業員(同社はパートナーと呼ぶ)が金色や青色やピンク色にカラーリングしてもよくなった。

「私は黒髪ですが、緑色に染めたパートナーもいますよ」

「髪色解禁してどんな状況ですか?」と聞いた都内の店舗では、こんな答えが返ってきた。

ドレスコードの中身と改定例

外資系で若い従業員が多いカフェチェーンとはいえ、接客業でもある。一般的なビジネスシーンの常識で考えると、かなり大胆な決断だ。なぜこれを実施したのだろうか。同社の責任者と現場マネージャーに話を聞きながら考えた。

■お堅いオフィスビルに入る店舗もあるが…

「日本1号店のオープン日にあたる8月2日からスタートして3カ月以上たちました。

明るい髪色のパートナーも、お客さまから『素敵な髪の色だね』と言われるなど好意的な声をいただき、SNSでも『自由でいいと思う』といった反応が目立ちます」

林千暖(ちはる)さん(東日本営業本部本部長)はこう話す。全国に1685店(2021年9月末現在)を展開する同社の東日本エリア約550店の責任者だ。

東日本営業本部本部長の林千暖(ちはる)さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
東日本営業本部本部長の林千暖(ちはる)さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

スターバックスの店舗立地はさまざまだ。一般的なチェーン店の場合、例えばリゾート地の海沿いのカフェなら、従業員がTシャツや短パン姿で接客してもお客は自然に受け入れる。でも都心部でお堅い会社のオフィスがあり、スーツ姿の人が行き交うビルイン店ではどうだろう。TPOによってヒトの意識は変わるのではないだろうか?

「都心部のビルイン店でも好意的で、今のところネガティブな声は一切ありません」(同)

どんな反響になるか心配だった。実は、埼玉県から宮崎県まで全国25店でトライアル(テスト施行)した上でスタートしたという。検討時は、髪色について保守的な声もあった。

「当初は、それまでのダークブラウンのような自然な発色をベースに考えましたが、あまり定義しすぎるのもどうか、という意見もありました。経営陣から『自由にしていいんじゃないか』という声も上がり、髪色を自由にしたのです」

林さんは「オフィスの雰囲気が明るくなり、社員の個性がよく見えるようになった」と話す
撮影=プレジデントオンライン編集部
林さんは「オフィスの雰囲気が明るくなり、社員の個性がよく見えるようになった」と話す - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■「見た目で判断する風潮を社内から変えよう」

社内の結論を後押ししたのが「パートナーを『この髪色だから』と定義してしまうと、お客さまに対しても見た目で定義してしまうことになりかねません」(同)という意見だった。「見た目で人を判断する風潮を社内から変えていこう」という思いの表れともいえる。

「バイアスをかける」という言葉があり、ビジネス現場でも用いられる。「その人の先入観や偏見で相手や振る舞いを判断する」という意味だ。近年は「LGBTQ+」(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニング・クィア)など性差や個人の嗜好で相手を判断しない意識も高まった。それを髪色基準にも応用したのだろう。

■「店内の雰囲気が明るくなった」と好評

続いて話を聞いたのは、都内の店舗で働く30代の店長(ストアマネージャー)2人だ。

戸澤圭太さん(表参道ヒルズ店ストアマネージャー)は前述のトライアルメンバーにも選ばれて準備を進めた。8月2日以降、店の雰囲気はどう変わったのか。

表参道ヒルズ店ストアマネージャーの戸澤圭太さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
表参道ヒルズ店ストアマネージャーの戸澤圭太さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「最初は36人いるパートナー(交代制勤務)は、新しいドレスコードにそわそわしていました。でも1週間もたたないうちに、より楽しそうに働くようになりました。帽子をかぶって短パンで働くパートナーもいます」(同)

表参道ヒルズ店の来店客には近隣の会社や店舗で働く人も多い。「コロナ前は外国人のお客さまが50%ほどいた店でした。近くに小学校もあるので先生やお母さんたちも来られます。『店内の雰囲気が明るくなったわね』とも言われます」。

東京出身の戸澤さんは大学4年間、都内のスタバでバイト。卒業後はコンサルティング会社に就職して丸の内のオフィスで働いたが、体調を崩して退職。「居場所を感じられなくなり、学生時代に楽しく働けたスターバックスに26歳でアルバイトとして戻りました」(同)。その後に社員となり、ストアマネージャー職に就いたので思いもひとしおだ。

「接客業なので清潔感は大切ですが、みんな自分らしい格好で働いてほしいと思います」

全社的には「これまで髪色の制限があるので応募できなかった」「(スタバの仕事と兼務する)舞台の仕事で髪色を染める役があってもあきらめていた」という声も寄せられた。「そこまで自由になったのなら、また働きたい。戻ってきたい」というOBやOGもいた。

■個性的な格好がお客とのコミュニケーションに

座間味佑奈さん(パルコヤ上野店ストアマネージャー)は2008年の入社。出身地の沖縄県で働いていたが、夫の転勤に伴い1年前に上京。東京・下町の店舗の責任者となった。

現在は金髪のインナーカラーを入れている座間味さん。髪色についてお客とのコミュニケーションが増えたと話す
撮影=プレジデントオンライン編集部
現在は金色のインナーカラーを入れている座間味さん。髪色についてお客とのコミュニケーションが増えたと話す - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「お店のパートナー16人のうち髪を染めている人は4~5人。それぞれの個性もあり、みんなが染めるわけではありません」(同)

明るい髪色がなじんでいる座間味さんだが、実はカラーリング歴は短い。

「ドレスコードの緩和にあたって『まず、リーダーの私から染めてみよう』とグリーンに変え、インナーカラーもしました。今の髪色は(取材日の)数日前に変えたばかり。やってみてお客さまとのつながりが深くなり、常連の方からは『髪色変わったね』と声をかけられます」

学生時代は黒髪のロングヘアでその後も黒髪。和太鼓をやっていた一面もある。沖縄の女性=開放的な南国の土地柄で髪色も……との思い込みは「バイアスをかけていた」ようだ。

「服装では、上も下もデニムが着られるようになったのが好評です。鹿児島県出身の学生パートナーがいますが、彼女がベージュのシャツ+デニムで働く日に訪ねてきた友達が『え、かっこいい! 私もその姿で働きたい』と話していました」

■“目立つ色”で「よりきちんと接客」意識が高まった

髪色を自由にした結果、「パートナー自身が目立つ色にすることで自律性も高まり、『よりきちんと仕事をしないと』という意識になりました」と関係者は口を揃(そろ)える。派手な髪の色や服装はお客から覚えてもらえるという利点があるが、接客中にひとたびミスをすれば、より厳しい視線が注がれる可能性もあるからだ。

パートナーの多くは「よりきちんと仕事をしないと」と接客意識が高まったという
撮影=プレジデントオンライン編集部
パートナーの多くは「よりきちんと仕事をしないと」と接客意識が高まったという - 撮影=プレジデントオンライン編集部

なお、コロナ禍でマスク着用も続くが、マスクの規程は以下のようになっている。

・素材=不織布、コットン、リネンなど(ウレタンマスクは飛沫防止効果が低いためNG)
・色=白、ベージュなど淡色推奨(黒やグレーなど無彩色、淡い水色やピンクもOK)

そして「柄のないもの」だ。同社のコロナと向き合う衛生意識も取材してきたが、厳しい取り組みを続けてきた。それもあるのか、マスクに関しては細かく定義されている。

■ヒゲやタトゥー、編み込みも文化や風習に応じて

「お客さまからは好意的な声ばかり」と紹介したが、ここまで読んだ人は「本当なのか?」と思ったかもしれない。実は取材班もそう感じて何度も確認したが、今のところ反対の声はない、という。

デニム姿の戸澤さん。服装の下の色はグレー、ネイビー、ブラウンにデニム素材が追加された
デニム姿の戸澤さん。ボトムスの色はグレー、ネイビー、ブラウンにデニム素材が追加された(撮影=プレジデントオンライン編集部)

これ以外の規程に関しては「ヒゲはもともとOK」「タトゥーは見せるのはNG、隠れていれば自由」だという。タトゥーに関しては先住民族などの風習もある。髪型ではブレイズやコーンロウ(編み込み髪)もファッションで行う場合と、民族性によるものとがある。ダイバーシティを掲げるのは理想だが、現実には弾力的運用のようだ。

スターバックスの場合も「タトゥーについては、米国では数年前に『見せてもOK』になりました。文化や風習の違いもあり、マーケットごとに判断しています」(同社)という。

一連の取り組みにはリスペクトしつつ、一般のビジネスシーンでは違う意見もありそうだ。髪色自由が似合う職場は、例えばアート系のデザイン会社、アパレルやファッション関係、美容院、飲食業、ダンススクールなど、明るい髪色も個性になる業種・職種が多い。

以前「日本人の髪色」について調べたこともある。日本人全体に明るい色が流行したのは1990年代後半から2000年代前半にかけて。アムラーから始まる茶髪ブームも起き、明るく派手な髪色に染める社会人女性も目立った。それが近年は黒髪回帰になっている。

■規制の少ない職場のほうが生産性は高い

服装に関しては、多くのビジネス現場でかなり自由になった。

その推進役は「クールビズ」だ。2005年に政府が地球温暖化対策の一環として「初夏から秋の軽装スタイル」を提唱して以来、年々各職場のドレスコードが緩和されていった。

どこまで許されるのか、2年前「クールビズの作法と各社の事情」を調べてビジネス記事にしたことがある。その時もかなりカジュアル化を感じたが、コロナ禍でより進んだ。

在宅勤務が一般化した現在だが、職場の規制を緩め、従業員が生き生きと働ける環境を整えるのも大切だろう。「部署の雰囲気が堅苦しい職場と自由闊達(かったつ)な職場とでは、生産性が上がるのは間違いなく後者」という話も、以前に別の取材で聞いた。

東日本営業本部長の林さんは、こうも話す。

「会社が、自分らしくいられる居場所をつくりパートナーに寄り添うことで、パートナーの人たちもお客さまに一段と寄り添える。ゆくゆくは『ノーフィルターの世界』になるといいなと思います。今回の取り組みはその第一歩です」

「人は見た目が9割」ともいうが、昔に比べて「AだからBだろう」という固定概念も薄れてきた。先入観を横に置いて向き合うことも「ノーフィルター」になりそうだ。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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