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男女平等世界一のノルウェーでも「女性の40%はパート勤務」という不都合な真実

プレジデントオンライン / 2021年11月8日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stock_colors

世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」でノルウェーは2008年に1位となり、2009年以降は常にトップ3に入り続けている。同国のジャーナリスト、リン・スタルスベルグさんは「『世界一男女平等な国』と言われることもあるが、ノルウェーの労働市場をみると男女平等とはいえない」という――。

※本稿は、リン・スタルスベルグ『私はいま自由なの?』(枇谷玲子訳、柏書房)の一部を再編集したものです。

■「世界一男女平等な国」はノルウェー国民の総意だが…

ノルウェーに暮らす私たち女性は、どこまでも前進できる。キャリアを積み、重要な職に就き、子どもも配偶者も持てる。

もちろん、自分で稼ぐことだってできる。母親になった後でも、国会議員を目指せるし(ノルウェーの国会議員は、育児休暇を取ることもできるのだから)、スキー・レースやマラソンにだって出られる。

ノルウェーでは、保育料はほぼ無料で、学童保育が充実している。

育児休暇の取得率も、父、母ともに世界トップ。高齢の両親がいる場合、老人ホームが毎日、責任をもって面倒をみてくれる。

多くの男性が長年手にしてきたものを、私たちもようやく手に入れたのだ。この国は男女平等だ。自分の人生を選択できる。私たちは自由だ。この国が追い求めてきた理想が、ようやく実現したのだ。

政治家たちは、ことあるごとに、ひけらかす。

「ノルウェーは、世界一男女平等な国です!」と。

さらに彼らは言う。

「男性も女性も、仕事と家庭を両立できますよ」

実際にそうするよう、国民に期待する。

それはフェミニズムの戦利品かつ男女平等の成果物で、大多数の人の望みでもあった。

現在、大半の家庭がフルタイム勤務や、なかば義務教育化した保育制度に順応し、子どもたちも健やかな学童生活を送っている。

特異な歴史を経て実現された今日の福祉制度により、過去のどの世代も経験してこなかったようなチャンスに私たちが恵まれているのは、まぎれもない事実だ。

■女性の40%がパートタイムで働いている

憂える理由はどこにもない。

ところが、私たちを混乱に陥れるグレーゾーンが少なからず存在する。

男女平等世界一の国で、仕事と家庭の両立が容易いのなら、一体なぜ幼い子を持つ約半数もの親がパートタイムで働いているのだろう?

3歳~6歳の子を持つ既婚女性または事実婚をしている女性のうち、フルタイムで働いているのは26%。40%はパートタイム勤務で、14%は一時的に労働から離れている。残りの20%は失業中または労働力をもたない。

■家庭内の家事の担い手は依然として女性

この2世代で、男女ともにライフスタイルが大きく変化した。とはいえ、変化の度合いはおそらく女性の方が大きい。

世の矛盾の大半は、生活様式の変化に起因する。女性が働いていたとしても、パートタイム勤務である場合が多い。収入は男性に及ばない。

現代の男性は歴史上、最も家事をしているが、それでも家庭内での主な家事の担い手は依然、女性である。

私たちは性別を判断材料に、役割を選ぶ。

女性の方が男性より頻繁に病気で欠勤する。新聞で仕事と家庭を両立する難しさについて書くのが、大方、女性なのは偶然ではないだろう。家族に子どもが加わった際、子育ての優先度の高さは男性と女性でしばしば異なる。ここで男女平等の真価が試される。

2005年のスウェーデンの調査で、家庭、仕事への貢献度に男女差があることが明らかになった。幼い子を持つ親は、様々な業界で働いているが、母親の40%は、子どもが小さいうちは労働時間を抑えたいと望んでいた。一方、男性で同じことを望む人はわずか15%だった。

■「今の私の職場では、仕事と家庭の両立は無理」

仕事と家庭がどちらも順調な家族がいたとしても、余裕などほとんどないし、ほんのわずかに余裕があったとしても、ふとしたはずみで、失われてしまう。

子どもの保育所生活に急にトラブルが発生するかもしれないし、上司から高過ぎる要求を突き付けられるかもしれない。

仕事中にストレスを感じている様子の女性
写真=iStock.com/Jay Yuno
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jay Yuno

ある30歳のエンジニアの女性は、自らの人生を次のように語った。

「私たちは完全に平等だと刷り込まれ、低賃金労働や退屈な単純労働に就かないよう口をすっぱくして言われてきました。

大学で著しく優秀な成績を収めれば、追加の単位が与えられ、NTH(ノルウェー技術大学、現NTNUノルウェー科学技術大学)がいかに素晴らしいか無料で見て回るツアーに参加できます。

ところが卒業後は、考え方や価値観が合わない労働市場に出て行かなくてはならないと、あらかじめ教えてくれる人はいませんでした。

私たちはキャリアというメリーゴーランドや、仕事と家庭の両立という大海原に、強制的に投げ出されます。ほかの選択をしていれば、仕事以外で自己実現できたかもしれないのに。前へ倣えするみたいに世間と同じであるために私は今、毎日遅くまでPCの前に座っています。

私には分からないんです。子どもを持つ女性が、どうしてやっていけているのか。少なくとも今の私の職場では、仕事と家庭の両立は無理なんです」

■男女平等が足りないことを示すデータ

女性は仕事と家庭の大半をいまだ担い続ける一方で、家の外で働くよう強く期待されている。

ノルウェーは男女平等である、という暗示に私たちはかかってしまってはいないか?

ノルウェーは男女平等というより、「やや男女平等」と言った方が正しいのではないか?

ノルウェーの女性の社会進出率は高いが、主な稼ぎ手は相変わらず男性で、女性の労働者の大半がパートタイム勤務もしくは低賃金労働をしている。

2010年にノルウェーの統計局が作成したパンフレット『カーリとオーラ』に、男女平等を示す――いや、むしろ、男女平等が足りないことを示す――数字が見られる。

これによると、女性の労働力人口の70%近くが賃労働をしている。

1980年なかば以降、大学進学率は女子が男子を上回り、2004年以降、学位取得者も女子の割合が男子よりも多くなった。にもかかわらず、職業をもつ女性のうちフルタイム労働者はわずか60%程度しかいない。

謎と矛盾に満ちた事実に違いないが、私たちがさして驚かないのは、パートタイムで働く高学歴女性が知り合いにいたり、そのような選択が満ち足りた生活を送る上で理に適っているのを実感していたりするからだろう。

男女平等を選択したからといって、個人も社会全体も、全てうまくいくとは限らない。

■女性が育児をしながら働かざるを得ない現実

ノルウェーが男女平等に成功した国と謳われているのは、女性がバリバリ働きながら、子どもをたくさん産んでいるからだ。一方で、ノルウェーは、時短勤務で働く女性の割合がヨーロッパで最も高く、16歳以下の子どもを持つノルウェー人男性は、かつてないほどよく働いている。

ノルウェーの女性の中には、やむを得ず保育や介護の職に就いている人もいる。彼女たちが望み通りの安定したフルタイムの職に就けるようにと、労働組合が闘っている。そもそも介護職や公務員の求人に応募が殺到するのは、時短勤務がしやすいからだ。

ノルウェーには、いまだ女性のリーダーは少なく、大半の女性が中間管理職に留まっている。

時短労働の女性が多いこと、またトップの地位に就く女性が少ないという事実に、労働生活での男女格差が現れている。

男性は依然として妻よりたくさん働き、高い賃金を稼いでいる。

男性は子どもや配偶者と過ごす時間は少ないし、家事と育児はあまりしない。

行政が継続的に改善策を講じているにもかかわらず、女性は以前にも増して、家事や育児を多く担い、家族との時間を確保できてはいるものの、賃金や社会保障や将来の年金額は目減りしてしまっている。

男女平等の概念を表す天秤にかけられた性別記号
写真=iStock.com/oatawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

■労働市場における男女格差は消えていない

政府により任命された男女平等委員は、2012年9月、労働市場における男女間格差は、父親の育児休暇期間の延長や保育施設の増設が進んでもなお、縮まっていないと報告した。同委員会を主導したヘーゲ・シェイーエ教授は、今なお残る男女格差に愕然としたという。

現代のノルウェーで、女性の賃金は男性の賃金のおよそ66%だ。ノルウェー中央統計局によると、母親が家事に費やす時間は、1971年から激減しているにも拘わらず、父親よりもはるかに多くの時間を家事と育児の両方に割いている。時短で働く男性はいまだ珍しい。

年金の受給額は職業期間と賃金から算出されるが、現在の女性の老齢年金の平均支給額は、男性よりも低い。女性の年金受給者のうち約半数が最低水準の金額を受け取っている。一方、男性で最低額しかもらっていない人は10人に1人のみ。言い方を変えるなら、最低額受給者の10人中9人は女性である。家庭での無賃労働に献身する女性にも、社会保障を全額支給するべきだ。

社会保障費が、賃労働で稼いだ額をもとに算出されるのは公平と言えないのではないか? 「与えよ、さらば与えられん」と言うが、与えるという言葉には家庭でのケアや労働は含まれないのである。

■誰が子どもを育て、夕食の準備をしているのか

2010年にノルウェーのリサーチ会社「回答分析」が行った労働市場調査によると、企業トップの半数近くが、「自ら低賃金の職種を選んだ女性は、賃金の低さに不満を漏らすべきではない」と答えている。

高給取りの経営者に聞いてみたい。「女性が皆、高収入の仕事を選択したら、誰があなた方の子どもの世話をし、誰が高齢になったあなたの親を介護し、誰があなたが家に帰った後の職場の掃除をするんですか?」と。

特に若い男性に、男は多く働いている分、多く稼ぐべきだという意見が見られた。男性が長時間働く裏で、誰が子どもを保育所にお迎えに行き、夕食の買い物をしているかは、この調査で一切言及されていない。

同じ調査によると、質問を受けた人の過半数が、幼い子を抱える両親がフルタイムで働くのは困難とした。また、10人中6人のノルウェー人女性が、自宅で子どもと一緒に過ごしたいと願っており、35歳未満の女性は、養ってもらえるのであればキャリア・アップを諦めてもよいと考えていると答えた。2人以上子どもを持つ女性のうち、65%が扶養してくれる夫を持つ女性を羨ましいと思っていることも分かった。

これらの調査結果は、様々な解釈が可能ではあるが、多くの人たちが十分にもてていないもの――子どもとの時間や一人の時間――を切望していると私は解釈した。

■「私は自由なのか?」という問いが出る社会は健全か

時短勤務をする女性は、少なくとも二つの思いを募らせていると言えよう。

「離婚したら、すぐにでもフルタイムで働き始め、今よりも稼ぐことができる」
「子どもが大きくなったらフルタイムで働ける」

「時短の罠にかかった」と一生思い続ける労働者はほとんどいない。

リン・スタルスベルグ『私はいま自由なの?』(枇谷玲子訳、柏書房)
リン・スタルスベルグ『私はいま自由なの?』(枇谷玲子訳、柏書房)

自ら時短勤務を選んだ女性は、選択肢をどう捉えているのだろう? 自分の健康、子どもの幸福、家族にとっての最善を蔑ろにする? どうしてそんなことをしなくてはならないのだろう? 女性運動のため? 男女平等のため?

「常にストレスと疲労を抱えて駆け回っていなくてはならない」と、女性運動と男女平等への単なる嫌悪で終わってしまう。

誰もが称賛する素晴らしき男女平等はこれで正しいのかどうか自問すべき時だろう。「私はいま自由なの?」と。

今は男女どちらも家事と仕事に参加しているものの、家庭生活を円滑に進める責任を主に負うのは相変わらず女性だ。二重の役割は、今も主に女性が負っている。

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リン・スタルスベルグ ジャーナリスト
1971年ノルウェー生まれ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで社会学の修士号を取得。アムネスティ・ノルウェー、ノルウェー国営放送NRK、新聞「階級闘争」などの媒体で活躍。2013年に本書『私はいま自由なの?』を発表。アラビア語にも翻訳され、特にジェンダー・ギャップ指数ランキング134位のエジプトで、女性読者から大きな反響を得た。共著に、赤十字から出された『戦争のルール』(2012年、未邦訳)。単著は本作のほかに『もう飽き飽き――新自由主義がいかにして人間と自然を壊してきたか』(2019年、未邦訳)がある。

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(ジャーナリスト リン・スタルスベルグ)

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