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「こんな小さな子を棺に入れるなんて…」突然死した2歳児の遺族に納棺師が提案したこと

プレジデントオンライン / 2021年11月17日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RobertHoetink

亡き人を悼み送る「納棺師」は、どのように遺族に寄り添っているのか。納棺師の大森あきこさんの著書『最後に「ありがとう」と言えたなら』(新潮社)から一部を紹介する――。

■「何で? 何で?」お母さんに突き付けられた理不尽な現実

小さな子供の納棺は何度経験しても心が痛くなります。

ハナちゃんは2歳の女の子。昨日までお父さん、お母さんに大好きな絵本を読んでもらってかわいい笑顔を見せたり、お父さんの脱いだ洋服を洗濯機までトコトコ歩いて片付けたりしていました。

しかし、突然死は、家族からハナちゃんを無理やりちぎり取りました。

家に着くと奥からお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえます。本当のことを言うと、中に入るのが怖くてしかたがありません。私にできることがあるのかなと不安で足がすくみます。

でもどんなに入るのが怖くても、葬儀会社の担当者さんと打ち合わせをした後、ご遺体のそばへお邪魔することになります。

部屋には小さな布団と、絵本や赤や黄色のぬいぐるみやおもちゃが綺麗に並べられた棚。お布団の中には小さな女の子が寝ています。小さな手は握られて腕がスッと伸び、下着の下の小さな胸に刻まれた解剖の跡が見えています。早く隠してあげたい。

お母さんは手や足をさすりながら、「なんで? なんで?」と涙を流しながら問い続けます。

■固くなった唇以外はまるでお昼寝をしているよう

ここで声をかけるのが正しいのかなんてわかりません。

ただ、私たちの仕事が小さなお子さんやご両親に、何かできることがあると信じるしかないのです。

「お母さん、今日はたくさんハナちゃんを抱っこしてあげましょう。ハナちゃんの一番好きなお洋服と、お写真を用意してもらえますか?」

お母さんが虚ろな顔でうなずき、ハナちゃんから離れました。

小さな体には、死因を調べるためについた解剖の傷があります。手当てができるのは今しかありません。

みなさんにいったんお部屋を出てもらい、傷の確認です。

小さな体で頑張ったね。

泣きたくなるような気持ちで手当てをします。

出血などがないよう、傷が目立たないように肌色のテープを貼り、首にはレースのついた布を巻きました。

体の手当てを急いでしていると、お母さんが白いワンピースとウサギが刺繡された黄色のカーディガンを持ってきてくれました。

ひと時も離れたくない様子のお母さんに、一緒にお着替えをしていただくことにしました。着ている下着の上からお洋服を着せると、乾燥して固くなった唇以外は、まるでお昼寝をしているみたいです。

赤ちゃんの手のクローズアップ
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

■せめてお顔は穏やかに

子供の肌は大人と比べると水分量がとても多いため、大人より乾燥が早く進んでいきます。指先も皺ができ、唇の色や形も変わってしまいます。

小さな体で頑張って来た子供たち、せめてお顔は穏やかにしてあげたいと思うのはご遺族だけではなく、納棺師も一緒です。

ワックスと少量の口紅を混ぜて、唇の固くなっている部分に乗せます。

お顔と体には、普段塗っていたクリームを塗ることにしました。これはお父さん、おじいちゃん、おばあちゃんにも参加してもらい、指先にまでみなさんにたくさん、塗っていただきました。

後は、私がすることはあまりありません。

残りの時間は抱っこして過ごしてもらうことにしました。

抱っこをするとお母さんは、いつもハナちゃんを見ていた時の表情を思わせる、優しい顔に変わっています。

お母さんとお父さんが並んで、何度も頰に触れて名前を呼びます。先程までの「叫び声」ではありません。

■強面なおじいちゃんが孫を抱くとソファに座りこんで声を出して泣いた

ふたりが抱き終わるとおじいちゃん、おばあちゃんの番です。

実はおじいちゃんは目が見えないため、この抱っこが改めて孫の死を突きつけられる辛い瞬間でした。強面(こわもて)なおじいちゃんが、孫を抱くとソファに座りこんで声を出して泣くのです。しかし、それを止める人は誰もいません。ここはみんながその悲しみを理解し、共感できる場所なのです。

悲しいのは当たり前だよね。

こんな小さな愛らしい子供を取り上げられたんだもの。

納棺式というお別れの場では、誰もが悲しみを自由に表現していいのです。

大切な人が目の前からいなくなったら普通じゃなくていいのです。

結局、1時間30分の納棺式は抱っこするだけの時間となりました。

棺にお子さんを入れるなんて抵抗があるに違いありません。

用意したのは小さなクマがプリントされたかわいい棺でした。ご両親には、まず、この棺をハナちゃんが眠るベッドにしてもらおうと考えました。棺用の白い敷布団を敷くと、いつも使っていたピンクのウサギをかたどった枕を置き、タオルケットを広げました。ぬいぐるみもおじいちゃん、おばあちゃんの手で、いくつも入れてもらいました。

これで寂しくないね。

最後にお母さんの手に抱っこされたハナちゃんは、棺のベッドに横になりました。

■遺族にとって辛い納棺式で、納棺師ができること

身近な人の、納得できる死は、なかなかないものです。

納棺式をすることで全ての方が納得できるわけでも、悲しみがなくなるわけでもありません。ただ、納棺式は亡くなった方を目の前にし、触れ、その方を想い悲しむ時間です。冷たい体に触れることで、もうその人は戻ってこないと改めて突きつけられる時間でもあります。

大森 あきこ『最後に「ありがとう」と言えたなら』(新潮社)
大森 あきこ『最後に「ありがとう」と言えたなら』(新潮社)

現実を認めたくないご遺族にとって、それは辛い時間になるかもしれません。しかし、亡くなった方のお体を前に行う限られたお別れの時間にしか、できないことがたくさんあると感じています。

その時間、私たち納棺師に何ができるのか。

生前のお顔を思い出していただけるように、そばでお別れができるように、亡くなった方へ処置やお化粧、着せ替えをする。そして、ご遺族の思いに耳を傾けて、亡くなった大切な方に「何かしてあげたい」という願いをひとつでも叶えることができたら、というのが全ての納棺師の思いです。

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大森 あきこ(おおもり・あきこ)
納棺師
1970年生まれ。38歳の時に営業職から納棺師に転職。延べ4000人以上の亡くなった方のお見送りのお手伝いをする。ジーエスアイでグリーフサポートを学び、グリーフサポート研究所の認定資格を取得。納棺師の会社・NK東日本で新人育成を担当。「おくりびとアカデミー」、「介護美容研究所」の外部講師。夫、息子2人の4人家族。

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(納棺師 大森 あきこ)

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