なんと"レジ応援"が不要に…イオンが導入した「スマホでバーコード読み取り」の意外な効果
プレジデントオンライン / 2021年11月9日 9時15分
■お客にバーコードを逐一読み込ませてレジ待ちを解消
イオンリテールが、「レジゴー」という実店舗ならではの新サービスを始めている。
レジゴーでは、顧客は自身のスマホや店頭の貸し出し端末を使い、買い物をしながら商品のバーコードをスキャンする。会計時は、スキャン済みの商品情報が登録されたQRコードを精算機に読み込ませて支払いを行う。
2019年に実証実験を開始し、2020年から本格展開を続ける。現在は月約10店とハイペースで導入店舗の拡大を実施しており、別会社が運営する系列店を含めて全国74店舗で導入されているという。
精算時にまとめて商品登録を行う従来のセルフレジや、商品登録は店員が対応し、精算のみ顧客自身で行うセミセルフレジの場合、来客数の多い時間帯などはどうしても待ち時間が発生してしまう。レジゴーは店内を回りながら商品を登録していくため、客が商品をかごに入れる都度バーコードを探して読み込ませないといけない“面倒くささ”はあるものの、会計時点での“レジ待ち渋滞”を大幅に減らせる点が特徴だ。
■「楽しい買い物体験を提供する」ことを重視
待ち時間が減るだけでも大きなメリットだが、あわせて重視したのが顧客体験価値の向上だという。イオンリテール株式会社広報部の大瀧和孝氏はこう話す。
「レジ待ち解消による効率化は開発の出発点ではありますが、それ以上に重視しているのが、“お客さまに楽しい買い物体験を提供する”ことです。そのために、スマホに慣れていない方でもスムーズに使っていただけるUI(ユーザーインターフェース)を開発したり、カートスタンドを取り付けてスマホを設置できるようにしたりと、便利で楽しく買い物をしていただくための工夫をしています」
新規導入した店舗には説明スタッフを配置するなどして認知を拡大し、導入店舗では来店客の約2割がレジゴーを使って買い物をするという。テレビなどで紹介されるようになると、関心を持ったシニア層から「使ってみたい」と言われるケースも増えてきたそうだ。
「使い方が分からないお客様には、最初の1、2商品の登録をスタッフが同行してご案内しています。操作はそれほど難しくないので、シニア層の方にも楽しみながら使っていただけています」
まとまった買い物をする顧客が利用する傾向があり、レジゴー利用者は他の手段の利用者に比べて購入点数が約2割多いとの統計も出ているとのことだ。
当初は貸し出し端末のみだったが、2021年春からはスマホアプリの配信も開始。同時に精算機の操作パネルにも非接触システムを導入し、店舗の機器に触れずに買い物を完結できる環境を整えた。
レジの混雑が解消されることで、従業員が他のサービスに注力できるようになったことも恩恵のひとつだという。レジゴーの精算機が設置された場所には、防犯やサポートのためのスタッフ1人が常駐しているものの、有人レジと比較すると負担は大幅に軽減できる。
「従来の有人レジでは、混雑時に1レジあたり2人体制で対応する『レジ応援』がよく行われていましたが、レジゴーなどの導入によってレジ応援の機会はほとんどなくなりました。その分、お客さまのご案内や品出しなど他の業務に注力できるようになっています」
■バーコードのあるリンゴとないリンゴに戸惑いも
実際にレジゴーを使って買い物をしてみた。アプリの「スキャン」ボタンをタップするとカメラが起動し、商品バーコードを読み込ませれば登録が完了する。スキャンの仕方自体は一般的なセルフレジと変わらない。ボタンなどの画面表示も大きく分かりやすいので、セルフレジを使ったことのある人なら問題なく使うことができそうだ。
ただし、一部の野菜や果物、惣菜類などは商品にバーコードが貼られていないため、アプリ内の商品一覧から商品名を選んで登録する必要がある。なかには同じ売り場に価格の異なる2種類のリンゴが並んでいて、一方は商品にバーコードシールが貼られていて、もう1方の商品バーコードがないためアプリ内の一覧から選んで登録するといったケースもあった。このあたりは慣れないうちは少々戸惑うかもしれない。
すべての買い物が完了したら、精算機に表示されているQRコードを読み込むことで、アプリ内の買い物データが精算機に送信される。その後、精算機のパネルで決済方法などを選択して支払いを行う。最後に、アプリに表示される会計完了を示すQRコードを出口ゲートにかざして終了だ。
まとめて商品登録を行うセルフレジの場合、購入点数が多いと商品登録作業を負担に感じることがある。レジゴーもその負担が付きまとうと思われたが、カゴに入れるついでにスキャンできるので面倒だという感覚が意外に薄く、精算時も並ばずに会計できる可能性が高いため、これまでの買い物で感じていたストレスがだいぶ軽減されると感じた。
■「手間」を実店舗ならではの体験として付加価値化
レジゴーのユニークな点は、単に効率化を目的としているのではなく、顧客体験価値の向上を重視したサービスいう位置づけで開発されている点だろう。バーコードのスキャンという、場合によっては「手間」とも受け取られかねない作業を「実店舗ならではの買い物体験」として付加価値化したことで、ポジティブなものへと変換している。
たとえば子連れ客にとっては、買い物をしながら体験できる「ちょっとしたイベント」のような存在になっているようだ。店舗でレジゴーを使って買い物をしていた利用客に話を聞くと、「子どもが喜んでスキャンをして、買い物のときにぐずらなくなった」ことをメリットとして挙げていた。
また、大瀧氏によると、「夫婦で来店したシニアのお客さまが、妻が売り場から商品を選び、夫がレジゴーで登録するといった感じで、楽しみながら利用している姿を見かけます」とのこと。レジゴーを利用することが生活の刺激や家族とのコミュニケーションの一環となっている様子がうかがえる。
■イオンはキャッシュレス推進にも尽力
とはいえ、一連の買い物の流れを効率化して、無駄な時間なく商品選びから精算まで完了できる環境づくりは実店舗での体験をより快適化するために重要だという。その時に課題となるのが、キャッシュレス利用率の向上だと大瀧氏は話す。
イオンリテールでは、同社発行のクレジットカードや電子マネー「WAON」を使った支払い時のポイント付与を強化するなどしてキャッシュレス化を促進し、キャッシュレス利用率を6割にまで引き上げた。経済産業省によると、2020年の日本の個人消費に占めるキャッシュレス決済の割合は29.7%とのことなので、同社の6割という利用率はかなり高いといえるが、今後さらに強化していきたいという。
「レジの形態の比率は、店舗の規模や顧客層によってもベストな構成が異なるので、“レジゴーを増やせば増やすほど効率が上がる”というわけではありません。しかし、キャッシュレスに関しては利用率に比例して効率も上がるので、今後も利用率向上に力を入れたいと考えています」(大瀧氏)
キャッシュレス化を進めるにあたっては、店舗側の事情で導入が困難となるケースも少なくないそうだ。同社のような大規模ショッピングセンターの場合は問題ないものの、キャッシュレスは売上の現金化までにタイムラグが生じるため、中小企業の場合は資金繰りの面で積極的でないことも多い。ECの手軽さ・便利さに慣れた利用客に「実店舗は不便」という印象をもたれることを避けるには、こうした課題をどのように解決するかも考えていかないといけないという。
■「リアル店舗の強みを生かした買い物体験を」
レジゴーは2021年度中にグループ内100店舗の展開を予定しており、アプリ内決済の導入など利便性向上のための機能追加も検討中とのことだ。
「効率のよさ」では、実店舗はECにかなわない。実店舗だからこそ発生する「手間」を「体験」として提供するレジゴーの戦略は、実店舗が生き残っていくための新たな形のひとつといえるだろう。
大瀧氏に改めてレジゴーのミッションについて尋ねると、このような答えが返ってきた。
「レジゴーがめざしているのは、お客さまに買い物を楽しんで帰っていただくことです。実際に商品を手に取ることのできるリアル店舗の強みを生かした新しい買い物体験を提供していきたいと考えています」
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ITライター
企業PR誌の制作などを経て、フリーランスのライターとして独立。IT分野を中心に企業やプロダクトの取材、技術解説記事、デジタル製品レビューなどを手がける。著書に『今すぐ使えるかんたん FC2ブログ超入門』(技術評論社)、『今からササッとはじめるLINE/Twitter/Instagram/Facebook』(秀和システム)など。2019年に株式会社ウレルブン設立。
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(ITライター 酒井 麻里子)
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