なぜ、乳がんで「生存確率50%」の宣告を受けた私はキャッシュで首都圏に4LDKを買ったのか
プレジデントオンライン / 2021年11月9日 11時15分
■おぎやはぎ・小木が「がん検診」後に高級車を衝動買いした理由
今年9月、お笑いコンビ「おぎやはぎ」の小木博明さん(50)が「人生最高額の衝動買い」という見出しのネット記事が目に留まった(スポニチアネックス、9月3日)。小木さんは、昨年、ステージⅠの腎細胞がんが見つかり手術を受けている。
腎細胞がんは、腎臓にできるがんの一つ。発症する割合は10万人に約6人で、がん全体のうちの約1%を占める。男性のがんのうち、最も罹患(りかん)者が多いのは前立腺がんで約9万2000人とダントツに多いが、腎細胞がんは約2万人(2018年:国立がん研究センター、全国がん登録罹患データ)。やや男性に多い傾向がある。
5年相対生存率(2009~2011年)は68.6%(男性70.4%、女性64.8%)となっているが、ステージⅠなら90%を超える。早期に発見して、治療ができて何よりだった。
記事によると、小木さんは、ちょうど1年目のがん検診の結果に異常がなかったため、安心感からか、検診後に店舗へ直行し、ハイテンションのまま、その場で「数百万円じゃきかない」高額な車を2年ローンで買ったという。
こうした衝動買いをしてしまうがん患者は小木さんだけではない。実際、この記事には、似たケースとして、元「雨上がり決死隊」の宮迫博之さん(51)の名前が挙げられている。がんが見つかった後に、高級腕時計を購入したらしい。
今回のコラムでは、ファイナンシャル・プランナー(以下FP)かつ自身もがんサバイバーである筆者が、その実態と心理メカニズムを解説したい。実は、この心理を知ることは、がん罹患者でない場合でも役立つ。緊急事態宣言が解除された今、一気に消費欲求が爆発してしまうおそれのある人が少なくないのだ。
■車、ブランド品、旅行、マイホーム。がん患者の衝動買いは止まらない
筆者も、10年以上前に乳がん告知を受け、現在も年1回、定期検診を受けている。だから、小木さんの気持ちは痛いほどよく分かる。一度、がんを経験した者にとって恐ろしいのは「再発・転移」だ。どれだけ罹患前と変わらず、日常生活が送れるようになっても、再びがんになる可能性はゼロではない。そもそも、最初に告知を受けたときも、「まさか、自分ががんになるなんて」と愕然とするくらい元気なはずだった。
だから、定期検診の結果を聞くときは、いまだにドキドキする。再発する場合、最初にがんと診断された後、1~2年内が多いので、1年目であればなおさらだろう。
ちなみに、FPである筆者は、がん告知を受けた翌年、マイホーム(4LDKの分譲マンション)をキャッシュで購入した。小木さんに負けず劣らず、人生最大の買い物だろう(夫名義なので、正確には、夫に「買ってもらった」ことになるのだが)。
診断時に担当医から5年相対生存率50%と告げられた筆者がなぜ家を買ったのか。それは、「そんなに長生きできないなら、せめてキレイなところで死にたい」と、切に願ったからだった。
今振り返ってみると、もしがん告知を受けていなければ、いまだに購入していないかもしれない。がん告知に背中を押されたと言えなくもない。いずれは、購入するつもりで結婚当初からお金を貯めていたし、あの時、買ってよかったと満足している。後悔もない。
![ミニチュアの家の周りに積み上げたコイン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/a/670/img_ba3e33df745409019d5280ee1bc4a5b0388757.jpg)
ただし、治療中で体調が悪い時、物件選びや引っ越しの準備、内装の打ち合わせ、家具・家電の購入などは、本当に大変だった。みなさんには、マイホームを購入するなら、治療や体調が落ち着いてからをお勧めしたい。
FP兼サバイバーとして多くの方と接する中で気付くのは、その額の多寡は違えども、がん告知後やがん検診後などに衝動的にお金を使ってしまう人が少なくないことだ。
「保険の給付金がたくさんもらえたから」
「がん治療を頑張ったご褒美に」
「つらい気持ちを紛らわせたくて」
ブランドバッグ、靴、洋服、アクセサリー、高級家具などを衝動買いする。もしくは、旅行や趣味に大金を投じる。そうしたがん患者は少なくない。
「高額な医療費もかかっているし、仕事も辞めざるを得なくて収入もゼロになった。でも、とにかく気分を変えたくて引っ越ししてしまった! お金がない‼」
という家計相談にやってくる人もいる。
■ストレスを抱えている状態は衝動買いにつながりやすい
脳科学的な分析によると、疲れているとき、落ち込んでいるとき、寝不足なとき、ストレスを抱えているときは、衝動買いしやすいという。
脳は人体の中でも最もエネルギーを必要とする臓器で、脳の重さは体重の約2%しかない。それにもかかわらず、1日に消費するエネルギー量は体全体が使う総エネルギーの20%を占める。
そこで、脳は省エネのため、反射や直感で物事を判断したり、重大な決断を先送りしたりするようにできている。
がんという重篤な病気になってしまった患者さんは、ある意味、非日常の世界に放り込まれてしまったようなものだ。それが大きなストレスとなり、その状態で買い物をすると、冷静で合理的な判断ができず、衝動買いにつながりやすくなるのは、がん患者さん「あるある」かもしれない。
![頭をストレスが占めている](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/9/670/img_a9858175311fe8219e195d09be61cca8438752.jpg)
衝動買いしたモノが、もともと自分が欲しかったものや必要なもので、自分の懐具合に見合っており、ストレス解消の効果があるものであれば問題はない。それによって、「明日また頑張ろう」といった気持ちの張り合いになれば良いのだ。お金は使わなければ、ただの日本銀行券。使ってこそ価値がある。
しかし、「なんでこんなもの買っちゃったんだろう」と後悔するケースも多いはずだ。
そして最近、筆者が危惧しているのは、緊急事態宣言明けの人々の消費行動である。
長期にわたる自粛生活を経て、少しずつコロナ前の日常生活が戻りつつある。そんな緊張感やストレスを抱えた生活から脱出できた解放感や安心感が、小木さんやがん患者のような衝動買いや財布の紐の緩みにつながらないとも限らない。
■生活防衛の意識の高まりは強いが、消費がストレス発散になる人も
もちろん、先々のことを考え、引き続き堅実な生活を送る賢い消費者も多い。
「マネーフォワード」が実施した「コロナ禍の個人の家計実態調査2021」によると、コロナによって、全体の約8割が、「生活防衛の意識が高まった(やや高まった)」と回答。そのうち約2割が、生活防衛のためにNISAや投資信託といった「投資を始めた」、1割が「貯金を始めた」という。
さらに、生活防衛の意識が高まった人のうち、なんと約9割が「コロナ収束後も、生活防衛を継続したい」と回答している。
実際、コロナ禍で、筆者のところに家計相談を希望する方も着実に増えた。今はとくにお金に困っているわけではないが、何かあった場合の備えやこれから将来にわたって大丈夫かどうか確認しておきたいといった方が多い。
FPとして独立して四半世紀近くになるが、今ほど、自分の生活は自分自身で守らなければという意識の高まりを実感した時はない。
また、同調査によると、支出状況の変化についても、減少した支出は、1位「交際費」、2位「趣味・娯楽」、3位「交通費」。増加した支出は、1位「水道・光熱費」、2位「食費」、3位「日用品」となっている。
巣ごもり消費など、消費のスタイルや使いみちが変わっただけで、消費行動自体はあまり変化がないような気がするので、収支はトントンかやや節約できている印象はある。しかし、約半数は「新型コロナが収束しても、支出状況はもとに戻らないと思う」と回答しており、引き続き、家計の引き締め傾向は強いようだ。
とはいえ、この調査は、同社の家計簿アプリ「マネーフォワード ME」の利用者を対象にしたものである。元々お金に関する「意識高い系」の人々の消費行動の結果であることも念頭に置いておく必要がある。
■衝動買いや散財で貯蓄できない事例は後を絶たない
そこで、家計消費に関する他の調査を見ると、コロナ禍で、以前と消費行動は変わらずお金を使っている、支出が増えたという人の支出内容を確認すると……。
「外出できない分、ネットで買い物してしまう」
「友人と会えない・好きなことが自由にできない寂しさを埋める」
「おウチ時間が増えて暇だから」
「在宅ワークで通勤時間がなくなり趣味が増えた」
いずれも、さもありなん、むべなるかな。FPとしては、ちゃんと貯蓄できていて、それによって精神的な安定や家庭の平和が保たれ、家計に支障がない範囲内であれば大丈夫とアドバイスしたい。
しかし、実際には衝動買いや散財をして後悔したり、貯蓄ができなかったりという事例は後を絶たない。これが、ライフプランや老後の生活設計に支障を来すようであれば、一刻も早く対処すべきである。
■「衝動買い」で後悔しやすい5つのタイプと対処法
では、どんな人が衝動買いの罠に陥りやすいのか、
よくある5つのタイプと対処法を紹介する。
① 買い物好きでつい衝動買いをしてしまう
いわゆる「浪費癖」のある人で、自分はそのタイプという自覚があるなら、見るとつい欲しくなって、必要のない物まで買ってしまう可能性大。
![複数のショッピングバッグを持つ女性の手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/d/670/img_4dd3db6fec383c0e445e2c75ff1e18fd142395.jpg)
② 買い置きやまとめ買いをしていないと不安
コロナ禍で買い物の頻度を減らしていた人も多く、まとめ買いが常態化しているかもしれないが、使い切れないほどの量や同じようなモノを買っている可能性もある。部屋が片付かず、モノの管理がルーズな人ほど、貯蓄できない、家計管理ができない傾向が強い。
■無駄遣いとの指摘に「メルカリなどで高く転売できる」と言い訳
③ 「無料」「おまけ」「タイムセール」「限定品」「トレンド」というキーワードに弱い
おトクだからと、無料のノベルティやグッズ、おまけに弱い人は、つい必要ないものまで買ってしまいがち。人はモノに対して払ったお金の分の価値しか見いださない。タダでもらった、セットで安かったモノは、部屋の片隅に放置されたり、結局使わなかったり、それなりの扱いになるのがオチだ。
![オンラインショッピングサイトとミニチュアの段ボール](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/a/670/img_0a2556fd4aa23f9cb86000066383edca335309.jpg)
④ 見栄っ張り、モノにこだわりがあり、ブランド品が好き
いつの時代もブランド品で全身固める人がいる。ただ、筆者の私見だが、経済的余裕とブランド志向は必ずしも比例しない。いわゆるお金持ちは、あからさまにブランドロゴやアイコンが入ったバックや洋服を身に着けている人は少なく、上質で品性のある落ち着いた装いの人が多い。お金がないにもかかわらず、見栄っ張りでブランド品が大好きな人は衝動買いをしないよう要注意。
⑤ 病気やケガ、失業、離婚などで強いストレスを抱えている
前掲のがん患者のように、病気やケガ、失業、離婚など、何らかの事情で、体調が悪いときや強いストレスを抱えて精神的に不安定なときは、冷静な判断ができない可能性が高い。「健全な精神は、健全な肉体に宿る」とはよく言ったもので、体調が悪いときに考えることはネガティブなものも多い。
ここに挙げた5つのタイプ以外にも、つい衝動買いをしてしまうことは誰にでもあるだろう。ただ、そもそも人間の脳のメカニズムが、そのようにできているのだと知っておけば、「ん? 今、これが欲しいと脳がだまされていないか?」「大丈夫か? 自分!」と感情や行動を抑制すべく意識するようになるのではないだろうか。
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ファイナンシャルプランナー
CFP1級FP技能士。日本総合研究所に勤務後、1998年にFPとして独立。著書に『親の介護は9割逃げよ「親の老後」の悩みを解決する50代からのお金のはなし』など多数。
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(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)
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