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エコバッグにマスク姿の「不審者」だらけ…万引きGメンを悩ますレジ袋有料化の"副作用"

プレジデントオンライン / 2021年11月7日 12時15分

カゴの中の袋と抱えるエコバッグに商品を隠した20代後半の主婦。この店で捕まり罰金を払っており、損失を取り返したかったと話した

■レジ袋有料化が万引きの現場を変えた

2020年7月にレジ袋が有料化されて以降、その代用品としてさまざまなタイプのエコバッグも販売され、もはや手ぶらで買い物に来る人の方が珍しくなった。

エコバッグを持参することで、魔が差す機会が増えてしまうのだろうか。持ち込んだエコバッグに商品を隠す被疑者のほか、それを幕にしてカゴの中の商品を覆い、あたかも精算済みであるかのように見せかけて未精算の商品を持ちだす「カゴヌケ」の手口を用いる被疑者が目立つ。

レジ袋不要客を装い、堂々と商品を持ち出す「持ち出し」の手口も横行しており、どの現場に入っても気が抜けない状況におかれる。店内で買い回り中に、レジ袋やエコバッグを広げないようポスターなどでマナー啓発している店も見かけるが、足を止める客は少なく、その効果は不明だ。

■「不審者」の象徴になっていたエコバッグ

エコバッグや使用済みのレジ袋を持って買い回ることで、万引きしていると疑われている気がすると訴える人も多いと聞く。

確かに以前であれば、使用済みのレジ袋や大きなエコバッグを売り場に持ち込むこと自体が不審の端緒となり、行動確認の対象とするのが定石だった。経験の浅い新人でもたやすくできる見極め方のひとつとして、そのような人物が入店した際は、必ず追尾するよう新人研修時などで指導していたほどだ。

一度商品を精算した後、商品を詰めたレジ袋を手に売り場に舞い戻り、いくつかの商品を袋に追加して出ていく「出戻り」と呼ばれる手口が、その典型といえるだろう。しかし、エコバッグなどの持ち込みが推奨される現在、この見極め方は通用しなくなってきた。

コロナ禍におけるマスク着用の義務化も、不審者の割り出しに大きな影響を及ぼしている。顔や目線を隠すために、帽子やマスクを着用してくる常習者は多く、これまでは注意対象としていたからだ。

マスク着用が義務化された当初は、店内が不審者だらけに見えてしまい、店の雰囲気が悪くなったと頭を悩ませる店長がたくさんいた。不審者の絞り込みができないまま現場で右往左往し、誤認事故を引き起こす新人保安員も増えたように感じる。

レジ袋有料化とコロナ禍における感染防止対策の影響で、万引きに至る不審者の見極め方が複雑化してしまい、技術指導や新任教育の内容も大きく変わった。社会情勢の変化により、万引きしやすい環境が整えられていく現実が、皮肉に思える。

■店舗で必ず見かけるセルフレジ不正

万引きを疑われていると気になるなら、余計な荷物を持ち込まずに、店内では必ずカゴを使い、不必要に周囲を気にすることなく買い回ることを推奨しておく。エコバッグや袋などの口は必ず閉めておき、電話や財布などの出し入れを控えるなど、手をバッグに入れる機会を減らすことも有効だろう。

こうした行動を店内で繰り返して不審者認定されてしまえば、顔認証登録されて店内における行動を監視されることにもなりかねない。気になる人は、日頃の振る舞いから注意すべきだろう。

犯行中の様子と事情聴取時
犯行中の様子。両手首のレジ袋とエコバッグの持ち方を不審に思い行動を見守ると犯行に至った。昨今、高級果実を狙う高齢万引き犯は多い

普及が進むセルフレジにおける不正行為も頻発しており、設置店舗で勤務に入れば、必ず一度は目にする光景となった。悪知恵が働く被疑者の手口を紹介すれば、チェック後の精算を無視して逃走を図ったり、高価な商品に安価なバーコードを貼り付けるなど工作して精算する人まで存在する。

また、最初に通さなければならないはずの有料レジ袋をチェックすることなくセットし、そのまま持ち去っていく被疑者も多い。たった3~5円の話ではあるが、いままで無料で入手できたモノを買わなければならないとなると、どこか損をした気持ちになってしまうのだろう。少しでも節約して、自分だけは得をしたい気持ちは、万引き常習者の心理と同じだ。

■レジ袋に5円を払うか、窃盗犯になるか

筆者自身、5円のレジ袋を盗んだ高齢女性に声をかけ、否認を続けられたため、やむなく警察に引き渡した経験がある。明確な映像証拠が見つかり、被害届が受理される状況にまでいくと、ようやくに未払いを認めて謝罪されたので、その時は警察による厳重注意で済ませた。至極当然のことであるが、どんなに安価なものであっても金を払わずに持ち去れば、窃盗罪は成立してしまうのだ。

レジ袋を買いたくないがために、店内カゴを私物化する客も増えた。見かねて注意すれば「客を泥棒扱いするのか」「明日もくるから」などと、至極勝手な理屈を述べて居直るのが特徴といえる。レジ袋有料化後、カゴの数が3割ほど減ってしまった事例もあり、その対応に苦慮している店は少なくない。

コロナウイルスを気にしているのか、備え付けのポリ袋を手袋代わりにして、一つひとつの商品をポリ袋に詰めていく人も頻繁に見かける。その上にエコバッグを被せてしまえば、あたかも精算後のような情景となるため、そのまま犯行に至る被疑者も多い。

段ボールの中に未精算の商品
全ての商品をポリ袋に詰め、さらに無料提供されるダンボールを被せることであたかも精算を済ませたように見せかけて商品を盗んだ70代男性

レジ袋代わりに使いたいとポリ袋を筒ごと持ち去る人や、店内の備品である消毒用アルコールやトイレットペーパーを盗む人まで散見され、そうした人を見かけるたび国内の治安情勢や民度の低下を実感して嫌気が差す。

■コロナ禍で悪質、常習化する万引き

レジ袋有料化とコロナ禍における困窮者の増加に合わせて初犯者の扱いが増えていることも確かで、失業や収入減を理由に換金目的の万引きに手を染める若い主婦や家族万引きの捕捉も多発している。ジャンルを問わず、比較的高価で人気のある売れ筋商品を盗み、リサイクルショップやオークションサイトなどで換金するケースが典型パターンといえるだろう。

事情聴取時に机に並べられた大量の商品
入店早々、特大サイズのレジ袋を手に取り、商品を詰めて店外に持ち出した40代女性。何も買っていないため、盗みに来たと考えられる犯行だ

犯行に用いるバッグの大きさやカゴの数に合わせて、ブツ(被害品のこと)量は増す。捕まえてみれば高額品や大量の商品を盗む被疑者ほど、なにひとつ買っていない場合が多く、その厚かましさを痛感するばかりだ。大量の商品を常習的に持ち出すなど、犯意が育ちきったところで逮捕に至れば、被害状況から長期拘留を余儀なくされ、全てを失うような展開を招いてしまう被疑者も珍しくない。

万引きする人の多くは、客のフリをしながら店内を徘徊(はいかい)して犯行に至り、あたかも精算を済ませたような顔で未精算の商品を店外に持ち出していく。被害を放置すれば常習者の標的となり、成功体験に合わせて犯罪技術を向上させてしまうことにもつながる。万引きを生業とするような常習者も増加傾向にあり、大量かつ高額の万引き被害が全国で相次いでいる状況だ。

■お金を払いたくない万引き犯には罰金が科される

たかが万引きと思われがちだが、10年以下の懲役に併せて、50万円以下の罰金という財産刑も制定されている。罰金刑の存在を知らないまま捕まり、罰金を支払ったことで金がなくなったと報復的万引き行為に及んだ再犯者を捕らえた時には、経験豊富であるはずの私も言葉を失ったものだ。

机に顔を伏せる男性
マイバッグにチューハイを隠した30代男性。派遣切りに遭って収入が途絶えてしまい、酒を買う余裕がなかったと話した

ここ数年、どこのお店に入っても万引き被害が増えたと実感されているようで、いかに防止するかということに頭を悩ませている。高齢者や失業者による犯行をはじめ、摂食障害を主張する人や経営難を抱える飲食店主、ベトナム人グループなどによる大量盗難は相変わらず頻発しており、従業員による内部不正も絶えない。

窃盗団に狙われてしまえば、系列店舗が軒並みやられて、多額の被害が生じる。摘発は最大の抑止といわれているが、共犯を伴う組織的万引きや外国人窃盗団などによる換金目的の万引きは、プロの犯罪者によって構成されているに近しく、そう簡単には解決できない。隠匿行為などの実行現場を目撃したとしても、捕まえることのリスクを鑑みて、不本意ながら見て見ぬふりをする商店まで存在する。

■ニューヨークでは無法地帯化した店舗も

たとえ最先端の防犯機器を導入しても、機械が被疑者を捕まえてくれるわけではないので、万引き被害が激減することはない。かといって、人的警備を厚くする予算もないため被害を減らせる要素は乏しく、万策尽きた感が漂う。

昨今、小さな間違いや当たり前のことを他人に指摘されることで、無駄に大声を出して、乱暴な態度をとってしまう人が増えているように感じるのは気のせいだろうか。隠匿行為を確認できた時点で指摘して、犯罪者に仕立て上げることなくやめさせたいところではあるが、店内で声をかければ「客を疑うのか」と大騒ぎされること必至で犯意成立まで見守るほかない。

現在、アメリカNY州にある一部のドラッグストアにおいては、高額品のみならず、歯ブラシや歯磨き粉まで施錠販売されている。あちらでも環境保護を理由にレジ袋が有料化され、近しいタイミングでコロナによる貧困者が増えたことから、万引き被害が急増。ほとんどの商品棚が施錠され、呼び鈴を押して従業員を呼ばなければ、商品を手に取ることすらできなくなった。

盗る側は刑務所入りを志願している側面があるのに、軽犯罪を理由に警察が扱おうとしないため、警備員の前でも堂々と商品を詰め込むなど、もはや無法地帯化してしまった店まである。現場の映像を見て、この先の世界が不安になったことは言うまでもないだろう。

■万引きを許容していれば日本の治安も悪化の一途

日本国内においても、捕捉現場の所轄警察署によって万引きの対応は異なり、被疑者の扱いに地域格差のようなものを感じることは少なくない。似たような環境で、同じような犯歴を有する人が、まるで同じものを盗んで捕捉されたとしても、その結末は異なるのだ。

事情聴取時に床にしゃがむ男性
カゴヌケの手口でブロック肉などを盗んだ24歳のベトナム人男性。逮捕されてしかるべき事案だが、警察署の意向で厳重注意処分となった

どことは言えないが、これまで長年にわたり数百人の万引き犯を引き渡してきたにもかかわらず、いまだ一度も行ったことのない警察署も存在する。この事実は、関わった事案の被疑者が書類送検されていないことを示しており、うがった言い方をすれば万引きが許容された街のように思えてくる。

こちらからすれば手間がかからずに済んで助かる側面もあるが、犯行現場から生じる犯罪格差には大きな疑問を抱かざるを得ず、こうした街の存在が国全体の治安悪化を招く気がしてならない。

近い将来、日本の商店も、米国のドラッグストアと同じような状況に陥ってしまうのではないだろうか。商品を自由に手に取り選べる環境の崩壊は、買い物の楽しみを奪う悲惨な結果で、そのような事態は極力避けたい。

万引きを減らすには、どうしたらいいか。各地のさまざまな現場に潜入しつつ、今後も検討を続けていこうと思う。

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伊東 ゆう(いとう・ゆう)
万引きGメン
1971年生まれ。99年から5000人以上の万引き犯を補足してきた現役保安員。万引き対策専門家。著書に『万引き老人』(双葉社)や『万引き 犯人像からみえる社会の陰』(青弓社)など。テレビ出演や映画『万引き家族』の製作協力も。大学や警察、検察、自治体での「万引きさせない環境作り」講演も多数。 HP:https://u-itoh.net/

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(万引きGメン 伊東 ゆう)

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