「成績が伸び悩む子の家ほど、問題集がたくさんある」プロ家庭教師が見たダメ親に共通する"ある行動"
プレジデントオンライン / 2021年11月12日 15時15分
■参考書と問題集を必要以上に買い集める
毎年夏前になると、家庭教師の問い合わせが急増する。特に多いのが6年生の親からだ。入試本番まであと半年、なかなか成績が伸びないという焦りから、わらにもすがる思いで家庭教師を求める。そういう家庭を訪れたときに、私が真っ先に見るのがリビングの本棚だ。参考書や問題集がずらりと並んでいると、「あ、ここもアタフタのループにハマってしまっているな」と悟る。
中学受験のプロ家庭教師として、長年多くの家庭を見てきて感じるのは、成績が伸び悩んでいる子の家庭には共通点があることだ。親がアタフタ状態になっている。本棚には書店の中学受験コーナー並みに参考書や問題集がそろい、しかも付箋がびっしりと貼られている。小学生の子供にこれだけの量をやらせるのはまず不可能だろう。たくさんの問題集を買い集め、付箋を貼っただけで満足し、やらせた気分になっているのだ。仮に全部やらせていたら、これはもう教育虐待の域に入る。
■「たくさん勉強すれば伸びる」は中学受験には通用しない
問題集をそろえたがる親の心理としては、何よりも「不安」がある。そういう親は、わが子の成績が伸びない理由を外に向ける。うちの子の成績が上がらないのは、塾の教え方が悪いからだ、問題集がイマイチだからだ、と文句を言っては、転塾をくり返したり、問題集をコロコロ変えたりする。また、ママ友情報にも流されやすい。誰かが「この問題集がよかったわよ」と言えば、わが子の学力レベルなど無視して、すぐに飛びつく。そうやって、“つまみ食い”と“目移り”をくり返す。迷惑をこうむるのは、子供だ。あれをやれ、これをやれ、と指示され続け、“やらされる勉強”にモチベーションは下がる一方だ。
問題集をたくさんやらせたがる親は、中学受験では一定数存在する。そういう親は、自身の受験でたくさんの問題集を解いて合格したという経験をしていることが多い。だがそれは、中学受験ではなく、大学受験の話であったりする。それができたのは、高校生ですでに大人に近づいていたから自制心もあり、多少無理をしてでも頑張れたからだ。
また、高校生の頭脳には、すでに多くの知識が収納されており、新しく吸収した知識が、過去に収納された知識に自然につながったとき、納得の快感が生まれ、充実感の元になる。ところが、知識量が少ない小学生にはこの精神活動が自然に発生しない。大学受験では通用する「たくさん勉強すれば伸びる」は、中学受験では通用しないのだ。
■「4年生の成功体験」にとらわれてはいけない
そのことを知らずに勉強量を増やしてしまうと、成績が伸びないばかりか、勉強がつらいものに感じてしまう。中学受験の勉強は小学4年生から6年生の入試本番まで、3年間かけて準備を進めていく。4年生のうちは通塾が2~3日と少なく、習う内容も基礎が中心のため、それほど難しくはない。時間的な余裕も、心の余裕もあると、「もっと勉強をさせてもいいのではないか」と考える親がいる。そういう親は、4年生のはじめからたくさんの問題集を与えてしまう。そこで良い成績が出ると、それが成功体験となって、「たくさん勉強をさせると成績が上がる」と思い込んでしまうのだ。
だが、5年生になると、塾での勉強量が一気に増え、内容も難しくなる。宿題を終わらせるだけでも困難な状況になり、宿題の取捨選択が必要になる。ところが、4年生の頃からたくさんの問題集を与えてきた親は、そのことに気づかない。宿題はやって当たり前、プラス問題集をやらせようとする。だが、それは明らかにやらせすぎだ。この時期の勉強はやみくもにやらせるのではなく、できていないところを補う学習が必要だ。苦手の原因は何か、どこまでは理解していて、どこから難しいと感じているのかなど、細かく点検をしていく。そうやって、苦手をつぶしていくのだ。
■6年生に必要なのは「つまずき」を補うこと
6年生の9月から12月までは毎月1回、志望校の合格可能性がどれくらいあるかを見る模試が実施される。その結果を見て、「うちの子はやっぱり速さが苦手なんだわ……」「立体図形もできていないし……」と、子供のできていないところに目が行ってしまう。そして、もっとやらせなきゃとたくさんの問題集を買い集め、基礎からやらせようとする親がいる。そうやって、心配事を見つけては、学習範囲を広げてしまうのだ。だが、6年生のこの時期に、苦手の深追いをしてはいけない。
中学受験の最終目標は、志望校に合格することだ。模試の結果はある程度の目安にはなるが、そこにこだわりすぎてはいけない。この時期に重視するべきものは、過去問だ。志望校の過去問を解かせてみて、合格点を超えられるか。超えられない場合、何が原因なのか、どの単元のどんな問題が解けないのかなど見ていく。そうすると、ひとくちに「速さ」といっても、こういう問題のときは解けるけれど、こういう問題になると解けないなど、“つまずき”が見えてくる。それを補う学習をしていくのだ。
■中学入試の目標は「満点をとること」ではない
ただし、中学入試では満点を目指す必要はない。過去問のふり返りの目処は合格者平均点だ。満点答案を作るように指導する塾もあるようだが、そこまで深追いすることはない。また、合否判定テストのふり返りでも深追いは禁物だ。問題ごとの正答率を見て、中堅校であれば正解率50%、難関校であれば30~40%の問題は確実に解けるようにし、正解率の低い問題は捨てる勇気を持つことだ。
苦手単元については、何度も解かせて定着させるのではなく、どのように学習すれば理解できるようになるかを考えてみてほしい。例えば算数なら、「問題文をきちんと読んでいるか」「図形問題だったら、自分で図を書き起こしてから問題に取り組んでいるか」といった具合だ。また、ミスが多い場合は、「殴り書きになっていないか」「焦って勉強をしていないか」といった注意も必要になる。
そして、何よりも大事なのは、納得して理解できているかどうかだ。図形問題を解くときは補助線を書くというのは塾でも教わるが、なぜそれを使うのか納得できているか(きちんと自分の言葉で説明ができるか)確認が必要だ。こうした指導は塾ではしないことが多いし、親では難しい場合もある。そんなときは家庭教師など第三者の力を借りるといいだろう。直前期を迎える前のこの時期に、納得を大切にした学習ができているかどうかが、最後の伸びにつながる。
■問題集は目的に合わせて活用する
受験指導をしていて、近年、特に親からよく聞かれるのが、「何をやらせればいいですか?」という質問だ。だが、こうした質問をする親に限って、すでにいろいろなことをやらせすぎていることが多い。しかし、これまで何度も言ってきたように、勉強は「量」ではない。子供の勉強で不安を感じたら、「量」ではなく、「やり方」を見直してほしい。
私は中学受験の勉強は、基本的に通っている塾のテキストや問題集をやれば十分だと考えている。プラスアルファで問題集を与えるのであれば、目的を持って利用することだ。例えば図形の立体問題が弱いと気づいたなら、それが充実している問題集を選ぶ。とはいえ、親がどの問題が適しているか判断するのは難しいだろう。そんなときは、信頼できる塾の先生に相談してみるといい。ただ、6年生のこの時期は、先生たちも忙しい。日ごろ、塾に丸投げで、いきなり相談を持ちかけてみたところで、親身に対応してくれるかどうかは疑問だ。やはり、日ごろから塾の先生とコミュニケーションを取り、良好な関係を築いておくことが大切だ。
入試本番まであと3カ月、志望校に合格することを目標に絞り、合格点に達するための勉強をしてほしい。学習の「量」で親が安心するのではなく、納得感を持たせた学習を心がけ、「あなたなら大丈夫よ」と子供に安心感を与えてあげてほしい。この限られた期間で、あとどれくらい伸ばしていけるか。親の力も試される。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康)
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