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「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ

プレジデントオンライン / 2021年11月8日 10時15分

決算会見で、新生銀行へのTOBについて話すSBIホールディングスの北尾吉孝社長=2021年10月28日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではない」

「基本的には、経営統合が敵対的なTOBという形態で行われることは、決して好ましい形ではないのではないかと思っている」

「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではなく、基本的には個々の案件の状況をしっかりと総合的に考えて、対象となっている企業の企業価値の中長期的な向上に資するか否か、利益相反はないかといった点などを総合的に考慮したうえで、個々の金融機関において個別に判断される性格のものだろうと考えている」

前者は、地方銀行協会の柴田久会長(静岡銀行頭取)が9月15日の記者会見で、SBIホールディングスによる新生銀行への敵対的なTOBについて聞かれ、答えたもの。後者は全国銀行協会の髙島誠会長(三井住友銀行頭取)が10月14日の記者会見で、敵対的なTOBについて聞かれ、答えたものだ。

■両者の発言に温度差が生まれた背景

両者の答えの温度差は、柴田氏がSBIによる新生銀行へのTOBという個別案件について聞かれたのに対し、髙島氏は一般的な敵対的なTOBについて聞かれたという違いもあるが、それに加え、柴田氏の母体である静岡銀行が、今回のSBIによる新生銀行へのTOBの引き金となったマネックスグループと資本業務提携していることと関係している。

柴田氏は記者会見で、「静岡銀行とマネックスは親密な関係にあると認識している。新生銀行はホワイトナイトを探すといった報道もあるが、静岡銀行に対してホワイトナイトに関する打診はあったか、また、打診があった場合はどのように対応する予定か」と聞かれ、「静岡銀行の持分法適用会社であるマネックスが、今回、さまざまな報道で名前が挙がっていることは承知しているが、本件はあくまで新生銀行とマネックス、SBIの三者間の話であり、静岡銀行としてこの場でお知らせする決定事項はない」と回答し、SBIによる新生銀行TOBに距離を置く。

■最後には大株主である国との交渉が残る

このSBI(北尾吉孝社長)と新生銀行のTOBをめぐる確執は泥沼化の様相を呈している。SBIは9月10日から12月8日まで新生銀行に対してTOB(株式公開買い付け)を行っており、出資比率を48%まで引き上げたい意向だ。買い付け価格は新生銀株の9月9日終値の1440円を39%上回る1株2000円に設定されている。

これに対して新生銀行は10月21日、条件付きでTOBに反対すると発表した。買い付け株数に上限があることや買い取り価格が十分でないことから「株主共同の利益に資さない」(工藤英之・新生銀行社長)というのが理由だ。SBIが懸念解消に向け条件を変更するなら賛同に回るとしたが、SBIは即刻、条件変更に応じない姿勢を表明。両者の確執は銀行界初の「敵対的TOB」に発展した。

SBIが買い付け株数の上限を撤廃し、50%超の株式を取得するには、改めて銀行法第52条など法令上の許可が必要で、SBIが新生銀行の親会社になるために、銀行持ち株会社の認可を取得しなければならないためだ。その上で最後には大株主で新生銀行株の20%程度を有する国(預金保険機構)との交渉が残る。

■「地銀の株価は安すぎる。うちと組めばもっと上がる」

今後の焦点は、新生銀行が11月25日に開催する臨時株主総会に移る。新生銀行はTOBに対する買収防衛策を諮(はか)る予定で、SBI以外の株主に新株予約権(1株当たり普通株式0.8株)を無償で割り当てる。株主総会で過半の株主が買収防衛策の発動に賛成すれば、TOBが成立してもSBIの保有株の価値が大きく低下するため、SBIが実質的に経営を支配するだけの株式比率を維持できなくなる。

SBIはすでに株主総会の票読みを始めており、買収防衛策に過半の賛成が得られず、結果的に48%の株式を握るシナリオに自信を示しているが、総会の帰趨(きすう)は予断を許さない。

SBIがTOB成立に自信を持つ背景には、新生銀行を含む地銀連携「第4のメガバンク構想」への自負がある。北尾氏は16年頃から「地銀の株価は安すぎる。うちと組めばもっと上がる」と地銀経営者に誘い水をかけてきた。その後、18年に地銀投資を手掛ける私募投信「SBI地域銀行価値創造ファンド」を立ち上げ、第4のメガバンク構想を推し進めている。これまでに第二地銀を中心に8行に資本出資しており、「当面、10行程度まで広げる」(北尾氏)との意向を表明している。新生銀行へのTOBはその中核に位置付けられる。

■新聞広告で新生銀行の株主に「エール」

その自信は新生銀行がTOBに対して買収防衛策の導入検討を発表した直後の9月22日、日経新聞に掲載されたSBIの「質的転換で活性化する地域金融機関」と題する全面広告に如実に表れている。

SBIの資産運用ノウハウを活用しながら、コスト削減を行い、21年3月期の純利益が黒字に転換した島根銀行をはじめ、福島、筑邦、清水、東和、仙台、きらやか、筑波の各銀行がSBIとの資本提携を機に収益がV字回復したか、棒グラフで示されている広告で、「新生銀行もSBIが買収すればこれ以上の収益改善が見込めると言っているようなものだ」(メガバンク幹部)と受け止められた。

広告では「『一燈照隅、万燈照国』という言葉のように、各行が愛する地域を照らす『一燈』となることで、燈火は広がり、『万燈』となって、国全体をくまなく照らすでしょう」と、中国の古典に精通した北尾氏ならではの格言が躍った。新生銀行の株主へのエールだろう。

北尾氏は以前から「新生銀行を(地方)銀行の銀行にしたい」と周囲に語っていた。「第4のメガバンク構想」では、SBIが過半を出資して持株会社を設立し、そこに全国の地銀やベンチャーキャピタル、運用会社などが出資して協力関係を築く。持株会社は参加する地銀等の業務システムやフィンテックなどのインフラや資産運用の受託ほか、人材の供給、マネーロンダリングの対応など幅広い商品・サービスを提供する、いわば「プラットフォーム」と言っていい。

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写真=iStock.com/ilkaydede
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ilkaydede

■地銀の人材育成とフィンテック事業をサポートしてきた

北尾氏によれば、「第4のメガバンク構想」は唐突なアイデアではないという。SBIと地域金融機関は過去5年にわたり親密な関係構築に努めてきた。北尾氏はそれを2つのフェーズに分けて説明する。

まずSBIの金融商品やサービスを通じて地域金融機関の企業価値の向上に貢献したのが第1フェーズで、金融商品仲介業サービスで地域金融機関と連携した。また、地銀7行と共同で「マネープラザ」を設立し、地域住民の資産形成ニーズに応えているほか、資産運用の高度化として地域金融機関と共同出資の「SBI地方創生アセットマネジメント」を設立し、運用ノウハウの高度化や人材育成を図ってきた。

次ぐ第2フェーズでは、地域金融機関に機能的なAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)基盤を低価格で提供することでフィンテック企業のサービスやシステムの導入をサポートしているほか、ジョイントベンチャーの設立等を進めている。また、事業承継ファンドの創設を通じ、地方の中小企業の事業承継ニーズに応えていると指摘する。今回の「第4のメガバンク構想」は、こうした一連の基盤の上に構想されたプロジェクトと位置付けられる。

■「第4のメガバンク構想は地銀のため」は本当か

北尾氏によれば、「第4のメガバンク」は、「第4」と銘打っているものの、従来の3メガバンクとは一線を画する新しい発想・哲学に基づく「新メガバンク」であると豪語する。そのコンセプトは「社会課題解決型ビジネスモデル」であり、地方創生のためには地域金融機関の機能強化が欠かせないと説く。

例えば、地域金融機関にとって重たい負荷となっているシステム開発については、プライベートクラウドサービスを共同持株会社のもとで、参加地域金融機関と共有することで、大幅なコスト削減が実現できると見ている。また、マネーロンダリング対応では、証券会社など35社を糾合した「証券コンソーシアム」を設立、本人確認を共同プラットフォーム化するなどの実績がある。

代々の家業から中国の歴史・文化に精通する北尾氏は、論語を紐解く。「第4のメガバンク構想」も「世のため、人のため」であり、「地銀のため」と説く。利益は後でついてくるというのが哲学だ。しかし、証券会社そしてベンチャー業界という生き馬の眼を抜く熾烈な競争社会を生き延びてきた北尾氏が、ただ人のために尽くすからというわけではなかろう。そこには北尾氏一流の算盤勘定があるとみるべきだ。

■地銀が傘下に入れば、間接的に公的資金を注入できる

鍵は政治との関係にある。「第4のメガバンク構想」の雛形は、「信用金庫業界の中央銀行といっていい『信金中央金庫』や農林系統金融機関の資産運用を一手に担う『農林中央金庫』のようなイメージではないだろうか」(地銀幹部)と受け止められている。

実はこの構想は、自民党の金融調査会「地域金融機関経営力強化プロジェクトチーム」の提言とオーバーラップしている。金融調査会の会長である山本幸三氏は、プロジェクトチームの提言について、「地銀も信金中央金庫のような系統運用機関を創るべきだ。地銀のトップたちに提言し、どう対応するか見ている段階だ」と指摘している。

だが、その裏に隠された最大のテーマは、地方経済のセーフティーネットという役割と見られている。なぜなら「第4のメガバンク構想」の最大の効用は、持ち株会社を通じて地銀が公的資金を受けられることにあるためだ。「共同持株会社を通じて傘下の地銀が経営危機に陥った場合に、間接的に公的資金を注入する受け皿ではないのか」(メガバンク幹部)との声も聞かれる。

■約3500億円もの公的資金をどう返済するのか

一方、新生銀行はTOB期限までにホワイトナイトを見つけることが最大の眼目。だが、SBIが提示したTOB価格が高いことに加え、ホワイトナイトが成功しても、買収後の新生銀行の企業価値を早期に引き上げるのは容易なことではない。

また、TOBの行方を左右するのは新生銀の公的資金の返済プランにかかっている。新生銀行は1998年から公的資金の注入を受け、1500億円を返したが、約3500億円が未返済となっている。

2000年に当時の谷垣禎一金融再生委員長は公的資金の返済に関し、政府保有の新生銀株の時価総額が500億円を超えることが条件との趣旨の国会答弁を行っている。公的資金返済に必要な新生銀の株価は、市場価格を大幅に上回る1株7500円程度となる。公的資金を司り、新生銀行の約2割の普通株を所有する国(預金保険機構など)、金融庁の出方が最大の鍵を握る。

自由民主党
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■新生銀行の存在価値そのものが問われている

「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではなく、基本的には個々の案件の状況をしっかりと総合的に考えて、対象となっている企業の企業価値の中長期的な向上に資するか否か、利益相反はないかといった点などを総合的に考慮したうえで、個々の金融機関において個別に判断される性格のものだろうと考えている」

冒頭に全銀協の髙島会長がこう指摘したように、TOBの帰趨は、ひとえにSBIが買収することで、新生銀行の企業価値が向上するかどうかにかかっている。SBIに代わるホワイトナイトについても同様である。新生銀行の企業価値が向上し、株価が上昇すれば公的資金返済への筋道も見えてこよう。

大手証券による大手銀行へのTOBは異例の「敵対的なTOB」に発展した。証券会社が銀行を買収することも異例だが、皮肉にも今回のTOB最大の効用は、大手行で唯一、公的資金が残る新生銀行の企業価値を社会が再認識する契機になったことではなかろうか。問われているのは、新生銀行の存在意義そのものである。

新生銀行がこのままの状態であり続けるほうが国民にとって有益なのか、SBIが買収するほうが有益なのか。それとも第三のホワイトナイトの手に委ねられるべきか。国民も公的資金を通じた有力なステークホールダーであることは忘れてはならない。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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