「働かないおじさん」を嗤う人ほど、将来の「働かないおじさん」になるという理不尽
プレジデントオンライン / 2021年11月9日 11時15分
※本稿は、難波猛『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■「働かないおじさん」が若手社員の夢を奪う…
「自分より高い給料をもらっているのに、それに見合う働きをしていない」
こんな中高年、あなたの職場にもいますよね。「働かないおじさん」と呼ばれる人たちです。
「バブル世代」や40代後半から50代前半の「団塊ジュニア世代」は、多くの企業ではボリュームゾーンになっており、「働かないおじさん問題」は社会的な注目を集めています。
そこで今回は、もし、あなたが「働かないおじさん」の同僚、あるいは部下だった場合、どう接するべきか考えてみたいと思います。
私がマネジメントの現場で感じていることは、「働かないおじさん」本人に対する不満以上に、その状態を放置している経営者や上司の態度への不満や不信が蓄積されているということです。
例えば、「会社が期待していた、若手のホープ」が退職を選ぶ理由を聞くと、以下のような答えが返ってくることが多いです。
「仲良し人事で、上司に気に入られたベテランが偉そうにしている」
「自分の上司は、技術や現場のことを何も分かっていないし勉強もしない」
「そういう上司やベテランを、経営陣も見てみぬふりをしている」
「こんな組織にいると、自分も将来同じようになってしまうことが怖い」
「結果、給与も安定もなくても成長できそうなスタートアップに転職する」
こうした気持ちを、最後に吐き出す若手を見てきました。
■傍観者はいずれ自身が「働かないおじさん」になる
一義的には、こうした問題を解決するのは、組織をマネジメントする経営者・人事・上司の役割であると考えています。しかし一方で、若手を含む同僚や部下が、単に問題の解決を経営者や上司任せにすることは反対です。問題の傍観者や批判者でい続けることは楽な事ですが、本人たちにとって中長期で決してプラスにならないと考えています。
「面倒な問題の解決を上に委ねる」「批判はするが行動はしない」「嫌になったら、すぐに会社を去る」というだけの人は、シビアな言い方ですが「自分で環境を改善するための変化や行動を起こしていない」点で、数年後には自身が「働かないおじさん」になってしまう危険性が高いようにも感じます。
必ずしも、「無理して会社に残れ」「上司の無能まで部下が背負え」というつもりは無いですが、「自分の立場で、職場を良くするためにできることは無いか?」という思考は、持っていた方が市場価値の高い人材になれる確率が上がります。
とは言え、「働かないおじさん」に対しての必要なアドバイスを思いついたとしても、実際は年長者だったり職位が上の人だったりするので、直接意見するのを躊躇しがちな気持ちも分かります。
言い方や言う場面を間違えると、トラブルを誘発する可能性もあります。
そんな場合、「働かないおじさん」や自分の上司を巻き込んで上手く動いてもらうことも、一つの解決策になります。このように、部下が上司を動かして、仕事の目的を達成しようとする行動を、「ボスマネジメント」と呼びます。
■自分一人で「働かないおじさん」に向き合ってはいけない
ボスマネジメントでは、「上司の視点で、抱えている課題やニーズをくみ取りながら提言をしていく」ことがポイントです。
自分(部下)の視点だけで「こういうことに困っています」「こうしてください」と要求するだけだと、複数の課題や緊急性の高い問題を抱えている上司にとって「動く動機付け」が持てず、優先順位が上がりません。
「上司としては、どんな問題が解決できると嬉しいのか」
「組織を、どういう状態にしたいのか」
「上司の上司は、私の上司にどんなことを期待しているのか」
など、「上司のニーズ」を想像しながら、そこと「自分の希望」を重ねる文脈を探してみましょう。
例えば、「働かないおじさん」直属の上司は当然、この問題を自らの課題として捉えているので、相談しやすい上司と言えるでしょう。
「自分としては、あの先輩にこうなってほしい」「その状態は、上司にとっても望ましい」「その状態は、先輩本人にとっても望ましい」というゴールが共有できれば、「その実現に向けて、上司にやってほしいこと」「同僚として協力できること」「本人が努力すること」が議論できるようになります。
このように、相手の見ている視点や物語(ナラティブ)を意識しながら共通点や解決策を一緒に考えるコミュニケーションを、「ナラティブ・アプローチ」と呼び、その考え方を紹介した『他者と働く~「わかりあえなさ」から始める組織論~(パブリッシング)』は人事の領域で大きな話題になりました。
「相手(上司や働かないおじさん)にも、相手が見えている景色や物語がある」ということを意識するだけでも、組織内のコミュニケーションはずっと円滑になります。
■上司を動かすの有効な手段
また、ボスマネジメントを使いながら「働かないおじさん問題」に対処する現実的な方法の一つとして、「役割分担(ロールプレイ)」が有効な場合があります。
残念ながら、上司はどんな無理難題でも対応できるスーパーマンではありません。「持ち味」というか「得意なスタイル」があります。そこを誤解して、「上司なんだから何でも解決すべき」と迫ってしまうと、上司自身が疲弊してしまいますし、あなたの意見を聴くのが面倒くさくなってきます。
部下としては、上司の「持ち味」を悪く言えば「道具」「ツール」として使いこなし、理想的な組織の状態を獲得する、ということになります。
部下も上司も間違いがちですが、「上司は偉い」「指示は常に上から」なわけではなく「上司は役割」「部下も役割」にすぎません。上意下達の指示命令ばかりでなく、「お互いに協力して問題を解決する」「部下が絵を描き、上司に演じてもらう」ことは不自然ではないです。
■“承認欲求”に応えれば「働かないおじさん」も動き出す
例えば、営業方法を変える必要があるベテラン社員に対して、新任の上司が頭ごなしに説得しても反発されるケースがありました。
この上司は「じっくり話を聴く」スタイルは得意でも、「エネルギッシュにチームを引っ張る」スタイルは得意ではありません。ベテラン社員も、「何で新参の上司に指導されなければいけないんだ」というプライドが邪魔をして、素直に受容しきれない様子です。
その際、部下から「自分は同僚の立場で、今度の会議で営業方法に関する相談を投げかけます。対象のベテラン社員にアドバイスを言ってもらい、望ましい発言があったら、上司が上手に拾って具体化させる方向に持っていってください。意見や議論が混乱し始めたら、その際は途中でサポートしてください」と、事前に上司と作戦を練ってから会議に臨む形を取りました。
その結果、ベテラン社員も「自分が相談されて言ったアドバイスを基に、営業方法を変えていくことになった」ため、気持ち良く協力してくれました。
このように上司とある意味で「結託する」のは、あざといように感じられるかもしれません。
しかし、「それぞれが役割を演じきって成果を出す」ことが組織の存在する意味なので、対外的な活動だけでなく社内的な改善にチームプレイやそれぞれの持ち味を発揮することに、後ろめたさを覚える必要はないと考えています。
この事例でベテラン社員の言動が変化したのは、単に「上司と若手部下がうまく役割分担したから」だけではありません。
人間の根強い欲求である「承認欲求」を満たすことができた点が大きなポイントです。
■人は何歳でも褒められたい
私がコンサルティングをしているケースでは、「ライフキャリアカーブ」というワークを行います。社会人になって以降の仕事人生を俯瞰して、「嬉しかった瞬間」「辛かった瞬間」など、気持ちの浮き沈みを曲線で描いてもらいます。
皆がライフキャリアカーブを描き終わると、グループワークを行います。
すると、50代のベテラン社員たちが、お互いに次のような発言をして目を輝かせる様子が見受けられます。
「あの時は上司から褒められて誇らしかった」
「お客さんが喜んでくれて、充実感を味わえた」
「若手にアドバイスをして、感謝されたことが忘れられない」
当然ですが、「他人に評価された」「他人に褒められた」という経験が、多くの社員にとって「嬉しかった瞬間」になっているのです。
ところが、ベテランと呼ばれる年代になると、だんだん褒められる機会が減ってきます。
「ベテランなんだから、できて当然」
「なんで目標が達成できないんだ」
「管理職は、部下を褒める立場であり、褒めてもらう立場ではない」
周囲の人間から発せられる言葉は、このようなものが多くなり、もはや褒められるどころの話ではありません。簡単に言えば「ご褒美」が無い状態で5年、10年と走り続けている人が少なくないのです。
■大げさなくらい「感謝の言葉」を伝える
人間が社会的動物である以上、「年齢や役職が高くなったから周囲からの承認は不要」というわけではありません。「その組織の一員として、承認や称賛されること」は重要なエネルギーになります。
上司や同僚として、「働かないおじさん」と接する際に、「足りない点」だけに目を向けず「よくやってくれている点」「感謝したい行動」に目を向けることは大切です。特にベテランである程、「自分は長年会社に貢献してきた」「今の部署を支えてきた」というプライドもあります。
例えば、変えてもらいたい点があった場合、いきなり減点方式で「こうしてもらわないと困る」と指摘するのは効果が低いです。理由は簡単で、頭ごなしにダメだしをされて喜ぶ人はいないからです。これは、相手がおじさんであろうと、若者であろうと同じだと思います。
お勧めとしては、「働かないおじさん」の今後も繰り返してもらいたい行動があれば、その点を声に出して感謝の意を伝えることです。
「○○さん、この間教えていただいた取引先の情報ありがとうございました」、「新しい提案の件、○○さんに教えていただいた事例が役に立ちました」など。小さなことでもいいので、やってくれたことで役に立ったことを見つけて、多少大げさなくらいでも感謝の言葉を伝えるのです。
そうすると、言われた本人は、「またやってあげよう」とか、「ああ、こういうことすると喜ばれるのか」と思い、その行動を繰り返したくなるのです。その後、「今度、こういうこともお願いできますか?」「こうしてくれると、もっと嬉しいです」と無理のない範囲で徐々に期待する方向を伝えていきます。
このように、承認欲求や自己実現欲求を満たす伝え方をすることで、相手の心を動かすことができます。
■同僚や若手からも積極的に感謝の言葉を
無論、評価者である上司から褒められることも嬉しいのですが、同僚や若手から「あれよかったですよ」「助かりました」と言われたり、感謝されたりするのも心に響きます。「働かないおじさん」の行動のうち、繰り返してほしいものに関しては、積極的に感謝の意を表しましょう。
仮に、上司や同僚が「あの人は、何をやってもダメ」などと言って、褒める点を探そうとしない場合、どうなるでしょうか。
本人もおそらく「どうせ自分はダメなんだ」という思いにとらわれ、自発的な意欲を失っていくことになると思います。こうした心理は一般に「ゴーレム効果」と呼ばれます。ゴーレムとは、ゲームによく出てくる、意思を持たず命令が無いと動かない石人形です。
感謝の意を伝えておくと、その人の中に「自分のことを、そういう風に認めてくれている」「信頼してくれている」「評価してくれている」といった思いが醸成されます。すると、その同僚からその後、多少耳の痛いことを言われたとしても、ある程度、冷静に受け止めるようになるのです。
なぜこのような変化が起きるのか、それには人間の心理が関係しています。
人間には「一貫性の原理」というのがあり、「自分は一貫した人間でありたい」「矛盾した行動を取りたくない」と本能的に思っています。
例えば、同僚や若手から感謝されたり、褒められたりという経験を通して肯定的なセルフイメージが出来上がると、「これからも、そういう褒められる自分であり続けたい」「いい上司、いい先輩であり続けたい」と思うのです。
このような関係性を築いておくと、時に言いづらい話をしても、比較的素直に聞いてくれるようになります。
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ミドルシニア活性化コンサルタント
1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て、2007年よりマンパワーグループにて勤務。人事コンサルタント、研修講師として日系・外資系企業を問わず2000人以上のキャリア開発を支援。人員施策プロジェクトにおけるコンサルティング・管理者トレーニング・キャリア研修等を100社以上担当。官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。
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(ミドルシニア活性化コンサルタント 難波 猛)
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