10分間散歩した後、誰かに教えるつもりで、手書きでノートにまとめると、絶対に忘れない
プレジデントオンライン / 2021年11月13日 9時15分
※本稿は、堀田秀吾『絶対忘れない勉強法』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■むやみにインプットしても意味がない
せっかく覚えても、覚えたことが頭の中で整理できていなくて、ごちゃごちゃのままでは、記憶に定着しません。
あなたには、自分が学んだことを誰かに教えようとして、うまく説明できなかったことはありませんか? 「人に教える」という行為は、しっかりと内容を理解してインプットした情報を整理していないとできません。
実は、「後で人に教える」という意識を持って勉強すると、それだけで学習効果が上がります。そんな研究を紹介しましょう。
ワシントン大学セントルイス校のネストイコらによる実験です。
56人の大学生を①「後で人に教えることを前提にしたグループ」、②「後でテストを受けることを前提にしたグループ」、③「何も前提としないグループ」に分け、ある戦争映画における描写と史実に関する1541語からなる文章を読ませ、関係のないことをしばらくしてもらった後に、学んだ内容についての自由記述および、内容に関する短答式のテストを実施した。
この結果、自由記述と短答式の双方で、①のグループの成績がよくなりました。
「教える」というのは、自分の持つ知識や技術を学ぶ側に一方的に伝える作業に見えるかもしれませんが、学ぶことと教えることは表裏一体です。私は学生時代の塾の講師のアルバイトも含めると30年以上も「教える」仕事に携わっていますが、教えることは学ぶことだと常に痛感しています。
■「誰かに教えるつもり」で学習効果が抜群に上がる
教えるためには、内容をしっかりと理解する必要がある。学ぶ側からの質問でも新たに学ばされることも少なくない。また、教える行為そのものに、頭の中を整理して、自らの理解を深める効果があると感じます。──と、完全に教える側の話をしてしまいましたが、ネトイスコらの実験が面白いのは、勉強するときに、後に誰かに教えることを前提に学ぶと「思っているだけ」という点です。
それを意識すれば、より緊張感や集中力、注意深さを持って学んだり、深堀りしたりします。また、「忘れると教えられない!」という緊張感が、短期記憶にも強く作用し、さらに長期記憶にしっかりと移行させる必要性を脳に実感させるのでしょう。
みなさんもぜひ、後で誰かに教えるつもりで学んでみてください。
ただし、思っているだけだと脳が慣れて「うそだな」と思ってしまうかもしれないので、家族、友人、恋人など、実際に誰かに説明するような機会を強制的に設けるのがおすすめです。そうすれば、さらに高い効果が期待できるはずです。
■勉強やインプットの前に10分散歩すると記憶力が25%上がる
スティーブ・ジョブズの散歩好きは有名ですが、Facebook(現メタ)創業者マーク・ザッカーバーグも散歩の習慣があるそうです。集中力や記憶力を高め、インスピレーションを豊かにし、インプットもアウトプットも最大化する、そんな効果があるようです。
では、なぜ散歩にそんな効果があるのでしょうか。
ポイントとなるのが、脳血流。散歩によって、脳の血流がよくなり、十分に血液がいきわたることで、脳が活性化するのです。
イリノイ大学のサラスらは、こんな実験をしています。
被験者群を2つに分けて、名詞を記憶するテストを実施した。覚える前に、一方のグループは10分歩き、もう一方のグループは10分座って風景写真を見た。名詞を覚えた後、もう10分間、それぞれ同じ行動をしてからテストを実施した。
結果は、歩いたグループのほうが、座っていたグループよりも25%よい成績になりました。ちなみに、覚えた後の行動を、歩いたグループが風景写真を見るというように逆にしても、結果は変わりませんでした。
勉強をする前に歩いて体の血液を巡らせると、脳にどんどん血液が送られてエンジンがかかり、勉強の効率がアップするわけです。
散歩に限らず、走ったり、泳いだりと、そのほかの運動でも血流量が増える効果は見込めると思いますが、疲れきって勉強をする気を失っては問題なので、体力のない方や運動が苦手な方は散歩から始めるとよいでしょう。
■キーボード入力より手書きが、記憶への定着率を爆上げする
最近では、ノートやメモをパソコンやスマホでとるという方も多いことでしょう。
レポートや提出用資料をパソコンでつくるよう求められる時代ですから、当然といえば当然の流れかもしれません。しかし、記憶の定着効果を見れば、手書きのメモやノートの力は見過ごせないものがある──と考えるのが、今のところは主流です。
ここでは、その意見の実証的な根拠を示す、プリンストン大学のミューラーとカリフォルニア大学ロサンゼルス校のオッペンハイマーの有名な研究を紹介します。
15分ほどのTEDトークを見た65人の男性に、関係ない課題を2つほどこなしてもらい、動画を見た30分後に内容に関する質問をし、記憶力をテストした。被験者はTEDトークの内容をメモしており、手書きでメモするグループと、キーボード入力でメモするグループに分かれた。
結果としては、トーク内容を手書きでノートに記録した生徒たちのほうが、内容の理解と記憶によい結果が出ています。
その理由としては、手書きでメモをとる人は、キーボードのタイピングよりも記録スピードが遅いこともあり、自分なりに頭の中でまとめる作業が発生していることが挙げられそうです。
想起努力仮説のように、脳内で要約するための負荷が発生しており、記憶の定着に結びつきやすいと考えられます。
■タブレットは“書くこと”に注意を奪われやすい
また、ノルウェー科学技術大学のアスクビックらによる同様の研究では、「ペンで紙を押し付けたり、手書きした自分の文字を見たり、手書きしている最中の音を聞いたりすることで、多くの感覚が活性化され、これらの感覚経験が脳のさまざまな領域との接点を生み出し、学習のために脳を開放する」と述べられており、紙と筆記具という道具の使用も、脳に刺激を与えていると考えられます。
とはいえ、タイピングの記録スピードは大きな武器ですし、絶対に手書きがいい、といいたいわけではありません。
デジタルデバイスも超速の進歩を遂げています。iPadとApple Pencilなどで手書きのメモを利用する人も増えています。
今後、前提条件が大きく変わっていくであろう、手を使った記録──あるいは音声入力がメインになる可能性もあるかもしれません──のやり方の違いによる研究が進んでいくと考えられます。
その進展と、研究のスピードを飛び越えるような新技術の誕生などによって、科学的な正解もどんどん上書きされていく可能性は十二分にあります。
たとえば、株式会社センタンとコクヨS&T株式会社と、広島大学の入戸野による共同研究では、タブレットは紙への手書きよりも、書いた文字の確認に認知的努力が必要になり、字を書くこと自体に注意を奪われやすい傾向があるとされています。
紙に書くほうがストレスがないということです。
■効率的なインプットには「紙に手書き」がいい
タイピングよりも手書きがいい、と考える人からすると、納得感のある研究結果でしょう。しかし、先ほども触れたアスクビックらによる別の研究では、タブレットに手書きメモをするときと、紙に手書きメモをするときの脳の働きは変わらないそうです。
そう考えると、タブレットとペンの質が向上していけば、この差は、どんどんなくなっていくでしょう。
とはいえ、現状ではまだまだ紙への手書きに一日の長がありそうです。忘れっぽい人は、大切な学習内容の復習は紙に手書きでする──といったやり方を試してみてはいかがでしょうか。ハードディスクに記録したほうが安心な気もしますが、記憶に残るのは手書きなのです。
勉強やインプットにはコツがあります。ここで紹介した以外にも数々のインプット法があり、ちょっとしたコツで、記憶力や集中力は大きく変化します。ただやみくもに記憶しようとするよりも、効率的インプット法を知っていただくことで、仕事に人生に役立ててもらえたらと思います。
みなさんもぜひ、科学的研究から導き出された『絶対忘れない勉強法』をチェックしてみてください。
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明治大学法学部教授
1968年、熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程、ヨーク大学ロースクール修士課程修了、同博士課程単位取得満期退学。言語学博士。立命館大学准教授、明治大学准教授などを経て、2010年より現職。専門は司法におけるコミュニケーション分析。脳科学、言語学、法学、社会心理学などのさまざまな分野を横断した研究を展開している。『科学的に元気が出る方法集めました』(文響社)など著書多数。コメンテーターとしても活躍中で、メディア出演も多い。
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(明治大学法学部教授 堀田 秀吾)
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