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「楽天ヘビーユーザーほど大打撃」"ポイント改悪"で損する人が知らない事実

プレジデントオンライン / 2021年11月11日 11時15分

2021年10月18日、スマートフォンに「楽天市場」のアプリが表示されている。 - 写真=アフロ

楽天が2022年4月から、楽天市場のポイント進呈ルールを「税込」から「税抜」に改定することを発表した。それに対して「改悪だ」という批判が起きている。楽天はなぜ“改悪”に踏み切ったのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんが解説する――。

■「税込」→「税抜」はヘビーユーザーほど影響大

楽天が2022年4月から、楽天市場でのポイント進呈ルールについて、「税込」から「税抜」へ変更することを発表しました。一見ささいな変更ですが、このルール変更が「意外とインパクトが大きい」「改悪だ」と話題になっています。

たとえば税込1100円の買い物をした場合、これまで11ポイントつくはずだったところが10ポイントしかつかなくなるという制度改変ですが、これなら差はたったの1ポイント。1000円あたりでいえば0.1%の改悪に見えます。

しかし楽天のヘビーユーザーにとっては違います。楽天市場にはSPU(スーパーポイントアップ)というプログラムがあります。これを活用すると、楽天グループのサービスの利用度合いによって買い物をした際のポイント倍率が最大15倍まで上がるのです。

楽天モバイルのスマホと楽天ひかりのインターネット契約をしていて、楽天カードで買い物して楽天銀行で引き落とす。それで5か0のつく日で買い物をする。このような楽天のヘビーユーザーなら、ポイント倍率はあっという間に10倍を超えます。そうなると税込から税抜への変更の差は1%を超えます。だから影響の大きな改悪だと話題になっているのです。

■ゴールドカードや公共料金でも「ポイント改悪」

楽天グループでは楽天カードが次々とポイント改悪を発表したことも話題になっています。そもそも今年4月からゴールドカードの楽天市場でのポイント還元率が一般カードと同じ3倍に引き下げられた際には会員からは「ひどい」と言われました。

今年6月には、公共料金でのポイント進呈基準が「100円1ポイント」から「500円1ポイント」になる変更も行っています。公共料金はカードでの支払い額が大きいのでポイントを稼ぎやすい使い道だったのですが、ポイント付与率でいえば5分の1に減ってしまったのです。

なぜ楽天はポイントを改悪するのでしょうか。そしてなぜ、ポイントを改悪しても楽天の経営は大丈夫なのでしょうか。経営者の視点で改悪にどのようなメリットがあるのか、ポイント経済圏理論について解説したいと思います。

■「無料でセレブな海外旅行をするYouTuber」のノウハウ

最初の事例です。アメリカで登録数が多い、YouTubeの人気チャンネルジャンルに無料でセレブな海外旅行をするというものがあります。アジア人の若くてカリスマ風のYouTuberが「今日は無料航空券でドバイにきました」とか「うわー素敵なスイートルームです。今回も無料で泊まります」みたいに話しながら、普通なら体験できないようなセレブな海外旅行を繰り広げます。

あるYouTuberの場合、番組内でノウハウを細かく紹介しているのですが、彼がやっていることは20枚ぐらい持っているクレジットカードをエクセルシートで管理して、プロモーションでもらえるベネフィット(ポイントやクーポンや無料招待の合計)が最大になるように作戦を細かく立てるのです。

日本でも特定のサイト経由でクレジットカードに申し込むと多額のポイントがもらえるサービスがありますが、海外の場合、クレジットカードの獲得競争が激しい国では数万円単位のポイントや無料航空券がついてくるのです。ポイントも通常のカードでは利用額の0.5%が普通の水準ですが、入会直後の期間ではこれが3%になったりする。彼はそういったメリットを全部活用して無料海外旅行ライフを満喫し、それをYouTuberとして配信することでさらに儲けているわけです。

浜辺のブランコに乗って休暇を楽しむ旅行客
写真=iStock.com/SHansche
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SHansche

■とにかく客を集めることが、利益の最大化につながる

さてクレジットカード会社側に話を聞くと、彼のようなユーザーが一番儲からないと口をそろえて言います。だったら入会審査で彼を落とせばいいのですが、それはしません。なぜなら彼はクレジットカード会社にとって格好の宣伝マンになっているからです。

そもそもなぜクレジットカード会社が豪華なベネフィットで新規顧客を釣るのでしょうか。カードでたくさん買い物をする人を囲い込むことがカード会社の利益になるからです。大量に網をかけることでそういう人を集めるには、大盤振る舞い戦略が一番効率がいいのです。

つまり確率的に儲からない客も一定数網に入ってくることがわかっているけれども、とにかく大量に集めることが会員獲得による利益を最大化させるという考えです。

ここ数年でいえばクレジットカードよりもQRコード決済の大盤振る舞いが話題になりました。キャッシュレスでコード決済するたびに20%還元などという景気のいいキャンペーンが打たれていた裏事情としてあるのは、とにかく大盤振る舞いして顧客数を多く獲得した方が勝ちだという考えです。

■カード会社に利益をもたらすのは「両極端の顧客」

一方でカード会社やQRコード決済事業者は獲得後の会員のもたらす利益についてかなりしっかりと把握しています。獲得はスピード優先の競争なのでとにかく大盤振る舞いになる一方で、利益の刈り取りは時間をかけながら緻密な分析に基づいてというやり方です。

私の知っている例で一番大規模なのがアメックスの例で、全世界で一年間に数百億円の上の方のプロモーションコストをかけて新規顧客を獲得します。でも後から調べてみると、お金をかけて獲得した新規客がたいして利益を出していないことがわかったりします。そこで翌年のキャンペーンの予算配分を百億円単位で変えたりするわけです。

「去年は新規入会で3万円もらえたのに、今年は5000円に改悪されている」

と感じるケースの背景には、だいたいこの緻密な分析があります。楽天のゴールドカードの還元率が一般カードと同じになったという事実から類推されるのは、楽天のゴールドカード顧客が楽天に対して十分な利益をもたらしていないということでしょう。

一般的にクレジットカードの顧客は両極端が儲かります。年間数百万円単位でカードを使ってくれる人は、加盟店からカード会社が徴収する決済手数料が数万円から十数万円になります。一方で、あまりお金がないからカードはリボ払いという顧客層は金利が稼げるので、やはりカード会社は儲かります。その中間で、ゴールドのサービスを受けながらあまりカードを使ってくれない顧客が多ければ、サービスが改悪されるのは仕方ないかもしれません。

複数枚のクレジットカード
写真=iStock.com/Deejpilot
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Deejpilot

■ヤフーとの顧客獲得競争が終了した

さて、還元ポイントが改悪されるケースには大きく二通りあります。顧客獲得競争の段階が終了した場合と、競争の焦点がそこから違う場所に変わった場合です。

楽天がSPU(スーパーポイントアップ)を始めたのはヤフーとの顧客獲得競争が激化したことがきっかけです。それまでインターネットショッピングの楽天市場と、オークションサイトのヤフオクは市場をすみ分けていたのですが、ヤフオクにショップが出店するなど、だんだん境界があいまいになってきました。

そのときにヤフー側がしかけたのは、楽天市場からヤフーショッピングへの顧客スイッチ戦争です。出店料をゼロにして楽天市場に出店しているお店に対して「ヤフーにも出店してください」とお願いして出店状況を楽天と同じにしたうえで、ソフトバンクユーザーなら買い物のポイント還元が最大20%になるという大盤振る舞いを始めたのです。

それに対抗する形で楽天のポイント還元率も上がったのですが、戦争がある程度進んだ段階で楽天市場からヤフーショッピングへの顧客流出は収まってきます。これはポイント経済圏の特徴です。

■楽天カードより「モバイルとペイ」に注力したい

ポイント競争が起きると一定数の顧客はスイッチしていくのですが、そもそも楽天ポイントをたくさん持っていて、顧客としてのランクもプラチナやダイヤモンドになっている顧客は、わざわざスイッチするとこれまで積み上げてきた実績が意味をなさなくなってしまいます。

そのような事情から「もう顧客はこれ以上スイッチしないだろう」と思った段階で、両陣営ともに大盤振る舞いをやめたほうが賢明です。ヤフー陣営は数年前にポイント還元を5%程度引き下げているので、楽天陣営が今、じわじわと還元を下げていくというのは理にかなった作戦だと思います。

楽天の場合、もうひとつ当てはまるのが「競争の焦点が別の場所に移っている」ことです。楽天市場と楽天カードに力を入れるよりも、今の楽天グループの場合、一番力を入れるべきは楽天モバイルであり、その次に楽天ペイです。

スマートフォンに表示したコードで支払いをする客
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

そこにお金をつぎ込むためには原資が必要で、そのためには他で費やしているプロモーション投資を節約すべきなのです。今、楽天市場と楽天カードが囲い込んでいるコアユーザーは多少のポイント改悪ぐらいでは楽天離れをしないでしょう。その読みから少しずつ、影響の小さい箇所からポイント改悪を行う。これが冒頭にお話しした最近の状況の背景事情のはずです。

■楽天が力を入れているところに行動をシフトする

そして楽天の場合、ポイントを改悪することにはもうひとつ隠れたメリットがあります。上場企業である楽天の会計基準は日本基準ではなくIFRS(国際会計基準)を用いています。難しいところを省いて簡単にいえば、日本基準ならポイント付与は負債を増やすだけで損益に影響しませんが、IFRSだとポイント付与は値引きになって売上が減ってしまいます。ポイント制度を改悪すればその分、国際会計基準では楽天の決算はよくなるのです。

では楽天のヘビーユーザーはどうしたらいいのでしょうか。考え方はシンプルです。今、楽天が一番大盤振る舞いをしているのは楽天モバイルですから、まずは楽天携帯に切り替えたり、iPhoneの上位機種などへ機種変更したりするのが一番お得なはず。そして決済は楽天カードではなくなるべく楽天ペイを使うようにする。そうやって楽天が力を入れているところに行動をシフトしていけば、あいかわらずお得に楽天を使うことができるはず。これが経済学というものです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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