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「ほかの利用者のために整理整頓しましょう」駐輪場にこんな貼り紙をしてはいけないワケ

プレジデントオンライン / 2021年11月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

駐輪場の荒れているマンションには共通点がある。マンション管理員の南野苑生さんは「貼り紙には持続的な効果はない。そうした注意書きが多くなるほど、むしろ荒れてしまう。整理整頓を続けるには、貼り紙以外の方法を考えたほうがいい」という――。(第1回)

※本稿は、南野苑生『マンション管理員オロオロ日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。

■マンション管理員の日常

私は今から13年ほど前に、家内とともにマンション管理員になった。

13年間におよぶ管理員歴で現在、住み込みで勤めている分譲マンション「泉州レジデンス」は3つ目の赴任先であり、ここでの勤務はこれまでで最長の11年目に突入する。

「泉州レジデンス」の戸数はざっと140戸。バブル経済も終焉しようとするころ、デベロッパーである某社の元請けが開発し、大手建設会社が施工した物件だけあって、一番安い住戸でも当時3000万円以上はしたという。

なかでも最上階にあるルーフバルコニー付きの住戸は5000万円を超えていたらしい。ビルは堅牢で、私たちが赴任した当初、「あの阪神大震災でもビクともしなかった」と誇らしげに語ってくれた住民さんもいるくらいだ。

「泉州レジデンス」での私の勤務時間は、午前9時から午後5時まで。月曜から金曜日までで、土日は休みの週休2日制である。ただし、副管理員という立場の家内は午前中のみの勤務で、あとは同様だ。朝9時の15分前に管理員室の窓口を開ける。しばらくすると清掃員さんが出勤するので、清掃チェックリストと清掃員室のカギを渡す。

12時に清掃員さんが帰るので、チェックリストとカギを受け取り、管理員室を閉めて昼食に入る。13時前まで食事休憩し、13時5分前に管理員室を開け、午後5時まで窓口での受付業務となる。

■住民からのクレームが立て続けに入ることも

窓口にいれば、来客用駐車場にクルマを停めたい外来者、工事業者などに一時駐車許可証を発行したり、フロントマンとの連絡、住民からのクレーム対応などがあり、理事会の議事録の作成や文字校正、できあがった議事録を印刷し、全戸に配布したり、といった業務もある。

それ以外にも住民からの苦情処理や、その内容を周知するための貼り紙の作成、理事長への連絡と承諾、各種文書の配布、館内各所の目視点検、残留塩素の測定週1回の水道親メーターの点検など、細かいことをいちいち書きだせばきりがない。項目だけでも数十に及ぶ。

午後5時をすぎると窓口を閉め、いったん自宅(管理員室に併設)に戻り、私事を済ませたあと、その日最後の巡回をする。夕方の巡回時間は、季節にもよるが、基本的には館内照明が点灯してからのこととなる。

蛍光灯
写真=iStock.com/Aleksandr Golubev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aleksandr Golubev

というのも、蛍光管が切れているかどうかは、照明が点かなければわからないからである。これがざっとした私のルーティンである。住民からのクレームが立て続けに入ることもあれば、なにごともなく穏やかにすごせるときもある。なにもないときは本当にほっとする。

管理員室に併設された管理員の居室は2DKが一般的。平米数は他の住戸とほぼ同じだが、管理事務所も併設している分だけ居室が狭い。そんな“わが家”は、6畳間と4畳半の2室。そして6畳のダイニングキッチン、バス・トイレ付き。家賃はタダだ。水道料金と電気代も、管理組合の経費として落ちるため、払う必要がない。ただし、ガス代だけは個人持ちとなる。

■掲示板や壁に警告文を貼っているマンションは管理が行き届いていない

一般的にいって、掲示板や壁、エレベーターなどに警告文を書いた貼り紙の多いマンションは管理が行き届いていない。しかも、その警告文が何年にもわたって掲示してあるマンションほど性質(たち)が悪い。

この業界に初めてご厄介になったとき、研修させていただいた管理員さんに言わせれば、そういうのは管理員の怠慢以外のなにものでもないのだそうだ。たとえば、自転車置き場。

たいていの駐輪場には、「自転車は所定の場所に置きましょう」「ここはバイクの置き場です」「ほかの人の邪魔にならないよう整理整頓しましょう」などと書いてある。つまり、住民に注意を促すことによって、使い勝手のよい駐輪場にしようとしているわけだが、その管理員さんに言わせれば、それがそもそもの間違い。

貼り紙は一度読めば、そのあとは無視されるものであって、抑止効果にはならない。あって1日程度。むしろ、管理員の駐輪場管理の仕方が悪いことの証明になるのだそうである。では、どうするか。その管理員さんがこう教えてくれた。

まず貼り紙の類いは一切しない。その手のものはすべて外す。そして誰かが変な停め方をしていても、見て見ぬふりをするのだ。

「そんなことをすれば、ますますひどくなるじゃないですか」

どちらかといえば、人間性悪説を認めている私。人間、根本的にはラクをしたくて生きていると思っている。

■「○○しないようにしましょう」では人は動かせない

「いやいや、そんなことはありません。ただし、ふんぞり返っていてはダメです。自分が率先して整理整頓に努めるのです」

南野苑生『マンション管理員オロオロ日記』(三五館シンシャ)
南野苑生『マンション管理員オロオロ日記』(三五館シンシャ)

「ほう」

「そうしていると、きちんと入れてくれる人が現れます。そしてきちんと入れてくれた人には、必ず礼を言うようにしています。そうしたことを続けていれば、今ではご覧のとおり立派なもんです」

「なるほど、率先垂範(そっせんすいはん)。山本五十六(いそろく)の『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ』という、あれですね」

「入れちゃ出され、出されちゃ入れ……まるでイタチごっこでした。ただし、ここまでくるのに半年かかりました。なんだってそうですよ。『○○しないようにしましょう』と言っただけでは、まして貼り紙だけでは人は動いてくれないのです」

「いいお話ですねぇ。私も使わせていただくことにしますよ」

と、まあ、アタマでは理解したものの、実際にそのようなシーンに出くわすと、ついカラダが反応して不埒な感情が顔に出てしまう。駐輪禁止場所に停めている住民を見かけたりすると、思わずイラッとする。

持って生まれた性格が歪んでいるのかもしれないが、あの管理員さんのようにふっくらとした笑みが湧くまではまだまだ時間がかかりそうである。

■ルールや決めごとを押し通すだけでは解決しない

ある日、マンション住民の河合さんが50ccバイクにまたがったまま、エレベーターに乗るところを目撃。思わず声を出しかけたことがある。そのとき、「なんや、なんか文句あんのか」という表情でにらまれ、つい言いそびれてしまった。

マンションによっては、上階へ自転車やバイクを持ってあがってもよいというところもある。が、置き場所は言うまでもなく、みんなの生活路である共用廊下だ。消防署によれば、避難の邪魔になるので、ここに私物の類いは一切置いてはいけないことになっている。

ところが、いったんこのようなクセがつくと、住民はなかなか言うことを聞いてくれない。そこで、ずるずるとやっているうちに、いつのまにか公認ということになってしまうのだ。やっぱり、人間ラクをしたくて生きている。

上階に自転車やバイクを持ってあがる住民にも、それなりの言い分があって、「100万円もする高級自転車が盗まれでもしたらどうする」とか、「シートをカッターナイフで切られたら弁償してくれるのか」とか、いろいろなことを言いだす。で、くだんの河合さんの行状をどうしたものかと、かねてからそうした不法駐輪に不平をこぼしていた理事長に相談した。

「ああ、放っとけばいいんですよ」

「え、いいんですか。上階への持ち込みは禁止するんじゃなかったんですか」

「いいですよ。どうせお歳なんだから。もう1~2年の辛抱」

基本的に、管理会社は管理組合から「お給料」をもらっている。その仕事の中身を決めるのは、あくまでも管理組合なのだ。ルールや決めごとを押し通すだけが正義ではない。江戸時代のだれかさんではないが、「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」ということなのだろう。

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南野 苑生(みなみの・そのお)
マンション管理員
1948年生まれ。大学卒業後、広告代理店に勤務。バブル崩壊後、周囲の反対を押し切り、広告プランニング会社を設立するものの、13年で経営に行き詰まる。紆余曲折を経て、59歳のとき、妻とともに住み込みのマンション管理員に。以来3つのマンションに勤務。

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(マンション管理員 南野 苑生)

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