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「アルバイトを積極的に社員に採用」だから無印良品の本部社員は現場に超詳しい

プレジデントオンライン / 2021年11月12日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

生活雑貨店「無印良品」を展開する良品計画では、アルバイトやパートから社員になる「内部採用」の比率が高い。良品計画前会長の松井忠三さんは「内部採用では、性別も学歴も、年齢も関係なく、実力でステップアップしてきた人を公正に評価することになる。それが本部に優秀な人材の多い理由となっている」という――。

※本稿は、松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■辞めた人の穴は「内部採用」で埋める

無印良品では、本部にいきなり外部の人を入れることは基本的にありません。中途採用も、1年に2〜3人いるかいないか、ぐらいの割合です。

とはいえ、無印良品でも離職率はゼロではないので、辞めた人の穴は埋めなければなりません。そういう場合は「内部採用」をします。

内部採用とは、パートナー社員から本部の社員になってもらうことです。パートナー社員は店舗で働くアルバイトやパートのスタッフのこと。週に28時間以上働ける方はパートナー社員として契約し、そこから契約社員、正社員へと続く道が用意されています。そのパートナー社員出身の人を、本部に起用するわけです。内部採用では、性別も学歴も、年齢も関係ありません。実力でステップアップしてきた人を公正に評価します。

実は、私が会長を務めていた時期の数年間は、新卒採用より、内部採用の数のほうが上回っていました。それは、無印生まれ・無印育ちのパートナー社員に優秀な人材が増えたからです。

無印良品では、店舗に配属されたら誰もがMUJIGRAM(店舗用のマニュアル)をもとに指導を受けます。MUJIGRAMは一般的なマニュアルとは違い、トップダウンでつくるのではなく、現場で働く社員の提案やお客様の要望を集めて、マニュアルにしたものです。さらに一度つくったら終わりではなく、毎月内容を更新していき、今でも常に進化をし続けています。

■本部の社員は全員が店長経験者

商品の洋服を畳んだり、品出しをしたり、店内の掃除や在庫の管理など、無印良品には「何となく」する作業はありません。すべての作業には目的や意味があります。作業を教える前に、まず作業の目的を教えるのがMUJIGRAMの特徴です。

「目的」を教えることは、無印良品の理念や哲学を、現場の作業を通して教えることでもあります。一つひとつの作業を通して無印良品の考え方を教えるうちに、理念や哲学が体に染みこんでいく。そうやって無印生まれ・無印育ちの社員は育ちます。

「そうはいっても、店舗の経験者が本部に配属になっても、仕事が全然違うではないか」

そういう疑問を持つ方もいるでしょう。

無印良品では基本的に、店舗で店長を経験した人間でないと、本部の社員にはなれません。そして店長は単なるお飾りではなく、一人の経営者としてのスキルや自覚を持ってもらうよう、MUJIGRAMなどを使って教育しています。

商品に関する知識を持っておくのはもちろんのこと、店舗のスタッフとのコミュニケーション、経理などのお金の管理、在庫の管理、店の宣伝など、店に関するあらゆる業務をできなければなりません。さらに、トラブルが起きた時には先頭に立って解決し、売り上げ目標を立てるのも“経営者”である店長の仕事です。そんな経営者感覚を店舗で身につけてから、本部に配属となります。

ビジネスミーティングを行っているチーム
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

たとえば本部での商品開発は、店舗とは一見関係はなさそうですが、そんなことはありません。日々、店頭でお客様と接していた“元店長”のほうが、お客様のニーズがよくわかるでしょう。人事に携わるとしても、お店でアルバイトやパートの採用をして育ててきた経験があるのですから、人を見る目も、人を育てる力量も備わっています。

つまり、店舗で働く体験を通して、無印良品本部の社員として必要なあらゆる能力を、一定レベル身につけているのです。中途採用したての人では、そこまで簡単に無印が求めているものを理解することはできません。

■中途で採用した人の多くは数年後に辞めてしまう

そもそも、人の問題を、数で解決するという方法は、会社を弱くします。

たとえば、売り上げが10%アップして、仕事が増えたから、社員も10%増やそう――こういう考え方をする会社は多いようですが、これはリスクの高い発想です。

この発想で増員し続けると、業績が好調なときはいいのですが、悪化したときは一気に人件費が負債となってのしかかります。不動産などに限らず、人材の過剰投資・拡大路線も慎重にすべきです。

私の経験則で言うと、中途で採用した人は、多くが数年後に辞めてしまう傾向があります。以前、経理の担当者を数名中途採用したとき、しばらくは順調だったのですが、人材派遣の会社に引き抜かれてしまいました。ほかの社員も同じ時期に辞めていき、決算の直前だったので社内は大混乱になりました。

その時痛感したのは、「お金だけで人材を引っ張ってきたら、お金で引き抜かれる」ということでした。組織の風土をよく理解している人たちで会社を回している限り、軸はぶれません。そのためにも、時間はかかっても無印生まれ・無印育ちの社員を育てるのが最善策なのです。

■どうして今、「終身雇用+実力主義」を目指すのか

無印良品は終身雇用を目指しています。そう聞くと、「旧態依然とした組織なのかな」と誤解する人もいるかもしれません。正確に言うならば、「実力を的確に評価する制度を整えつつ、終身雇用で社員に安定した生活を保障する環境をつくろう」としています。

バブル崩壊後、終身雇用のイメージは悪くなりましたが、それは年功序列とセットになっていたからです。実力がなくても勤務年数さえ長ければ出世できるという、正しい競争の起きないシステムに問題があったのです。

私は、社員が定年まで安心して働ける環境は大切だと考えています。それがないと、仕事への愛着や愛社精神は育たないでしょう。同時に、給料も少しずつでも上がる仕組みでないと、やはり社員は働きがいを感じません。

いわゆる“ブラック企業”ばかりが注目されているなか、東洋経済が毎年行っている「新卒社員が辞めない会社」ランキングTOP300では、新卒社員の3年後定着率100%の企業は71社もあります(2021年)。分析・計測機器大手の島津製作所は、3年前に入社した98人の新卒社員が一人も辞めていないそうです。他にも、機械や電気機器、精密機器などのものづくりの企業は、意外と離職率は低い傾向があります。

つまり、多くの若者は3年で辞めたいと考えているわけではないのだといえます。一生働ける職場に巡り合えれば幸せでしょう。しかし、年功序列は排除しなければなりません。

■欧米型の成果主義は日本に合わなかった

世界に目を転じてみると、ホワイトカラーの社員の終身雇用を採用する企業はほとんどありません。海外は職務給が一般的です。職務給は「仕事の内容」に対して給料が支払われます。したがって、経験年数や年齢などは一切関係なし。給料を上げるために夜は学校に通って資格を取るなど、みな貪欲(どんよく)に勉強し、働きます。海外でホワイトカラーの生産性が高いのはそのためでしょう。

対して日本は職能給です。職能給は「仕事の能力」に応じて給料が支払われるという仕組みですが、日本では働く年数が長ければ能力が高いと思われているので、年功序列というルールが生まれたのです。

日本のホワイトカラーの生産性が低いと言われるのは、能力がなくても自動的に昇給するシステムになっていたからです。それもバブル崩壊と共に限界が来て、欧米型の職務給をベースにした成果主義が日本企業にも流れ込みました。

そのようにして日本に入ってきた“欧米型の成果主義”は、残念ながら多くの企業にとっては劇薬になりました。多くの若者は「これで、実力で評価してもらえる」と喜びました。一方で、自動的に昇進できなくなると焦ったベテラン社員も多くいました。そこで何が起きたのか。上司は自分の評価を上げるために部下に仕事を教えなくなり、気に入らない部下の評価を低くしました。失敗を恐れて当たり障りのない仕事ばかりをする人が続出するなど、多くの企業で内部がガタガタになってしまいました。

■チームワークを評価する仕組みをつくった

私は、欧米型の成果主義は日本にはなじまないと考えています。

日本はチームワークで仕事をするので、隣の人がライバルになる成果主義は向いていません。欧米はもともと個人主義が基本なので、成果主義が機能するのでしょう。

やはり、単なる流行(はや)りものに「真実」はありません。多くの企業が導入しているから、という理由で飛びついた企業は、かなり痛い目にあったはずです。

松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)
松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)

実は、無印良品も一時期、成果主義を導入していました。

けれども、激しい成果主義は企業にとって一番大事な「協働」や「協力」といった力を弱めてしまいます。無印良品が目指すのは、チームで業績を出すチームワーク、みなで協力し合う環境です。

そこで、協調性を保ちながら個人の実力をきちんと評価するシステムを構築しました。たとえば、評価内容に部門全体の評価を配点しました。すぐれた成績を挙げた部門には、賞与原資が成績に応じて配分されます。

また、販売部門においては、お客様の評価を全店で上げるため、個人目標にもお客様評価への項目を加えています。小集団活動の「WH運動」(W=ダブル、H=ハーフ/「生産性を2倍に、またはムダを半分に」をスローガンに、社員から社内の環境改善や顧客満足度を高めるための提案をしてもらう制度)では、給与明細のウェブ化という目標を掲げた人事部門に、販売部・システム部が一丸となって達成させる風土づくりも進展していきました。

終身雇用であっても年功序列ではない。実力を評価しても欧米型の成果主義ではない。それが無印良品の雇用体制であり、辞めたくない会社づくりの方法でもあります。これこそ日本の企業に向いているのではないでしょうか。年功序列を排除しきれない企業や、社員の実力をきちんと評価できない企業には、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

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松井 忠三(まつい・ただみつ)
良品計画 前会長
松井オフィス社長。1949年、静岡県生まれ。73年、東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、西友ストアー(現・西友)入社。92年良品計画へ。総務人事部長、無印良品事業部長を経て、初の減益となった2001年に社長に就任。08年に会長に就任。10年にT&T(現・松井オフィス)を設立したのち、15年に会長を退任。著書に『無印良品は、仕組みが9割』(KADOKAWA)など。18年2月には日本経済新聞に「私の履歴書」を掲載。

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(良品計画 前会長 松井 忠三)

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