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「人生は有限である」中2で起業、高1で母校を買収した慶應ガールの人生観【2020年BEST5】

プレジデントオンライン / 2021年11月27日 10時15分

仁禮彩香氏 - 写真提供=TimeLeap

2020年(1~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。キャリア部門の第5位は――。(初公開日:2020年12月26日)
慶應義塾大学総合政策学部に在学中の仁禮彩香さんは、中学2年生のときに教育関連の会社を起業した。なぜ、その若さで起業をしようと思ったのか。エンジェル投資家として仁禮さんを支援するピョートル・フェリクス・グジバチさんが聞いた――。

※本稿は、ピョートル・フェリクス・グジバチ『パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■答えを与えられる教育に違和感を覚えた小学生時代

学びの世界でパラダイムシフトを実践してきた人がいます。それが、子どもたちに向けて、「自らの人生を切り拓く力」を育むための教育プログラムを提供する会社TimeLeap代表の仁禮彩香さんです。小学1年生のときに既存の学校教育に疑問を抱き、それ以来、教育のあり方を変えるべく奮闘を続けています。現在の教育は何が問題なのか、自らのミッションとして何を変えようとしているのか、活動の原点にあるものは何なのか。その胸の内を聞いてみました。

【ピョートル】「中2で起業、高1で母校を買収した慶應義塾大学生」としてメディアでも最近よく見かけるようになってきました。ただ僕が何と言っても素晴らしいと思うのは、10代という若さで起業したというスター性よりも、むしろ自分のやりたいことを明確に抱いて、そのために周りの大人たちを巻き込んで起業という形で自己実現を成し遂げたという、その根性なんです。僕自身がエンジェル投資家として仁禮さんを支援し続けているのは、そこが理由です。

【仁禮】私が最初に教育に興味を抱いたのは小学生のときです。幼稚園は、先生が生徒たちに質問でコミュニケーションをとるという方針のインターナショナルスクールに通っていたので、「考える」ことが生活の日常でした。ところが、地元の小学校に上がると、「教科書に書いてあるものが答えです」「先生が言っていることが答えだよ」と、答えを与えられるようになって、そのギャップに違和感を覚えたのです。それが「教育って何?」「学校って何だろう」と考えるようになったきっかけでした。

■教育は「人生の時間をどう使うか」に大きく作用する

【仁禮】結局、その小学校に通い続けるのは厳しいと考え、幼稚園の園長に「小学校をつくってくれませんか」と直談判したところ、有難いことになんと1年でつくってくれたのでそこに通うようになって。当初は1期生6人だけの学校だったので、「どうやったら学びがつくれるの?」「みんなで成長するってどういうこと?」「そもそも学校って何で行くの?」ということをみんなで一緒に考えながら学校をつくっていきました。

中学は、日本の教育をもっと知りたいという思いから、あえて一般の学校に通いました。そこで抱いた違和感や物足りなさを自分の学びとして、最初に起業したのが中学2年のとき。自分で会社を経営し、社会勉強をしながら、新しい教育のあり方を事業を通して社会に提案したいと考えたのです。

以降ずっと、社会に足りていない教育は何か、どういう学びの形をとれば小中高生くらいの子たちにいちばんいい形で作用するのかといったことを常に考え、勉強し、実験しながら、教育の仕組みに関心を持ち続け、主体的に関わっています。教育は、若い時期に長く関わるものなので、良くも悪くも、限られた人生の時間をどう使うかに対して大きく作用してしまいますよね。どうせ影響を与えるなら、より良い影響を与える教育の仕組みをつくれたらいいなと思って、取り組み続けています。

■起業家の友人たちと比べて焦りを感じていた時期もある

【ピョートル】ご自身のポリシーとは? そのポリシーに反するものをどう見極めるのでしょう。

【仁禮】現在、2つの会社を経営していますが、共通するポリシーは、人類の生きるプロセスに貢献できるもの、自分が心から共感できるもの、かつ今後の自分に役立つ学びがあるものという観点で仕事をすること、です。TimeLeap社は自分の人生を生きる力を育む教育のコンテンツを、小中高生を中心とした若い世代に提供、ERRORs社では、生きる時間をどうデザインするかに関して教育以外の方法を試しています。

パソコンとスマートフォンを同時に操作する人の手
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

ここに行き着くまで、起業家の友人たちが、スケールを追求する事業で成功したり、数字を伸ばしたり、実績を出したりするのを見て、焦りを感じたこともあるし、その時は「教育はなかなか成果が出ないし、届けるのも難しい。今まで考えてきたものとは全く別の事業をやろうかな」と思って事業のアイデアなどを考え始めたのですが、気づくと「これは本質的に人類のためになるんだっけ?」というところにたどり着いてしまう。

このアイデアは楽しそうではあるし、喜んでくれる人はいそうだけど、人生にどれだけ作用するかというレベルで考えた時に物足りなさを感じてしまって、この先自分がこれに取り組み続けるイメージが全然見えない。わかりやすく言えば、私がピョートルさんにこの新規事業案について話をしても、賛同を得られる自信がない。それは心の底からやりたいと思っているわけではないからです。そういうことは自分がやるべきではない。そう考えています。

■死を身近に感じる経験をして「時間は有限である」と考えるようになった

【ピョートル】自身の成長とともに、ポリシーに基づいた価値観や信念は変化しましたか。

【仁禮】世界的な新型コロナウイルスの蔓延で、「死に直面するもの」が人類全体に降り注いできたことで、特に若い世代に「人生は限られているな」「いつ死ぬかわからないな」という価値観が植えつけられた印象があります。

死というものに直面する経験をした人は、そういう価値観を持ちやすい。私が大事にしている価値観の一つが、まさに「時間は有限である」ということですが、私も子どもの頃、死を身近に感じる経験をしました。有限性を理解して建設的に受け入れられると、その限られた時間をどう使うかに意識が向くようになります。私自身も、自分の成長と外部要因が重なって、最近さらにその意識が高まっていると思うし、全体的にそういう傾向があることを興味深く感じています。

【ピョートル】資本主義社会の子どもたちは、パイロットや税理士になるために資格を取ること、会社に入るために大学に行くことをゴールとする仕組みの中でがんばっています。こうした教育の現状と、仁禮さんの理想の教育との溝とは、どういうものなのでしょう。

■「数学が嫌い」という子どもに「なぜ?」と聞く人がいない

【仁禮】現在の教育コンテンツには、ゴールが設計されていたり、最低基準が一律であったりするものが多いですよね。テストの点数がとれていれば評価され、それ以外は評価されないという極端な仕組みです。もちろん現行の評価軸を撤廃しろと言いたいのではありません。テストが得意な人がいるからそれはそれでいい。ただ、個々人の才能や個性をどう見つけ、どう伸ばすかを考えてつくられているものが非常に少ないことが問題です。

現状のシステムは、むしろ個性を排除していく仕組みになっている。ピョートルさんもよく言っているように、私も「自己認識」が教育の基本だと思っています。学校は自分のことを知るための場所であってほしい。本来は、まず自分を知って、そこで初めて「何を学ぶのか」「どう学ぶのか」「どう生きていくのか」を考え、時間割を組んで進路を考えていくべき。それなのに、自己認識をまったくしない状態で、数学や国語や歴史の授業を受けているのが現状です。

「数学が嫌い」と言う子に「なぜ嫌いなの?」と問いかけてくれる人はいません。ただ先生が嫌いだからなのか、答えが一つしかないという数学の思考回路そのものが合わないからなのか、自分の人生にどう活かせるのかがわからなくて目的が見えてくるまではモチベーションが上がらないタイプだからなのか、それぞれ違う理由があるはずなのに、それを「数学嫌いなんだ。へぇ」で終わりにしてしまったら、その子は自分を知ることができません。本来、学校は、一人ひとりに対し、サポーターとして「それはなぜなのか」「どうしたらいい?」「あなたはどう?」と一緒に考えるべき。それが教育の理想なのではないかと思います。

■今まで抑圧されていた子の個性を活かしたい

【ピョートル】学校にアウトソースしていた教育が、コロナ蔓延時の自粛で、自宅学習しなくてはいけない状況になりましたよね。自分の時間の使い方に自覚的な子どもたちがいる一方で、そうでない子たちも大勢います。底上げをどう捉えているのでしょう。

ピョートル・フェリクス・グジバチ『パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』(かんき出版)
ピョートル・フェリクス・グジバチ『パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』(かんき出版)

【仁禮】早い段階で自覚が持てる子たちは、少ないけれど、確かにいます。その子たちは、今までの教育では逆にないがしろにされてきた子たちです。本人には先が見えているけれど、学校で他の子たちと同じレベルに合わせてコミュニケーションをすることができなくて、いじめに遭うケースもある。自分の言いたいことを口に出せず、もどかしい思いをしているケースもあると思います。

社会にはさまざまな役割を持った人や組織が存在していて、TimeLeap社の役割は、どちらかというと底上げより、まずはそういう現行の画一的なシステムに抑圧されていた子を救うことにあると思います。この子たちが活躍できるようになれば、「私もそうだ」と自分の才能や個性を活かせる子も出てくるでしょう。そうすれば、今まで変化しないままだったことも変化せざるを得ない状態に追い込まれるはず。

現在の教育は単一的ですが、今後選択肢が豊かになることで、底上げの意味も含め個別最適化された教育価値を、一人ひとりの子どもたちに提供できる未来が来ることを信じて、私は進み続けます。

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仁禮 彩香(にれい・あやか)
TimeLeap代表
1997年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部所属。中学2年生のときに1社目の会社を設立し教育関連事業・学生/企業向け研修などを展開。高校1年生のときに自身の母校である湘南インターナショナルスクールを発展支援の目的で買収し経営を開始。2016年にTimeLeap(旧Hand-C)を設立し、代表に就任。同年DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューが選ぶ未来を作るU-40経営者20人に選出。現在は小中高生のための起業家教育プログラムTimeLeapAcademyなど「自らの人生を切り拓く力」を育む事業を展開。

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ピョートル・フェリクス・グジバチ(ぴょーとる・ふぇりくす・ぐじばち)
プロノイア・グループ代表
TimeLeap取締役。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。ポーランド出身。モルガン・スタンレーを経て、グーグルでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。『ニューエリート』(大和書房)ほか、『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『PLAYWORK』(PHP研究所)など著書多数。

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(TimeLeap代表 仁禮 彩香、プロノイア・グループ代表 ピョートル・フェリクス・グジバチ)

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