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「タイムトラベラーをパーティーに呼ぶ」ホーキング博士が本当にやった実験の結果

プレジデントオンライン / 2021年11月16日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mikkelwilliam

SF映画でよく出てくる「タイムトラベル」の存在を証明するにはどうすればいいのか。物理学者の高水裕一さんは「ケンブリッジ大学のホーキング博士がある斬新な実験を行った。それは、誰にも知らせずパーティーを開き、その後に招待状を書けば未来で招待状を見た人が訪れるはずだというものだった」という――。

※本稿は、高水裕一『物理学者、SF映画にハマる』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■科学的に見た「時間が止まっている空間」

時間を止めるテーマに関しても少し見ていきましょう。

海外ドラマの『HEROES』に出演する日本人キャラでヒロという人物がいます。ヒロは、時間を止める能力を持っています。正確に劇中の表現でいうと、「時空間を操る能力」です。つまり、ワープのような空間の移動もできますし、もちろん時間を戻ってタイムトラベルもできることになっています。それも、能力発動のトリガーは目的地を想像するだけ。まさにヒーローといえる無敵キャラですね。

ただし、タイムトラベルの能力は、到着する時間をコントロールするのが難しいようで、想定していた時刻から、かなりずれた時間に行ってしまうシーンが多いです。これは能力発動のトリガーが関わっていそうです。

空間移動の場合なら、景色の違いや国のイメージを容易に想像できるので移動先のコントロールはしやすそうですが、過去や未来の時間にするとなると、バブル時代や大正時代のようなざっくりとした違いは想像できても、細かい年月日の違いを明確に想像するのは難しいのではないでしょうか。また、タイムトラベルをしても、過去を改変できるかは微妙な立場として描かれており、「結局何をやっても変えられないや」ということをぼやいています。

一方、空間移動と時間を止める能力は、劇中でかなり活躍します。とくに時間を止めて、自分だけが動ける空間でいろいろなトラブルを回避していきます。似たような能力の設定に、『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するディオというキャラクターがいます。彼は「ザ・ワールド」という能力で、ヒロと同様に、静止した時のなかを移動して相手を攻撃してきます。

ここで、時間が止まっている空間とはどんなものか、少し科学的に考察してみましょう。

■すべてが完全に静止した状態は存在しない

もちろんこの能力の仕組みを説明できるわけではないのですが、少なくとも本人が普通に行動できているので、重力やその他の力を変更しているわけではないようです。

よく空中に浮かんでいるものが、そのまま静止しているような演出が出てきます。別にそれがいけないというわけではなく、一体どのような仕組みで重力が作用する空間で、落下せずに静止し続けられるのか不思議に思います。重力があって下向きに力がかかっている以上、浮くためには、全ての物体に上向きの力をかけないと浮き続けることは難しいでしょう。

物理的に時間を止めることは可能かと聞かれれば、もちろん無理だといえます。それは、そもそも絶対的に静止している状態が存在しないためです。量子レベルでは、つねに原子も分子も振動をしています。いくら絶対零度と呼ばれるマイナス273度に到達して、全ての物質が凍結しても、量子力学的には、それは静止状態ではありません。したがって「時間を止める=全てが完全に静止する」という状態は実現できません。

そもそも、自分以外の全ての現象を止めることが完全に成り立ってしまうと、光さえも届かなくなるはずです。つまり、真っ暗になるか、もしくは暗闇に立っている状態になるか。いずれにしても、だいぶ行動の自由がきかない状況だといえます。

■まわりの人からは時間を止める能力者は「変な行動をする人」

見方を少し変えて、実はわずかながら、ゆっくりと動いているだけとも考えてみましょう。これだと相対論的には可能な話です。日本のドラマ『SPEC』でも、このような時間停止に近い能力を持つ少年が出てきますが、その少年も相対論を考慮したようなコメントをしていました。自分が超スピードで行動できる、そのため流れる時間が、まわりの時間の流れと大きく異なる能力である、と。しかしこの場合、相対的であるということが最大の問題になります。

自分が光速近くで移動すると、まわりの物体の運動は全てゆっくりと経過するように見えます。ただ、このときの時間の経過も実は、相対的な違いであるというのが相対論の帰結です。

つまり、まわりの人からすれば、この光速で移動する人物の時間がゆっくりと進んでいるのです。ただし、光速で移動する人自体を観測することが無理な話で、時間がゆっくり進んでいるのを「見る」ためには、きちんと比較するそれぞれの時計を用意しなくてはなりません。

しかも、観測にはこれらの時計をびっしりと敷き詰めて、空間的な同一点で比較しなくてはいけないので、文章で簡単に表現している、人間の目で見えるという意味の「見える」とは、大きく異なることを注意しておきます。

よって、SFでの設定では、必ずその能力者だけが絶対的な時間の支配者となっていますが、相対論でいえば、その能力者以外のまわりの人たちが、単に能力者の変な行動を目撃しているだけという状態になります。もちろん、光速度での移動という設定だと、どちらにしても見え方云々が一瞬で、少し意味のない議論となりますが、一応そういうことになっています。

ちなみに、光速で移動する代わりに、ブラックホール近傍に行くというのも1つの手です。ここでは、光速で動くのと同様に時間が遅れる効果が強くなります。

ブラックホール
写真=iStock.com/Petrovich9
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Petrovich9

理論的には、ブラックホールの事象の地平線と呼ばれる、光も出てくることができない地点では、時間の経過する刻み幅がゼロとなって、実質時間が止まるように見えます。これは、ブラックホールから十分離れた観測者からそう見えるということで、ブラックホール近傍の本人は、この遅れは一切認識できません。

例えば、ブラックホールに突っ込む人が、手を振り続けてお別れをしているとしましょう。この動作は遠方の人からすると、見かけ上、手を振る動きが徐々に遅くなり、やがて地平線に到達するときに停止します。しかし、当の本人は、何ら変化を感じることなく、手を振り続けているだけです。

■時間を止める力は「危険な能力」

先ほども言ったように、光速移動や重力による時間停止の疑似的な再現において、SFと現実の最大の違いは、止まっていると思っているまわりが、実は、相対的にしっかりと能力者やブラックホール近くにいる人を観測しているという点です。つまり、まわりからすると、逆に彼らこそが止まっているように見えているかもしれないということです。

ブラックホールまわりの時間の停止を考えてみてください。ブラックホール付近の人から見ると、遠くの人の動きが止まって見えて、逆に遠くの人からは、ブラックホール付近の人の動きが止まって見えるという相対的な関係にあるということです。

なので、例えばこの止まって見える時間のなかを好き勝手に移動していると、次の瞬間、車に轢かれてしまうということも十分考えられるということです。見かけ上止まっているのと、実際に止まっているのとでは全く違います。まわりを間違って認識する可能性が高いので、事故りやすいといえますね。自分の力を過信しないようにしたいものです。

他にもSF作品では、撃った銃弾が空中で止まっているシーンが出てきますが、これも相対論的に見かけ上「静止して見えているだけ」ならば、大変に危険な行為ですね。実際は、猛スピードで飛んでいるのに、誤認している状態です。

飛んでくる銃弾
写真=iStock.com/Razvan25
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Razvan25

仮にフィクションとして、自分以外が完璧に止まっていたとしても、先ほどのなぜ空中に浮いていられるのか問題がもう一度出てきます。また、どこかのSF作品では、銃弾の軌道を変えて、かつ銃弾をトントントンと小突いて、運動量を加え続けて加速するような描写が出てきますが、仮に、静止した状態で運動量が蓄積されるということであれば、実は最初に空中にある弾に触れた時点で、自身の手を銃弾が貫かないとおかしいことになりそうです。すでに相当の運動量を持っているはずですから、手で触ること自体が危険な行為ですね。

他にも「時間を止める=空中で静止している」というのは、イメージしやすいですが、力学的に説明しようと思うと、力の作用そのものを変えないと実現しそうにありません。

例えば、離陸後の飛行機が、時間が静止した世界でも空中に浮いていられるのでしょうか。機体を浮かせている浮力は、羽根を通る空気の速度差によって生じるので、止まっている状態で維持させるためには、別の浮力の機構が必要です。まぁ、細かいこういった指摘をしたらキリがありませんが、こうしたことがこの手の能力を見ていて、私が少し気になるところです。

■ホーキング博士のタイムトラベラー実験

これまでさまざまな種類のタイムトラベルを見てきましたが、最後に、現実にタイムトラベルについて実験的な試みを行った学者を紹介したいと思います。

その方は、もう亡くなってしまいましたが、イギリスのホーキング博士です。私も、3年ほどケンブリッジ大学で彼の研究室にお世話になっていたので、馴染み深い人物です。

彼は、タイムトラベラーがいるかということを確かめるためのある斬新なパーティーを企画しました。それは、パーティーを開催して終わったあとに、招待状を公開するというものです。つまり、ただ単に自分だけの秘密のパーティーを企画して、後日、タイムトラベラーに向けてその招待状を一般公開するというものでした。実にユニークなアイデアですね。

招待状
写真=iStock.com/Viktoriia Bielik
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Viktoriia Bielik

もちろん結果は誰も来ませんでした。しかも、このパーティー終了後に招待状を公開する時点で、それが失敗することもすでに本人は分かっており、なんとも空しい作業となったはずです。ただのボッチのパーティーで終わってしまった本実験ですが、仮に誰かが来たらどうなっていたのかを、少し思考実験してみたいと思います。

■不審者か、本物のタイムトラベラーか

まず、ホーキング博士の思惑通りに、未来でその招待状を見たタイムトラベラーが、過去に戻ってパーティー会場に現れたとしましょう。しかし、その時点でホーキング博士にとっては、彼が本当にタイムトラベラーなのか、ただ運よく食べ物の匂いにつられて勝手に入ってきた現代の不審者なのか区別がつきません。

そこで、例えば次のような提案をしてみてはどうでしょうか。「この紙に、君が見た招待状の文面の中身を覚えている限り正確に書いて、封に入れてくれないか?」。そうお願いして、そこでは、とにかく彼と談笑して飲み食いして解散します。

そして後日、自分が招待状を書いて公開します。このとき、招待状の文面と同じものが封筒のなかから出てきたら、その時点で初めて彼が本当のタイムトラベラーであったかが判定できます。これはワクワクしますね。しかし、ここでふと別の選択肢も考えてしまいます。

仮に彼とのパーティーのあとに、やっぱり気が変わって招待状を公開しないとすると、封筒の中身は変化するのでしょうか? まさに量子力学のシュレーディンガーの猫状態です。招待状を非公開にするならば、白紙の紙が出てくるのでしょうか? だとすると、あのパーティーに彼が現れた理由が、ただの不審者ということになるのでしょうか?

これはある意味、未来に取りうるホーキング博士の行動に自由意志はあるのか? というテーマにもなりそうです。

高水裕一『物理学者、SF映画にハマる』(光文社新書)
高水裕一『物理学者、SF映画にハマる』(光文社新書)

例えば、ズルをして、招待状の公開前に封筒をあけて文面を確認してしまうとします。そして、それとは全く違う文面の招待状を書いて公開したとします。その場合、封筒のなかの紙面の文字が変化するのでしょうか?

やはり文章が勝手に変化するというSFチックなことは起こらないのが現実な気がします。仮にその場合でも、彼が未来でなんらかの情報を得て訪れたタイムトラベラーであったことは確認できます。しかし文面が異なるという、不思議な矛盾が残ってしまいます。彼は別の未来から来たのか? 未来が変更されてしまった証拠なのか? 疑問はつきません。

そう考えると、タイムトラベラーが現れ、紙面に書いて封をした時点で、ホーキング博士の未来もすでに決定されていたと考えるのが妥当な気がします。仮に封筒に隠されていた文面を先に見たあとで、それを変更しようと試みても、なぜかそこに書かれた文面通りの招待状を公開することしかできないという運命的な行動をとってしまうのかもしれません。

パーティーに誰かが来てくれていたら、こんなにも楽しい実験だったのかと、実に悔やまれますね。

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高水 裕一(たかみず・ゆういち)
筑波大学計算科学研究センター研究員
1980年東京生まれ。早稲田大学理工学部物理学科卒業。早稲田大学大学院博士課程修了、理学博士。2013年より英国ケンブリッジ大学応用数学・理論物理学科理論宇宙論センターに所属し、所長を務めるスティーヴン・ホーキング博士に師事。専門は宇宙論。近年は機械学習を用いた医学物理学の研究にも取り組んでいる。著書に『知らなきゃよかった宇宙の話』(主婦の友社)、『時間は逆戻りするのか』『宇宙人と出会う前に読む本』(以上、講談社ブルーバックス)。

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(筑波大学計算科学研究センター研究員 高水 裕一)

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