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利ザヤを稼げなくなった銀行が、実はこれから大成長する可能性のある業種であるワケ

プレジデントオンライン / 2021年11月25日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/olaser

日本の銀行はこれからどうなるのか。作家の野口悠紀雄氏は「利鞘を稼ぐビジネスモデルは限界だ。しかし、銀行という業種には『マネーのデータ活用』という大きなポテンシャルがある」という――。

※本稿は、野口悠紀雄『データエコノミー入門 激変するマネー、銀行、企業』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

■預貸金利鞘という銀行のビジネスモデル

近代日本の金融の歴史を振り返ると、戦前の日本では、直接金融の比重が高かった。これは、株式や社債などによって金融市場から資金を調達する方式だ。それが第二次世界大戦中に、軍需産業に資金を集中させるため、銀行を中心とする間接金融への転換が図られた。銀行が預金を集め、それを企業に貸し出す方式だ。

戦時中にできあがったこの間接金融システムが、戦後の経済成長の中で発展した。これは、長期信用銀行と都市銀行を中心とする金融システムで、産業資金の供給に重要な役割を果たした。銀行業は、戦後の日本の経済成長を支える重要な産業であったのだ。

高度成長期には、企業の旺盛な資金需要があった。これに対して貸出を行なうのが、銀行の役割だった。その原資は、預金だった。銀行のビジネスモデルは、低コストで預金を集め、それを企業に貸し出し、預金と貸出の利鞘を稼ぐという構造だった。

銀行は、支店網を基礎として運営されてきた。全国津々浦々まで銀行の支店網が設置され、国民から「預金」という形で資金を調達した。これは、「ブランチバンキング」と呼ばれるビジネスモデルだ。全国銀行の預貸金利鞘は、1970年代には3%程度であった(「わが国金融機関の低スプレッド」みずほリポート、2003年)。

■マクロ経済環境の変化による利鞘の縮小

ところが、預貸金利鞘に依存するビジネスモデルは、1970年代の後半頃から変化し始めた。日本経済の高度成長が終わり、企業の資金需要が減退してきたからである。前記みずほリポートによると、全国銀行の預貸金利鞘は、70年代後半から80年代にかけて低下し、90年代の初めには1.5%程度となった。

利鞘縮小による銀行収益の悪化に対応して、本来は、銀行のビジネスモデルを大転換させる必要があった。ところが、日本の銀行はそれを怠り、手軽に収益が上げられる不動産投機に走った。このため、1980年代後半に不動産価格のバブルが起こり、銀行の状況が見かけ上は大きく改善した。しかし、それはバブルに過ぎなかったのだ。

■不動産バブル崩壊で銀行時価総額が激減した

銀行の時価総額も大きく変化した。日経平均株価が最高値をつけた1989年の世界企業の時価総額ランキングトップ20を見ると、上位5社は、NTT、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行と、日本企業が独占した。また、上位20社の中に日本企業が14社もランクインしていた。そして、この14社のうちの6社が銀行だった。

ただし、すでに述べたように、銀行の預貸金利鞘ビジネスモデルは、すでに崩壊しつつあった。それにもかかわらず銀行の時価総額がこのように膨張したのは、バブル経済のためだ。銀行が不動産を担保に融資を増やす。そして、事業会社との間で株式の持ち合いを進める。株価が高騰したので、銀行は多大な株式含み益を得ることができた。

しかし、不動産バブルの崩壊によって、銀行の時価総額は一挙に減少した。それでも、みずほフィナンシャルグループの母体となった日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の3行合計の時価総額は、1989年末で24.7兆円もあった。1993年7月末時点でも、時価総額に占める銀行の構成割合は26.0%もあった。

それが、2018年12月末時点では6.5%と大きく減少している。みずほフィナンシャルグループの時価総額は、2021年8月時点で約4兆円だ。

■非資金利益への転換が必要と言われた

銀行の純利益は、大手行、地域銀行とも、時系列でみて減少傾向にある。2013年4月以降、日銀の量的・質的金融緩和政策の下で、預貸金利鞘は縮小を続けてきた。2016年1月のマイナス金利の導入で、金融機関の収益力がさらに低下した。

野口悠紀雄『データエコノミー入門 激変するマネー、銀行、企業』(PHP新書)
野口悠紀雄『データエコノミー入門 激変するマネー、銀行、企業』(PHP新書)

今後の人口動態などを考えると、資金需要が今後拡大していくとは思えない。貸出残高を増やすことが難しく、さらに利鞘も縮小するので、このままでは、銀行業は構造不況業種になってしまう。

預貸金利鞘モデルが崩壊したため、銀行のビジネスモデルを非資金利益モデルへと転換することが必要といわれた。欧米の有力銀行などは、こうした収益のウエイトが高いので、日本の銀行の収益構造もそうなるべきだとの議論だ。

非資金利益のなかでも、「役務取引等利益」の増大が期待された。ここでいう「役務」とは、投資信託販売、保険窓口販売、コンサルティングなどだ。この他に、シンジケート・ローン、債権流動化、M&A等、債券引受等、為替業務などがある。

銀行による投資信託販売業務は、1998年12月に解禁された。現在では投資信託販売総額の4分の1強のシェアを占めるに至っている(証券会社のシェアが4分の3弱)。保険窓口販売業務は、2007年12月から全面解禁された。

大手行では、役務取引等利益は2兆円弱だ(国内業務、国際業務の合計)。18年3月期では、資金利益が全体の62%であるのに対して、役務取引等利益が27%と、資金利益の半分近くになっている。欧米では役務取引等利益の比率が高いので、大手銀行は、そうした姿に近づいているとも言える。ところが、地域銀行では、資金利益が87%、役務取引等利益が13%と、役務の比率が低いことが問題だ。

■ごく少数の企業がビッグデータを握る世界

これまでビッグデータは、検索サービスやメールのサービス、あるいはSNSを通じて無料で集められてきた。GoogleにしてもFacebookにしても、全世界で数十億人というオーダーの利用者を相手に、サービスを提供している。現在のビッグデータの世界は、これら「プラットフォーム企業」と呼ばれる少数の企業によって支配されている。

「データの時代」と言われるが、日本には、アメリカや中国のプラットフォーム企業のようにビッグデータを集められる企業が存在しない。今後も、そういうサービスが登場するかどうかは分からない。多分、登場しないだろう。

■マネーのデータで日本再生を図れ

では、日本ではビッグデータの活用はできないのだろうか? 「データの世紀」と言われる時代において、日本は指をくわえて巨人たちの戦いを見ているしかないのか?

そんなことはない。現在の日本が、ビッグデータの活用において世界の潮流からはるかに取り残されているのは事実だ。しかし、だからといって、現在のような状況がいつまでも続くとは限らない。遅れを挽回する可能性は、決してないわけではない。

ビッグデータに関する状況は、いまも日々変わっている。ビッグデータの将来を予測することは、非常に難しい。これまでの勝者が没落するかもしれないし、新しい可能性が突然開けるかもしれない。現在では想像もつかないような変化がこれから起こる可能性は、十分ある。

■「情報銀行」という新しいビジネスモデル

日本でビッグデータを活用する形態の一つとして、「情報銀行」というものが考えられている。これは、利用者の同意を得て個人データを預かり、企業に提供するサービスだ。2017年に個人情報保護法が改正されたことによって、可能になった。

すでにいくつかの試みが始まっている。例えば三菱UFJ信託銀行は、2021年7月、情報銀行のサービス「Dprime」を始めた。個人が提供するのは位置情報や資産情報など。名前や住所など個人を特定できる情報は、隠したままにする。対価として、企業の新サービスや割引券などを受け取れる。2年後に100万人の利用を目指す。

しかし、これが将来、どれだけ収益性のある事業になるかは、必ずしも明らかではない。まず、どれだけの人や企業がデータを提供してくれるかが分からない。これまでのビッグデータは、自動的に、かつ無料で集められてきた。このようなものでないと、大量のデータを集めるのは難しいと思われる。情報銀行の方式だと、データが十分集まらない可能性がある。第二に、情報銀行が提供する情報に対して、どれだけの需要があるのか、見通しがつかない。

■マネーのデータに注目する必要がある

これからのビッグデータとして注目すべきは、マネーのデータだ。マネーのデータは、扱いやすいし正確なので、ビッグデータとして、最も大きなポテンシャルを持つと考えられる。これをビッグデータとして用いることは、日本にとって大きな可能性を開くだろう。オープンバンキング、あるいはBaaSと呼ばれる仕組みによって、預金の出し入れなど、銀行が持っている顧客データを外部の企業が利用して、新しいサービスを提供することができるだろう。

ビジネス
写真=iStock.com/west
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マネーデータの利用方法としては、まず信用スコアリングが考えられる。中国の電子マネーAlipayは、新しい時代の金融ビジネスのモデルを開発した。これによって、Alipayを運用するAntグループは、驚異的な成長を遂げた。

今後、信用スコアリング以外に、様々なサービスの登場が期待される。とくに企業に対して経営コンサルティング的なサービスを行なうことが期待される。銀行APIの活用により、企業の現状がどうなっているかを、リアルタイムに、正確に把握することができる。どこでどの程度の需要があるか、将来はどうなるか、などの予測ができる。

■データの活用が中小企業の経営効率化に寄与する

これまでのビッグデータ利用は、対個人が中心だった。マネーのデータは、事業活動について多くの情報をもたらすだろう。それだけでなく、金融機関がこれまでに蓄積した知見と合わせて、経営コンサルティングを行なうことが、十分可能だろう。

こうしたサービスに対しては、需要も高い。2018年度に金融庁が地域銀行をメインバンクとする企業を対象に実施したアンケート調査によると、22%の企業が過去1年間に取引金融機関からの融資を必要としなかったと答える一方で、そうした企業のうち72%が取引金融機関から提案を受けたいサービスがあると回答した。提案を受けたいサービスのトップは取引先・販売先の紹介だ。銀行の顧客間ネットワークを利用すれば、容易に対応できると考えられる。

このようなマネーのデータ活用は、単に銀行に新しい収益源を与えるだけではない。それによって企業の生産性を引き上げることができるだろう。とりわけ、中小企業の経営効率化に与える影響は大きいだろう。これを適切に活用できるか否かが、日本の将来を決めるだろう。

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野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)ほか多数。

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)

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